7月2日、日本での医療大麻やサティベックスの利用可能性について、厚生労働省に聞いた。
週刊朝日の6月26日号に掲載された医療大麻の記事に、日本での医療大麻の実現性について厚労省に取材した内容が書かれている。それによると、厚労省の担当者は次のように答えている。
『この問題は、色々な議論を要する不確定要因が大きいので、今の段階で将来的に認められるかどうかについてはお答えしようがない。ただ、どうしていくかを考えなければならない案件だとは思っています。』
日本で大麻の医療利用を実現するにあたり、検討しなければならない「色々な議論を要する不確定要因」とは何か。
週刊朝日の記事で紹介されている厚労省の担当者とは、記事を書いた小宮山記者によると、監視指導・麻薬対策課の安田課長補佐だとのこと。ご多忙のところ、安田課長補佐に聞いた。
Q.日本で医療大麻の利用を検討するうえで議論する必要がある不確定要因とは、具体的にはどのようなことでしょうか?
A.この話は週刊朝日の記者から電話があったときにもご説明したのですが、まず一つは、医療大麻の議論については、国際的に、INCB(*1)のなかでは、医療用大麻については、そうした効果が本当にあるのかどうかということについては、そうしたことを行っている国に対して求めてるんですけれども、まだきちんとした答えをもらっていない、実際、今の段階で本当にそうなのかというところまで、各国のなかでそういった議論を行うべきかどうかというところまで決めていない状態にあるんです。ですから、私どもとしてみますと、日本国内というよりも、むしろ国際的ななかでも議論が進まない現状下のなかで、こういう話を進めていくのが妥当なのか、というところはご説明させて頂いたところです。
Q.同じ記事のなかで、長崎国際大学の山本教授がコメントされていまして、日本でも大麻取締法が制定されるまでは、大麻はインド大麻草などが鎮痛薬として薬局方にも収載されていたと。海外では臨床試験が行われたり合法化されている国もあるので、日本でも臨床試験が行えるような環境作りが必要ではないかと、山本先生のコメントとして書かれていますが、この点についてはどうお考えですか?
A.日本の政策のなかで、医薬品をどうやって作っていくかということですけども、植物成分なり動物成分のなかに、有効なものを見つけて、それを取り出して、臨床上どういう効果があるのかと、そういうことで進めてきたところなんですけれども、その意味で言ったら、大麻の中に含まれている有用な成分、THCだとかは麻向法(*2)のなかで法律としても指定していますので、そのなかで研究は麻薬としてできるのではないか、というのが私どもの考えなんです。ですから、そういうものが必要なのであれば、有効なものを見つけて、それぞれそれを取り出してきて、麻薬として指定していけばいいじゃないか、麻向法のなかでやればいいじゃないか、というのが我々の考えなんですよ。
Q.大麻そのものではなくて、大麻の成分を取り出して、個別の成分を取り出して研究すればいいじゃないか、ということですか?
A.仰る通りです。
Q.聞くところによると、日本では合成のTHCを使って研究が行われていて、近年ではかなり活発になってきているようですけど、大麻そのものの臨床は難しいのですか?
A.今の段階では考えていませんね。というのは、国際的に、大麻というものをどう位置付けるか、ということが試行錯誤にある状態でして、INCBもそういう状態で言っていますし、あるいは他の国を様子を見ても、なぜそれを認めるのかということがはっきりしない状態でやっているということもある状態のなかで、我々はこれを研究とはいっても、有用なものがあればそれを取り出して研究すればいいわけですから、それでできるじゃないか、というのが私どもの考えです。ですから、今の段階では、まだこれを変えていくというところまでは来ていないのかな、という気はしています。
Q.大麻そのものの臨床はなぜいけないのでしょうか?
A.大麻そのものに有用性があるという判断がまだされていないからです。
Q.では大麻そのものに効果があるということが、国際的にも認められようになれば、ということですか?
A.ですから、そのためには、少なくとも、WHO(*3)にしても、INCBにしても、そういったことを行っている国に対して、なぜそれができるんですか?なぜそういう要請があるんですか?ということを聴取しているんですけれども、それがまだ全く、行っている国からきちんとレスポンスがないと我々は聞いておりまして、なぜそれが必要なのかという理由が明確に、はっきりしない状態で進められてきているというのが国際的な認識ではあるんです。ですから、そのような状態を考えると、我々自身もまだその状態から一歩踏み出るようなところまでは来ていないだろうと考えているんです。
Q.では例えば、成分を抽出して、ということになると、イギリスのGW製薬が開発したサティベックスがカナダでは承認されて使われていますけど。
A.使われているといっても、かなり制限された状態ですよね。
Q.読売新聞の今日の記事(*4)に、「厚生労働省が難病薬を迅速供給」という記事が出ていまして、日本でまだ認められていない薬を海外から入れられるようにということが書かれていますが、例えばこのなかに、癌の疼痛治療としてサティベックスを使いたいという要望があった場合、対応できる可能性はあるんでしょうか?
A.まだないですね。
Q.それは大麻取締法第4条の関係でですか?
A.いや、大麻取締法というより、実際にその薬じゃなければ使えないのか、というところの要請評価だと思います。
Q.サティベックスがまだ国際的に認められたものではないということですか?
A.認められたものではないし、それを使うことによって、それがどこまで本当に効果があるのか、難病とかにどこまで効いているのか、ということがまだはっきりしていないという状態ですから、そういう状態のなかで、そういう議論になっていくのか、ということだと思うんですよ。
Q.それと、週刊朝日の記事にも出ていましたけど、クローン病などはイスラエルやハワイなんかでは、大麻が有効だということで認められていますけど、日本ではクローン病の人が大麻を使っていても逮捕されてしまうとか、あるいは私たちが受けた相談で、カリフォルニアで合法的にライセンスを受けて大麻を使っていた人が、逮捕されて実刑判決を受けてしまうといった問題が出ています。アメリカでも13州が医療大麻は合法化されていて、そのような国は増えている。大麻が非犯罪化されている国でも自己治療の目的で大麻を使うこともできる。ところが日本では自己治療の目的で大麻を所持していても逮捕されてしまう。このような問題がこれから日本でもどんどん顕在化してくることが考えれますが、治療目的で大麻を使っている人を、大麻取締法に違反しているからということで、逮捕して刑事罰を科すということでいいのかどうか。この点についてはどうお考えですか?
A.さきほどもお話しました通り、大麻取締法の話と、その人が治療においてどうして必要なのか、という点と、分けて考えなければいけないと思いますが、少なくとも今の段階で、大麻が他の医薬品よりも優れた効果を、ある特定の疾病に対して存在しうるという報告は、私たちは寡聞にして聞いたことがないんです。それは他の国においても、この症状にはこれしか、大麻しか効かないんだ、ということは、聞いたことがないんです。ただ、各国のやり方、各国の政策において、何を選択するか、というのは自由がありますので、そのなかで、いま仰った話はあるんだろうな、とは思いますね。
Q.国単位で各国がどういう政策を取るかということと同時に、その各国の国民が、自分がどういう薬を選択するか、というこもあるかと思うんですけれども、例えばリスボン宣言(*5)では、そういった患者の権利が認めれていますよね?
A.そこはよく分かりませんけどれも。私はそこら辺まではちょっと知見がないもので。ただ、患者の権利が認めれるといっても、患者自身が勝手に選ぶという話と、本来的に、きちんとしたものを、きちんと供給しなければならないということと、役割は違うと思うんですよね。自分がいいと思って選んだところで、違法なもの、あるいは我々から見ると有効性もはっきりしないものは、これはやはり法律に触れるわけですから、規制の対象になってくると思います。
★ ★ ★
安田課長補佐には、ご多忙でお時間がないところをご対応を頂き、大変にありがとうございました。
今回の取材では、厚労省の見解をお伺いすることを主眼としたので、私たちの立場からは疑問視さぜるを得ない点などもありましたが、反論や疑問については提示しませんでした。
医療大麻について、またサティベックスのような大麻抽出薬について、厚労省がどのような見解を持っているのか、参考になったかと思います。
私たちの立場としては、今後の議論や取り組みの方向性を考えるうえで、厚労省の認識と見解について理解を深めることも大切ではないでしょうか。
(*1)INCB:国際麻薬統制委員会。
▼参考
・事実をベースにしたドラッグ政策が必要
・第51回国連麻薬委員会 黙らされたNGO代表の発言 真実から逃げまくる国連ドラッグ戦争司令官
・観念論ではなく実務的なドラッグ政策を
(*2)麻向法:麻薬及び向精神薬
(*3)WHO:世界保健機関
(*4)読売新聞の今日の記事:薬剤治験、753億円の基金創設 厚労省、難病薬など迅速供給 (2009年6月28日 読売新聞)
製薬会社が日本での治験に二の足を踏んでいる難病薬などの実用化を促すため、厚生労働省は、約753億円の支援基金を創設し、50薬剤を選んで治験費用を助成することを決めた。
助成対象となる薬は、学会や患者団体などから公募する。治験終了後は、通常は約1年かかる承認審査を半年に短縮し、患者への迅速な供給を図る。
対象となるのは、生命や生活に大きな影響を及ぼす病気の治療薬で、米英独仏のいずれかの国で承認されているもの。「他に治療法がない」「既存の治療法より優れている」など、必要性が高いことが条件となる。未承認薬のほか、国内で承認されてはいるものの、認められた効能と異なる「適応外」の病気に使用する場合も対象となる。
日本は、海外で認められた薬でも、国内で改めて治験を行わないと承認しない制度を取っている。このため、患者が少ない病気の場合、製薬企業は採算の厳しさから、費用がかさむ治験を見送ることが珍しくない。患者などから、国の支援を求める声が上がっていた。基金の期間は3年間。10月にも有識者会議を新設し、対象品目の選定に入る。
(*5)リスボン宣言:患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言
▼参考
・医療大麻-患者の権利
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