From Hempire Cafe

カナビスへの恐怖は

如何にして作られるのか


精神病問題と科学の歪曲

Source: The Ottawa Citizen
Pub date: 21st March 2005
Subj: How Science Is Skewed to Fuel Fears of Marijuana
Author: Dan Gardner
http://www.thehempire.com/index.php/cannabis/news/
how_science_is_skewed_to_fuel_fears_of_marijuana/


カナビスの禁止論者たちは禁止の理由となるカナビスの害をあれこれ言いたてるが、実際には論拠のない憶測も多い。しかし、そうした証明も反論もしようもない憶測を一応別にすれば、彼らが科学で証明されているとする主張は最終的には数種類の問題に集約される。

現在、最も多くみられるのが、今のカナビスがかつてのものより効力が増しているのでより危険になっているという高効力問題だが、その他では、1世紀以上も変わらず論争が続いている精神病問題がある。(高効力問題については 別記事 にまとめてある)

最近、カナビスが精神病を引き起こすことが研究で突き止められた、と盛んに叫ばれている。カナダではコミュニティ・アクティビストでライターとして著名なマルグレット・コパラは先日の新聞紙上で、カナビスに対する社会のリベラルな対応が若者のユーザーを「精神病層」に引きずり落とす、と書いている。


1893年、インドにおけるイギリス・ヘンプ調査委員会報告

カナビスが精神を破滅させるという恐怖が語られるのは決して最近のことではない。インドがイギリスの植民地だった1世紀以上も前、本国から赴いた宣教師たちは、インドの精神病院の来院者が増えているのは広く使われているカナビスに関連しているのではないかという懸念を寄せてきた。これに応えてイギリス政府は、1893年にヘンプ調査委員会を設置してインドで実態調査に乗り出した。

最大規模の調査が実施されたが、最終的に委員会は、インドにおけるカナビスの使用はイギリスにおけるアルコールの使用は同じようなもので、カナビスが精神異常を引き起こすという証拠はない、という結論を出している。

「ある人にとって適度で害にならないことでも、他の人にはそうでないこともある。適度な習慣であっても、いつのまにか知らずに度を越す習慣になってしまうこともある。しかし、これはどのような陶酔物でも見られることなので、大切なのは適度と過度を区別して考えることだ。こうした観点からすれば、適度なカナビス使用が害になるという証拠は見当たらないといえる。」


拍車をかける嘘の研究と報道

だか、度を越さない適度な、という委員会の観点はこの1世紀の間に見捨てられて、意見は両極端に分かれてしまった。片方が、どのような場合でもカナビスは有害であると言えば、もう一方では、1960年代にカナビスがポピュラーになってきてから、全く無害であるというような意見も多くみられるようになった。

この長い論争は、カナビスには精神機能に悪い作用があると言われていることが根底になっている。このために、この1世紀はカナビスの悪害を検証しようとしておびただしい数の研究が行われた。

しかしながら、精神衛生や精神病などに関するカナビスの研究の多くはずさんで、悪いはずだと予見が先行したものだった。結果は、新聞の毒々しいヘッドラインとして掲げられ、法を厳しくすべきだという主張の根拠にされた。しかし、その後、別の追跡調査で元の研究結果が再現されないと、恐怖を煽る記事はゆっくりといつのまにか消えていく。

過去においては、しばしば、こうしたいいかげんな研究が何度も出ては消えていった。しかし、今日行われているきちんとした研究でも、しばしば、大きく歪められて報道されて嘘の恐怖を生み出す場合もある。


週5本のジョイントでIQが5ポイント下がる?

最近の例としては、2週間前にグローブ&メール誌のコラムに掲載されたジェーン・マルモロー博士のカナビス喫煙が 「脳をフライにする」 という警告がある。記事では、2002年にオタワのカールトン大学のピーター・フライド博士の研究を証拠にあげ、1週間に5本以上カナビスを吸っている人は障害でIQが 「5ポイント」 下がると書いている。

実際の研究では下降は4ポイントとなっているが、5ポイントとしたのは語呂あわせで許容されるとしても、何故かマルモロー博士は、カナビスを吸ったことのない若者の成長にともなう平均IQ増加率が2.6ポイントなのに対して、吸っていたが止めた若者の場合は3.5ポイント上昇していることに触れていない。さらに奇妙なのは、現在週に1〜4本カナビスを吸っている者の場合、IQが5.8ポイントも上昇しているのにもかかわらず結果に触れていない点だ。

明らかに、実際の調査結果は正反ごた混ぜになっている。この研究から引き出せる唯一の明確な結論とすれば、IQの低下がカナビスを中断した元ヘビー・ユーザーには見られないという事実しかない。つまり、調査報告にも書かれているように、「知力全体には、カナビスは長期的な悪影響を与えない。」

1世紀におよぶ、科学、エセ科学、歪曲の末にやっとたどり着いた教訓からすれば、「カナビスには健康的な適量などない」 という短絡的な最近の主張に対しても疑いをもって掛からなければならない。本当の結論にたどり着くまでには、順に段階を経る忍耐も必要だ。科学が結論を得るには時間がかかる。


最新のニュージーランドの研究

最近、最も論議を醸しているのはナショナル・ポスト紙に掲載された「カナビス喫煙と精神病の関連が明らかに」と題する記事で、今月の始めに発表されたニュージランドの研究について取り上げている。その研究では、カナビスを毎日常用しているユーザーの場合、非ユーザーと比較して、統合失調症を特徴づける幻覚などの精神病状を1.6〜1.8倍も経験しやすくなる、と指摘している。

このような結論に達した研究はこれが最初というわけでもない。スウェーデンの新兵に関する調査研究やニュージーランドで行われた以前の研究でも、青少年のカナビス喫煙が統合失調症のリスクを上昇させるという結論を出している。

これらが本当ならば際立った発見ということになる。しかしながら、もしそれが正しいとしても、イギリスの元大臣がロンドンの新聞紙上で語っているように、直ちに若者以外の「どの世代」でも同じように幻覚を見るようになるという恐怖に拡大解釈してもよいことになのだろうか? われわれは全員が、コパラ女史の主張する「精神病層」の縁に立たされていることになるのだろうか?

南カリフォルニア大学のミッチ・アーリーワイン心理学教授(「マリファナを理解する」の著者)の答えはNOだ。アーリーワイン教授は、カナビスが統合失調症を引き起こすとすれば、社会全体のカナビス使用率の上昇に伴ってそれに見合った率で統合失調症も増えるはずだが、アメリカではそのような相関は見られない、と語っている。

また、オーストラリアのクイーンズランド大学のウエイン・ホールらも、相関関係を求めて過去30年間のカナビス使用を調査しているが、何の相関も見出すことはできていない。


疑問の多いアンケート質問

また、アーリーワイン教授は、カナビス使用が統合失調症を引き起こすというニュージランドの研究に疑問を投げかけている。

この研究はクライストチャーチ医学健康大学の著名な研究者であるデビッド・ファーガソン教授に率いられたチームが行ったものだが、アーリーワイン教授によると、研究者たちは実際にはカナビス・ユーザーに対する精神病の診断は行っていないと言う。

診断のかわりに行われているのが短い質問で構成されたアンケート調査で、10の精神病的な症状を列挙して被験者にそれぞれの経験の有無を尋ねて統計的に分析している。

いくつかの質問は、「他の人には聞こえていない声を聞いたことがありますか?」 とか 「誰かが自分の思考をコントロールしていると思ったことはありますか」 といったもので、明らかに誘導的で問題を含んでいる。

そのほかの質問もこれほど露骨ではないが、他人から信用されていないように感じたことがあるか、他人に監視されたり噂されたりしていると感じたことがあるか、他人に親近感を抱いたことは全くないか、自分の考えや信念が他人と共有できないと感じたことがあるか、といった具合になっている。

集計結果では、25才の被験者における平均経験項目数は、カナビス経験のない場合で0.60、月間1回以下の経験者で0.93、最低週1回で1.15、毎日常用している場合は1.95になっており、控えめに言っても統計的有意性が示されたとしている。


カナビス・ユーザーにとっては全く普通の感覚

しかし、アーリーワイン教授は、見た目よりもポイント差は小さいと主張している。ニュージランドの研究が掲載された論文誌のレターの中で、教授は、カナビスの酔いではパラノイア感覚が引き起こされることが極めてありふれたことなのに、「研究者たちは、被験者にカナビス使用中に感じたものと、そうでない時に感じたものを区別するように何の指示も与えていない。」

「つまり、実際に精神病を示す長期的な影響によるものなのか、あるいは、単に酔っている最中だけに感じる普通の影響なのかを切り分ける手がかりが用意されていない」 と指摘している。

さらに続けて、「精神病を特徴づけとされる感覚は、カナビスを使っている人にとっては全く普通の感覚である可能性がある。違法なドラッグであれ、アルコールやタバコのように社会で認知されたものであれ、使っている人は冷やかな目で見られがちで、『自分の考えや信念が他人と共有できない』 気持ちをもともと持っている。」

「これは精神病を表す兆候とは言えない。と言うよりもむしろ、理性的な考えの持ち主が自分の置かれた状況を現実的に見ていることを示している。また、私服の麻薬調査官があちこちにいる状況を考慮すれば、『他人から信用されていない』 と感じたとしても不思議ではない」 と書いている。

これに応えてファーガソン教授はレターで自分の研究方法を擁護している。「被験者にはカナビスの酔いによるものかどうが尋ねているのかという指摘については、単に論文の表面にあらわれていないだけで、われわれは、デイリーまたはウイクリー・ユーザーに対して調査の意味を伝えている。」

被験者が質問に答える時に、社会的な冷やかな目に影響されているという点に関しては、「カナビス使用と精神病の症状の関連については、オランダのようなリベラルな国でも法律の厳しい国でも同じような傾向が見出されており、そうした影響があるはずだという指摘は必ずしも当たっていない」 と反論している。


リスクは僅かだが確かに?

科学者たちの間では、統合失調症に苦しんでいる人にとっては、カナビスを含めてどのような種類のドラッグであれ、突然、精神的崩壊に発展する可能性があるので健康上好ましくないという点では意見が一致している。

しかし、その上でアーリーワイン教授は、研究が進めば、すでにその兆候のある人がカナビスによって統合失調症の発現が促進されることは明らかになるだろうが、それ以上のことはないだろうと推察している。

「統合失調症の家族を持っている人が、カナビスを使用して早い時期に精神病の症状を発現したとしても驚かないが、カナビスが実際に統合失調症を引き起こすという意見については、私はデータが支持していないと感じている。特別な環境や家族に精神病歴のない人が、カナビスを吸ったらいきなり精神病になるようなことはまずないと予想している。」

この見方に対してもファーガソン教授は異なる。結論に至るのはまだ先のことだとしながらも、予兆のない人が統合失調症になるリスクは、現在まで得られたデータでもある程度示されていると述べている。

「はっきりしないことも多いが、カナビスをヘビーに使っている人の場合、精神病や類似症状に陥るリスクが 『僅かですが確かに』 増える。精神病になりやすい気質の人にカナビスの有害性がより表面化しやすい傾向が見られる。」


結局、ヘンプ調査委員会の結論に回帰する

ファーガソン教授の見方を要約すれば、リスクは「僅かだが確かに」あり、ヘビーな使用の結果でてくる、精神病になりやすい気質の人ほどリスクは高くなる、ということになるが、慎重な言い回しで、微妙な違いを表現している。

だが、ジャーナリストや政治家たちは彼の研究結果を使いながら、似ても似つかない警告の声をあげている。それに対して、「メディアは、われわれの研究結果で、カナビスの使用が精神病を引き起こすことが示されたと主張していますが、明らかに誇張です」 とファーガソン教授は語っている。

科学が政治の道具になっているように感じるとして、「われわれの研究に対するそのようなコメントは、カナビス問題を担当する比較的地位の固定した人たちから聞こえます。一般に、リベラルな改革指向の人たちは結果を軽く見ようとしますが、保守的な傾向の人たちは、カナビスが精神病の主要な脅威になっているという証拠として使おうとします。」

「いずれにしても、ごく微妙なグレーの影をあたかも白か黒かという議論にすり替えようとしています。私はどちらも正しくはないと考えています。双方とも、この問題に対して論理的な議論をしようとしていません。」

ファーガソン教授は自分の研究に強い自信を抱きながらも、先走って政治の攻撃材料として使われるべきではないとも主張している。研究の結果は、「医療目的のカナビスの利用を禁じたり、カナビス所持に非犯罪化要求を阻止するための根拠にはなりません。結果が示していることは、カナビスが精神に作用する物質であり、ヘビーな使用には副作用があるので、適切な注意を払いながら使うべきだということです」 と指摘している。

表現の方法は新しいが、結局、「度を越さす適度な使用」 という1893年のヘンプ調査委員会の意見と何一つ変わっていない。