大麻は決して無害ではない。個人的に利用する大麻の合法化を求める立場の私たちも、決して大麻が無害だと主張しているのではない。大麻にはアルコールやタバコほどの害はないことを、海外のさまざまな公的研究などを示し、現在の取り締りやマスコミ報道の異常さに異義を唱えている。
一連の「大麻汚染」報道では、元麻薬取締官などによって、大麻を一度でも使うと脳を壊すとか、凶暴性を引き起こすなどといった説明がなされていた。しかし、それは事実だろうか。
イギリス上院の要請により、大麻の危険性について、これまでの医学的・社会学的な研究報告を包括的に検討した科学者によって書かれた「マリファナの科学」には、次のように書かれている。
『大麻には悪い側面と良い側面があり、適量が用いられる限り、娯楽利用の価値もあるとともに、治療上から見ても有望である。』
『マリファナはその使用者をリラックスさせ、気持を落ち着かせるが、アルコールはときとして攻撃的で暴力的な行動を引き起こす。』
『大麻の長期的使用は肉体的・精神的・道徳的な退行につながらず、継続的に使用した場合でも何ら永続的な有害効果は認められない。』
一方、我が国で国民に周知されている大麻の危険性に関する情報は、拙稿『「大麻汚染」報道と公的大麻情報』で述べた通り、15年前にアメリカで作られた薬物標本レプリカの説明書であり、医学的論拠はないことを厚生労働省医薬食品局監視指導麻薬対策課の藤原情報係長も認めている。
薬物乱用防止政策において必要なのは、まず何よりも、規制薬物の危険性について正しい知識を国民に周知し、教育することである。大麻を初めて使った若者が、リラックスし、気持を落ち着かせる効果を知り、それまで教えられてきた公的な薬物情報が信用できないものだと知り、大麻どころではない、心身に有害な薬物への抵抗感を失うことのほうが遥かに悪影響は大きい。
昨年12月3日に放送された、NHKのクローズアップ現代は、『大麻汚染を食い止めろ』と題して、夜回り先生として知られる水谷修氏をゲストに招いた。
番組冒頭、キャスターの国谷裕子さんは次のように話している。
「大麻は他の薬物使用への入り口と言われています。大麻を長いあいだ吸い続けることによって、わけもなく不安感に駆られたり、自殺を図ることにつながるなど、精神状態に少なからぬ影響が出てくると言われています。」
また、夜回り先生の水谷修氏は、国谷キャスターの問いに答えて、次のように述べている。
「ドラッグというのは2つの言葉で簡単に定義できます。ひとつやると止められないもの。依存症になる、依存性のある物質。2つめはやると捕まるもの、法律によって禁止されているもの。この依存症という部分がやっかいなんです。依存症には精神的依存と身体的依存があるんですけれども、身体的依存はアルコールが典型的な身体的依存性の強いドラッグで、切れると手に震が出たり、目がしゅわしゅわしたり、喉が渇いたり、身体的な影響が出るもの。これについては大麻はほとんどないだろうと言われてます。だから、一部の大麻合法化論者が、大麻認めてもいいんじゃないか、バカなことを言ってる。でも精神依存はものすごいものがあります。 (中略) この精神依存性が大麻の場合問題ですし、薬物ドラッグは、大麻も、1回1回の乱用が脳を壊してしまう。ですから、脳というのは、神経系は、再生不能ですから、我々はこう言います。薬物乱用は多少の回復はあっても、治ることのない病。ここが怖いんです。」
大麻合法化論、大麻を認めてもいいんじゃないか、というのは「バカなこと」だそうだ。
私はこの番組をYouTubeで観た。それをまだ観る以前、水谷氏が「大麻も1回1回の乱用が脳を壊してしまう」と述べたことを友人から聞き、その根拠を確かめるべく、12月16日、この番組を担当した広川ディレクターに電話取材し、話を聞いた。
Q.IOM、イギリス議会の諮問委員会、ベックレーなど、近年の医学的な研究によれば、大麻が脳を壊すというエビデンスはないという結論だが、水谷氏が言う「大麻が脳を壊す」というのは、どのような根拠でのことか?
A.これはですね、水谷さんがスタジオで、打ち合わせのなかで、そのようなことに触れたいとのことで、お話を頂いたんですけれども、何を根拠に、ということかと思いますが、結論から申しますと、我々が取材をしているなかでの実感としか言いようがないんですね。具体的にデータを持ち出したわけでもないですし、水谷さんが、大麻を使っている若者と何人も対話してきたなかで、そういう事例を見ている、ということでお話をされたということですね。
Q.そうすると、水谷さんの勘違いかもしれませんよね?
A.それはでも実際にそういう現場を見て、そいう実感を持っているということで、水谷さんとしては、大麻の影響でそうなっているのを数々見てこられたということで、それを番組のなかで啓発してもらおうということになったということですね。
Q.そうすると、それは水谷さんが若者と関わってきての感想という域を超えないといことですね?
A.まあそうですねえ。
Q.何か具体的な研究のデータとか・・
A.具体的な研究のデータに基づいてお話したことではないです。
Q.番組を担当された方として、先ほどお話した大麻に関する海外の医学的な研究のデータなどは参照されたんでしょうか?
A.いえ、具体的にそれを全てチェックしたということではないです。
Q.全部とは言いませんけど、例えば著名なところをいくつかとか?
A.例えばネット上で見れるものですとか、みなさんのホームページも拝見させて頂きましたけれども。
Q.私たちのですか?
A.拝見させて頂いてはいたんですけども。
Q.ああそうですか、ありがとうございます(笑)。
A.拝見させて頂いて、そういう研究があるということは理解はしておりました。で、作った立場としては、そういう研究もあるだろうし、個人差もあるだろうし、大量に使っていたかどうかとかですね、個別のケースで全然違うと思うんですね、それで、そいうなかで、例えば大量に使ったらこういうケースもあったということで、ご紹介したということですね。
Q.大量に使い続けても、そういった脳の損傷は、使っていない人たちのグループと比較しても目立った違いはなかったという研究もありますけど、番組のなかで水谷さんの経験だけを・・
A.水谷さんの経験だけといいますか、我々も何人も取材をしておりますし、そのなかで見聞きしたり、話を伺うなかでそういう実感もありましたし、実際にご本人たちもそういう体験をしたというお話もありましたし。
Q.脳が壊れたっていう体験ですか?
A.というか、もう考えられなくなったとか、無気力になったとか、脳が壊れたというのは何を指すか人それぞれ違うと思いますけど。
Q.でも水谷さんがそう仰っていたわけですよね?
A.そうですね。
Q.脳が壊れるといういうふうに。
A.そうですね。
Q.それが医学的に裏づけがあってのことでしたら、医学的にも正しい情報と言えるかもしれませんけど、全然研究の裏づけもない、夜、街を回って女子高生に声をかけてる先生のお話の経験だけを前面に出してしまうと、全く医学的には事実でないことが、あたかも事実であるかのように情報として国民に伝わってしまうという危険性については、どうお考えでしょうか?
A.水谷さんのお話だけではなくて、私たちも実際に取材をするなかでそう感じるところもありましたし、医学的にデータをもって証明しようっていう話ではないですけれども、そいう側面があるってことを感じてましたし、水谷さんもそういうご意見だったので、番組のなかで私たちはそういうふうに伝えたいと思ったということですね。
Q.大麻がさまざまな疾病に効果があるという研究についてはご存知ですか?
A.専門家に詳細を聞いたわけではないですけれども、そういう情報は見聞きはしています。
Q.例えば、脅迫神経障害という病気があるそうなんですけれども、そのような病気の場合、大麻が効果があるという研究があるんですよ。鬱なんかにも効くとかですね、そういった精神的な疾患にも効果がるというエビデンスがありますので、取材された若者たちが、そういった疾病を潜在的に抱えていたり、もともとそういった病気を持っていて、で、大麻に出会ったことによって、大麻に効果があるから固執するというか、常用するようになったという可能性はないでしょうか?
A.可能性のことでいうと、全て100%ないですとか、私も医者でもないですし、本人たちがどういうことを抱えていたかというのは、聞いてはいますけど、今まではそういうことはなかった、大麻としか考えられないと、本人たちが言ってますので。
Q.本人たちが言ってるだけなんですよね?
A.でも逆にですよ、本人たちに取材するなかで、それをどうやって証明するかというと、それは現実的には不可能ですよね。何をもって根拠とするかというのは、我々は、取材をして、本人たちから話を聞いて、原因は大麻でしかあり得なかったという話を聞いて、私たちとしては、それしか知る術がないわけです。
Q.私がお話したような疾患、精神的な疾患も含めて・・
A.今回、私たちが取材しているなかでは、そういうことはなかったと思います。
Q.本人たちが病院にかかって診てもらったりとかしていたんでしょうか?
A.病院にかかってもいないですしね。
Q.病院にかかっていないけれども、そういう精神的な疾患をもともと抱えていて、大麻を使ったということもあるわけですよね。
A.それは可能性としてはあるでしょうね。ただそれを、何が原因なのか証明するのは非常に難しいと思いますが、少なくとも、お話を聞いて、取材をして、本人たちがそう仰ったりとか、私たちが取材をして、これはそうなんだろうなということを放送しているということです。
Q.ということは、本人たちが病気をお医者さんに診てもらったりはしてないけれでも、精神的な疾患をもともと抱えてて大麻を使ったということもあるわけですよね?
A.ただ話を聞いているなかで、そいうことは一切出てこないですし、それまでは普通に学生生活を送っていたり、社会人として働いていたりという方たちですから、そいうことは本人たちもないと仰ってますし、それはないんじゃないかなと思っていますが、それが本人たちがもともとそういう疾患とかを抱えていたことが原因ではないということを証明しろと言われても、それはなかなか難しいと思います。
Q.最近の大麻についてのトピックスになっていたような話で言えば、統合失調症の要因を抱えている、特に若者が大麻を使うと、それが契機になって発症してしまうという研究もあるんですよね。
A.例えばそういう研究があるとしますよね、そういう方たちが大麻を使ったときにですね、そういう方たちは今たくさんいらっしゃるじゃないですか、そいういう方たちがですね、簡単にいま大麻に手を出せる状況になってしまっている、それはそれで問題だと私は思うんですけど、そいうふうには思われないですか?
Q.思います。だからこそ、きちんと社会的に管理するべきだと私たちは主張してるのであって、野放しにしていいじゃないかっていう話をしているわけではないんですね。
(大幅に中略)
例えば、水谷さんの、脳が壊れるというお話をされるんでしたら、水谷さんのそういう体験だけを報道するというのは、公平性に欠けるんじゃありませんか?海外では公的な研究機関が大麻にはそういった害はないと報告しているわけですから。そういった研究を基にして、ヨーロッパでもアメリカでも非犯罪化が流れになっているわけですから。もしそいういった弊害があるんだったら非犯罪化なんかするわけがありませんよね、政府が。
(書き起こし疲れたので続く)
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