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厚労省情報と山崎裁判について山本奈生さんとの対話
白坂の雑記帳 : 投稿者 : THC編集部 投稿日時: 2010-04-17
白坂の雑記帳

厚労省のサイトに掲載されている「国際機関による大麻関連の報告」と、山崎さんの裁判について、過日、社会学者でカンナビスト関西の幹事、NPO法人医療大麻を考える会の発起人でもある山本奈生さんに、メールで意見を訊ねた。示唆に富むので、山本さんのご了解を得てやりとりの抜粋を掲載する。



山本さま

こんばんは。ご無沙汰しています。

目下の取り組みとして、山崎さんという、大麻取締法の違憲を主張するために、わざと捕まった人の裁判支援に取り組んでいます。国選の弁護士ですが、なかなか骨のある、理知的な弁護士のようです。

法廷では、「大麻の有害性検証」に持ち込み、厚労省やダメセンを攻め、行政の不作為による大麻問題という点を強調したいと思っているのですが、山本さんはどう思う?

単純に大麻取締法の罰則規定が違憲だと主張しても、通らないと思う。
厚労省やダメセン情報のデタラメさを立証し、大麻に関する「正しい知識」が社会的に認識されていないことが最大の問題で、それが厳しい刑罰を肯定する国民感情を形成している。先進国のなかでも異常に厳しい大麻所持への罰則は、果たして適正と言えるのか、それを検証するためにも、厚労省には情報収集が求められる。そんな立論で、何か司法から厚労省の不作為に触れる言質を取れれば勝ちだと思っているのですが。

山本さんの意見を聞かせて頂けないでしょうか。

それと、厚労省のサイトに、次のようなページが新設されていました。既にご存知だったでしょうか。

国際機関による大麻関連の報告
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/other/kokusaikikan.html

これは厚労省として、現在の大麻政策を肯定し、あるいは裏付けるものとして公開した文書のようですね。
ICBNの報告もありますが、厚労省が、これらの国際的に共有された政策を遂行しているのだと主張した場合、どのような反論が有効でしょうか。これも山本さんにぜひ聞いてみたいと思ったことです。

ご多忙のところ不躾なメールとなりましたが、何卒ご教示頂けば幸いです。

よろしくお願い致します。

白坂@THCJapan

白坂さん

カンナビストの山本です。

さて、山崎さんの裁判の件、とても興味深い事例だと思われます。
裁判への意見は、白坂さんとほぼ同意見で、現在の司法状況をかんがみるに、一気に無罪判決を勝ち取るのは非常に困難だろうと考えています。
これまでの行われてきた裁判の公判内容などから推測するには、司法は「大麻の有害性」という次元の判断は一切行わず、現行法で「大麻」がどのような扱いをされているのか、これまでの判例はどうだったのかというすぐれて法形式主義的な判断のみを行うものと考えられます。

したがって、もし判決内容で「大麻の有害性に関する検証が必要である」「しかし、今回は有罪」だという判決が出れば、これはほぼ勝利判決ですね。
おそらく「検証が必要」だとの判断にも踏み込まない可能性が高いと思われますので、実際には良くても「いくつかの議論がある」と示唆するに留まるのではないかとも思います。

もちろん、私は今回の裁判も含めて、大麻裁判の勝訴を心から願っていますし、白坂さん、山崎さんには脱帽することしきりです。
その上で、「いくつかの議論があり」「議論の検証が期待される」といった判決が出れば、と期待しています。

二点目に、厚労省の新設ページの件ですが、97年WHOの報告が和訳されていることは知っていましたが、INCBの年次報告がでているのは知りませんでした。ありがとうございます。

INCBのものは政策各論であり、例えば裁判などの根拠には採用されないのではないかと思われますが、UNODCの報告書は厚労省にとって「最新の知見から、大麻の有害性に言及するもの」になると思います。

もちろん、これはどの部分を見ても、「大麻に懲役刑を科す根拠」足りえず、私たちがこれまで主張してきたように、最大でも「大麻によって健康被害がもたらされるのであれば、医療と(とくに若年者に)教育を」提供すべきことを示唆する内容です。

例えば、依存性は合法的なドラッグよりも低く、例えばアルコールよりもずっと低いことが書かれていますし、身体的な影響にしても、ガンや精神疾患のリスクが上昇することといった、「自身の身体」に関するもののみです。
私たちがこれまで主張してきたように、アルコールには明確に、暴力犯罪との相関関係があり、大麻にはこれを裏付ける証拠は存在せず、むしろ否定されるべき蓋然性が高いことを示唆する内容もあります。

したがって、白坂さんもほぼ同意見なのではないかと思いますが、私は従来どおり、大麻が暴力犯罪など、「他者の法益」を侵害する可能性が、覚せい剤やアルコールと比してどの程度のものなのか、そして、アルコールやタバコによる依存率の高さ、および退薬症状がどの程度の深刻さをもっているのかといった点を中心に、主にアルコールとの対比戦略を取るべきではないかと思います。

大麻が違法ドラッグの中では、もっとも有害性が低いことは当局も認識していることかと思われますので、結局のところ、大麻とアルコールを比較することで、大麻の個人所持が摘発されるべきかどうかといった論点に照準を合わせていく必要があるかと思います。

そうではなく、大麻に「精神疾患」のリスクを幾ばくか引き上げる可能性があるかどうか、といった各論に終始してしまうと、これは当然、「議論が分かれる」という結論にしかならないので、やはりアルコールとの対比および、個人所持への懲役刑適用の妥当性に焦点を絞っていく必要があるのではないでしょうか。

ながながと書いて、ほとんど目新しいことは言えていないのですが、大体以上のようなことです。

山本

山本さん

返信ありがとうございました。
山崎さんの裁判を支援する必要から、改めて厚労省のサイトなど見て、これは山崎さんの裁判を支援するという意味を超えて、今後の展開を考えるうえでも、「大麻の医学的事実」と「政策論」の2点が焦点化してくるだろうと思いました。
その意味で、INCBの報告をどう読むか、あるいはそもそもINCBの報告が持つ意味(政治性)など、検証する必要があるかとも感じたところです。

山崎さんは、幸運にもまともな国選弁護人が担当となり、大麻取締法の罰則規定の違憲を主張する立論を説明すると、取り組む意欲を示してくれました。
私も可能な限りのことをやっておこうと思っています。

白坂@THCJapan

白坂さん

山本です、お疲れ様です。

厚生労働省がINCBとUNOCDに主に依拠しながら、形式的には立論を立ててきていることは明らかだと思われます。
ただし、日本のダメ絶対センターや警察の発行するパンフレット類は、こうした国連/および英米系のものに論拠をおくのではなく、日本の古典的な(=80年代以前の米国的な)噂話に根拠をおいているので、国内摘発向けの言説と、対外あるいは裁判などの形式的な場面における言説を使い分けつつあるという印象ですね。

INCBやUNOCDは、政治的立ち位置も、採用する論文の傾向も、英国与党に近いのではないかと思います。(米国のDEAほどではないと思いますが)

英国与党には批判的な、英国ACMDを左派、米国DEAを右派とすると、INCBは中道右派でしょうから、日本の政策と大きく矛盾しないようにみえ(実際にはいたるところで矛盾するのですが)、また大麻の「有害性」に注意を喚起する報告書は行政にとって使いやすいと思います。

まだ未訳の今年の報告書もそうですが、INCBのスタンスは明確に、麻薬単一条約に配慮しながら
え 1)各国の具体的政策がどうあるべきかは、あまり言及せず、したがって大麻使用者に懲役刑を科する事を批判することもしません。(逆にいえば、懲役刑を科すべきだ、ともいいません)

2)それよりも、国際的なドラッグの物流を、どう統制していくべきか、例えば大麻であればモロッコとアフガニスタンに対するコメントが、本年の報告書にはありますが、このような「産地」に対するコントロールを行おうとします。

私は、この手の国連系、あるいは国際機関系の報告書(EMCDDAなども含む)で、Cannabisの個人所持に「懲役刑」を科すべきだ、と書いてあるのはみたことがなく、条約遵守の観点からしても、大麻が無害ではありえないことからも、大麻の国際的な流通に規制をかけ、疾患に対する警告、とくに未成年者に対する防止策と教育が必要だ、という流れになっているのが大半だと思います。

要するに、違法栽培のタバコをどう規制していくべきか、密輸タバコを減らすために各国は努力し、とくに未成年者に対してリスク喚起をしましょう、といったような論点になっているように思います。

これは実は、私達の主張と大きくは異ならないのですが、まずは、これらの報告書は「懲役刑」を勧告するものではなく、あくまで論点は、国際的な大麻の流通のコントロールに対するものであり、そもそも個人使用者に懲役刑を科する論拠足りえないと考えられます。

したがって、白坂さんのいうように、「政策論」が重要になってくるのではないか、と私も思います。

以下は話が変わりますが、国選弁護人の若手は、まだ法曹界の慣習でスレていないという点では良さそうですね。ただ、桂川裁判や、成田さんの裁判などの経緯をみていると、正面から、「知的興味」として「違憲裁判」をすると、歯牙にもかけられない危険性もあります。
このあたりは、白坂さんなどは老獪でしょうから、弁護士と良く相談する必要がありますね。
今年も色々と動きがあって大変かと思いますが、お互いがんばりましょう。

それではまた

山本

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