アルツハイマー病は、原因不明の神経障害で、記憶や過去に身に付けた行動を徐々に失っていくという特徴がある。また、アルツハイマー患者は、うつ、煽動、食欲喪失などの症状を伴うことも多い。アメリカでは450万人以上がこの疾患に苦しんでいると言われているが、アルツハイマー病の進行を止める治療や薬物療法で確立されたものはなく、これまでに症状を治療する医薬品として食品医薬品局(FDA)が認可したものは僅かしかない。
最新の科学文献を調べると、カナビノイドには、アルツハイマー患者が苦しんでいる症状を緩和するだけではなく、病気の進行を抑える働きのあることが示されている。
神経科学ジャーナルの2005年5月号では、スペイン・マドリッドのコンプルテンセ大学とカジャール研究所の研究チームが、アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイド・ベーター・ペプチドを注射したラットの脳室内に、合成カナビノイドWIN55・212-2を投与したところ、認識機能障害が起こらず神経毒性が減少したと報告している。
また同チームは、人間の脳組織の培養液を使った実験で、カナビノイドがアルツハイマー病に関連した炎症を軽減することも見出している。研究者たちは、「こうした結果は、カナビノイドが、病気によって引き起こされる神経変性を防いでいることを示している」[1] と結論づけている。
もっと最近の例とすれば、2006年にカリフォルニアのスクリップ・リサーチ研究所の研究者たちが、従来のドネペジルやタクリンといったアルツハイマー病の医薬品よりも、THCのほうが、第一の原因物質であるアミロイド斑集合を生成する酵素の働きを 「見違えるほどよく」 抑制した、と報告している。彼らは、「この結果は、THC分子がアルツハイマー病の病変に直接作用するメカニズムを備えていることを示している。THCやその類似薬品は、同時にアルツハイマー病の症状緩和と進行を遅らせることによって、進んだ治療オプションを提供してくれる可能性がある」[2] と書いている。
さらに最近の研究とすれば、オハイオ州立大学心理・神経科学学科のチームが、年老いたラットに毎日3週間にわたってWIN55・212-2を投与したところ、水路の迷路テストで著しく成績が上回ることを見出している。2007年の神経科学ジャーナルでは、対照群に比較して、記憶では50%の改善がみられ、炎症では40~50%軽減されたと報告している[3]。
以前の臨床前研究では、カナビノイドの抗酸化性作用で細胞死を防ぐことも示されている[4] 。また、一部の専門家たちは、カナビノイドの神経防護特性がアルツハイマー病を抑えるのではないかと考えている[5]。
2007年9月のイギリス薬理学ジャーナルでは、アイルランド・トリニティ・カレッジ神経科学研究所のチームが、「カナビノイドには神経防護作用と神経炎症を軽減する働きが備わっており、アルツハイマー病の治療に多面的なアプローチを提供している。また同時に、ニューロトロフィンの発現量を増大させて神経発生を促すことによって、脳に本来備わっている修復メカニズムをサポートしている。…… カナビノイド経路を操作することで、アルツハイマー病治療に薬理学的なアプローチが可能で、現在の治療法よりも高い効果が得られると思われる」 と書いている[6]。
さらに、臨床研究では、大麻治療がアルツハイマー病の進行を抑える可能性に加えて、病気にともなう混乱を軽減し、食欲を刺激して体重減少がなくなることも示されている。最近の研究では、ドイツ・ベルリンのシャリテ医科大学精神療法学部の研究者たちが、非盲検予備調査で1日に2.5mgの合成THCをアルツハイマー病患者に2週間投与したところ、夜行性活動や煽動が緩和したと報告している[7]。
それ以前には、2003年に開催された国際老年精神医学学会の年次会合で、アルツハイマー末期患者に対する非盲検予備実験で合成THCを最高で10mg経口投与したところ、煽動がおさまり、食欲を刺激して体重減少がなくなったと報告されている[8]。また、カナビノイドによるアルツハイマー病患者の体重改善やネガティブな感覚の軽減についての研究は、1997年の国際老年医学ジャーナルにも掲載されている[9]。
このように、アルツハイマー病に関するカナビノイド治療のついては、今後の研究に十分な可能性が見込めることが示されている。
参考文献
[1] Ramirez et al. 2005. Prevention of Alzheimer’s Disease pathology by cannabinoids. The Journal of Neuroscience 25: 1904-1913.
[2] Eubanks et al. 2006. A molecular link between the active component of marijuana and Alzheimer's disease pathology. Molecular Pharmaceutics (E-pub ahead of print).
[3] Marchalant et al. 2007. Anti-inflammatory property of the cannabinoid agonist WIN-55212-2 in a rodent model of chronic brain inflammation. Neuroscience 144: 1516-1522.
[4] Hampson et al. 1998. Cannabidiol and delta-9-tetrahydrocannabinol are neuroprotective antioxidants. Proceedings of the National Academy of Sciences 95: 8268-8273.
[5] Science News. June 11, 1998. “Marijuana chemical tapped to fight strokes.”
[6] Campbell and Gowran. 2007. Alzheimer's disease; taking the edge off with cannabinoids? British Journal of Pharmacology 152: 655-662.
[7] Walther et al. 2006. Delta-9-tetrahydrocannabinol for nighttime agitation in severe dementia. Physcopharmacology 185: 524-528.
[8] BBC News. August 21, 2003. “Cannabis lifts Alzheimer’s appetite.”
[9] Volicer et al. 1997. Effects of dronabinol on anorexia and disturbed behavior in patients with Alzheimer’s disease. International Journal of Geriatric Psychiatry 12: 913-919.
Source: NORML & NORML Foundation
Updated: Jan 18, 2008
Subj: Alzheimer's Disease
Author: Paul Armentano, Deputy Director
Web: http://www.norml.org/index.cfm?Group_ID=7003
転載元:アルツハイマー病/カナビス・スタディハウス
(※THC注:転載元のカナビス・スタディハウスでは、解説などが頻繁にアップデートされています。最新の情報を確認するためにも、転載元のカナビス・スタディハウスにアクセスすることをお勧めします。)
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