THCが脳癌の腫瘍細胞を死滅させる


THCが腫瘍細胞の死を引き起こすプロセス

Source: The HealthScout Network
Pub date: 1, April 2009
Active Ingredient in Marijuana Kills Brain Cancer Cells
Author: Alan Mozes, HealthDay Reporter
http://www.healthscout.com/news/1/625697/main.html


スペインの新しい研究で、カナビスの主要活性成分であるTHCには、脳の癌細胞を死滅させる機能のあるらしいことが分かった。

この発見は、人間の癌腫瘍を組み込んだマウスでの実験をベースにしたもので、非常に攻撃的な脳癌を持つ二人の患者の腫瘍細胞へのTHCの影響を分析した結果得られた。

論文の共著者の一人である、スペイン・マドリドのコンプルテンセ大学生化学科のギルエモ・ベラスコ博士の説明によると、脳にTHCを与えるとオートファジー (Autophagy) として知られる細胞の自食プロセスのトリガーになると言う。

彼の研究チームは、このプロセスの特別な経路を見えやすくなるように分離し、「正常細胞には影響を与えることなく、癌細胞を死に追いやる」 ことが明らかになったとしている。この発見は、臨床研究ジャーナルの4月号 に掲載されている。

この研究では、進行の早い脳癌である再発性多形神経膠芽腫に苦しむ二人の患者に焦点を当てている。二人とも、癌治療においてTHCの可能性を調べることを目的とした臨床研究に志願していた。

二人からは、THC治療をほどこす26日前と30日後に脳組織を取り出して電子顕微鏡で分析を行っている。その結果、THCが、健康な細胞はそのままで癌細胞だけを取り除いていることが見出された。

研究チームはまた、このプロセスがアクチベートされるシグナル経路を特定することにも成功している。これは、これまでになかった全く新しい発見だとしている。これらの発見は、人間の3種類の癌腫瘍をマウスに巧に埋めこんだ実験でも再現されている。

ベラスコ博士は、「この研究の結果は、カナビスの主要な活性成分を含んだ医薬品でオートファジーを促すことで新しい癌治療に役立つと思います」 と語っている。

今回の結果については、脳癌の治療にカナビスを使うには、もっと研究が必要だと主張する専門家もいる。ロサンゼルスにあるシーダーズ・サイナイ医療センター・マキシン・ダニッツ脳神経研究所で総合的な脳主要プログラムを作成した一人である ジョン・S・ユ博士 は、「特に驚くような発見でもありません」 と言う。

「以前からTHCには抗癌効果あることは報告されていましたので、今回は別の面からそれにもう一つ加わったということです。つまり、さらなる研究の価値があるということにはなりますが、だからと言って、カナビスに癌治療の可能性があることを直ちに示しているわけではありません。癌を直す手段として今すぐにカナビスを吸い始めるようなことはすべきではありません。」

また、スタンフォード大学神経腫瘍バーン・ファミリー代表のポール・グラハム博士も、すでに多くの脳癌患者がカナビスを試みている現実があると指摘しながらも、同じような見方をしている。

「実際のところ、アメリカの脳腫瘍患者の40%がすでに、ハーブやビタミン、さらにカナビスなど広い範囲の代替治療を行っているのです。しかし、多くの脳癌患者が自己治療でジョイントを巻いていると言った話は注意深く聞かねばなりません。」

「もし、明らかな効果があるのであればすぐにわかるはずですが、腫瘍が突然消えたなどという話はないのです。ですので、この問題にはオープンな気持ちで取り組む必要があります。THCへの期待は少々過剰なようにも感じられます。治療に使ったりジョイントを巻く前にもっと研究が必要だと説明すべきです。」

今回の論文:
Cannabinoid action induces autophagy-mediated cell death through stimulation of ER stress in human glioma cells, Maria Salazar1,2, Arkaitz Carracedo, et al., J. Clin. Invest. doi:10.1172/JCI37948.

また、PDF でも全文が提供されている。

For additional details on the risks and benefits of marijuana use as it relates to cancer, visit the American Cancer Society.

この記事の最後に二人の専門家の意見が掲載されているが、やや医師の傲慢さが感じられる。

患者は実際には癌を直すという期待よりも、それに伴う痛みや吐き気、食欲不振などを少しでも克服して生活の質を高めることを第一の望んでいる。医師側は立場上このようなコメントしかできないのかもしれないが、THCの癌腫瘍研究が不十分だからという理由で、まだジョイントを巻くべきではないという主張は物事を半分しかみていない。

これは、至る所で見られることだが、医師自身は患者よりも自分のほうが病気のことをよく知っていると思い込んでいる。しかし、少なくともカナビスに関する限りは、患者の経験のほうが研究者よりも進んでいる面も少なくない。そのことは、患者の証言がきっかけになって始まった研究が大半であることからもわかる。サティベックスですらその例にもれない。

もちろん、生化学的な詳しいメカニズムの解明やピンポイント的な医薬品の開発については、最新の研究に頼る必要もあるが、それはカナビス研究の質が変化してきたことも関係している。

1970年代から90年代にかけての研究では、化学療法に伴う 吐き気 を始めとするいろいろな症状を一時的に緩和するカナビスの能力について探ることが中心だったが、今日では、カナビノイドを使って病気の進行を止めたり遅らせたりする可能性を調べる研究に関心が移ってきている。

カナビスとカナビノイドの臨床応用 神経膠腫症(グリオーマ)

また、知っておかねばならないのは、THCが腫瘍を縮退させたという研究はすでに1974年に報告されているという事実だ。

1974年、バージニア医科大学の研究者たちは国立衛生研究所から資金提供を受けて、カナビスが免疫システムにダメージを与える証拠を探していたが、その代わりに、THCがマウスの肺癌、乳癌、ウイルス性の白血病の成長を遅くすることを発見した。

しかし、アメリカでのカナビス弾圧の歴史を書いたジャック・ヘラーの「裸の王様」によると、連邦麻薬局(DEA)は即座にバージニアの研究を止めさせて、それ以降のすべてのカナビスと腫瘍についての研究をできないように画策した。

1976年には、ジェラルド・フォード大統領が、大手の製薬会社に対してカナビスのハイを起こさずに医療メリットだけを引き出す合成THCの開発権利だけを例外的に認めて、それ以外の公的なカナビス研究を一切終結させてしまった。アメリカでは現在でもそのトラウマが残っており、カナビスと癌の研究はあまり進んでいない。

カナビノイド、ガン治療薬への期待 アメリカの偏見と立ち遅れ
アメリカ政府は1974年には知っていた 隠蔽されたカナビスの抗癌作用発見  (2000.5.31)