スイスの住民投票

カナビス非犯罪化発議を否決

ヘロイン・プログラムは恒久合法化

Source: NORML's Daily Audio Stash
HuffingtonPost.com,
Pub date: 30 Nov 2008
Swiss legalize heroin, but won’t decriminalize cannabis
Author: Alexander G. Higgins
http://stash.norml.org/2008/11/30/
swiss-legalize-heroin-but-wont-decriminalize-cannabis/


スイスで日曜日に実施された国民投票で、世界的にも最も包括的なことで知られるヘロイン・プログラムが圧倒的賛成で恒久化されたが、同時に行われたカナビスの非犯罪化発議は否決された。

スイスには施設で治療を受けられないヘロイン中毒者がおよそ1300人いるとされているが、これからはプログラム・センターを1日に2回訪れて、政府に認可されたラボで製造されたヘロインを受け取ることができるようになる。

ヘロインの量は慎重に計量され、クリーンな注射針と注射器は名前が張られたカップに入れられて提供される。部屋には看護師が付き添い、4人が同時に自分で注射するようになっており、また、精神科医やソーシャルワーカーのカウンセリングも受けられるようになっている。

このヘロイン・プログラムは政府が提出したレファレンダムで、1994年以来試験的に実施されてきたが、今回68%(226万人)の支持を得て恒久化された。

一方、個人によるカナビスの使用と栽培を非犯罪化を求めた住民発議(イニシアティブ)に対しては、63.2%のスイス人が反対票を投じた。 緑の党のツーク市を代表するヨ・ラング議員は、この結果について、今後もカナビスを使ったというだけのことで60万人のスイス人が犯罪人として扱われることを意味していると落胆を示している。

「合法のアルコールや今回認められたヘロインでは、人は死ぬことがありますが、カナビスではそのようなことはないのにです。」

政府側は、カナビス発議に反対する主な理由として、カナビスをリベラルに扱えば、近隣諸国との間にドラッグ・ツーリズムの問題が出てくることをあげていた。

「子供に悪いメッセージを送ることになる」というのはカナビス反対派の常套句だったばずだが? カナビスは使うな、さもなければ逮捕だ。でも、ヘロインならばタダでやれるいい所があるぞ。

スイスの有権者たちのこの選択は、結局のところカナビスを使っても中毒にならないことが分かっていることを示している。彼らが、ヘロインに対してあれこれ対策を講じているのは、ヘロイン使用者は中毒になって公園などで注射するようになるからだ。これに対して、カナビスの場合はハーム・リダクションに頼った解決法を取らなければならないほど深刻な問題は起こらないことも知っている。

誤解されると困るが、私は清潔な注射針の交換プログラムやヘロイン支給プログラムについて悪く思っているわけでもなく、政府が費用を負担することにも反対しているのではない。だが、ヘロインの治療を受け入れながら、カナビスに対する禁止法を維持するというのにはいささか奇異な感じがする。長期的にみれば、カナビスの合法化はヘロイン中毒を減らすに違いないからだ。

by ラジカル・ラス (NORMLデェーリー・オーディア・スタッシュ)

スイスの有権者たちは、今回行われた住民投票で、世界でも評価の高いヘロイン支給プログラムを 圧倒的多数で公式に恒久化 した。このプログラムの考え方をとりいれてを実践すれば、世界中の犯罪を減らし、中毒による被害を食い止めることができる。

しかし残念なことに、カナビスの非犯罪化発議は成立しなかった。だが、その理由ははっきりしている。カナビスを目的にしたドラッグ・ツーリズムだ。

スイス政府はヘロイン・プログラムを支持する一方でカナビスの合法化には反対を呼びかけた。その理由は、オランダの国境の都市が見舞われている災難と同じようなドラッグ・ツーリズムがスイスにも起こるのではないかという恐怖心からきている。政府のオスワルト・シグ広報官は、「EUの他の国で非合法なものがスイスで合法であれば、ドラッグ・ツーリズムのような状況が起こっても何ら不思議ではありませんから」 と語っている。

この問題は、カナビスの合法化の機会を探っている国にとっては疫病神だ。特に、近隣を抑圧的な国に囲われているところでは深刻だ。観光客がスキーにやってきたり、博物館を訪れたり、値段ばかりが高い粗悪品を買ったりしに大挙押しかけても誰も恐怖心などは抱かないが、いったんカナビスのこととなると状況は一変する。たいして悪いことだとも思えないが、なぜか旅行関係者は忌み嫌う。

こうした現実をとやかく言ってもしたたがない。だからといって手の打ちようがないわけでもない。スイスで次の発議を出すときには、住民だけを合法化すればよいのだ。スイスではすでに国民IDカードが発行されているのだから簡単だ。国民IDカードを持たない人はすべて外国人だから締め出すことは容易だ。厳格過ぎて国の評判が悪くなれば、良質の外国人には黙認政策を採ることもできる。

実際、スイスのカナビス合法化に取り組んでいる組織では、すでに IDカードを利用すること に目を向けている。

カナビス支持者たちは今回の結果に落胆しているものの、すぐに次のアイディアに取り組んでいる。カナビス・スモーカーたちが、特別の身分証明書のチップを内蔵したIDカードを使うようにすることで、カナビスを合法的に使えるようにしながら、同時に犯罪ディーラーとの関係を断つことができるようにすることを狙っている。

しかし、あまり大げさに考えるほどのことでもないかもしれない。カナビスのドラッグ・ツーリズムを抑え込めば、回りの国は嫉妬して自分の国も非犯罪化するようになる…

by ピート・ギーサー  (Drug WarRant, Pete Guither

確かに外国人への販売を禁止すれば問題は少すはおさまるかもしれないが、観光客にどこでも好きなだけアルコールを飲んでもいいことにする一方で、カナビスを売らないようにするなどというおかしな問題が出てくることになる。

オランダの問題はカナビス法が寛容であることにあるのではない。他の国のカナビス法が全く理性を欠いているという事実にこそ問題がある。「カナビス・ツーリズム」と呼ばれる現象は、アメリカなどのカナビス禁止法という病気の症状の一つに過ぎない。それは、オランダに行かなければ合法的にアルコールが飲めないような世界を想像してみれば分かる。

by スコット・モルガン  (Chronicle Blog

今回の発議はカナビスの非犯罪化ということになっているが、非犯罪化といってもほぼ合法化に近い。もともと、少量の個人の使用と栽培についてはすでに現在でも十分に容認されているが、今回はそれを完全に合法化する内容になっていた。

しかし、争点になったのは、もう一つの政策であるカナビスの一般への販売を認めるかどうかにあった。スイスの場合は、オランダのコーヒーショップのように違法であるが容認するという政策とは違って、タバコやアルコールなどと同じような規制のもとでスーパーなどでの成人への販売を認めるように求めていた。

つまり、生産は専売公社などが一括して行い、販売は、宣伝などは禁止したうえで認可を受けた店舗や場所でのみできるシステムが想定されていた。しかし、結果的には、ドラッグ・ツーリズムに対する懸念が大きく出てきたことになる。

今回の決定が、カナビスに対する政策を緩和する代わりに厳しくすることを求めたものでないことにも注目しなければならない。スイス国民は、基本的にドラッグ政策を緩和することも厳格化することも求めていない。

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