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カナビス合法化をめぐる公開討論


Source: ENCOD
Pub date: 10 Dec 2008
Morocco Opens the Debate on Cannabis Legalization
Author: Souliman Sbai
http://www.encod.org/info/MOROCCO-OPENS-THE-DEBATE-ON.html


モロッコ北部にあるリフ山脈では、少なくとも15世紀にはカナビスが栽培されていた。その多くはハシシに加工されるが、ここ何十年間かはモロッコ産のハシシはヨーロッパのカナビス市場では主役を演じてきた。

2003年には、その栽培面積は13万5000ヘクタールにも達してピークをむかえた。しかしその後、政府は国連と協力して衛星写真まで使った猛烈な根絶作戦開始し、今年の栽培面積はピーク時の半分以下の6万ヘクタールにまで減った。同時に密輸業者の徹底した壊滅作戦も行われた。

しかし、この5年間の厳しい根絶作戦でかつてなかったほどの畑が破壊され、逮捕者数も過去最大になったことにより、伝統的なカナビス栽培地区に怒りも充満した。代替作物の導入によってカナビスの栽培を減らすプログラムも実施されたが、成功したケースはほんのわずかに過ぎない。

こうした現状を反映してカナビスの生産をめぐる議論が本格化し、ついにはモロッコ・テレビ2Mが12月3日に、『カナビスとハシシ、今後のアプローチ』 と題する専門家の公開討論会を実況中継するようにまでなった。

この討論会は、カナビス栽培の背景にある現実について広く一般にも知ってもらうこと、政府の根絶政策についてそのやり方を検証すること、ハシシの密輸とどのように戦うべきか検討することの3点に目標が置かれ、具体的には次のようなことについて討論が行われた。

  1. 従来の違法なカナビス栽培を他の作物に置き換えるプロジェクトで、どの程度の人口を支えることができるのか?
  2. この地域を成り立たせる別の経済基盤として、カナビスの栽培を医療用や産業用に転換することが可能か?
  3. この地域に対して、国や国際的な機関はどのような役割を果たすべきか?

出席した専門家は次のようになっている。
  • ハリド・ゼルアリ (Khalid Zerouali)  入国&税関局長
  • チュアキブ・アル・ハヤリ (Chakib Al Khayari)  リフ地区人権協会会長
  • モハメド・ハマムーチ (Mohamed Hmamouchi)  国立医療植物研究所所長
  • ハミド・エル・ファルーキ (Hamid El Farouki)  北部地区促進開発局の開発局長
  • アドデラーマン・メルゾーキ (Abderrahman Merzouki)  カナビス社会問題研究家


カナビス根絶作戦の成果と問題点

当然のことながら、ゼルアリ税関局長とファルーキ開発局長は、北部モロッコ地区のカナビス根絶作戦によって生産が55%減ったとその成果に胸を張った。

これに対して、ハヤリ人権協会会長は、ケタマの北にあるアルジャバハやアルホセイマの西35キロにある辺鄙なベニアブダラなどで新しいカナビス畑が出現しているが、その分は組み込まれておらず、「非現実的」な数字だと指摘している。この見方には、メルゾーキ氏も同調している。

また、メルゾーキ氏は、根絶された畑の農夫に対する人権侵害の例をいくつかあげて、この強権的なアプローチを至急に社会的アプローチに切り替えるように求めた。

一方、ゼルアリ税関局長は、東部のララシュ県の根絶は成功裏に完了し、もはやカナビスがない状態になっていると強調し、さらに、南部のタナウトやチューエンでもすぐに同じ成果が得られる見込みになっていると語った。

しかしその一方で、カナビス栽培の代替として合法的な作物を導入するに当たって森林伐採が引き起こされている事実も明確に認めた。これには、他のすべての専門家も同じように指摘し、二度と繰り替えさないようにして、地域環境の保全と食料確保を推し進めるように求めた。


代替プロジェクト

ハヤリ人権協会会長によれば、代替プロジェクトはすでに1980年ころから国連の協力で行われていたと言う。目標は、カナビス栽培を他の合法作物に置き換えることだったが、いくばくかの当初利益は得られたものの、結局本格的な利益は生み出されることはなかった。

これらのプロジェクトを検証した報告書では、リフ地域における代替開発プロジェクトの実験については必ずしも失敗したわけでわけではなく、制限が多かったために、プロジェクトのデザインにあたって経済的・文化的な問題を十分に考慮することができなかったことに原因があったとしている。

またハヤリ会長は、ケタマのカナビスを根絶することは不可能だと言う。その理由として、この地域ではアラブに侵入されるはるか以前からカナビスを軸にした文化が形成されてきた歴史があることや、現在はコーランの守り手となっているリフの高峰ティグヒンの寺院でさえカナビスを聖なる植物として守るように神に祈っている例をあげている。

この点についてはゼルアリ税関局長も、国がいかなるアプローチと戦略を取ろうとも、文化的な背景や歴史を決して無視することなく十分に考慮しなければならないと強調している。また、代替作物プロジェクトを成功させるためいは、インフラが整っていないことが実際的なネックになっているとしている。そのために、山岳トレッキングなどの経済的に潤うツーリズム開発などの別の活動に取り組む必要性があるとも言っている。

一方、ハマムーチ医療植物研究所所長は、リフ地域が歴史的に疎外化されてきた結果として基本的なインフラさえまったく整っていない状態になっているために、代替経済を開発しようにも実質的に難しいと指摘する。そのために、カナビス地域のプロジェクトを作成するのにあたっては、国の「人間開発に係る国家イニシアティブ」(INDH)を使って、孤立や疎外化が起こらないようにしながら伝統的作物と新しい作物の調和をはかるように提案している。


カナビスの合法化

カナビス根絶をベースにした代替開発プロジェクトに関連するいくつかの問題が議論された後、ハヤリ人権協会会長が、歴史あるカナビス地域での問題を実際的に解決するためには、医療用と産業用のカナビス、さらには人間開発分野での科学的な研究にもとづいてカナビスを合法化して、そのフレームワークの中で栽培農家を規制管理する以外にないのではないかと提案した。

ハマムーチ医療植物研究所所長もこの考え方に賛成し、カナビスの医療・産業分野でも応用について言及しながら、国の利益になるようにこの植物の利用法をさぐることのできる合法的なフレームワークの導入の必要性を強調した。

最後にはゼルアリ税関局長も、歴史あるカナビス地域のためには良いアイディアだと好意的な見方を示して、違法ドラッグの取引を終結させるためにも、市民社会からも参加者を募って、もっと多様な面から議論することにも賛意を示した。

しかし、モロッコでは、何らかの形でカナビス栽培関連から収入を得ている人が80万人もいるので、合法フレームワークが実現するまでは、カナビス栽培は、根絶と逮捕を繰り返しながらも続いていくことになる。


2008 World Drug Report (UNODC)


モロッコでカナビス合法化を求める動き  (2008.5.7)
モロッコ、ハシシ生産は衰えず、国連カナビス根絶作戦の最前線  (2006.7.15)
暮らしを支えるカナビス、モロッコ、多数の農家がカナビス栽培  (2005.7.6)

モロッコの人口は3300万人。その40%が原住民として古来から生きてきたベルベル人で、リフ山脈に暮らす人々も大半がベルベル人。典型的な民族衣装はストライプ柄のガンドゥーラ。

ベルベル人の多くが8世紀のアラブ人侵入により山間部に追われた。ベルベルの語源は、アラブ人が彼らを 「バルバロス(野蛮人)」 呼んだことに由来していると言われている。

近年では露骨な蔑視は少なくなったとはいえ、現在のモロッコ憲法は公用語をアラビア語のみに定め、独特のベルベル語を話すベルベル人を無視し続けている。ベルベル人の多くが暮らす地域には道路どころか電気すら余り整備されていない。

こうした差別がモロッコの底流に流れている。

モロッコのリフ山脈のなかでもハシシで最も有名なのがケタマ。その写真集とレポート。
Morocco (Rif), August 2005

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