卒中にカナビノイド治療薬の可能性

卒中でCB2レセプターが出現


Source: University of Otago
Pub date: April 11, 2007
Subj: Potential Drug Target for Stroke Identified
http://www.otago.ac.nz/news/news/2007/11-04-07_press_release.html


ニュージーランドのオタゴ大学で行われた新研究で、卒中後に損傷した脳細胞のメカニズムが明らかにされ、カナビスが治療薬として使える可能性が示された。

オタゴ大学医学部薬理・毒性学科の研究チームは、ラットの卒中後の脳にカナビノイド・レセプターCB2が生成されることを世界で初めて確認した。この発見は、神経科学レター・ジャーナルの最新号に掲載されている。

ジョン・アシュトン博士によると、CB2レセプターは体内の免疫反応システムの一部として生成されたたんぱく質で、「この反応は卒中が引き金になって起こるもので、卒中の周辺の脳は炎症によって損傷を受けます。」

「しかし、炎症を止めたり軽減することができれば、卒中による損傷が広がることを抑えることが期待できます。それには、卒中で生成したCB2をターゲットにした薬が使えるのではないかと考えられます。」

「カナビスはCB1レセプターとともにCB2レセプターとも結合します。カナビスの主要な活性成分であるTHCは、主にCB1に作用しますが、CB2にも作用します。」

「THCには痛みを緩和する働きのあることが知られていますが、残念ながら、脳内のCB1レセプターと結び付いた場合は精神活性作用を起こしてしまうので、使用するには大きな制限があります。」

「このために、薬の開発にあたっては、CB1レセプターに影響を与えずに、CB2レセプターに作用するものが目標になります。」

アシュトン博士は、カナビスとカナビノイド治療薬の関係が、ヘロインとコデインの関係に類似していると説明している。

「ヘロインもコデインも同じレセプターをターゲットにして作用しますが、コデインは、治療に使えるようにするために、ヘロインの精神への副作用を取り除くように考えられたものです。カナビノイドの場合にも同じような薬ができる可能性が考えられます。」

CB2レセプターをターゲットにする医薬品には、卒中の他にも、ハンチントン病やアルツハイマー病のような脳に炎症性の損傷を引き起こす病気にも応用できる可能性もある。さらに、痛みの管理に利用することも考えられる。

「CB2レセプターは脊髄にも見つかっています。脊髄には痛みのシグナルを調整する働きがありますから、新しい鎮痛剤として使える可能性もあります。」



このところ、CB2についての話題が続いているが、このことはエンドカナビノイド・システムの研究が本格化してきたことをうかがわせる。  カナビスの多発性硬化症治療への新アプローチ

製薬会社の医薬品開発は時代の先端を行っていると思われているが、カナビスについては、少なくともこれまでは、ユーザーの体験的な知識のほうが進んでいた。1990年代初頭にエンドカナビノイド・システムの発見されたことによって、カナビス・コミュニティで長く語られてきた医療経験に科学が追い付いつき、さらにそれから20年を経て、やっとカナビノイドの本格的な応用への研究が始まったとも言える。   カナビスと新薬開発、医学研究の潮流変化

このことは、カナビスには数千年の歴史があるにもかかわらず、活性成分や化学式が20世紀の半ばになるまで分からなかったほど複雑だったことが影響している。19世紀前半には、モルヒネやコカイン、ニコチンなどは結晶として単離され化学構造式が明らかにされていたのとは対照的だ。

モルヒネなどはいずれもが窒素(N)を持つ水溶性の有機塩基でアルカロイドと呼ばれるが、酸と化合させることで容易に固体結晶になる。しかしカナビスは水にはほとんど溶けないので結晶化することができず、活性成分の解明が容易にはできなかった。

本格的に解明が進んだのは1940年代になってからで、お互いに密接な関連をもつ化学成分として、カナビノール、カナビジオール、テトラヒドロカナビノールの化学構造が明らかにされ、やがてテトラヒドロカナビノール(THC)がカナビスの活性成分であることが突き止められた。

いずれも水素・酸素・炭素の化合物であり、アルカロイドではなかったが、精神作用物質のなかでもカナビスが特にユニークなのはこのことが関連しているのかもしれない。その後さらに解明が進むと構造の似た化合物が次々に60種類以上発見され、人工的にも類似した化合物が多数合成された。これらの同族体は総称してカナビノイドと呼ばれている。

しかし、カナビノイドがどのようなメカニズムで人間に作用するかについての手がかりが得られたのは1988年に哺乳動物の脳内にカナビノイド・レセプターの存在を示す証拠が見付かってからのことで、ここ20年のことに過ぎない。

当時はすでに、アヘンのような場合は、体内で自然生成されるエンドルフィンと結合する脳内レセプターを分子レベルで横取して結び付くことによって効果が現れることが見出されていたが、このことから、カナビノイド・レセプターに結び付く特有の体内生成物があるはずだと考えられ、1992年にアナンダミドという物質が発見された。アナンダミドはTHCとは化学構造が全く似ていないが、カナビノイド・レセプターに対してTHCと同じように作用する。

こうして、人間は自分の体内で自然にカナビスのような物質を生成していることが分かり、その物質はエンドカナビノイド(内因性カナビノイド)と呼ばれるようになった。また、カナビノイド・レセプターとのメカニズム全体は、エンドカナビノイド・システムとも言われる。

カナビノイド・レセプターについては、当初より、性質や分布違う2種類のレセプターが見出されていた。CB1レセプターは、主に脳内の神経細胞や脊髄周辺の神経システムに存在しているのに対して、CB2レセプターは白血球や脾臓や扁桃腺などの免疫細胞に多く見られる。

また、CB1レセプターは精神や血液循環に対してカナビスに似た酩酊作用を引き起こすが、CB2レセプターにはこのような機能がないという性質があることも確認されていた。このことから、以前より、CB2レセプターに選択的働くカナビノイド製剤をつくれば、酩酊作用を持たない抗炎症剤や制ガン剤など開発できるのではないかと考えられていた。

酩酊作用を持たない薬剤というのは、必ずしも違法な嗜好用途に転用されないことだけを目的にしているわけではなく、CB1レセプターに作用しなければ多量投与が可能になるという理由もある。カナビノイドには致死性がないために多量投与もできるが、嗜好用途のレベルを越えてCB1レセプターに作用する量を投入すると、オーバードーズでバッドトリップを引き起こすという問題がある。しかし、CB1レセプターに作用しない薬剤ならばそれを回避することができる。

エンドカナビノイドとカナビノイド・レセプターについては、次の記事を参照。
神経伝達システム(予備知識)
体内カナビノイド、アナンダミドを語る、発見者のマッカラムとシュエル両博士
エンドカナビノイド・システム、体内で生成されるカナビノイドとその働き