カナビスの

多発性硬化症治療への新アプローチ

Source: Physorg.com
Pub date: April 02, 2007
Subj: Cannabis could hold the key to ending multiple sclerosis misery
http://www.physorg.com/news94743932.html


カナビノイドが多発性硬化症の治療にどのような役割を果しているかを調べている研究チームが、カナビノイドには、神経の損傷や神経パルスの乱れを軽減するだけではなく、症状の進行を食い止める働きもあるらしいことを見出し、治療を著しく促進させる可能性があることを示した。

今回の発見は2007年4月1日のネイチャー・メディシン・オンライン版に掲載されたもので、カナビスがどのようなメカニズムで多発性硬化症の進行を遅らせるかについて初めて示したものになっている。世界では多発性硬化症で2500万人の人々が苦しんでいると言われており、この結果の持つ意味は大きい。

イギリスやヨーロッパ、日本の研究者で構成され、ロンドン大学の神経免疫学科のデビット・バーカー教授が率いる研究チームは、カナビスの活性成分であるTHCをマウスに投与して、多発性硬化症の進行と重篤性が著しく抑制されることを突き止めた。

カナビスは、体内のニューロンにあるカナビノイド・レセプター分子を刺激して作用することが知られているが、チームが以前に行った実験では、カナビノイド・レセプターのCB1を通じて、THCが病気の症状を緩和し、病気による神経の損傷を防いで病気の進行を遅らせる可能性があることが示されていた。しかし、その時は、カナビノイドが病気に対する免疫機能にどのように係わっているのかについては検証していなかった。

今回の実験では、ニューロンとT細胞上にある2種類のカナビノイド・レセプター、CB1とCB2のそれぞれの果たす役割を分離することに成功し、中枢神経系の自己免疫機能の調整にそれらがどのように影響しているのかを調べた。

その結果、マウスに実験的に発症させた多発性硬化症の症状に対して、THCは脳の神経上にCB1レセプターを刺激することで坑炎症分子を放出して症状の進行を抑制するが、T細胞上のCB1レセプターではそうした作用は起こらない。一方では、T細胞上のCB2レセプターに対しては、THCの刺激を直接与えると脳神経のCB1レセプターと同様に炎症をコントロールできることが分かった。

病気によって免疫システムが正常に機能しなくなると、自己抗体と呼ばれる異常免疫細胞ができて炎症や組織の損傷を引き起こすが、いずれの場合も、カナビスにはこうした病気の進行を促進する自己免疫反応をブロックする働きがあることを示している。だが、CB2レセプターには、CB1レセプターのような「ハイ」を引き起こさないという特徴がある。

バーカー教授は、「CB1レセプターをターゲットにすると治療上好ましくないハイを引き起こすリスクがありますが、CB2レセプターを使えば、そうしたリスクを避けながら必要な医療効果を得ることができるわけです。このことから、私たちは、カナビスにまつわる法的問題や嗜好利用への転用といった問題を回避しながら、医療効果だけを引き出す新薬をつくることができるのではないかと考え始めています」 と語っている。

エンドカナビノイドとカナビノイド・レセプターについては、次の記事を参照。

神経伝達システム(予備知識)
エンドカナビノイド・システム、体内で生成されるカナビノイドとその働き

カナビスが多発性硬化症の痛みの軽減によく効くことは、多くの患者の証言からも明らかになっているが、そのメカニズムについてはまだ十分には明らかになっていない。

このような状態のなかで、天然のカナビスを材料にしたGW製薬のサティベックスに多発性硬化症薬として大きな期待を寄せられてきたわけだが、度重なる臨床試験の遅れや、思わしくない結果が続き、またイギリスでは承認を拒否されたり、唯一許可を獲得したカナダでも価格の割には効かないことも明らかになって販売は思わしくなく、今では、あまり話題にすらならなくなってしまった。

現在までのところ、天然のカナビスを食べたり喫煙したりして得られる効果を上回る製品は全くない。今後も製薬会社がいくらマリノールやサティベックスのような単純な天然のカナビス・アナロジーや代替品を開発しても天然のカナビスを越えることはできないだろう。

その意味で、今回の研究は今後の製薬会社の進むべき方向を示していると言える。実際に、CB2レセプターを選択的に刺激するようなカナビノイド搬送法はまだ見出されてはいないが、そのような搬送法が開発されれば、天然のカナビスにはない治療効果を持った薬が実現することになる。

しかし、実用化されるとしてもまだ10年単位の時間がかかるだろうし、それまでの間はもちろんのこと、実現してた後でも、守備範囲が全く違う天然のカナビスの有用性が薄らぐことはないだろう。

カナビスと新薬開発、医学研究の潮流変化