平成28年3月17日宣告 裁判所書記官 高橋 剛弘
平成25年(わ)第149号 大麻取締法違反被告事件
判決
被告人
氏名 白坂 和彦
生年月日 昭和37年5月4日
本籍 埼玉県上尾市■■■■■
住居 本籍地に同じ
職業 会社代表者
検察官 高橋 朋
弁護人 細江 智洋(私選)
主文
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
長野地方検察庁松本支部で保管中の各大麻(平成25年領第234号符号1の1(種子を除く。)
同年領第236号符号6を没収する。
理由
[犯罪事実]
被告人は,みだりに,平成25年9月29日,長野県安曇野市穂高有明2257番地36所在の当時の被告人方において,大麻である植物片約4.979g(平成25年領第234号符号1の1(種子を除く。)は鑑定後の残量)及び大麻草約13. 4g(茎の重量を含む。同年領第236号符号6は鑑定後の残量)を所持した。
[証拠]
以下,後記「争点の判断」を含め,括弧内の甲乙の数字は,証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。
被告人の公判供述
証人太田昌範,同岩下竜也,同宮坂雄一郎,同関浩太郎,同矢島慶二,岡山田佳照,同高橋直樹,同湯本弥助,同新海宏樹の各公判供述
差押調書(甲3),各捜査報告書(甲4,21),捜索差押調書(甲8)
各鑑定嘱託書謄本(甲5,19),各鑑定書(甲6,20)
捜査関係事項照会回答(甲7)
[争点の判断]
以下において,当裁判所が争点ごとの事実の認定,証拠の評価ないし法的判断を示すに当たっては,個別に証拠(括弧内の弁の数字は証拠等関係カードの弁護人請求番号を示す。)を付記(ただし,関連する尋問及び供述等の証拠を全て網羅する趣旨ではない。)しない限り,本件の関係証拠に従っている。
第1 違法収集証拠について
1 前提事実
前掲各鑑定書の鑑定結果は,松本簡易裁判所から発付された捜索差押許可状に基づいて実施された被告人方の捜索差押手続によって押収されたポリバケツ入り大麻(平成25年領第236号符号6)と,同捜索差押えの際に箱入り大麻が発見され,その手続の途中に帰宅した被告人を同大麻所持の事実で現行犯逮捕し,その逮捕の現場での差押え(刑訴法220条1項2号)に係る同大麻(同年領第234号符号1の1)を鑑定資料とするものである(甲36,8,16,19,21,後記山田13,33,37頁,後記宮坂20頁)。
なお,犯罪事実中の「所持」については,検察官からの釈明(第13回公判期日調書)を踏まえるど,前記捜索差押えの実施前における被告人による前記各大麻に対する事実上の占有支配の状態を対象とするものである。
2 争点の構造
ところで,検察官は,ポリバケツ入り大麻については,被告人主催のイベントの参加者である野●●●の取調べによって得られた供述調書等を疎明資料として発付された前記捜索差押許可状の実施に基づき押収されたものであるところ,同疎明資料中には弁護人の後記主張に係る被告人の取調べ等その一連の過程で得られた被告人の供述調書等は一切含まれておらず,また,箱入り大麻についても,適法に実施された捜索差押えの手続中に発見され,その所持を理由に現行犯逮捕された現場で差し押さえられたものであって,いずれも,違法収集証拠として証拠能力を否定されるべき理由はない旨主張する。
これに対し,弁護人は,①職務質問の違法,②任意同行(取調べを含む。)の違法,③違法収集証拠の点を踏まえ,被告人方で行われた一連の押収手続には,違法な身体拘束を直接利用したものとして,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,違法捜査抑制の見地からも,これら一連の手続によって得られた証拠物及びそれと密接不可分の関係にある証拠はいずれも証拠能力を有せず,証拠から排除すべきである旨主張する。
そこで,以下,項目(前記①~③)ごと更に弁護人の主張を補足しつつ,当裁判所の認定及び判断を示すこととする。
3 前記①(職務質問)関係
(1)弁護人は,次のとおりその主張を展開する。すなわち,被告人は,平成25年9月29日(以下特記しない限り同日付を前提とする。)午前10時過ぎ頃から午後1時過ぎまでの3時間余り,路上で警察官に取り固まれ,明確に所持品検査や任意向行について拒絶の意思を示しているにもかかわらず,現場に留め置かれた。その後も数人の警察官が取り囲んだまま現場を移動するなどし,被告人が所持品検査に応じた後も任意同行を開始した午後3時頃まで,警察官らが被告人に対して任意同行の説得を続けた。その間,午後1時半頃からやむを得ず被告人が応じた所持品検査等までは大麻が発見されず,被告人に対する大麻所持の嫌疑はなくなっていた。このように,職務質問の開始から被告人の任意同行に至るまで,約5時間にわたり被告人を現場に留め置いた行為は,任意捜査として許容される範囲を逸脱しており,違法といえる。以上が弁護人の主張要旨である。
(2)ところで,警察官山田佳照(以下,同人又は同人尋問調書を単に「山田」という。),同太田昌範(以下前同様に「太田」という。),同岩下竜也,同宮坂雄一郎(以下前同様に「宮坂」という。),同矢島慶二(以下前同様に「矢島」 という。)及び同関浩太郎(以下前同様に「関」という。)の各公判供述(いずれも,尋問全体を通じてその供述内容に無理がなく,相互に補強し合っているなど,信用性に特に疑念は残らない。)
その他関係証拠によれば,次の主な事実関係が認定可能である。すなわち,警察官らが被告人に対して職務質問を開始する段階において,被告人が長野県安曇野市所在の天平の森で開催されたイベントの主催者であり(甲10),同イベント参加者から逮捕者が出ている(甲17)事実が判明していたこと(太田4,5頁,山田2,3,5頁),同職務質問の継続中に同イベントの開催地で大麻様の植物片が発見されたこと(甲18,矢島3頁,太田14,32頁,山田8頁),被告人が停車中の自己車両の窓を閉め警察官らに聞こえないような状態で弁護士に電話をかけるなどして外部との連絡を取っていたこと(太田10,31頁,宮坂8,9頁),警察官らが被告人の前記車両の前後に殊更立ち塞がり続けるような事実はなかったこと(太田13,40頁,宮坂34頁),警察官らが路上で被告人に声をかけるなどして職務質問を開始した午前10時29分頃(太田8頁)から安曇野警察署への任意同行を始めた午後3時前頃(宮坂14頁)までに約4時間半経過していたが,その間,被告人は,帰りたい旨の意思を示したことはあったものの(太田10頁),警察官らの質問等に対して任意に応答を続け(宮坂7,8,32頁,閏4頁),一旦戻った天平の森で、の所持品検査にも任意に応じていたこと(太田19頁,宮坂12,13頁,関5頁)などが認められ,前記証人らの各公判供述に明らかに反する被告人の公判供述部分は採用の限りでない。これらの事実に照らせば,職務質問の必要性,緊急性及び相当性を肯定するに十分といえ,違法の問題は生じない。
4 前記②(任意同行・取調べ)関係
(1)弁護人は,次のとおりその主張を展開する。すなわち,捜査機関は,午後3時頃から被告人に対する任意同行を開始したが,前記のとおり違法な職務質問に続いたものである上,被告人にとって出頭を拒否することは事実上不可能であった。
そして,被告人が警察署に到着すると直ちに取調べが開始され,被告人は朝から何も食べていなかったにもかかわらず,食事もなく,1回警察官の誘導により煙草休憩に行ったほかは,被告人が取調室を退出する午後8時過ぎまで断続的に取調べが続いた。その間,被告人が煙草休憩に行く際にも非喫煙者である警察官が同行し,被告人は常時監視されていた。被告人は,午後6時頃及び午後7時頃など,繰り返し帰りたい旨申し向けたが,警察官は警察署に残るよう執ように説得し,被告人は事実上取調べを拒否することができなかった。午後8時過ぎ被告人が取調室から出ようとした左きも,警察官が出入口に立ちはだかった上,他の警察官が被告人の近くに集まるなど,被告人の自由は奪われていた。被告人が警察署の駐車場に出ると,警察車両によって被告人の車両が発進できない状態になっており,被告人がその車両に乗車しても,警察官は警察車両を移動することなく,被告人に捜索差押えに同行するよう説得を続け,被告人車両の移動を許さなかった。他方,警察署では,●村●希の取調べもされており,同人が被告人の大麻所持に関する供述をしたことから,捜査機関は被告人方の捜索差押令状を請求することとして,午後8時過ぎには同令状が警察署に届いていた。このように,違法な職務質問に続いて行われた任意向行は,その後の取調べの経過に加え,被告人に対して大麻所持の疑いを有していた捜査機関が被告人方の捜索差押えの実効性を確保するため警察署に留め置いていたことも考慮すれば,実質的には逮捕に当たり,違法である。以上が弁護人の主張要旨である。
(2)ところで,関,宮坂,山田及び矢島の各公判供述その他関係証拠によれば,次の主な事実関係が認定可能である。すなわち,安曇野警察署の所在地を知らない被告人の依頼もあって,被告人が運転する車両の前後を警察車両が走行し,途中,被告人の要望で,知人男性を同乗させて明科駅まで送ったり,コンビニエンスストアに立ち寄るなどしていること(関9,10頁,宮坂14,15頁,矢島7頁),被告人及び警察官らが午後3時38分頃安曇野警察署に到着し(宮坂17頁),関が午後3時45分頃から被告人に対する任意の取調べを開始し(関14頁),それ以降被告人から帰りたい旨の意思が示されたことはあったものの(関16,20,22,23頁,山田10頁),関の説得に応じる形で,最終的な終了時刻が午後8時まで延長され(関17,21頁),午後8時12分頃に取調べが終了した(関24頁,山田9,10頁)こと,その取調べの開始から終了までの約4時間半の聞に被告人の供述調書が2通作成されている(山田I3頁)ところ,同調書には大麻報道センタや被告人主催の開催イベントの内容等の記載がある(乙2,3,関17~20頁)上,被告人はその内容を確認して同調書末尾に署名指印した(関22頁)こと,取調べ終了後,被告人が席を立って退室しようとした際,対面で着席していた関もその席を立って被告人に近づき,被告人の正面に立ってその退室を塞いだと指摘されても仕方のないような状況下で,「待って」などと説得したものの,被告人が退室したこと(関42,51,52, 54,58頁)などが認められる。
(3) この点,被告人は,公判廷で,「2通目の調書の署名指印後,警察官が,この調書をもう一度読むようなことを言い始め,明らかに時間を延ばそうというのが見え見えだったので,席を立った。すると,警察官が前に立ちはだかり,机と壁の幅は40cmくらいなので,完全に進路を塞ぐ状況となった。警察官が立ち上がって立ちはだかった時間は2分くらい。退室の直前に,ガサ状が出ているので立ち会えという話になったため,本当に頭にきて,ふざけやがって,はめやがってというふうに罵倒しながら,どけっと言って,出た。」旨供述する(被告人供述調書(第9回)19,21,42,45頁)。しかし,その公判供述のうち,関の公判供述に明白に反する部分については採用の限りでない。もっとも,取調室全体における被告人退室直前の二人の占有状況などについての関及び被告人の各公判供述(関53頁,被告人前記調書16,17,20,21頁)を対比して鑑みるに,被告人の同供述部分を排斥するのは無理といえる。
(4)以上の諸点に加え,既に示した認定及び判断をも考慮に入れると,警察署への任意同行やそれに引き続いて行われた取調べに関して違法の問題は生じないというべきである。取調べ終了後,被告人がその退室前に聞と前記状況下にあったとしても,被告人の行動に対する制限の程度は違法というほどのものではなく,この点は前記結論を左右しない。
5 前記③(違法収集証拠)関係
(1)弁護人は,次のとおりその主張を展開する。すなわち,捜査機関が午前10時過ぎから被告人方の捜索を開始する午後9時近くまでの約10時間以上にわたって違法に被告人の身体を拘束したのは,逮捕要件を満たさない被告人を逮捕するために,被告人方より大麻を発見するまで被告人を警察官の監視下に置き,被告人方の捜索差押えの実効性を確保することが目的であったといえる。以上が弁護人の主張要旨である。
(2)ところで,関,山田及び宮坂の各公判供述その他関係証拠によれば,次の主な事実関係が認定可能である。すなわち,警察官らが何度も被告人に対して被告人方の捜索差押えに立ち会うよう説得する中,被告人が捜索差押許可状があるならば本物を見たい旨告げたため,当時既に同許可状を持って被告人方に向かっていた警察官らの警察車両を安曇野警察署に引き返させて被告人に同許可状を見せるなどしたものの,結局被告人はその説得に応ずることなく午後8時55分頃同警察署を退去したこと(関24,25,28頁,山田35頁),警察官らは消防署職員立会の下で午後9時17分頃被告人方の捜索差押えを開始し,午後9時28分頃箱入り大麻を発見した上,その頃ポリバケツ入り大麻を差し押さえるなどしたこと(甲3,4,8,山田37頁),警察官らが同捜索差押えの実施中の午後11時45分頃帰宅した被告人に対して前記許可状を示し,被告人はその後の執行に立ち会った上,箱入り大麻の所持事実で翌30日午前1時19分頃現行犯逮捕され,同大麻がその逮捕の現場で差し押さえられたこと(甲3,4,8,関29頁,宮坂20頁)などが認められる。
以上の事実に加え,前示の認定及び判断をも併せ考慮すれば,例えば,捜査機関において被告人方での捜索差押えの実効性を確保するため被告人の取調べを継続し殊更被告人を排除してその捜索差押えを実施しようとする意図ないし事情があったとの疑いは特に残らないなど,被告人の取調べ後の被告人方への捜索差押えという一連の過程において弁護人が指摘するような違法の問題は生じないというべきである。
6 帰結
以上によれば,弁護人の前記主張はいずれも理由がないことに帰する。
第2 大麻取締法の違憲性について
弁護人は,大麻の医療利用(医療大麻)を一切禁止し,その所持等を制限する大麻取締法(以下「本法」という。)24条の2第1項(以下「本件罰条」という。)は憲法規定(13条,14条1項,25条,31条及び36条)に違反し無効であるなどと主張する。すなわち,その主張は,①大麻を所持等することは愚者の権利ないしライフスタイルに関わる個人の自己決定権の行使であり,幸福追求権(憲法13条後段),生存権(同法25条)として保障されるところ,大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度であり,多くの難病に有用なことが明らかである上,向精神薬や麻薬に指定されている薬物は医師の処方が認められ,所持が許されているのに対し,医療大麻の所持等を一切禁止する本件罰条は,他の医薬品に対する規制と比較して過度な規制であること,また,大麻使用による有害作用は他のし好品であるニコチン,アルコールと比較して特段高いものではなく,日常生活において有害とは認められない以上,国民の保健衛生の向上と社会の安全保持という規制目的と懲役刑をもって規制する本件罰条との聞には実質的な関連性がなく,憲法13条,25条に反する,②向精神薬,麻薬等は指定を受ければ施用のための所持等が認められているのに,医療利用目的で大麻を所持等した者に懲役刑を科すことは差別的取扱いである上,アルコール,煙草はいずれも人体に影響を及ぼす物質であるのに,大麻の場合のみ合理的根拠なくその所持等を規制するのは,憲法14条1項に反する,③大麻の有害性は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度であって,その有害性(弁31・DVD一R参照)が公知の事実であったとしても,薬理作用そのものないし使用者本人への有害作用(自傷行為)にとどまるから,大麻の自己使用目的,医療利用目的での所持等に懲役刑を科す本件罰条は,罪刑の均衡を失するもので著しく不合理であり,憲法31条,36条に反する,というものである。
2 しかしながら,程度の高低はともかくとして,大麻が一定の精神薬理的作用を有しそれが人体に有害なものであることは公知の事実といえ,弁護人もその有害性が低いとの限度でこれを認めている。そして,大麻の有害性を前提に,それが個人のみならず社会全体の保健衛生に影響する危険性を否定することができない以上,これを公共の利益の見地から規制することは十分に合理的であり,どの範囲で法的規制を加え,どのような刑罰をもって臨むかは立法政策の問題といえる。本件罰条についてみると,その法定刑は1月以上5年以下の懲役であり,選択刑として罰金刑が規定されていないものの,懲役刑の下限は1月で,その刑期の幅が広く,理論上は酌量減軽も可能な上,執行猶予制度も存在することからすれば,罰金刑を選択できないからといって立法における裁量の限界を逸脱しているということはできず,憲法13条,25条,31条及び36条に違反するものではない。さらに,アルコール飲料や煙草と大麻とでは,それらの心身に及ぼす影響が異なるため,有害性の程度を単純に比較するのは困難である上,アルコール飲料や煙草は,古くからその社会的効用が認められ,広く国民一般に受け入れられてきたものであり,その摂取の心身に及ぼす影響についても周知され,大麻の場合とは事情を異にすることに照らせば,各規制の内容が異なる点を捉えて不合理な差別であるとはいえず,また,向精神薬や麻薬等と比べてその規制内容が異なる点についても立法裁量の範囲内というべきであるから,憲法14条に違反しない。
3 以上に対し,弁護人は,大麻の有害性や有用性の研究が進み,諸外国も次第に規制を廃止又は緩和し,大麻の医療利用を認めているなどと種々指摘するけれども,本法制定に係る立法事実が海外における科学的研究の進展や社会的現実の変化によって本件罰条の違憲性を疑うべきほどに変容しているともいえないなど,いずれも,当裁判所の前記合憲性判断を妨げるものではない。
なお,弁護人は,大麻の栽培等を制限する本法24条1項,大麻から製造された医薬品の施用等の禁止を定めた本法4条1項2号及び3号並びに大麻取扱者以外の者の所持等を禁止する本法3条1項(各禁止行為の罰則規定は本法24条の3第1項1号及び2号)の違憲性にも触れるが,その違憲主張の適格性や,その条項各号と本件罰条との関係性(密接不可分か否かなど)といった諸点を度外視しでも,前同様に,国民の保健衛生の向上と社会の安全保持の見地からみて,当該規制が立法裁量の限界を逸脱しているとはいえない。
4 結局,弁護人の前記違憲主張は当裁判所と見解を異にしており,是認することができない。
[法令の適用]
罰条 包括して本法24条の2第1項
刑の執行 刑法25条1項
没収 本法24条の5第1項本文
[量刑の理由]
犯行態様は判示(犯罪事実)のとおりであるほか,被告人は,平成16年7月確定に係る同種事犯の執行猶予判決(懲役3年,5年間執行猶予)を受けているのに,格別酌むべき事情もなく,判示犯行に及んでおり,その刑事責任を軽視することは到底できない。
もっとも,被告人の行為の客観的な重さや意思決定への刑罰的非難の程度,更には被告人のように比較的古い前科しかない点も踏まえた同種事犯の量刑傾向を考慮に入れると,直ちに被告人に施設内処遇を受けさせる必要があるとはいえない。
そこで,以上に加え,被告人が,捜査及び公判を通じて心情の変化は特にみられないものの,保釈許可によって釈放されるまで身柄を拘束されたこと,捜査当初の職務質問,所持品検査,警察署への同行及び取調べという長時間にわたる一連の手続に任意に協力したことなども勘案の上,主文の刑期及び猶予期聞が相当であるとの結論に至った。
(検察側求刑:懲役1年6月,主文同旨の没収,弁護側科刑意見.予備的に付執行猶予)
平成28年3月17日
長野地方裁判所松本支部
裁判官 本間 敏広
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検察官
冒頭で証人の経歴について御証言がありましたけれども,被告人と知り合ったのはどのようないきさつでしたか。被告人というのは白坂さん。白坂さんです。
白坂さんとは,名前は知っておりますし,メールは1回か2回したと思いますけれども,ずっと今から10年前とか。それ以外は,交際というか,そういうのはありません。
先ほど証人の著書として大麻ヒステリーというものが証言されていましたけれども,この本を書くに当たって被告人とやりとりをしたということはありませんでしたか。
資料の問い合わせはしたような気がいたします。それは,大麻に関係する人のほとんどに接触をして,いろいろ意見を聞いたりしましたので,白坂さんからのデータもいただいたように思います,経験とか。
白坂さん以外で証人が大麻ヒステリーを書くに当たってやりとりをした方というのは,どなたがいらっしゃいましたか。
ここで個人名を挙げるのは,ちょっと先方の了解がないといけないような気がしますが,かなり多くの方とお話を聞きましたし,もともと研究会にずっと出ていましたので,そこでの知り合いというのは20人ぐらいいましたんで,それでその人の本なんかを書いている方は本をいただいたり買ったり,それから研究会でディスカッションしたり,それから紙に書いた,ペーパーに書いたデータなんかをいただいたりしましたので,相当数に上るんじゃないかと思います。
この大麻ヒステリーの末尾には,執筆に当たり大量の資料を御提供いただいた白坂和彦さんなど,中略しますが,ここに深く感謝しますという記載がありますけれども,被告人から大量の資料を提供してもらっていたということではありませんか。
僕の記憶では,ちょっと古いのであれなんですが,白坂さんからはプリントしたコピした資料を多分自宅に送っていただいたんだと思うんです。それで,ほかの方は本をそのときとか,それから本をいただいた方もおられるんですけど,一番よく努力していただいた方に白坂さんがおられたんで,そういうふうに書いたんだと思います。
被告人から提供を受けた資料の中には,どのようなものがありましたか。
大麻の一般的ないろいろな過去の,あの当時僕が集めるのが苦労したやつは,例えば過去のアンスリンガーが使った映画のフィルムだとか,それからラ・ガーディアとか,そういった原報告のコピーとか,それから当時ヨーロッパとかアメリカの情勢を調べるために,私の本にはヨーロッパ,アメリカの情勢は余り詳しくは書いていないんですけど,本を書く上では必要だと思って,そういう情報もいただいたように記憶しています。
この大麻ヒステリーですが,2009年6月20日初版と記載されていますけれども,このころに執筆されたということでよろしいですか。
そうです。大体僕は書くの2年ぐらいかかりますから,2007年ぐらいに資料を集めて構想を練って,2008年に書いて2009年に出したって,そんな感じです。
この大麻ヒステリーの中にもカンナビノールの研究に関する主な4つの報告があるということが記載されていますね。
はい。
1つは,インド大麻薬物委員会と1893年のものですね。
はい。
きょう御証言されたものとは違いますけれども,2つ目がラ・ガーディア報告,3つ目,ちょっと順番は前後しますが,シファー委員会。ラ・ガーデイア報告とシファー委員会は,先ほど証言されたラ・ガーディア報告と,あとニクソン大統領とおっしゃっていた報告のことですか。
そうです。委員長の名前だと思います,そこで書いてあるのは。
最後の報告として,世界保健機構WHOの1970年の報告書を引用されていますね。
はい。
それは,覚えていらっしゃいますか。
私の記憶では,WHOは2回ぐらい私が報告書を見たような気がいたします。
この著書の中で引用されているのは,1970年のものでしたが,この当時被告人からは先ほど御証言された1995年のWHOの報告というのは提供を受けていなかったんですか。
調べてみると,もう多分自宅にもないと思うんで,わからないと思いますが,記憶しておりません。
証人自身で,この1995年のWHOの報告を被告人から提供を受ける,受けないにかかわらず,調査をして研究をしたということはありましたか。
WHOというのは,一般的には何か保健機構という名前がついておりますから,科学的な判断をするところというふうに思っておられる方が多いんですけども,WHOは政府機関ですので,政治的な意味合いが非常に強いもんですから,一般的には私はWHO,こればかりじゃなくてほかのものについてもWHOの報告というのは学問的な報告としては受け取っておりません。ただ,一般的にはWHOといいますと,皆さんは知っていたりしますので,一応それについて触れているということで私の個人的な学問的な問題,私は政治家ではないので,学問的に大麻がどうかと聞かれたら,本当はWHOの報告は使いたくありません。第一,WHOの報告は,学問的な大麻のこと書いているんじゃなくて,この国で何人やったら,アンケートを電話でしたらこうだということなんで,僕だったら調査するのに電話かけてするというのは一体何だと,医者が診察もしていませんし。ですから,そういう意味では余り学問的な厳密さを持った報告ではないと認識しております。
著書を書かれたのは,2011年のことですから,この1995年の報告は既に出ていたことになりますが,こちらの報告ではなく,1970年の報告を著書に引用されたのはどのような理由からでしたか。
いや,多分全く理由はなくて,ただ2つ似たようなものがあって,古いほうを引用したんだと思います。
研究結果であれば通常新しいほうを引用するものではないんですか。
いや,それは何とも言えません。内容的に同じであれば古いほうを引用するのが礼儀で,というのはそれがオリジナリティーですから。ただ,内容が変わっていれば新しいほうが正確かというのは非常に学問的に難しくて,新しい,古いを年代で決めるのはよくないわけです。内容で決めなきゃいけません。ですから,僕はそのとき多分1970年の報告と1995年の報告を見て,1970年がいいと思いました。学問には方向性がありませんから,私は大麻を擁護する立場でも反対する立場でも全然ないので,そういう点ではあくまでも純粋に科学的に判断しているつもりであります。
1970年のWHOの報告として大麻の成分,奇形の発生や衝動的な言動,大麻を吸っているうちに吸う量が増えるというような激しい障害や習慣性はないこと,さらには姉薬につきものの禁断症状などは認められないことが指摘されていますと記載されていますが,そのような御記憶で間違いありませんか。
ええ,大麻についてはもう全体的にWHOの報告というのは,僕はそれほど重要視していないんですが,大麻の研究の全体像は激しい行動とか身体的影響,そういったものの習慣性はないというふうに全体的にはそういうふうになっていると思います。
取り調べ済みの弁第25号証,取り調べ済みですので,内容を引用しますが1995年のWHOの報告書の抜粋の中にはちょっと長いので,省略しますが,カンナビノイド分子が脳細胞または他の組織部位の中で結びつく固有の受容体,レセプターの分子の発見,これらレセプタ一部位に正常に作用する天然の脳内化学物質の発見,脳のさまざまな部分や人体のほかの場所のレセプタ一部位のマッピングに関する基礎研究が含まれると。大麻は,急性的に認知の発達と精神運動を障害し,それゆえ大麻中毒の運転者が自動車事故を起こすリスクが高くなる。また,大麻が呼吸器系や体の免疫系内の各種細胞に及ぼす慢性的影響についても大きく理解が進んだ。慢性的には,認知機能に選択的障害を来たし,依存症が生じ得る。慢性的な大麻使用はさらに,統合失調症の発症者を悪化させるおそれがある。この後薬効についても記載がありますが,その部分は省略します。この部分を読みますとp先ほど証人がおおむね内容としては似通ったものと理解していたとおっしゃいましたけれども,大麻の人体に対する影響について,これで同じ内容だと理解されたということですか。
はい,今検事さんが読まれたような内容は,食品ですと例えばワラビだとかゼンマイとか,そういったものの記述はほとんど同じです。つまりよほど人工的につくられた野菜とか,そういうものでなければ通常の植物というのは必ず人体とインタラクションがあります。したがって,WHOのような書き方というのは一般的でありまして,例えばワラピはもう2年たったら食べたら必ずがんになるという記述もあります。そういったものは,漢方と一緒なもんですから,薬効のないやや天然的な植物というのは私はずっと長くそこは研究してきたんですが,ないとは言えませんが,今の記述のようなものは影響があるという記述ではありません。ただ,そういう記述の方式をとるということです。つまりないわけじゃないわけです。薬草というのは,必ず何かの作用をします。その作用は,明らかにしておくことがWHOとして必要ですから,それは明らかにする必要ありますが,それが日常生活において影響を及ぼすかどうかということの記述はないと思います。それで,あと自動車事故については私もう記憶しておりまして,それで調べましたけれども,私の判定で、はそれは非常に不完全なもので,取り上げる必要はないと思って,たしか取り上げなかったように思いますが,それはそういう理由です。
そうすると,証人としては私が今読み上げました1995年のWHOの報告のような内容については,日常的にこのような影響があるということを意味しているものではないという趣旨で御証言されましたか。
専門家の立場で言えば,つい1か月か2か月前にソーセジを食べると非常に厳しい病気になるという発表がWHOか何かあって,これに対して一体これは何なんだという反論が非常にありますが,それと同じでソーセジでも相当な打撃が人体にはあるんです。それは,専門家が読んだ場合,僕ソーセジ読んだ後テレビの解説をしたんですけども,これは通常の食品の影響ぐらいだというふうにテレビで言いました。そうすると,ほかの人はみんなびっくりしまして,だってソーセージはこういう病気になるとここに書いてあるじゃないかと。実は,食品安全だとか薬効の問題というのは徹底的に調べて,そして少しでもその形跡があったら必ず書くということなので,一般の人が見ますともう接したらすぐ死ぬと,エタノールなんかはごらんになったらわかると思うんですが,エタノールというのはお酒の成分です。エタノールの人体に対する影響を調べたら,もう飲んだら死ぬという印象しかありません。それは,もう非常に強い影響がありますから,一気飲みでよく死にますけど,ですからそうするとエタノールの人体に対する影響って悪いことがだあっと何ページも書いてある。しかし,みんなが飲んでいるじゃないか。それは,何かったら食品安全だとか,そういう薬効というものを書くときには,本当に芯まで書かないと,それは誤解を招きますんで,そういう意味での記述なんで,ちょっとその記述から一般的に見れば大麻が何かそういう影響があるように見えると思いますが,私は違うと思います。ほかのアルコールだとかソーセージだとか,そういったもののWHOの記述と比較されれば,これは非常に緩い,ほとんど無視できるようなものであるというふうなことがおわかりになると思います。
ちょっと最後の部分,もう少し御説明いただきたいんですが,ほかのものと比較すれば非常に緩くて無視できる程度のものというのはどういうことなのか,もう少し御説明いただけますか。
我々みたいな専門家は,アルコールの人体に対する影響,ソーセージの肉の人体に対する影響,熟成肉の影響,例えば牛乳の影響といってずっと見ます。その一つ一つに書かれた人体に対する極めて厳しい影響に比べれば大麻のその記述というのは非常に緩いということです。
緩いとおっしゃるのは,どういう趣旨ですか。
ほとんどないということが書いてあるのと一緒です,今の表現は。
先ほど私が読み上げた内容については,大麻の薬効,影響として事実としてあり得るとお考えだということですか。
あり得るというの,日常的生活ではあり得ません。ただ,学問的にはどんなに微細な人体反応でも認められれば記載する必要がありますから,記載されているというだけのことで,それは薬効があるとかないとかいう問題とは違います。
ちょっと質問の仕方が悪かったので,もう一度お聞きしますけれども,記載されている以上は事実としてはあるけれども,それはほかの報告書などと比較すれば無視するに足りる程度の弱いものであると。また,日常生活でこれが起こり得ると言えるほどのものではないと,そういう御趣旨の御証言でよろしいですか。
ほぼそうですけども,検事さんの言っておられる影響があるという事実というのはレベルがありまして,ここの法廷に入ってくるんでも法廷の中に結核菌というのは何ぼかあるわけです。ですから,この法廷の第1法廷に入れば結核になり得るじゃないかと言えば,そのとおりであります。しかし,それは日常的なレベルでは第1法廷に入っても結核になるということは荒唐無稽であるというふうに処理されるわけです。ただ,学問的にこの空間の結核菌の数を調べれば,相当程度私はあると思います。だから,したがってそういうものは人の健康を守るという点では学問のストラクチャーとして存在するものを書くということと,存在するものが現実的に影響を持つということとはちょっと別なんです。ですから,WHOがそういう書き方をするのは僕は正しいんじゃないかと思うんです。だから,ソーセジの肉が非常に健康に悪いったって,それは悪くないんです。正しいと思います。ただ,それがソーセジをあしたから食べちゃいけないということとはつながらないということです。全然別のことです。だから,学問的にそれが健康に影響があるということと,ソーセジを食べちゃいけないということは全く別だと言えば別なんです。事実かっていえば両方とも事実です。結核菌がこの法廷の中にあるのも事実です。だけど,結核に僕はかからないでこの法廷を出ると思います。それも事実であります。だから,それはもう仕方がないというか学問の進歩上仕方がないと思います。
先生の御証言の趣旨を確認したいので,もう一度似たような質問をしてしまいますけれども,今おっしゃったソーセジなどの例です。事実としてあるというものと,それから一歩進んでその影響があるというのはまた次元の違う問題だということをおっしゃいましたね。
はい,そうです。
この1995年のWHOの報告書の読み方としても,ここに記載されていることは大麻に含まれるTHCの科学的な作用として事実としてはあり得るけれども,それをもって大麻を使ってはいけないとか,その次の次元に行くのは論理的につながっているものではないと,そういう御趣旨ですか。
そういう趣旨だと思います。今検事さんが言われた事実というのは,2つあるということです。だから,そこのところがごっちゃになりますと,立場によっていろいろ言うことが変わるということになります。
では,ちょっとそれを踏まえて先に進みますけれども,冒頭でTHC,カンナピノールの成分についての有害性は全く問題にならないというふうに考えているという趣旨の御証言をされましたけれども,これはどのようなことを根拠に,そのように考えられていらっしゃるんですか。
主にラ・ガーディア委員会の報告と,それからニクソン大統領のときの委員会の報告の2つを私じっくり読みまして,それしか世界的には科学的根拠のあるものがないと思うんですけど,それを読んで,ああ,これはもう全然問題にならないもんなんだなというふうに心証を得たということでございます。ただ,WHOの場合は世界全体に呼びかけるときには,特異的に反応するという人がいるんです。それは,いいほうに反応する場合,非常に薬効がよくて大麻を吸ったら突然健康になるという人もおられるし,それから悪いほうに出る人もいる。だから,WHOなんかの立場としては民族も違う,特異体質の人もいる,感受性も違うという中でどういうふうに世界の人の健康を保っていくかというスタンスなんで,通常のいわゆる食品規制とか,そういう問題とはちょっと違うスタンスはそういうスタンスなんです。
今のと関連してですけれども,先ほどコカインやヘロインなど特殊なものを除いて大麻のようなものについては,その薬効,科学的な作用などは民族性による部分が大きいと考えられるので,日本人に対して薬効があるかどうかというのは日本でのデータの集積が必要ではないかという趣旨の御発言をされていましたね。
はい。
THCについて民族性が関係しているというふうに考えられる御趣旨はどのようなものですか。
もともと麻薬自身が,麻薬というものは一般的にはこれは麻薬方面の論文なんかにあるんですけれども,民族が自然と陽気な民族,これは精神的に抑える麻薬が有効だとされています。よく吸うというか。それから,日本人のように落ち込む民族というのは,一般的にはお酒とかたばこのような,コーヒーのような若干覚醒的な薬品を使うと。それは,どうしてかというと,その人たちがこれはいいとか,これは悪いとか,それから暴れるとか暴れないとか,そういうことを全部含めて遺伝子学的には最近SS型とかLL型というんですけども,そういった遺伝子を保有しているかどうかで,薬効の使い方が違うということはもう一般的です。したがって,例えば中国ではアへン戦争があったぐらいアヘンが大量に吸われましたけれども,日本ではもう幾らでもアへンというのは入ってきているわけですが,吸うことは一回もありませんでした。このように噌好から薬効から民族によって非常に大きく違うということは,既に歴史的にも明らかであります。だから,それからそういった遺伝子的にも今後解明されていくと思います。
それは,薬効としての人体に対する影響も含めという御趣旨でよろしいですか。
はい,そうです。だから噌好品は肉とか米とかいう栄養物じゃないので,やっぱりそこの習慣だとか体質だとか,そういったものに大きく依存していることは間違いありません。もう一つ例を言えば,日本にはハイゼットという,これ商品名ですけども,薬がありまして,これは米ぬかの抽出物なんですけど,この米ぬかの抽出物が精神安定剤として,薬局方に認められているのはたしか日本だけであります。もしかしたら朝鮮なんかが植民地だったから,併合していましたからあるかもしれませんけど,これはどういうふうに解釈しているかといいますと通常米を食べている民族が米ぬかの抽出物に対して精神安定作用があるというふうに言われておりまして,そういった食品とか,そういうものにも非常に強く影響を受けるというふうに考えています。
先ほど日本人が歴史上大麻を吸ったということは一度もなかったという旨御証言されていましたけれども・・・。
もしそう証言したんならちょっと不正確で訂正いたします。大麻を習慣的に吸うことはなかった。多分一度も吸わなかったかというと誰かが吸ったかもしれません。それが社会としてみんなに認知されるような状態はなかったということです。たばこは,それに対してもちろんみんなが吸っていましたから,歴史上は2回規制した藩が,封建時代に藩がありました。そういう例が大麻にはないという意味であります。ちょっと表現が不十分であればちょっと訂正したい。
そのことと日本人に対して大麻の成分,THCが有害性を持つかどうかということは何か関係のあることだと考えていらっしゃいますか。
私は,薬効が非常に強かったり有害性っていうのは,難しいんですけども,一般的に言う有害性があればやっぱり赤ちゃんの産着だとか,そういうのに積極的に大麻を大量に使ったり,大麻畑というのは非常に大量だったんです,大量に使うということは,なかったんではないかと私は推定しております。
証人の著書,大麻ヒステリーによりますと,古来日本から伝統の産業として使われてきた大麻というのは,THC成分が少ないというものだったということで,それはそれでよろしいですか。
はい,そうです。
そうすると,THC成分が多い,あるいはTHC成分のジオールとの割合からして,THC成分が多いというような大麻が日本人の人体に対してどのような影響を与えるのかということについては,歴史からしてもまだ未解明であるということになりますか。
歴史的には解明されていると思うのは,近世に入りましてインド大麻がヨーロッパに行きます。ヨーロッパは,インド大麻を受け入れて,みんなが吸いました。日本にも同じようにインド大麻が入ったと思われます。それは,わかりませんが,先ほど言ったアへンがインドから来まして,イギリスを通じた貿易ですんで,イギリス人の収益としては非常に重要だったもんですから,インドもヨーロッパにも持っていきましたし,アジアにも持ってきた。しかし,濃度の高い大麻も日本では受け入れなかったということから見て,意味がなかったではないかと私は思いますけど。吸う意味を認めなかったということだと思います,日本人が。
確認ですけれども,インド大麻はTHC成分が多いものの例として挙げられたということでよろしいですか。
そうです。
先ほどの証人の民族性によるということを前提にすれば,そのようなTHC成分の多い大麻の日本人の人体に対する影響というものは,調査をしてみなければわからないという結論になるのではありませんか。
そうです。先ほど検事さんが歴史的にと言われたので,歴史的には恐らくそういう現象からいって大きな薬害があるとか,そういうふうなものとは認められなかった。もしくは,それは考え方によっては吸ってみたら余り気分がよくないので,これ危ないんじゃないかといって吸わなかったのかもしれません。それは,当時の日本人が江戸時代になるわけですが,当時の日本人がどういうふうに考えたかどいう記録はないので,非常に外見的に推定する以外にはないということです。
失礼しました。私の質問が不適切だったかもしれません。もう一度質問し直すとインド大麻のようにTHC成分の多い,古来日本からあった大麻とは違う大麻の場合,科学的に日本人の人体に対してどのような影響を与えるかどうかということは,解明されていないという結論になるということですか。
はい,全くわかりませんです。
(武田証人への訊問了)
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