多発性硬化症
多発性硬化症は、中枢神経システムの慢性的な変性疾患で、炎症、筋肉の虚弱化、運動神経の喪失などが引き起こされる。多発性硬化症患者は、一般に、時間が経つとやがては不治の身体障害者となり、病気が原因で死亡することもある。アメリカ多発性硬化症協会によれば、新規に多発性硬化症と診断される人は毎週約200人の割合で、20~40才の人たちに多いことが特徴となっている。
カナビノイドが多発性硬化症に伴う痛み、痙攣、うつ、疲労、失禁などの症状を軽減するという臨床報告や患者の証言は、科学文献で数多く取り上げられている[1-12]。こうしたことから、イギリスやカナダを始めとする多くの多発性硬化症患者の団体では、医療大麻を処方利用することに前向きな立場を取っている[13]。
多発性硬化症をかかえる患者は一般的に大麻治療にかかわることが多く[14]、およそ2人に一人の割り合いで大麻を治療的に使っているという報告もある[15]。
また、最近の臨床および臨床前研究では、カナビノイドには、単に症状を緩和するだけではなく、病気の進行を抑制する働きもあることが示されてきている。
2003年7月のブレイン・ジャーナルで、ロンドン大学神経学研究所の研究チームは、多発性硬化症を発症させた動物モデルに合成カナビノイド・アゴニストの WIN 55.212-2を投与したところ、「著しい神経防護作用」が見られたと報告している。「この研究の結果は、大麻の症状の緩和作用に加えて・・・多発性硬化症などの疾患で不治の障害に至る神経変性の進行を遅らせる可能性を示しており、きわめて重要な発見」だと結論づけている[16]。
また、アムステルダム自由大学医学センター神経学部の研究テームも、2003年に、大麻抽出液の経口投与で多発性硬化症患者の免疫機能が亢進されることを初めて報告している。研究者たちは、「これらの結果は、炎症をともなう多発性硬化症のような疾患をカナビノイドで調整できる可能性を示唆している」 と書いている[17]。
2006年に報告された臨床研究では、対照研究終了後に167人の多発性硬化症患者が参加して行われた平均期間434日の延長非盲検研究で、経口大麻抽出液の投与量を増やすことなく、痛み、痙攣、膀胱失禁などの症状が軽減されたと報告している[18]。
また、2007年に発表された別の2年間の延長非盲検研究でも、大麻抽出液の投与で、多発性硬化症患者の神経因性疼痛が長期にわたって軽減されたと報告している。この研究に参加した患者の毎日の要求量は平均して少なめで、長く治療を続けた人ほど、痛みのスコアの中央値が低くなった[19]。
こうした結果について、研究者たちは、多発性硬化症のような進行性疾患では薬の投与量が増加するのが普通で、増やす必要がなかったことはカナビノイドによる治療が病気の進行を食い止めているからではないかと指摘している。
また、イギリス政府の財政支援を受けた現在進行中の3年間の長期臨床研究では、多発性硬化症に伴う症状と病気の進行管理について、カナビノイドの長期的治療でどのような効果が認められるか検証を続けている。
現在では、すでにカナダ保健省が多発性硬化症にともなう神経疼痛の治療に使う大麻抽出スプレーを処方医薬品として認可している[20]。その他でも、現在、各国で認可が検討されている。
参考文献
[1] Chong et al. 2006. Cannabis use in patients with multiple sclerosis. Multiple Sclerosis 12: 646-651.
[2] Rog et al. 2005. Randomized, controlled trial of cannabis-based medicine in central pain in multiple sclerosis. Neurology 65: 812-819.
[3] Wade et al. 2004. Do cannabis-based medicinal extracts have general or specific effects on symptoms in multiple sclerosis? A double-blind, randomized, placebo-controlled study on 160 patients. Multiple Sclerosis 10: 434-441.
[4] Brady et al. 2004. An open-label pilot study of cannabis-based extracts for bladder dysfunction in advanced multiple sclerosis. Multiple Sclerosis 10: 425-433.
[5] Vaney et al. 2004. Efficacy, safety and tolerability of an orally administered cannabis extract in the treatment of spasticity in patients with multiple sclerosis: a randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover study. Multiple Sclerosis 10: 417-424.
[6] Zajicek et al. 2003. Cannabinoids for treatment of spasticity and other symptoms related to multiple sclerosis: multicentre randomized placebo-controlled trial [PDF]. The Lancet 362: 1517-1526.
[7] Page et al. 2003. Cannabis use as described by people with multiple sclerosis [PDF]. Canadian Journal of Neurological Sciences 30: 201-205.
[8] Wade et al. 2003. A preliminary controlled study to determine whether whole-plant cannabis extracts can improve intractable neurogenic symptoms. Clinical Rehabilitation 17: 21-29.
[9] Consroe et al. 1997. The perceived effects of smoked cannabis on patients with multiple sclerosis. European Journal of Neurology 38: 44-48.
[10] Meinck et al. 1989. Effects of cannabinoids on spasticity and ataxia in multiple sclerosis. Journal of Neurology 236: 120-122.
[11] Ungerleider et al. 1987. Delta-9-THC in the treatment of spasticity associated with multiple sclerosis. Advances in Alcohol and Substance Abuse 7: 39-50.
[12] Denis Petro. 1980. Marijuana as a therapeutic agent for muscle spasm or spasticity. Psychosomatics 21: 81-85.
[13] See: "Health Organizations' Endorsements," available online.
[14] Clark et al. 2004. Patterns of cannabis use among patients with multiple sclerosis. Neurology 62: 2098-2010.
[15] Reuters News Wire. August 19, 2002. "Marijuana helps MS patients alleviate pain, spasms."
[16] Pryce et al. 2003. Cannabinoids inhibit neurodegeneration in models of Multiple Sclerosis. Brain 126: 2191-2202.
[17] Killestein et al. 2003. Immunomodulatory effects of orally administered cannabinoids in multiple sclerosis. Journal of Neuroimmunology 137: 140-143.
[18] Wade et al. 2006. Long-term use of a cannabis-based medicine in the treatment of spasticity and other symptoms of multiple sclerosis. Multiple Sclerosis 12: 639-645.
[19] Rog et al. 2007. Oromucosal delta-9-tetrahydrocannabinol/cannabidiol for neuropathic pain associated with multiple sclerosis: an uncontrolled, open-label, 2-year extension trial. Clinical Therapeutics 29: 2068-2079.
[20] Canada News Wire. June 20, 2005. "Sativex: Novel cannabis derived treatment for MS pain now available in Canada by prescription."
Source: NORML & NORML Foundation
Updated: Jan 18, 2008
Subj: Multiple sclerosis
Author: Paul Armentano, Deputy Director
Web: http://www.norml.org/index.cfm?Group_ID=7121
【転載元】
カナビスの医学研究 | 多発性硬化症 | カナビス・スタディハウス
(※THC注:転載元のカナビス・スタディハウスでは、解説などが頻繁にアップデートされています。最新の情報を確認するためにも、転載元のカナビス・スタディハウスにアクセスすることをお勧めします。)
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