スイス カナビス非犯罪化国民投票

世論調査、僅差で賛成がリード

Source: Drug War Chronicle
Pub date: 14 Nov 2008
Swiss to Vote on Marijuana Decriminalization, Heroin Prescription
http://stopthedrugwar.org/chronicle/560/
switzerland_vote_marijuana_decriminalization_heroin_maintenance


スイスでは、11月30日にカナビスを非犯罪化するかどうかの国民投票の実施が予定されている。また、同時に政府が現在行っているヘロイン重度中毒患者に対するヘロインの処方などを柱としたドラッグ「4本柱」戦略についても信を問うことになっている。

スイス放送協会が先月末に行った 世論調査の結果 によると、カナビスの非犯罪化についてはデッドヒートが繰り広げられており、賛成45%に対して反対42%、未定が13%になっている。また、4本柱戦略については賛成が61%、反対20%、未決17%で承認が確実な情勢になっている。

カナビス政策のレファレンダムは、非犯罪化といっても実質的には個人使用を合法化して、栽培や販売は国が管理する内容になっている。同様の国民投票は10年前にも実施されているが僅かの差で否決されている。まだ、2004年にも議会を通じて非犯罪化しようとする試みが行われたがやはり失敗している。

今回はこれまでになく非犯罪化に近づいているが、それには、1999年の政府諮問委員会報告にそっていることや、与党側の連合や予期せぬ同調者の支持を集めていることが背景になっている。連立与党の第2党である中道左派の社民党は、政府が供給を管理することでわかものを守ることができると主張しているほか、少し意外なことにも中道右派や急進民主党なども支持を表明している。

また、スイスで最も信頼されている日刊紙の一つであるニュー・ツェルヒャー・ツァイトゥング(Neue Zurcher Zeitung)は、非犯罪化とドラッグ戦略のどちらのレファレンダムも正しい方向へのワンステップだとして、「禁欲と禁止と抑圧をベースにしただけの政策は、究極的にはより大きな行政機構を必要とするばかりではなく、自由の精神にも反しており、責任を持って自分のことを決めるという余地まで奪ってしまう」 と社説に書いている。

しかしながら、カナビスの非犯罪化にはすべての人が賛成しているわけでもない。最大与党でスイスで最も右寄りの国民党は断固とした反対の姿勢を貫いている。アンドレア・ガイスビューラー議員は、「スイスがヨーロッパのドラッグのメッカになってしまう」 と警告している。

また、パスカル・クシュパン内務大臣(急進民主党)は、カナビスを非犯罪化して国が供給するようになれば、カナビスに関する国際条約の締結国として問題にされかねないと懸念を示している。

一方、政府のドラッグ4本柱戦略については、10年間にわたってヘロイン処方パイロット・プログラムを続けてきて効果が分かっていることもあって、あまり論争になっていない。世論調査の結果では、右翼政党系の草の根運動家たちでさえ反対していない。

チューリッヒ急進党のフェリックス・ガッツウイラー全州会議(上院)議員は、「年間のドラッグ関連の死亡者数は、1990年代はじめには400人を越えていましたが、昨年は152人まで減っています。毎年200人あまりの中毒患者がヘロインからメタドンへの切り替えに成功しています。このことは、20年前とは違って、現在ではもはやドラッグ問題は社会的関心のトップ事項ではなくなっていることを示しています」 と語っている。

スイス連邦 カナビス非犯罪化国民投票実施へ  (2008.7.14)
スイス連邦議会、カナビス合法化国民発議を否決  (2007.12.10)

今回の発議はカナビスの非犯罪化ということになっているが、非犯罪化といってもほぼ合法化に近い。少量の個人の使用と栽培の完全に合法化するほか、一般への販売も認める内容になっている。

カナビスの一般への販売については、スイスはオランダのコーヒーショップのように違法であるが容認するという政策とは違って、タバコやアルコールなどと同じような規制のもとでスーパーなどでの成人への販売を認めるように求めている。つまり、生産は専売公社などが一括して行い、販売は、宣伝などは禁止したうえで認可を受けた店舗や場所でのみできるシステムが想定されている。

また、この記事の中で注目される発言のひとつは、「カナビスを非犯罪化して国が供給するようになれば、カナビスに関する国際条約の締結国として問題にされかねない」 という部分で、このスイスの非犯罪化が成立すれば、単一条約に明確に違反することを意味している。

逆に言えば、スイスでは、もはや時代に合わなくなった国際条約のことを気にしている議員や市民はそれほど多くはないことを示している。

他の新聞記事などによると、国民党側の懸念も青少年への影響が関心事の中心になっている。しかしながら、ヨーロッパ全体の傾向 として若者のカナビス使用が急激に減ってきているがスイスも例外ではなく、以前ほどこの問題は説得力を失ってきている。


スイスの国会は、国民会議(下院、定数200)と、各州から2議員が選出された全州議会(上院、定数46)で構成されている。任期は4年で、最近では2007年10月に改選されている。

国民会議の議員配分は、与党(国民党62、社民党43、急進民主党31、キリスト民主党31)、野党(緑の党、33議席)となっている。また、全州議会は、キリスト民主党15、急進民主党12、社民党9、国民党7となっている。