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医療大麻に関する最近の研究報告
近年明らかになった大麻草およびカンナビノイドの医療適応について
2000年-2009年までの学術論文のレビュー

医療大麻を合法と見なすかについての政治的な議論は今まさに繰り広げられているところであるが、カンナビノイドの治療目的での臨床研究は歴史上例のないぐらい広く一般に行われている。米国医学図書館のPubMedウェブサイトで検索してみるとその量がよくわかる。"cannabis, 1996"というキーワードで検索してみると(1996年はカリフォルニア州が、現在医療大麻が認められている13州のうち、初めて医療大麻を許可した年)、大麻について研究し、同年発表された科学雑誌の掲載論文として258本がヒットしてくる。これを2008年について同様に検索してみると、実に2100以上の学術論文が発表されている事実がわかる。

カンナビノイドによる治療に対して寄せられる新たな関心のうち、多くはエンドカンナビノイドの調節システムの発見の結果であるが、中には医療大麻を利用している患者や彼らの主治医からの声の増加によるものもいくつかある。これだけの逸した研究結果があふれているにもかかわらず、それでもなお現在の研究では、実験動物を用い、個々のカンナビノイド(例えばTHCcannabidiol)あるいは合成されたカンナビノイド受容体作動薬(dronabinolWIN 55,212-2)を対象にしているもの がほとんどで、大麻草そのままを用いた臨床での治験についての研究は多いとはいえない。どんな目的の使用であろうと許さないという連邦政府の強権な大麻取締り政策のせいで、案の定、そういう研究の大半はアメリカ国外で行われている。

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多剤耐性を呈する感染症は多い。それらのバクテリアの中でも最大の脅威はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA、’キラーバグ’) であるといってよい。この細菌はペニシリンなどの標準的な抗生剤が効かない。the Journal of the American Medical Associationによると、アメリカでは毎年ほぼ2万人もの入院患者の死亡にMRSAが関与しているという。[1]

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アメリカ人の実に5人に1人は、慢性の痛みを抱えながら生活している[1]。その多くが神経障害性疼痛(訳注:いわゆる神経痛)に苦しんでおり、これらは糖尿病多発性硬化症HIVといったような病気につきまとう症状である。多くの場合、標準的な鎮痛薬、つまりオピオイド製剤やNSAIDS(非ステロイド性消炎鎮痛薬)のようなものではこの神経障害性疼痛という痛みには効果が不十分なのである。

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ツーレット症候群は、原因不明の複雑な神経精神医学的疾患で、無意識な身体・音声チックに特徴がある。症状の重篤度は患者によって大きく異なっている。ツーレット症候群に対する治療法はないが、しばしば加齢によって改善することもある。専門家は、アメリカでは10万人がこの疾患に苦しんでいると推計している。

科学文献を検察すると、ツーレット症候群にカナビノイドを使った臨床研究がいくつか見つかる。アメリカ精神医学ジャーナルの1999年3月号では、ドイツのハノバー医科大学臨床精神療法学部の研究者たちが、非盲検臨床実験で、25才の男性患者にTHC10mgを単回投与したところ、ツーレット症候群の治療に成功したと報告している[1]。

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睡眠時無呼吸症は、就寝中に頻繁に10秒以上呼吸がとまることが特徴の内科疾患で、疲労や頭痛、高血圧、不整脈、心臓発作、脳卒中、など様々な生理疾患に関連して起こる。しばしば診断が行われていないことも多いが、30~60才の男性で4%、女性で2%程度がこの病気に苦しんでいると推定されている。

睡眠時無呼吸症に対する大麻の役割を調べた科学文献としては、臨床前研究の1件が検索で出てくる。アメリカ睡眠薬アカデミー・ジャーナルの2002年6月号では、シカゴにあるイリノイ大学医学部の研究テームが、睡眠時無呼吸症のラットにカナビノイドとエンドカナビノイドを投与したところ、双方とも「強い抑止効果」 があったと報告している[1]。

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関節リウマチは、関節に炎症を引き起こす疾患で、痛み、筋肉のこわばり、腫れを特徴とし、最終的に手足の機能が低下する。約1%の人が関節リウマチに苦しんでいると推計されているが、その多くは女性となっている。

関節リウマチの治療に大麻を使った研究は、普通、患者の証言を集めたものになっている。2005年にオーストラリアで医療大麻患者を対象に行われた匿名アンケート調査では、25%の人が関節リウマチの治療にカナビノイドを使っていた、と報告している[1]。また、イギリスの医療大麻患者の調査では、20%以上が関節炎に大麻を使っていたと報告している[2]。だが、それにもかかわらず、関節リウマチに大麻を使った臨床研究についてはごく僅かしか見られない。

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かゆみ (そう痒症) は、さまざまな皮膚病にともなう症状のほか、肝不全などの深刻な肝臓疾患の2次症状としてもあらわれる。他の皮膚感覚と違い、一般に、かゆみは中枢神経系の活動によって引き起こされ、通常の標準的治療法ではほとんど改善しない。

科学文献を検索してみると、かゆみの治療にカナビノイドを使った臨床研究は3件見つかる。アメリカ胃腸病ジャーナルの2002年8月号では、マイアミ大学医学部の研究チームが、3人の胆汁うっ滞性肝疾患患者に5mgのTHCを投与して治療に成功している[1]。

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骨粗鬆症は骨格が変性する疾患で、骨の組織が劣化する特徴を持っている。骨粗鬆症の患者では、多重骨折などの深刻な身体障害を起こすリスクが高くなる。アメリカ公衆衛生局長官事務所によると、50才以上のアメリカ人では1000万人が骨粗鬆症に苦しんでおり、3400万人がこの病気になるリスクを抱えている。
カナビノイドによる骨粗鬆症の発症抑制の可能性に触れた論文としては1990年代初頭の科学文献に見られるが[1]、現在までのところ、大麻を使った臨床実験はまだ行われていない。

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多発性硬化症

多発性硬化症は、中枢神経システムの慢性的な変性疾患で、炎症、筋肉の虚弱化、運動神経の喪失などが引き起こされる。多発性硬化症患者は、一般に、時間が経つとやがては不治の身体障害者となり、病気が原因で死亡することもある。アメリカ多発性硬化症協会によれば、新規に多発性硬化症と診断される人は毎週約200人の割合で、20~40才の人たちに多いことが特徴となっている。

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泌尿器の失禁症は、膀胱の制御機能が低下する疾患で、膀胱の筋肉の弱体化や炎症などのいくつかの生物学的な要因が重なって起こる。また、多発性硬化症やパーキンソン病などに伴う神経障害によって引き起こされる場合もある。アメリカでは、特に65才以上の女性の10人に1人が失禁症で苦しんでいると推計されている。

最近の臨床研究のいくつかで、カナビノイド治療が失禁症の病状を軽減することが示されている。臨床リハビリテーション・ジャーナルの2003年2月号で、イギリスのオックスフォード生活力回復センターの研究テームは、多発性硬化症患者と脊髄損傷患者で、天然の大麻抽出液を摂取(量は自己判断)したところ、プラセボ対照群に比較して膀胱の調整機能が回復したと報告している[1]。

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高血圧症はアメリカ成人の4人に1人が苦しんでいると言われている疾患で、心臓や血管に負担がかかることで、脳卒中や心臓病のリスクが非常に高くなる。

次々に出てくる研究で、エンドカナビノイド・システムが血圧を調整する役割を担っていることが明らかになってきているが、その詳細なメカニズムについてはまだよく分かっていない[1]。

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ヒト免疫不全ウイルスは、人間の免疫システムにある細胞に侵入するレトロウイルス (遺伝情報としてRNAを持つウイルス)で、感染症に非常に被患しやすくなる。WHOによれば、アメリカでは、50万人以上の人がHIV/エイズで死亡しているほか、100万人以上がこの病気とともに生きている。

調査データのよれば、HIV/エイズの北アメリカ人の3人に一人は、病気の症状と各種抗レトロウイルス医薬品の副作用の治療に大麻を使っていることが示されている[1-4]。また、最近発表された研究の一つでは、60%以上のHIV/エイズ患者が自ら医療大麻ユーザーであることを認めていると報告している[5]。

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C型肝炎は、肝臓にウイルスが感染して起こる疾患で、アメリカでは400万人が苦しんでいると言われている。慢性型のC型肝炎の典型的な症状には、疲労、うつ、関節痛、肝臓障害などがあり、肝硬変や肝臓ガンになることもある。

以前から、C型肝炎と診断された患者たちからは、大麻を使うと病状の緩和や抗ウイルス療法に伴う吐き気を抑えられるという証言が多く寄せられてきていたが[1-2]、最近になって、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームは、大麻を使っている患者のほうが、吐き気などの副作用を伴うインターフェロン治療(通常6ヶ月以上)を最後まで耐えてやり抜く率が高いことを見出しているが[3]、現在までのところ、この疾患に直接カナビノイドを使った臨床報告は見当たらない。

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神経膠腫症(グリオーマ)は脳にできるガンの中でも特に攻撃的な悪性腫瘍で、多くは診断後1~2年で死に至る。この腫瘍を治療する方法は現在知られておらず、対処療法で僅かに苦痛を取り除く程度しかできない。

最新の科学文献を検索すると、特に神経膠腫細胞株に対してカナビノイドが抗腫瘍効果を示したとする論文としては、多数の臨床前研究と、特にグリオーマ細胞株に対するカナビノイドの抗悪性腫瘍薬としての働きについて調べた臨床予備研究が一件見つかる。

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消化器疾患には、過敏性腸症候群のような腸機能疾患および、クローン病や大腸炎のような炎症性腸疾患があり、アメリカでは特に女性の5人に一人以上が苦しんでいる。一部の消化器疾患は食事療法と薬剤の処方でコントロールできるが、それを除くと今までの治療法ではあまり効果が得られない。しばしば見られる症状とすれば、さしこみ、腹痛、大腸や小腸の内部炎症、慢性の下痢、直腸出血、体重の減少、などがある。

現在までのところ、消化器疾患に大麻を使った治療を支持する科学文献としては、患者の証言[1,2] や いくつかのケース・スタディ[3,4] はあるが、この分野での臨床研究とすれば、経口THCの大腸運動への効果を調べた2007年の研究だけしかない[5]。

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