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逮捕された人たちの話
疑わしきは実刑
逮捕された人たちの話 : 投稿者 : 白坂@THC主宰 投稿日時: 2007-10-15

中国から健康食品などの商品を持ってきてほしいと騙されて、大麻密輸の運び屋をやさられ、何も知らずに税関で捕まり、6回の公判が開かれた一審では無罪だったのに、検察が控訴し、2審では1回の公判しか開かれず、検察からは全く新しい証拠も示されなかったのに、逆転有罪で懲役3年6月・罰金70万円の有罪判決を受けた、Tさん。
最高裁に上告しましたが、信じ難いことに、有罪実刑が確定しました。
事件の概要を示す上告趣意書を掲載します。

現在、Tさんは、騙されて大麻を持ち込んだだけなのに、3年半の服役、懲役刑の収監待ちです。受刑者が多くて刑務所に入るのも順番待ちだそうです。

一般の国民が漠然と思っているほど、日本の裁判所は公平でも正義でありません。

---------


平成19年(あ)第983号
被告人 T

上告趣意書


掲記の被告人に対する大麻取締法違反・関税法違反被告事件について、上告の趣意は下記のとおりである。

平成19年9月12日
弁護人 安武雄一郎
最高裁判所第三小法廷 御中


第1 上告申立の趣旨
1 本件の第一審(福岡地方裁判所)は、本件公訴事実について犯罪の証明がない(全証拠によっても合理的な疑いが残る)として、被告人に無罪を言い渡したが、原審(第二審・福岡高等裁判所)は、第一審の判断は誤っており、被告人が本件公訴事実にかかる犯罪を行ったことは明らかであるとして、これを破棄し、被告人に懲役3年6月および罰金70万円の実刑判決を言い渡した。

2 しかしながら、原判決には、次項に論ずる憲法違反(刑事訴訟法405条1号の上告理由)があるから、破棄を免れない。

3 かりに、原判決に掲記の憲法違反が認められないとしても、その他にも第3項ないし第5項記載の判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の法令違反・判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認・刑の量定の甚しい不当(刑事訴訟法411条1ないし3号の職権破棄理由)が各存在するところ、これを破棄しなければ著しく正義に反することになるから、原判決を職権で破棄するのが相当である。

第2 憲法違反(上告理由)

1 序論

原判決には、次のとおり憲法31条が定める適正手続の保障(デュー・プロセス)および同法37条1項が定める裁判を受ける権利に違反する重大な違法があるので、明らかに破棄を免れない。

2 適正手続の保障違反
(1)原審は、第1回公判期日(平成19年3月13日)において、検察官の控訴趣意書、弁護人の答弁書を各陳述のうえ、検察官が追加請求した各証拠(書証)の取り調べを行ったが、他方、弁護人が請求した証人2名の事実取り調べ(証人尋問)を却下し、検察官と弁護人の双方から申請された被告人質問(わずか30ないし40分)のみ実施し、次回を判決期日と指定して直ちに結審した。そこで、弁護人は、期日間の同年4月10日付けで弁論の再開申立を行い、あらためて元相被告人K新二郎(以下「K」という。)の証人尋問を事実取り調べ請求した。ところが、原審は、同月27日の第2回公判期日において、弁論再開申立を却下し、被告人に逆転有罪判決を言い渡した。

(2)この点、そもそも司法統計上の有罪率が99パーセントをはるかに超えている現在の刑事裁判において、一審無罪で検察官控訴された事件は、それ自体が極めて稀である。しかも、本件において、検察官は、事実誤認の控訴理由を展開しているのであるから、当然ながら、控訴審においても、単に事後審として一審判決の当・不当を論ずるのみならず、本件公訴事実について検察官による犯罪の証明が充分にされているか、念には念を入れてあらゆる観点から検討すべきことは、至極当然であるといわねばならない。

(3)しかるに、原審は、上記のとおり、実質的な証拠調べとして被告人質問しか行わずに、一審とは正反対の逆転有罪の結論を導いた。ここで、原審で検察官が新規に提出した追加書証が有罪認定の証拠として全く用いられていないことが原判決の判決理由から読み取れるが、ということは、原審は、基本的に第一審の証拠のみで被告人の有罪を認定したものと断言できる。控訴審の公判が始まる前から、第一審の記録を読んだ原審裁判体が、事実取り調べを行わずとも被告人の有罪は認定できるという予断と偏見を抱いていなければ、事実誤認が争われている控訴審で、しかも検察官控訴の事件で、被告人質問のみ実施して一回結審ということは、およそあり得ないからである。従って、第一審で無罪判決を受けた被告人としては、控訴審で実質的な証拠調べが行われないままに、わずか30ないし40分の公判廷、しかも一回結審により逆転の有罪判決、しかも実刑となったのであるから、「意外」を突き抜けて「唖然」としたというほかなく、まさに「不意打ち」「だまし討ち」の言葉が相応しい「不当」判決が下されたのである。

(4)このように、原審は、およそ被告人の主張が充分に汲み取られ、その人権保障のための充分な弁護を行い得る場が設定されたとは全く評価できない訴訟指揮を行ったもので、被告人の防御権が最大限に尽くされたとは言い難い拙速な審理経過をたどったものである。従って、原審が稚拙な訴訟指揮を行い、被告人の防御権・弁護人の弁護権を正面から侵害したということは、審理不尽という単なる訴訟手続の法令違反の領域をはるかに超え、憲法31条が定めるデュー・プロセス(適正手続の保障)および同法37条が定める正当な裁判を受ける権利を直接に侵害したことにほかならない。そして、これが判決に影響を与える重大な違法であることはいうまでもないから、明白な上告理由となる。

3 結 論
以上から、原判決には憲法違反という明らかな上告理由があるので、直ちに破棄されるべきである。

第3 判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の法令違反(職権破棄事由)
1 序論
かりに、原判決に憲法違反が認められないとしても、次のとおり、原判決には、明白な審理不尽という判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の法令違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反することになるから、刑事訴訟法411条1号に基づき、職権でこれを破棄すべきである。

2 審理不尽を基礎づける事情

(1)上記のとおり、本件は第一審無罪の検察官控訴事件であり、司法統計上も極めて稀な部類に属するから、控訴審においては、通常の被告人控訴事件以上に慎重に審理を尽くし、第一審判決に誤謬がないかを詳細かつ丹念に検討する姿勢が必要であることはいうまでもない。

(2)この点、第2項の憲法違反の項目でも指摘したとおり、原審がわずか一回の公判を開いたのみで結審し、それも30ないし40分という短時間の被告人質問しか行わず、第一審の判断を正反対に覆して有罪判決を言い渡したことは、これが憲法違反と評価できないとしても、明らかな審理不尽という著しく不正義な刑事訴訟手続上の法令違反となるもので、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

(3)後述のとおり、本件の最大の争点は、被告人に大麻密輸の認識すなわち故意があったかであるが、この判断要素となるべき具体的事情は、本件が違法薬物の密輸入という事案であり、被告人が渡航先の香港・深センから帰国到着したばかりの福岡空港の税関で身柄を拘束されたことに鑑みれば、被告人が香港・深センでいかなる行動に出ていたのかに密接に関連することになる。すなわち、被告人が外国から日本に運ぼうとしている物品が大麻などの違法薬物であるのか認識し得る素材となるべき事情は、本件においては、まさに被告人の渡航先のみに存在するのであって、渡航先における被告人の行動を解明しない限り、被告人に大麻密輸の故意が存在するか否かの判断は不可能だからである。

(4)第一審は、被告人と連れ立って帰国した元相被告人緒方猛(以下「緒方」という。)およびKの証人尋問は実施したものの、被告人が香港・深センで接触した宮崎こと藤井文春(以下「藤井」という。)については、同人が被告人らより後に帰国した後、成田空港の税関において大麻取締法違反の容疑で身柄を拘束され、身柄を福岡に移送された後、福岡県警および福岡地方検察庁の取り調べを受けているにも関わらず(藤井の検察官調書(検甲52号証)の記載から明らかである)、同人の直接の証人尋問は実施されていない。同人の証人尋問については、第一審においては検察官・弁護人のいずれからも証拠調べ請求がされなかったようであるが、実体的真実の発見という刑事裁判の根本理念からすれば、同人を公判廷において直接に尋問し、被告人との接触の過程において同人の香港・深センにおける行動をより詳らかにしてこそ、被告人の大麻密輸の認識の有無が判断できることになる。しかも、藤井は身柄を拘束されており、実際に証人尋問を行うことは極めて容易であった。しかるに、この点が欠落した第一審・原審の訴訟手続は、明らかな審理不尽といわねばならない。

(5)さらに、被告人に香港・深センへの渡航を持ちかけた親戚(被告人の実父の従兄弟)の花房康弘(以下「花房」という。)とのやりとり(被告人は、渡航前に花房と直接に会って話をしている)についても、被告人が違法薬物を日本に持ち帰る仕事を請け負ったか否か、すなわち違法薬物を運ばされていることを想定することができたかという被告人の認識(内心状態)を解明する大きな事情となるところ、この花房については、行方不明になったという事情はあったにせよ、供述調書が一切なく、無論、公判廷での証人尋問も実施されていない。花房が、被告人の請け負った仕事の仲介者的役割を果たしたことは明らかであるから、実体的真実の発見の観点からすれば、やはり花房からの事情聴取は不可欠といわねばならなかった。だとすれば、この欠缺も審理不尽の違法と評価せざるを得ないのである。これらの審理不尽については、原判決を破棄し、再度、事実取り調べを実施しなければ明らかに正義に反することになることはいうまでもない。

3 結論
以上のとおり、原判決には、判決に影響を及ぼす重大な審理不尽すなわち訴訟手続の法令違反があることは明白であり、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反する結果となるから、職権破棄事由が認められるので、直ちに破棄されるべきである。

第4 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認(職権破棄事由)
1 序論
さらに、原判決には、次のとおり判決に影響を及ぼす重大な事実の誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反することになるから、刑事訴訟法411条3号に基づき、職権でこれを破棄すべきである。

2 争いのない事実
関係各証拠から認められる事実のうち、明らかに争いがない事件の経緯の概要は以下のとおりである。

(1)本件の首謀者である藤井は、平成16年ころ香港に渡り、同所で知りあった外国人の誘いに応じて日本への大麻密輸に手を染めるようになり、平成18年1月ころから緒方を誘い、同人を大麻密輸に関与させるようになった。

(2)藤井は、平成18年2月上旬ころ、緒方に対し、大麻密輸の手助けとなる運び屋を増員することを提案し、これに同意した緒方は、自らの知人であった花房に対し、報酬を払うので香港から品物を運ぶことを手伝う者がいないか斡旋して欲しいと頼んだ。そこで、花房は、かつて自らが所属していた暴力団の兄貴分(故人)の子であるKに電話をかけ、同人の亡父の知人である緒方の依頼で、香港からお茶や漢方薬、健康器具などを日本に持ち帰る仕事があり、5、6万円の報酬になる旨を告げたところ、Kはこの仕事を請け負うことを承諾した。

(3)また、花房は、同じころ、自らの従兄弟のセン藤昭博の子である被告人に電話をかけ、香港から荷物を日本に持ってくる仕事があり、5、6万円の報酬になる旨を告げたところ、被告人もこれを承諾した。そのうえで、花房は、平成18年2月13日ころ、長崎県諫早市にある同人の知人である北村という人物の自宅において、被告人とKを引き合わせ、仕事の内容が香港から荷物を運ぶものであること、渡航期間は2ないし4日であること、報酬が5、6万円であること、渡航費や滞在費は依頼主が全て負担することなどを説明した。この場には、北村の妻、被告人の婚約者およびKの交際相手が同席していた。

(4)藤井と緒方は、平成18年2月25日に香港に向けて先に出発し、翌26日に深センに移動した。他方、被告人とKは、同月27日に福岡空港で待ち合わせ、あらかじめ指定された飛行機の便に搭乗し、台北経由で香港に移動し、香港空港で緒方と落ち合った。Kは以前から緒方と面識があったが、被告人と緒方は初対面であった。被告人ら3名は、同日、香港から深センに移動し、同所のマッサージ店に宿泊した。

(5)被告人ら3名は、一夜明けた平成18年2月28日、藤井と合流し、深センの街を散策し、夕食をとったりした後、同所にある藤井のマンションの一室に3名で一緒に泊まった。

(6)被告人ら3名は、さらに一夜明けた平成18年3月1日、深センのショッピングセンターに行き、緒方が、同センター内の茶店舗において、前日に藤井が注文しておいた空の茶箱20箱などを受け取った。緒方は、茶店舗で空の茶箱を受け取った際に、自分のキャリーケースに全部の茶箱が入り切れなかったので、被告人かKのバッグに茶箱が入らないかを尋ね、被告人のバッグにスペースがなく、Kのバッグに余裕があったことから、最終的に同人のバッグに茶箱の一部を入れさせた。

(7)その後、被告人ら3名は、香港に移動し、藤井の定宿である安宿に行き、被告人とKは15階の同じ部屋に、緒方は14階の別の部屋に泊まった。藤井も、同日、深センから香港に移動し、被告人ら3名が泊まっている安宿の15階の別の部屋に入り、緒方から受け取った空の茶箱20箱に大麻樹脂を分散して隠し、セロハンをかぶせて密封し、本物の茶箱に見えるように工作した後、緒方が持ち込んだキャリーケース3個に、これらの工作した茶箱20箱を分けて入れた。さらに、藤井は、別に準備した運動靴などを上記の各キャリーケースに入れ、それぞれのキャリーケースに収納した内容物を記載した税関提出用の申告書のひな型を作った。これらの作業は、藤井が一人で行ったもので、被告人やKが見ていないことは当然のこと、緒方もこの作業を直接には見ていない。

(8)さらに一夜明けた平成18年3月2日、緒方は、藤井から前項のキャリーケース3個および税関提出用の申告書用紙とそのひな型を渡され、さらに被告人とKに対し、それぞれキャリーケース1個と税関提出用の申告書用紙とそのひな型を渡して、このひな型の内容に沿って申告書を作成して税関に提出するように言った。その後、被告人ら3名は、前項の安宿から香港空港に向かったが、その途中、緒方が場を離れた際、被告人とKは、各人が持たされたキャリーケースのチャックを開けたが、キャリーケースの中身と緒方から手渡された申告書のひな型の記載が逆さまになっていたため、各々のキャリーケースを交換して持つようにした。被告人は、香港を出発する際、自身とKが搭乗する飛行機と、緒方が搭乗する飛行機が別の飛行機であることに気づき、自ら航空会社と交渉し、自身とKが搭乗する便を、緒方が乗る先に出る便に変更してもらい、被告人ら3名が同一の飛行機で帰国することができるように手配した。

(9)被告人ら3名は、香港空港から台北経由で福岡空港に到着し、被告人と緒方が先に税関を通過した(ただし、被告人は自らの判断で税関申告書を提出していない)。そして、被告人は、Kが乗って帰ると言っていた長崎行きの高速バスの時刻表を見たりしながら同人が出てくるのを待っていたが、しばらくして空港のアナウンスで呼出を受け、再び税関検査場に行った。実は、Kが税関検査場での態度が不審であったことから、税関職員に見咎められ、禁制品の輸入の疑いがあるということで足止めされていたもので、同行者に緒方と被告人がいると申告したことから、両名とも税関に呼び出されたものであった。そのうえで、被告人が携帯していたキャリーケース(緒方から託されたもの)から大麻樹脂が梱包された茶箱が発見された。

3 大麻密輸の認識(故意)の有無

(1)原審の判断

1.被告人に大麻密輸の認識(故意)があったと認められるか否かが本件の事実認定上の最大の争点であり、被告人に営利の目的があったか否か、被告人ら3名の間に共謀があったか否かということが、これに付随する争点である。

2.この点、第一審判決は、被告人が体験した香港・深センにおける出来事(状況証拠)を詳細に検討し、被告人が大麻(を含む違法薬物)密輸の認識を有していたと認めるには合理的な疑いが残り、かつ、被告人の捜査段階における自白についても、その信用性には疑問があるとして、犯罪の証明がないことから被告人を無罪とした。

3.ところが、原審は、被告人を無罪に導いた第一審が摘示した各状況証拠について、むしろ被告人に大麻を含む違法薬物密輸の概括的故意が存在した証拠となる旨、第一審と正反対の証拠評価を行い、かつ、被告人の捜査段階の自白も信用できるとして、第一審判決を破棄し、被告人に逆転有罪の判決を言い渡した。

(2)証拠評価の対象となる状況証拠

そこで、被告人の大麻密輸の認識(故意)の有無を判断する要素となる状況証拠のうち、主だったものは次のとおりである。なお、これに加えて、被告人の捜査段階での自白の信用性の有無が重要な判断要素となっていることは前記のとおりであるが、この自白の信用性については、別項で詳細に検討する。
1.被告人が花房から依頼された仕事の内容がいかなるものであり、それにより被告人に報酬が支払われるということが、いかなる意味を有しているか。

2.今回の仕事の実質的な依頼者、仲介人である花房が、いかなる人物であるか。

3.被告人が香港から運搬する荷物が何であると聞かされていたか。また、第三者に報酬を支払ってまで、そのような荷物を人力で運搬することに合理性があるか。

4.被告人が、香港・深センにおいて、緒方および藤井に対し、運搬する荷物が何であるか明確に確認しなかったことに合理性があるといえるか。

5.平成18年2月18日、被告人ら3名が深センにある藤井のマンションの一室に一緒に泊まった際、緒方が被告人およびKに対し、運搬する荷物についてどのように説明したか。とりわけ、緒方が「覚せい剤のような危ないものではない。」との趣旨の発言をしたか。また、被告人が緒方の発言を聞いていたか。

6.税関に提出するためのの申告書のひな型を前もって準備しておくことが自然な行動といえるか。

7.被告人が、福岡空港の税関検査場において、同所の通過時に自分が運んできた荷物を自ら買ったものと虚偽の内容を申告したことが自然な行動といえるか。

8.被告人は、最終日の平成18年3月2日、香港市内から香港空港に移動した際、緒方から託されたキャリーケースをKとの間で交換しているが、その際、キャリーケースの中をどこまで見たか。とりわけ茶箱が入っていることを認識していたか。

9.被告人が茶箱を託されていることを認識していたとして、それが約束された報酬額と見合う行為であると被告人が認識していたか。

(3)状況証拠の評価の不合理性

1.原判決の証拠評価
これらの状況証拠のうち、原審が、第一審の証拠評価を覆し、被告人の弁解を不自然であるとして排斥した点は以下のとおりである。このうち、原判決が特に重要視したのはウの点であると考えられる。

ア 被告人が、平成18年2月28日に深センのマンションでKおよび緒方と同じ部屋に泊まった際、緒方が「覚せい剤などの危ないものではない。」と述べたにも関わらず、被告人はこれを聞いていないと供述しているが、この弁解が不自然であること。

イ 最終日の平成18年3月2日に、香港市内から香港空港に行く途中で、被告人とKが託されたキャリーケースを交換した際、キャリーケースの中に茶箱が入っていたことを被告人は当然に分かっていたはずなのに、被告人がこれを見ていないと供述しているのは不自然であること。

ウ 被告人は、藤井・緒方から中国茶などを運ばされていることを認識していたと考えられるが、中国茶は、複数の人間で手分けして運ぶことにより輸入時に免税の措置を受ける必要もない利幅の少ない物品であり、そのような細工をして輸入する必要がないことを被告人も分かっていたと考えられること。要するに、中国茶は大した金額の物品ではないのに、わざわざ第三者に報酬を払ってまで人間の手で運んでもらわなければ損をするような利幅の大きい物品とは考えられないこと。

2.原審の予断と偏見
ア そもそも、原審が、これらの状況証拠を第一審と正反対に被告人に不利に証拠評価し、被告人の行動が全て不自然であると判断したことについては、報酬をもらう約束をして外国で物品を託されて日本に運んでくるという仕事に合法的なものはあり得ないという先入 観を抱いているからだと勘繰らざる得ない。

イ というのは、裁判所は、この種の薬物密輸犯を数多く審理し、密輸の手口には色々と巧妙なものがあり、報酬目的にそれに携わる者が少なからず存在するということを知識として知っているため、そのような裏社会の事情を全く知らない素人が、報酬を餌に物品を外国から運んでくるはずはないという予断と偏見があるからにほかならない。

ウ しかしながら、本件で判断の対象となっているのは、あくまで被告人の認識であり、それは「裁判所」という特殊社会の「常識」ではなく、一般人を基準として、社会通念(常識)をもとに合理的に判断されねばならない。従って、裁判官は、座学で裏社会の実情を知識として知っているがゆえに、経験則を働かせた状況証拠の積み重ねによる事実認定の際、ともすれば予断と偏見に流されやすいということを自制しながら、虚心坦懐に事実を見つめなければならないのである。

(3)被告人の人格・性格から見て取れる合理的行動
ア そのうえで、被告人の人格・性格をもとに、その客観的行動を関係各証拠から丹念に追った場合、次に述べるとおり、被告人の行動に明らかに合理性があり、通常人と何ら変わりない行動を取っていたということが見て取れる。

イ すなわち、緒方にしろKにしろ、被告人の人柄について聡明である、落ち着いた人物だと公判廷で供述している。現に、被告人は渡航前の平成18年2月中旬に花房・Kと打ち合わせた際、同人が海外旅行に慣れておらず、不安がっている様子を見て、海外旅行の注意点を細々と教示している。また、香港への出発日である同月27日、福岡空港でKと待ち合わせた際も、先に着いた同人が待ち合わせ場所が分からなくて戸惑っていると、的確に電話で待ち合わせ場所を指示し、不慣れな同人をリードしている。

ウ そのような落ち着き払った被告人の態度は、渡航先の香港・深センでも同様に見られ、藤井や緒方が買い物する際に言葉が通じなくてまごついているのを見て、あるいは茶店舗で茶箱等を買い受けるなどの際に手間取っているのを見て、段取りが悪いと思ったほどである。

エ さらに、香港から福岡に戻る際も、自分とKが乗る便と、緒方が乗る便が違っている(緒方が先発する)ことに気づいて、航空会社のカウンターで交渉し、自分とKが乗る便を緒方が乗る便に変更させている。また、緒方から手渡された税関申告書のひな型についても、同人から託された荷物ぐらいであれば、経験上、免税の範囲であると思われるから、税関申告は必要ないと明言し、現に税関申告を行わなかった。

オ もちろん、被告人は、福岡空港の税関検査場においても、狼狽したような不自然な様子を見せることなく堂々と通過しており、出口から出てこないKのために、同人が乗って帰ると言っていた長崎行きの高速バスの時刻を調べるという余裕ある行動に出ている。これに加え、空港の館内放送で呼び出しを受け、のこのこと自ら税関で再検査を受けに行っているのである。被告人は、このような落ち着き払った行動に終始しており、この渡航の前後を通じて、まごついた、あるいは当惑した行動を見せていないことは明らかであっ て、いわば自信に満ちた行動を取っていると評価できる。

カ 被告人には前科・前歴が全くない。要するに、それまで犯罪とは無縁の生活を送ってきていたということである。万一、被告人が海外から禁制品を運ばされていることをわずかでも認識していたとすれば、心の動揺を隠せなかったはずであり、とうてい落ち着き払った態度を維持することは無理だったと思われ、それなりに不自然なそわそわした態度を見せたはずである。しかるに、被告人がそのような素振りを見せたことがなかったということは、当初から確信犯として大麻を密輸することを意図していたか(すなわち、当初から覚悟があったか)、それとも事情を全く知らなかったかのいずれでしかあり得ないというべきである。

キ しかしながら、被告人が、渡航前すなわち花房から仕事の依頼を受けた段階から違法薬物を密輸する仕事を託されたことを認識していたことを裏付ける証拠は皆無である(花房の知人である北村宅での花房・Kとの事前打ち合わせの際も、被告人の婚約者が同席しており、禁制品に関する話題が出たこともなく、仲介者の花房とて、緒方から運び屋の斡旋を依頼された仕事の内容を詳しくは理解していなかった)。原判決にしろ、被告人が違法薬物密輸の概括的故意を生じたのは、渡航先の香港・深センから福岡に帰国するまでの間と認定しており、被告人が当初から確信犯であったとは認定していないのである。だとすれば、この被告人の落ち着いた態度は、被告人が違法薬物を託されていたことを微塵も疑っていなかったことを現す顕著な事実であるといわねばならない。この被告人の態度は同人が何回も海外旅行した経験があるということ(それでも、被告人の渡航回数(10回程度)からすれば、取り立てて海外旅行の経験が豊富とはいえない)から単純に説明できるものではない。仕事で健康食品を仕入れに渡航するということと、違法薬物を運ぶということでは意味合いが全く違う。被告人は、その違いが分かる程度の分別は当然に持っていたからである。

ク 被告人が、真に違法薬物を運んできたことを認識していた、またはその疑いの気持ちを持っていたということであれば、被告人は先に税関をすんなりと通過しているのであるから、Kがなかなか出口から出て来ないのが分かれば、同人が税関で足止めされたと察知し、同人を待つことなくその場から立ち去って逃亡すればよかったはずである。しかるに、Kが出てくるの待って呑気に高速バスの時刻を調べたり、館内放送で呼出を受け、自らに違法薬物密輸の嫌疑がかけられていることを疑いもせず、再審査を受けに税関に再び赴いたというその態度は、まさしく「飛んで火に入る夏の虫」である。聡明な被告人が、事情を知っていて、なおかつ罪を着せられようとする場所に自発的に出頭するものであろうか。違法薬物密輸の認識がある者の態度として、これすら不自然ではないという原判決の証拠評価が、被告人の行動を素直に評価しておらず、「やましいことをやっていることは分かっていたはずだ」という予断と偏見を抱いているとことが間違いないと思われる所以は、まさにここにある。

(4)報酬約束の評価
ア 次に、被告人が花房から仕事の依頼を受ける際に報酬をもらう約束をしていたことが、違法薬物輸入の認識との関係で、どのように評価されるかということであるが、いやしくも他人に仕事を頼む場合、その仕事のために必要な実費を依頼者が負担することは当然であり(依頼者が実費すら負担しないようでは、受託者は稼働しても実質的に損をすることになる)、それに加え、相応の日当(報酬)を支払うべきことも、仕事の受託者を拘束する以上、経済原理に照らし当然のことである。仕事の中身が海外から物品を運んでくるというものであっても、仕事の内容に貴賤がない以上、この理は当然に当てはまる。原審は、どうも渡航費と日当(報酬)を依頼者が負担するという約束のもとに海外から物品を運んでくるという仕事の依頼を受けたこと自体がうさんくさいことだとの先入観を抱いてい ると思われるが、これこそ予断と偏見に満ちている。

イ このように、渡航費や滞在費は実費に属するから、仕事の依頼者が全額を負担するのは当然であり、そのこと自体が、仕事の依頼内容が禁制品の輸入に結びつくという論理必然はない。だとすれば、被告人やKに5、6万円の報酬を支払って香港・深センに最長で4日間ほど行ってもらい、帰りに荷物を持って帰ってくるという仕事の内容が、この5、6万円の報酬と対価性ある行為であるといえるかという点が問題になるに過ぎない。この点、原判決は、およそ利幅があると思えない物品を日本に運んでくるのに、わざわざ第三者に報酬を支払ってまでする必要はないという前提のもと、報酬を支払ってまで第三者に運んでもらっても経済的にメリットがある物品といえば、裏社会で流通する禁制品しかないという観点に立ち、そのような仕事がまともであろうはずはなく、だから報酬の約束は禁制品を運んでいるという認識につながるとの持論を展開し、被告人の違法薬物の輸入の認識を肯定する事情と評価している。

ウ しかしながら、これは報酬を支払う側の論理であり、依頼を受けて報酬をもらう側からすれば、そのような事情は考慮するに値しない。報酬を支払って仕事をしてもらってもペイするかは支払う側が考えればいいことで、もらう側が慮ってやる必要は全くないからである。原判決が、海外から物品を運んでくるだけの仕事なのに報酬が支払われるとは、仕事の内容を疑ってかかるべきではないかという価値観に立っていることは明らかであるが、これは受託者に依頼人の事情を慮って物事を考えるよう強制しているに等しい。要するに、報酬をもらう側としては、請けた仕事の内容と報酬額が対価的に相償っているかだけを考えればよいのであり、それ以上を詮索する必要はどこにもないのである。

エ この点、被告人・Kの渡航期間は4日ほどであり、花房から聞いていた報酬額は5、6万円であるから、一日当たり1万円強であるに過ぎない。他人の時間を拘束して仕事に従事させるについて一日当たり1万円強の日当を支払うということは、その仕事の内容がいかなるものであるにせよ、とりたてて不相当な金額ではないと考えられる。極端な例で恐縮であるが、平成21年春から実施される裁判員裁判においては、裁判員の日当は一日当たり1万円程度になる予定とのことであり、この金額にしても、裁判所が規則をもって定める日当の中では最上級の金額となのである。いくら国民の義務とはいえ、一般市民を実質的に丸々一日拘束して1万円の日当というのは安すぎるという巷の評価である(そのような意見が市民から出ているという記事が新聞紙上に掲載されたこともある)。被告人が請け負った仕事は、依頼者から託された物品を運んでくるというものであり、渡航先で勝手な行動を取ることはできない。しかも海外であるから、日本国内ほどの自由さや気楽さはない(言葉も不自由であるから、逃れようと思っても逃れられない)。従って、実質的には丸々24時間身柄を拘束されて仕事に従事させられているに等しく、これで一日当たり1万円強の日当は、安いと受け止めたことはあるにしても、高い(割がよい)との印象を受託者に与えることはないと断言してよい。だから、被告人としては、海外から物品を運んでくるのに一日当たり1万円の日当(報酬)は当たり前であるという感覚しかなかったのである。

オ 被告人は、緒方に対し、渡航先において、今回の仕事は花房からの依頼であるが、同人から5、6万円の報酬と聞いており、他方、依頼者は10万円と言っているようであるから、花房がピンハネするつもりではないか、次に依頼があるときは直接に話してもらえないかと話したということであるが、これは、まさに被告人が今回の仕事は一日1万円強の日当では不充分であり、海外で24時間拘束されて仕事に従事する以上、その倍額は日当をもらわなければ割に合わないと認識していたからである。この理は、運んでくる物品が禁制品であるか否かとは無関係である。被告人が、万一、禁製品を運んでいるということを認識していたならば、その危険性からして、およそこの程度の日当で仕事を請け負うはずはない。金に困っていたとしても、摘発された場合のリスクを考えれば、一日1万円の日当で刑務所に入ることは馬鹿らしいことだと考えるのが一般人だからである。被告人は、第一審の公判廷において、途中で気づんいれば帰国していたはずだと供述しているが、まさに海外旅行の経験がある被告人ならではの供述であり、極めて合理的な弁解である。 カ 以上から、報酬約束の存在は、禁制品の存在の認識を肯定する事情とはなり得ず、原判決の証拠評価は偏っているといわざるを得ないのである。

(5)利幅のよい物品の存在
さらに、原審は、被告人が請け負った仕事の内容が中国茶を運ぶことであると聞かされていたとしても、中国茶は利幅がよくない物品であるから、これを人の手で運んだところで、運び屋に報酬を払い、その渡航費や滞在費を負担するとなれば、とうてい赤字にしかならないはずであるから、そのような依頼は経済原理に反するもので、むしろ、運ばせようとしているものが禁製品であるからこそ、報酬や実費を負担しても相償うのだという思考に立っているものと考えられるが、これも中国茶が廉価な物品に過ぎないとの先入観に 基づく偏見である。

イ 別紙のとおり、中国茶には、それこそピンからキリまであり、日本国内で流通している品物のうち、最高級の部類(いわゆる「鉄観音」が多いようである)になると100グラムあたり1万円を超える価格(従って、1キログラムあたり10万円を超える高値)で流通している。これが卸値か売価かは判然としないが、かりに売価であったとしても、その下のランクの中国茶の価格と比較すれば、最低でも仕入れ値として1キログラム当たり5万円以上にはなると思われる。だとすれば、最高級の中国茶を4キログラム買えば、それだけで20万円以上することになるのであり、さほど多量ではなくとも、ひとりで持って帰ろうとすれば、前記の免税の上限をたやすく超えてしまうことになる(だから、被告人は、緒方に対し、「中国茶って高いんですか」と尋ねているのである)。このように、中国茶をいくら個人で持って帰ろうが、そもそも利幅が少ないから免税の上限に抵触するはずはないという原判決の証拠評価は、その根底から誤っているのであり、誤った思い込みも甚だしいといわねばならない。

ウ 被告人の認識としては、今回の仕事については、本来的に運んでくるものが調達できずに失敗に終わったか、もしくは、せいぜい中国茶を運ばされたに過ぎなかったということになろうが、上記のとおり、「お茶って高いんですか」と被告人が緒方に質問しているとおり、被告人とすれば、中国茶であっても高級なものがあるんだろうから、それを運ばされたとしても、とりたてて不思議なことではないと内心で思ったことは想像に難くない。 エ なお、原判決は、被告人が何を運ばされるのか、藤井や緒方に明確に確認をしなかったことが意図的であり、その態度が不自然であると指摘しているが、被告人としては、もともと禁制品を運んでくるという認識が全くなく、単に託されたものを運んでくれという依頼を受けたに過ぎないのであるから、運ぼうとするものが何であるかを執拗に確認する必要はない。だから、被告人が運ぼうとする物品が何であるか確認しなかったことが意図的であるという評価を受けるべき筋合いはなく、不当な言いがかりというべきである。この意味で、深センの藤井のマンションに被告人ら3名が一緒の部屋に宿泊した際、緒方が「覚せい剤」という言葉を発したか否か、被告人がこれを聞いていたか否かということは、被告人にとっては、何を運ばされるかに意味を感じていなかったのであるから、何ら問題にならない。

(6)被告人がキャリーケース内の茶箱に気づいたか
ア 前記のとおり、原判決は、被告人が香港空港に移動する途中にKとキャリーケースの中を見て、緒方から渡された税関申告書のひな型と食い違っていたので交換した際、キャリーケースの構造と中身の状態からして、その中に茶箱が入っていたことを被告人が見たことは明らかと考えられるところ、キャリーケースのチャックを開けて上から覗き込んだので、運動靴などは見えたが、茶箱が入っていることは気づかなかったとの被告人の公判廷での供述は不合理であると指摘している。

イ この点、被告人とKが託されたキャリーケースは、キャスターと伸縮式の手持ちがついている構造であり(検甲31号証)、立てたままで収納部のチャックを開けて、上(手持ちがついているところ)から中を覗くことができるようになっている(同号証のキャリーケースの写真から明らかである)。すなわち、キャリーケースを横に寝かせなければ収納部のチャックを開けて中身を見ることができない構造ではないから、被告人が供述するとおり、チャックを開けて上から覗き込んで内容物を確認したとの被告人の供述も、あながち不合理とはいえない。

ウ さらに、原判決が、キャリーケースの中身の状態からして、上から覗き込んだとしても、茶箱が入っていることは分かったはずだと指摘する点については、原判決は、検甲45号証に添付されたKが日本に持ち込んだキャリーケース(すなわち、これが交換前に被告人が持っていたキャリーケースということになる)の中身の写真に基づいて、かかる中身の収納状況であれば、上からキャリーケースを覗き込んだとしても、茶箱が入っていることは容易に分かるという証拠評価に立脚していることは明らかである。しかるに、この検甲45号証の写真は、Kが税関で手荷物の検査を受け、いったんキャリーケースの中身の全てを税関職員が取り出して(検甲32号証の税関検査の経過から明白である)、茶箱に隠匿された大麻の存在を確認した後に、あらためてキャリーケースの中に内容物を詰め込み直された後に撮影されたものである。というのは、Kの税関での再検査は、午後8時ころから午後8時47分ころ(この時刻は本件の大麻樹脂の仮鑑定が実施された時刻である)(検甲32号証)まで行われたが、上記の検甲45号証のキャリーケースの中身の写真は、この検査終了後の午後9時57分以降に撮影されたものだからである。従って、被告人が香港空港に行く途中で見たキャリーケースの中身の収納状況と、検甲45号証の写真に写っているキャリーケースの中身の収納状況が同一であるという証拠はなく、税関でキャリーケースの中身が取り出され、再び写真撮影のために詰め直された際、収納状況に変化が生じた可能性が高い。だとすれば、原判決が検甲45号証の写真に基づいて、被告人がキャリーケースの中に茶箱が入っていたことに気づかなかったはずはないと指摘していることは、その前提を欠くことになるもので、あながち被告人が茶箱が中に入っていることに気づかなかったとしても、これを不合理な供述だとして排斥することはできないといわねばならない。このような細かい証拠の見方についても、原審が予断と偏見を抱いていたことが分かろうというものである。

(4)概括的故意の認定の欺瞞性
1.原判決の判示内容
加えて、原判決は、第一審が摘示した各状況証拠の証拠評価に基づき、被告人には、キャリーケース内に収納された茶箱に隠匿された物品を違法に輸入するという認識があり、中国から運び屋が違法に輸入することができて茶箱に隠匿できる物品としては、偽札や違法薬物などの禁制品が容易に想像でき、これに被告人の自白の内容を併せ考慮すると、被告人が香港空港に向かう途中、キャリーケースを開けて、中に茶箱が入っているのを見た後ころまでには、大麻等の違法薬物を含む禁制品を運搬するという概括的認識かあったことが推認されると判示している(原判決17ないし18頁)。

2.概括的故意に関する判例の解釈
ア この点、覚せい剤の輸入・所持罪と概括的故意について判断した最高裁判決(最判平成2年2月9日裁判集刑事254号99頁)によれば、覚せい剤の輸入罪・所持罪が成立するためには、輸入・所持の対象物が覚せい剤であることを認識していることが必要であるが、その対象物が覚せい剤であることを確定的なものとして認識するまでの必要はなく、覚せい剤を含む数種の違法薬物を認識予見したが、具体的にその中のいずれかを特定した薬物として認識することなく、確定すべき対象物について概括的認識予見を有するに留まるものであっても足り、いわゆる概括的故意が成立するとの原審(東京高判平成元年7月31日判タ716号248頁)の解釈論を指示し、概括的故意であっても違法薬物輸入罪の故意として充分であるとの一般論を容認している。

イ しかしながら、この判例解釈は、行為者が禁制品一般の存在を認識していたとしても、違法薬物輸入罪の概括的故意としては不充分であり、かつ、概括的故意の対象である違法薬物の種類の中に、行為者が輸入している薬物が含まれていると認識していることが必要であるという前提に立っているもので、概括的故意の対象に一定の絞りをかけていることは明らかである。

ウ 従って、この判例の解釈に立てば、被告人に本件公訴事実にかかる大麻輸入罪の概括的故意が認められるためには、被告人が禁制品一般を運んできたことを認識しているだけでは不充分であり、大麻を含む違法薬物を運んできたことを認識していることが最低でも必要となるのである。

(3)原判決の論理飛躍
ア しかるに、原判決は、掲記の状況証拠から被告人が禁制品を運んできたことを認識していたものと推認できると述べているが、これをもとに、被告人に「大麻等の規制薬物を含む輸入禁制品を運搬する」概括的故意の存在も推認できると認定したことの理由付けが不足しており、明らかな飛躍であるといわねばならない。

イ すなわち、被告人が認識していたと推認できる輸入禁制品について、「大麻等の違法薬物を含む」と判例解釈に沿った絞りをかけることができる理由付けとして、原判決は、中国から運んでくるもので、茶箱に入るものといえば偽札か違法薬物が容易に想定できるとと述べているが、どうして「中国」から運んでくる「茶箱」サイズの禁制品として容易に「違法薬物」が想定できるのか、その合理的理由について何ら説明できていない。この点、原判決は、被告人が運んできた具体的な物品名を特定できていないことを理由として掲げているが、これは被告人の認識として「大麻を含む違法薬物」という絞りをかけることができる理由には結びつかない。なぜなら、被告人が香港から何を運んできたのかを特定し、これが禁制品であることを特定する立証責任、すなわち、被告人が「大麻を含む」違法薬物を運んできたと認識していたことを立証する責任は検察官にこそあれ、無罪推定が働く被告人に反対事実を立証すべき責任はないからである。

ウ だとすれば、原判決が、被告人の禁制品輸入に関する認識について、「大麻を含む違法薬物」の認識があったと推認できる根拠としては、まさに概括的故意を認めた被告人の捜査段階の自白の存在しかないのである。要するに、原判決としては、被告人の自白がなければ、大麻取締法の構成要件該当性に必要な概括的故意の存在を認定することは不可能だったことは明らかである。被告人の捜査段階の自白の信用性については、次項で詳細に論ずることにするが、まさに、ここに原判決の事実認定が極めて苦し紛れであることが露呈しているのであり、相当に無理な推論を重ねていることが容易に見て取れる。予断と偏見に基づく不当な判決というべき所以がここにある。

(5)まとめ
以上から、被告人が大麻を含む違法薬物を密輸しているという認識はおろか、その疑いすら抱いていなかったことは明々白々なのであって、これには一点の曇りもないといわねばならない。原判決の事実認定は甚だしい誤りを犯しており、とうてい看過できない重大な誤謬といわねばならない。しかも、原判決は、被告人の有罪を導くために、相当に無理な推論を重ね、飛躍した事実認定に陥っている。看過できない不当性があることはいうまでもない。

4 自白調書の任意性・信用性
(1)原判決の判断
1.原審は、被告人の捜査段階での自白調書について、その信用性を排斥した第一審とは正反対に、この内容が信用できるものとし、これを被告人が大麻密輸の(概括的)認識があったことの有力な証拠として位置づけている。

2.思うに、原審には、被告人の自白調書は基本的に信用できるという先入観があり、これに基づいて被告人の公判段階における供述を不自然で信用できないと排斥しているものであり、佐賀の北方事件、鹿児島の志布志事件という虚偽自白がもとになった重大な冤罪事件が相次いで無罪確定した現在、今更ながら自白偏重の悪しき刑事裁判の残滓が存在しているのかと思うと、まさに刑事裁判は「絶望的」状態からいまだ脱却していないという感は拭えない。

3.しかしながら、この被告人の「自白」調書については、その変遷の過程および供述内容に照らし、極めて不自然であり非合理的であることが一目瞭然であるといわねばならない。また、明らかに許されない起訴後の検察官の取り調べで「自白」調書が作成されていることについても、まさに看過できない事実である。

(2)供述の変遷過程
1.被告人は、平成18年3月3日午前3時7分に逮捕され、司法警察員によって弁解が録取されているが(検乙26号証)、大麻密輸の認識について全面的に否認している。

2.さらに、同日、司法警察員による身上関係の供述調書が作成されている(検乙10号証)。

3.同月4日、被告人は検察庁に送致され、午後2時30分、弁解が録取されているが(検乙27号証)、ここでも全面的に否認している。

4.同月5日、裁判所において勾留質問が実施され(検乙28号証)、勾留決定が発令さているが、被告人は、ここでも全面的に否認を貫いている。

5.被告人は、勾留後、連日にわたり早朝から深夜まで警察官の取り調べを受け、同月10日、同月13日、同月15日、同月16日(この間に同月14日に勾留延長されている)と4回にわたり、司法警察員の手で本件の経緯について詳細な供述調書が作成されている(検乙21号証ないし検乙24号証)。しかしながら、被告人は、この時点では本件の経緯を自己の体験したままに客観的に淡々と述べるだけであって、肝心の大麻密輸の認識については全く触れられていないため、否認を継続したのか、それとも自白に転ずる姿勢を見せたのか、その点は明らかでない。

6.そして、同月17日、司法警察員に対する供述調書(検乙25号証)において、被告人は、禁制品を運んできたのではないかとの趣旨の供述が録取されている。しかしながら、この段階では、大麻を含む違法薬物を運んできたと認識していたと明確には録取されておらず、いわゆる「半割れ」のような体裁となっている。

7.被告人は、その後も連日的に取り調べを受けているが、供述調書は作成されておらず、起訴前日の同月23日、検察官に対する供述調書2通が作成されているが(検乙11号証ないし検乙12号証)、この中で、被告人は、偽札か大麻を含む違法薬物を運んできたのではないかと認識していた(概括的故意があった)と突如として供述している。

8.そして、翌日の同月24日、被告人は福岡地方裁判所に起訴されているが、いわゆる求令起訴であったため、同日、裁判所で勾留質問が実施されているが、この際、被告人は再び否認したとされている。

9.さらに、起訴から約1週間が経過した同月30日、検察官は再び被告人を取り調べ、違法薬物か偽札を運んできた旨の密輸の概括的故意を認める自白調書(検乙13号証)が作成されているのである。

(3)自白内容の不合理性
1.このように、被告人は、捜査段階で否認から自白に転じ、起訴後の勾留質問で再び否認に転じたものの、起訴後の検察官の取り調べにおいて、またもや自白が維持されていることから、原審は、検察官から押しつけや理詰めの誘導があったと弁済しているわりには、変遷の仕方に合理性がないとして、結論的に自白に信用性が認められると判断している。しかしながら、問題は、被告人の変遷のみならず、自白調書に記載された自白の内容そのものに合理性があるか、自白内容が不自然ではないかということである。

2.とりわけ、平成18年3月23日付けの2通の検察官調書を詳細に検討すると、被告人は、それまで大麻密輸の認識はなかったと否認していたが、実は違法薬物か偽札を運ばされてきたのではないかと疑っていたとして、薬物輸入の認識が概括的に存在していたとの趣旨の供述に転じているが、それまで頑強に否認を貫いていた被告人が、何故このように概括的故意を容認する供述に至ったのか、否認から自白に転じた具体的理由については何ら記されていない。

3.さらに、上記の検察官調書にかかる被告人の供述内容は、茶箱の中に「違法な物が隠されているのだろうと思った」(検乙12号証8頁)と記載されているのが、次の段落では、「お茶の葉のように覚せい剤や大麻等の薬物を隠しているか、お茶の箱の中に偽札が隠してあると思いました」(同9頁)と唐突に具体的な禁制品の種類を特定する供述にすり代わり、その後は「薬物か偽札」で供述が統一されて推移している。このように、いきなり『薬物か偽札』という具体的な禁製品の種類が出てきた理由についても、合理性ある説明が論理的に展開できていない供述内容となっている。

3.このように、当初、禁制品の認識ありと概括的に認め、その次に禁制品の種類を特定して認識していたとのワンランク上の概括的認識に移行したという被告人の供述内容(変遷内容)自体が、まさに検察官が取り調べにおいて被告人を理詰めで誘導し、あるいは後述の威迫によって半ば無理やりに被告人の自白調書を作成したということが見て取れるのである。

4.では、どうして検察官は、このような不自然な自白の取り方をしたのかということであるが、これは、薬物輸入事犯における故意の程度を論じた前記の最高裁判決(最判平成2年2月9日裁判集刑事254号99頁)が、薬物の密輸入という犯罪の成立に必要な故意としては、違法薬物の種類を特定せずとも、違法薬物を輸入していることの概括的認識があれば足りるとの解釈論に立脚しているが、裏返せば、禁制品一般の存在を認識しているだけでは、薬物密輸入の概括的故意としては不充分であるという前提に立っているからにほかならない。すなわち、検察官は、禁制品との認識があれば、その禁制品の種類は問わないという自白内容では不充分であり、最低でも『違法薬物』であることの認識が必要であるとの判例解釈を知っていた。だから、単に「違法な物」に留まらず、せめて「違法薬物」との供述を自白調書に盛り込まなければならないと考え、検察官は、「違法な物」には何があるか、「偽札」は含まれるかなどとワンクッション置いた後、被告人を「違法薬物」という具体的供述に導いたものにほかならない。

5.要するに、検察官は、香港や中国から物品を人力で運んでくるとい う被告人の行動がいかに常識外れであるかを散々に指摘して、禁制品を運んできたことを被告人は分かっていたはずだと誘導し、長時間・長期間の連日の取り調べで否認を続けることに疲弊した被告人が、次第に検察官の刷り込みによって揺れ動き始めるや、検察官は、禁制品にはどのようなものがあるかと質問し、穂香港や中国から持ち運ばれる禁制品にはどのようなものがあるかと誘導し、さらに「違法薬物」の認識という終着点に被告人を一気呵成に引っ張っていったのが、被告人に対する取り調べの実態であるといっても過言ではない。このように、比較的に否認が多いとされる薬物密輸入犯について、かかる誘導型の取り調べが行われることは日常茶飯事であり、故意の否認の場合、まず禁制品一般から攻めて被疑者を動揺させ、徐々に禁制品の

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