北見に「大麻特区」 産業用、道が認定(08/07 00:20)
道は六日、国の構造改革特区の北海道版「北海道チャレンジパートナー特区」に、北見市の「産業用大麻栽培特区」を認定した。麻薬成分が低い大麻の建築用資材などへの活用に向け、道が支援する。
同特区は二〇〇四年度に始まり、これまで四地域が選ばれている。北見市の特区は、遊休農地を利用した大麻栽培体制の確立が目的。輸入や国内流通が厳しく規制される大麻種子を確保するため道が検査態勢の整備など支援する。道は八日、市に認定書を交付する。
北海道新聞
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/109668.html
厚生労働省は、精神作用のない産業用大麻の栽培についての特区申請もこれまで認めてこなかった。この記事によると、北見の「大麻特区」は「国の構造改革特区の北海道版」とのことだが、厚労省も認めたのだろうか。
政府の構造改革特区に関する対応は、首相官邸のウェブサイトに「構造改革特区(第4次提案募集)に関する当室と各府省庁のやりとり」のPDFが公開されていて、例えば長野県美麻村(当時)が申請した「産業用大麻の免許要件の緩和」について厚生労働省管轄分に次のような記述がある。(PDFの24ページ)
管理コード:090830
規制の特例事項名:産業用大麻の栽培に係る免許要件の緩和
該当法令等:大麻栽培者免許に係る疑義について(平成13年3月13日付け医薬監麻発第293号)
制度の現状:大麻取扱者の免許交付審査においては、その栽培目的が伝統文化の継承や一般に使用されている生活必需品として生活に密着した必要不可欠な場合に限り免許すべきと解している
措置の分類:C(特区として対応不可)
措置の内容:Ⅳ(訓令又は通達の手当てを必要とするもの)
措置の概要(対応策):
大麻の幻覚成分は微量の摂取で精神作用が発現することから、たとえ低濃度であっても、乱用のおそれがある。また、幻覚成分含有量の少ない大麻から含有量の多い大麻への転換も容易にできる。そのため、大麻乱用による保健衛生上の危害を防止するため、幻覚成分の多寡にかかわらずすべての大麻を大麻取締法で規制する必要がある。
大麻に関しては、その有害作用から栽培等の行為は厳重に規制し最小限なものとする必要がある。大麻の栽培を安易に認めると、不適正な栽培、盗難、乱用の助長の問題等が起こりうることから、保健衛生上の危害を防止するためにも、必要不可欠な場合に限定して栽培免許を付与することは必要である。
いわゆる産業用大麻といわれるものもその実態は大麻そのものであり、乱用のおそれがあることには変わりないことからも、いわゆる産業用大麻の栽培をその他の大麻栽培と区別することは適切でない。
各府省庁からの回答に対する構造改革特区推進室からの再検討要請:
幻覚成分の多寡にかかわらずすべての大麻を大麻取締法で規制した上で、幻覚成分が微量の産業用大麻をその他の大麻と区別して、保健衛生上の危害を防止するための適切な代替措置を講じる場合においては、現在全ての大麻について栽培を認めている「必要不可欠な場合」よりも広く、産業用大麻の栽培を認められないか、検討し回答されたい。併せて、右の提案主体からの意見も踏まえ、再度検討し回答されたい。
提案主体からの意見:
「大麻の幻覚成分は微量の採取で精神作用が発現する」との指摘について、どのような研究結果に基づくものか開示願いたい。その開示されたデーターに基き、本件品種が具体的に精神作用を及ぼす科学的事実を判明させていただきたい。
1998年6月のフランス国立保健医療研究所による「麻薬の危険度調査」において、大麻がヘロインやコカインといった他の薬物は勿論のことながら、アルコールやたばこよりも危険度が低いとされた(1998/6/17共同通信ニュースより)ことや、世界的に著名な医学書である「メルクマニュアル」において「(大麻が)重篤な生物学的影響があるとする主張の大部分は、比較的大量の使用者、免疫学的、生殖機能についての積極的な研究においても、ほとんど立証されていない(万有製薬㈱提供 メルクマニュアル第17版日本語版より引用)。」と指摘している点について、貴省の見解を伺いたい。
「幻覚成分含有量の少ない大麻から含有量の多い大麻への転換も容易にできる」との指摘があるが、欧州やカナダ等でも同様の状況にある中で、政府による一定の規制のもとで、広く産業用の大麻栽培が行われており、我が国においても保健衛生上の危害を防止しつつ、健全な大麻産業を興すことは可能であると思われる。貴省の回答を見るに、それが不可能であるほど我が国の行政・治安が欧州各国やカナダなどに比べて劣っているとの指摘とも受け取れるが、そのような解釈でよろしいか。
そもそも、構造改革特区制度は、様々な規制を地域を限って緩和することにより、当該地域の事業者の創意工夫による新たな産業の創出を主な目的として実施されているものと認識しており、現在の規制状況をそのまま回答している姿勢は、ほかに産業の創出の難しい山間地の現状を全く省みない姿勢であると認識せざるを得ず、納得しかねる。
「大麻の栽培を安易に認める」との指摘であるが、本提案は、あくまでもカナダ政府の事例を参考としており、中央または地方政府の統制下における規制緩和といった意味からして「安易な栽培容認」とは言い難く、逆に栽培用途は限定されているものの、その品種については幻覚成分の多寡に関わらず許可されている我が国の大麻栽培の現状を改め、栽培用途の限定を緩和する代替措置として、幻覚成分の極めて少ない品種に限定することを求めていることからして、保健衛生上の危害を防止するための安全策を十分に講じた上での提案であると考える。欧州や、カナダに於ける産業資材としての大麻の活躍はめざましいものがあり、石油に頼らないバイオマス資源の開発は、広範な業種に新しい道を拓くものであり、安易に規制を考える姿勢は、石油輸入国である我が国の国益を阻害していると言わざるを得ない。もとより「幻覚成分の多寡にかかわらずすべての大麻を大麻取締法で規制する」ことに異論はないが、その規制のもとで、地域の事業者の創意工夫による健全な大麻産業を創出するためにも、法によらない本提案については、上記の措置を講じた上で緩和していただくことを希望する。
「措置の分類」の見直し:C(特区として対応不可)
「措置の内容」の見直し:Ⅳ(訓令又は通達の手当てを必要とするもの)
各府省庁からの再検討要請に対する回答:
大麻の幻覚成分であるTHCについては、「体重60Kgの人間が3ミリグラム相当を吸煙摂取しただけで作用がある」との報告(依存性薬物情報研究班編「依存性薬物情報シリーズ 大麻」)があり、THC含有量が0.3%以下のいわゆる産業用大麻であっても1グラム摂取すれば大麻の作用が現れる。また、THC含有率を高める大麻の栽培方法やTHCを大麻草から抽出・濃縮する方法が一般書籍にも掲載されている。さらに、THC含有量が低い大麻といわれるCBDA種は劣性遺伝であり、在来種との交配により幻覚成分含有量が通常の大麻と同様になり、恒常的にTHC含有量が低く保たれるものではない。したがって、THC含有量が多い大麻と少ない大麻を区別して規制することはできない。「メルクマニュアル」の「大麻が重篤な生物学的影響があるとの主張はほとんど立証されていない」との記述の「重篤な生物学的影響」が何を指すのかは明らかでないが、他方、同書では「大麻の慢性ないし定期的使用は精神依存を引き起こす」、「吸われた大麻は夢幻様状態をうむが、その状態では観念がばらばらになり、不安定となり、自由に流動するようである」、「精神分裂病様症状が、抗精神薬(例、クロルプロマジン)で治療を受けている患者においてさえ、マリファナによって悪化する場合がある」、「多量使用者は肺の症状(急性気管支炎、喘鳴、咳、粘液分泌過多のエピソード)を発生し、さらに肺機能が障害されることがある」、「長期多量使用者の少数サンプルにおいて認知機能低下が一部の検査で同定された」といった記述があり、大麻の人体への有害な影響を示唆している。また、フランス国立保健医療研究所の「麻薬の危険度調査」で大麻が、アルコールやたばこよりも危険度が低いとされたとあるが、マリファナの吸引によって幻覚等の作用が生じうるのに対して、たばこやアルコールでは通常の喫煙、飲酒で幻覚を生じることはない。WHOの1997年報告では大麻乱用の急性効果として知覚発達と精神運動作業の悪化等、慢性的効果として知覚機能の選択的低下や大麻依存症候群等の健康被害が指摘されている。「1961年の麻薬に関する単一条約」でも大麻はヘロイン等と同様に最も厳重に規制すべき附表Ⅳの薬物に分類されている。
「措置の内容」の項目にある通り、これは「訓令又は通達の手当てを必要とするもの」であり、法改正を必要としない、厚生労働省という役所による施策に過ぎない。
やりとりで出てくるカナダでの産業大麻については、カナダ大使館のウェブで紹介されている。
■カナダの麻(ヘンプ)栽培
麻栽培には長い歴史があります。世界でも最も古くから使われている資源の1つである麻は1万年以上の昔から食品、繊維、燃料として使用されてきました。18世紀や19世紀にはカナダでも広く栽培されていましたが1938年に栽培が非合法化されました。しかし麻が再び見直されるようになって10年、今では、世界的に麻市場は商業的な成功を収めています。
1998年にはカナダでも研究および商業目的での麻栽培が合法化され、農家の関心を集めました。カナダ政府も法令の改正や数百万ドルの研究開発補助金を投入して、カナダの麻栽培を積極的に支援しています。
(以下略)
カナダ大使館 - 経済/ビジネス - 農業・食品・水産品 - カナダの麻(ヘンプ)栽培
長くなったので、厚生労働省の言い分がいかに非科学的で馬鹿げているかは改めて指摘する。
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大麻栽培の摘発急増 10年で5倍、厚労省調べ
大麻を栽培して摘発されるケースが急増している。厚生労働省によると、昨年までの10年で約5倍。インターネットの普及で種子を入手しやすくなったことや、種子の所持を取り締まる法律がないことが背景にある。
7月、大津市の自宅官舎で大麻を栽培したとして、国土交通省の職員(43)が逮捕、起訴された。厚労省近畿厚生局麻薬取締部によると、四畳半の洋室を栽培専用にし、日光が入らないよう窓はアルミのシートで目張り。電熱器をぶら下げ、湿度調整用のエアコンまで備えていた。
約20―60センチに育った鉢植えの大麻約50本と、種子が数十粒押収された。職員は「育てやすい種類の種をネットで買い、栽培した」と供述している。
同取締部によると、栽培による摘発は1997年には全国で42件だったが、その後増加し、昨年は192件に達した。
大麻取締法は大麻の所持や譲渡を禁じているが、種子は対象外。ネットや輸入雑貨店で「観賞用」「合法」など“逃げ口上”付きで売られている。〔共同〕(14:01)
日経ネット:2008.8.2.
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080802AT3K0200802082008.html
相変わらず大麻栽培や所持で逮捕される事件報道が後を絶たない。が、大麻で意識が錯乱して通り魔事件になったとか、大麻が直接のきっかけになって他者や社会に被害が生じたという報道はない。そのような事件があれば大麻に偏見を持つ主流マスコミは飛びついて大騒ぎするだろう。報道されるのは、営利目的や個人利用目的の大麻栽培や所持が主だが、最近は種の規制を強化したい取り締まり当局の意思を反映した記事も目立つ。上の日経の記事もそうしたひとつだ。
大麻には覚せい剤のような中毒性はないし、意識が錯乱して刃物を振り回すような危険性もない。むしろ、近年では大麻の医療的な有効性が海外の研究機関によって次々と明らかになり、癌の増殖を抑制する効果など、今後の研究成果が期待される分野も多い。それにも拘らず、日本では厚生労働省が大麻の薬学的研究を禁じ、精神作用のない産業用大麻すら新たに栽培免許を出さない。なぜマスコミはこような馬鹿げた施策を批判しようとしないのだろう。
多くの社会問題で官僚機構の機能不全が問題視されており、マスコミがそれを叩くこともある。だが、現実にはマスコミの報道にもさまざまなバイアスがかかっており、第4権力としてのマスコミのあり方にも大きな問題がある。マスコミ自身は自分たちの抱える問題を追及することができない。クロスオーナーシップが認められているのは先進国では日本だけだそうだ。
大麻取締法は大麻の所持や譲渡を禁じているが、種子は対象外。ネットや輸入雑貨店で「観賞用」「合法」など“逃げ口上”付きで売られている。
まるで大麻の種の売買が禁じられていないことが問題だと言わんばかりだ。取り締まり当局の話をそのまま垂れ流しているだけ。やはり日経は「日本株式会社の社内報で記者は社畜」(佐高信)なのだろうか。
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関東学院大のラグビー部員らに大麻の種子を販売していた大阪市都島区の雑貨輸入販売「アンツインターナショナル」が、発芽防止の熱処理をしていない種子を密輸したとして神奈川県警は29日、同社社長の◆◆◆◆被告(34)ら3人(大麻取締法違反のほう助罪で起訴)を、関税法違反(無許可輸入)容疑で横浜地検に追送検する。
大麻種子密輸に同法が適用されるのは全国で初めて。
捜査関係者によると、◆◆被告らは2007年2月にオランダの大麻専門店から種子約1万粒を約350万円で買い付け、同年3月に関西空港着の航空機で持ち込んだ疑い。種は手荷物に隠していた。◆◆被告は「見つかっても、発芽することを知らなかったと言えば、逮捕されないと思っていた」と供述している。
県警は、◆◆被告らが05年6月~07年12月の4回、オランダで計約3万4000粒を買い付け、大阪市内の直営店やインターネットで、仕入れ価格の10倍に当たる10粒7000円~2万8000円で販売、約8000万円の利益を上げていたとみている。
熱処理済みの大麻種子は鳥のエサや香辛料に使われており、外見で区別できない未処理の種子は野放しに近い状態とされる。◆◆被告らは、客が栽培すると知りつつ種を販売したとして大麻取締法違反(栽培)のほう助罪で起訴されたが、県警は横行する密輸自体を封じ込めるため、関税法違反での立件を目指した。
(2008年7月28日14時34分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080728-OYT1T00408.htm
大麻の種の販売自体は違法行為ではないので、これまでは客が栽培すると知っていて売ると「幇助」として検挙されていました。検挙された種の販売元に顧客リストが残っていて、そのリストから家宅捜索に入られ、栽培が発覚して逮捕された人もいます。つい最近もそのような例での相談がありました。取り締まり当局は、顧客リストの記録だけでガサに入るようなので、これまでネットや店舗で種を買い、個人情報を伝えたことのある人は、注意したほうがいいと思いますよ。
大麻の種の販売自体は違法ではありませんが、発芽防止処理されていない種を輸入することは関税法で規制対象となっています。上の記事ではその関税法を初めて適用したと伝えていますが、今後、種の輸入についても規制を強化するという取り締まり当局の意思の表れでしょうね。
しかし、3年で8000万円の利益って、すごいですね。こんなに儲かるなら自分もやろうという人はきっと今後も出てくるでしょう。最近は営利目的の栽培で過去最大の押収量とか、大量の種の密輸などが摘発されていますが、個人が種を入手できないようにし、栽培できないように弾圧を強化すると、組織的で大規模な密輸や栽培が増えることになるだけでしょう。近頃の報道を見ると、既にそのような動きが出ているのだろうと思います。禁酒法があるからこそ、アル・カポネは儲かる。
で、何も解決しない。取り締まりを強化すると、捜査や裁判や刑務所の管理コストが増え、税金が無駄に使われるだけなのです。
大麻の医学的な研究すら禁じ、大麻の事実を全く検証もせず、ただひたすら弾圧のための弾圧が盲目的に続けられています。アメリカで大麻弾圧が始まったのは、禁酒法が廃止され、職を失った役人に新たな仕事を与える目的もあったようですが、敗戦国の日本は、占領国のアメリカに命じられるまま、禁酒法のバカバカしさを大麻に適用し、そのまま踏襲しているようなものです。未だに占領政策が続けられているわけです。
で、何も解決しない。取り締まりの強化によって日本の不利益を拡大し、ただ不幸を拡散するだけです。
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【衝撃事件の核心】「大塚愛かわいい」真っ昼間、厚労省リモートホスト残して書き込む“ネカフェ役人天国”
MSN産経ニュース 2008.7.19 09:09
“ネットカフェ役人”-。東京・霞が関にある厚生労働省。そこには、まさにそんなネーミングがぴったりの呆れた勤務実態があった。厚労省の官用パソコンから、職員らが1日に12万件も「ゲーム」や「お笑い」にアクセスしていた事が発覚した。後期高齢者医療や医師不足などで社会の不信や反発を招いている厚労省。職員らは信頼回復に躍起になるどころか、職場をネットカフェ状態にしたような緩みようだったのだ。(鎌田剛)
大麻が絡む記事になると偏見に満ちた論調ばかりの産経ですが、この記事は面白かった。頑張れ産経。
厚労省のパソコンのアクセスが、もともと野放し状態だったわけではない。仕事と関係のないHPの閲覧規制を可能にするソフトは平成17年7月に導入済みだった。投資、ギャンブル、ドラッグ、アダルトといった分野は規制していたのだ。
今回、サボリの温床として明るみに出たのは、そこでは規制されていなかった「チャット」「ゲーム」「お笑い」といった分野のHPへのアクセスだった。
「ゲームなどには思いが至らなかった」
厚労省統計情報部はそう話している。
厚労省ではさっそく、6月18日に、これらのHPへのアクセスを規制した。
まさか勤務時間中にネットでゲームをやってる奴がいるとは統計情報部も思わなかったということでしょうか。ゲームサイトへのアクセスを規制したって、なんだか、校則の厳しい学校のようです。いっそ「靴下は白だけ」にしたらどうでしょうか。
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大阪拘置所の独居房に収監されたときに思った。もし火事や自然災害が発生したとき、内側からは開けることのできない鉄扉に阻まれて、房から出られず、逃げ遅れるのではないか。収容されている人数は多く、刑務官は少ない。大きな地震が必ず来ると言われているが、日本の刑事施設は大丈夫なのだろうか。
ビルマの軍事政権についての報道を見ていると、私には日本の官僚独裁政権が二重映しに見えてくる。あからさまな武力ではなく、もっと巧妙で狡猾な支配。
刑務所で暴動、囚人36人を軍が射殺 サイクロン直撃下のビルマ
日刊ベリタ 2008年05月07日17時59分
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毎日新聞 1977年(昭和52年)9月14日 5面「記者の目」
関 元(編集委員)
重罪扱い 厳しい日本
全米委員会の報告(「マリファナ―誤解のしるし」)―習慣性・禁断症状なし、犯罪誘発の危険少ない―大統領も刑罰緩和を呼掛け
マリファナ(大麻)で挙げられた井上陽水は警察にとって金星か、マスコミにとって堕ちた天使か、ファンにとって殉教者か。彼がそれらのいずれにもならぬことを願いたい。いまどき有名スターがマリファナで捕まって全国的なスキャンダルになるのは世界広しといえども日本ぐらいのものだ。たかがマリファナぐらいで目くじら立てて、その犯人を刑務所にやるような法律は早く改めたほうがいい。
陽水は「自分は酒が飲めないので、くつろぐためにマリファナを吸った」と自供したそうだ。それが、わが毎日新聞を含め日本のマスコミでは極悪犯人扱いである。マリファナはそんなに悪いものか。陶酔感を求めて酒の代わりにヘロインや覚せい剤を乱用すればたちまち身体的依存(習慣性)にとりつかれ、すさまじい禁断症状を呈し、犯罪を誘発し、やがては廃人になったり死んだりして本人にも社会にも不幸をもたらすから、乱用はいけませんというのは常識である。だがマリファナは身体的依存をともなわず、それがもたらす陶酔感も悪影響もともにマイルド(おだやか)だというのが世界的な常識になりつつある。全体主義国はいざ知らず、この常識が政府とマスコミによって真っ向から否定されているのが日本だ。
マリファナに関し、今までに行われたおそらく最も包括的な調査研究はマリファナおよび薬物乱用に関する全米委員会(委員長・シェーファー元ペンシルベニア州知事)が1972年に出した報告である。米大統領と議会によって設置されたこの委員会はスタッフ70人、委託研究者に医師、心理学者、法律家ら80人を使い、米国民を対象にマリファナに多角的なメスを入れた。その要点は次のようなものである。
一、マリファナの酔い心地(マリファナは、その花や葉を刻んで普通は紙でシガレットのように巻き、火をつけて煙を吸い込む)=少ない摂取量なら、まず愉快になり、うっとりして屈託を忘れてくつろぎ、さわる、見る、においをかぐ、味わう、音を聴くなどの感覚が鋭くなり、空腹感を覚える。吸い過ぎるとひとや物がゆがんで見え、感覚的、精神的幻覚が起こる。しかしマリファナが原因の精神異常のケースはほとんどない。
一、短期的影響=相当多量のマリファナを一日一回ないし数回与えて21日間、人体実験をしたところでは、身体機能、運動機能、個人的、社会的態度、作業状態に有害な効果はみられなかった。被験者は一様に体重が増えた。身体的依存や禁断症状の証拠は認められなかった。耐性は脈搏など身体機能、時間推定、射撃など知覚運動機能に関しては現れたが、酩酊に関しては現れなかった。
一、長期的影響=適度の吸い方なら器官損傷はなかろうが、情緒不安定な人間は生活態度に影響を受けるかもしれない。大量に吸い続ければ心理的依存が強まり、生活態度に変化を生じ、また肺機能減退など器官損傷の可能性がある。
報告はこの他、マリファナが生命とりになる、各種犯罪を誘発する、性的退廃をもたらす、生殖機能を阻害する、ヘロインなど一層危険な麻薬乱用に至る、などの俗説を根拠なしと否定し、結局政府に対し「マリファナを法律上、麻薬扱いしない。個人的にマリファナを所持し、吸っても罪にしない。ただし売るためにマリファナを栽培、所持した場合は従来通り犯罪とする」ことを勧告した。
この結果、米国ではオレゴンやカリフォルニア州は、すでにマリファナ使用に対する実刑を廃止し、カーター大統領もことし8月2日の麻薬教書で、5年前のこの報告の「基本的な勧告を実施すべき時である」として、(1)一オンス以下のマリファナ所持には実刑を廃止して罰金刑のみとする (2)しかしこれらは合法化ではなく密売は引続き犯罪扱いする―よう連邦法を改正することを議会に求めた。
先入観に立脚 日本の取締り
これに対し、井上陽水を捕えた警視庁の河越保安二課長は「マリファナを常用すると慢性中毒になって早発性痴呆症になる」と信じている。また厚生省麻薬課が去年出したパンフレット『大麻』には「マリファナを吸えば狂乱し、挑発的、暴力的となる…急性中毒による死亡報告がある…慢性中毒の症状としては多彩なる精神異常発現作用、長期常用による人格水準の低下がある」と書いてある。このパンフレットは全米委員会の報告の趣旨はほとんど無視し、日本内外のマリファナに関する極端に否定的な報告例を断片的に集めたに過ぎない。全米委員会報告が短期的な人体実験および2年から17年に及ぶマリファナ常用者観察例に基づいているのに反し、厚生省は人体実験をしたことが全然ない。
従って日本のマリファナ取締りは科学的というよりタブーめいた先入観に立脚しているが、河越課長は「マリファナはひと握りの隠れた愛好家が吸っている程度で、覚せい剤犯と違って彼らは他の犯罪に走らず、社会に迷惑をかけてもおらず、暴力団の資金源になってもいない」とみて、日本の大麻取締法が所持に5年以下、密売に7年以下の懲役刑を定めながら罰金規定を欠いているのは「意外と重いねえ」と感じている。
しかし取締りの「主管」を自認する厚生省麻薬課の山田課長は「わが国のマリファナ事犯は増えており(昨年で900人を送検)アメリカがマリファナに甘いのはヘロイン取締りに追われてマリファナにはもうお手上げの状態だから」と主張する。確かにカーター教書によれば全米人口2億人中、マリファナ経験者は4千5百万人で彼らを刑務所に送るのは不可能である。そのうち常用者は千百万人にのぼる。ではその千百万人は日本の当局のいうように、やがて「早発性痴呆症」や「人格水準の低下」を来すのだろうか?
大麻取締法は米の押付けだ
井上陽水は「アメリカでマリファナの味を覚えた」と自供したそうだが、マリファナを吸うことも、それに対するタブー意識も、第二次世界大戦後アメリカから日本へ直輸入されたものである。大麻取締法がまさにその象徴だ。これは米占領軍が日本に強制したポツダム政令をそのまま法律化して今日まで続けてきたものだ。
敗戦まで日本でマリファナには何の規制もなかったが、全国に野生し、また栽培されてきた大麻、つまりマリファナを日本人は麻酔剤や下剤に古くから利用し、日本薬局方にも「印度大麻草エキス」は鎮静、催眠剤として収められていた。日本産のマリファナは陶酔物質THC(テトラハイドロカナビノール)含有量が少ないといわれているが、その国産マリファナを日本人が古くから快楽のために使っていた可能性は否定できない。それにだれも目くじらを立てなかっただけの話だ。それは現代において、バナナの皮を乾かして火をつけて吸うとあやしい気分になるからといってバナナを禁制品にしろとだれもいわないのと、多分似たようなことだったろう。
さて、なぜアメリカ人はマリファナを目のカタキにし出したか。「マリファナ」とは中南米に発生したスペイン語だ。これはアラビア語では「ハシシ」といい、それが英、伊、仏、西各国語で「暗殺者」を意味する「アサシン」などの語源となったように、キリスト教世界には昔、十字軍がマリファナを使うアラブのゲリラ戦術にひどい目にあわされた歴史的背景がある。そしてアメリカの中西部にはマリファナが大量に野生し、農民から「ロコ・ウィード(気違い草)」と呼ばれていたが、これを吸う習慣が持ち込まれたのは、全米委員会報告によれば、今世紀はじめごろ、メキシコ移民とジャマイカ移民によってであった。禁酒法を実施(1920~33年)させたアメリカ人の清教徒的ヒステリーがビール好きのドイツ人やウイスキー好きのアイルランド人ら新移民への嫌悪感と結びついていたように、米国民は後の新移民への嫌悪の象徴としてマリファナをやり玉にあげ、1937年、連邦法によって禁止した。
ではなぜアメリカ人はいまや多分、世界一のマリファナ愛好者となったか? それが反体制のシンボルとなったからだ。1950年代にめい想とジャズにふけったいわゆるビート派がマリファナ公然化の先頭に立った。十年後、ベトナム戦争が激化し、アメリカの若者は戦争を憎み、管理社会をきらい、親どもの偽善と物質主義とカクテル・パーティーのわい雑さをさげすみ、繁栄と死の影の下で対抗文化をはびこらせ、その象徴にマリファナをすえた。
60年代のアメリカの若者の旗手ボブ・ディランは歌った。「車に乗っては石ぶつけられ、ギターひいては石ぶつけられ、イエス、だがオレはそんなに寂しくないぜ、みんな石ぶつけられなきゃならないぜ」―「石ぶつけられる」にはアメリカの俗語で「麻薬(主にマリファナ)をやる」の意味がある。だからこの歌は、俗物どもに迫害されても、仲間同士でマリファナに酔って対抗しようという反俗宣言だった。アメリカの大人がマリファナを毛ぎらいするほど、その息子と娘たちはわざといやがらせに吸いまくった。そのころのニューヨーク・タイムスにある学生はこう語った。「中毒しないし、酒より安いし、酔い心地もいい。酒に酔えば自分をコントロールできなくなるが、マリファナに酔ってもコントロールを保てる。二日酔いにもならない」
いま米国では 大人も堂々と
アメリカの若者は大人にマリファナ戦争を仕掛けて勝った。マリファナはアメリカでもはや若者の独占物ではもちろんない。いまのアメリカで、きちんとした、だがちょっとさばけた大人のパーティーで女主人は客にこうたずねる。「お飲みになる?それとも、お吸いになる?」―もちろん、酒かマリファナかを、だ。
マリファナをめぐってアメリカはずい分大騒ぎしたあげく、やっと個人使用への実刑撤廃という大統領提案にこぎつけた。その理由をカーター氏は「個人が薬を所持していることに対する罰則は、その個人がその薬を使ってこうむる損害を上回ってはならない」といっている。要するにたかがマリファナを吸ったぐらいで刑務所に送ってはならない、ということだ。
日本の当局がこのカーターさんの言葉をよくかみしめて、大麻法を同様に改正しても、対米追随にはならない。なぜならそもそもマリファナに対する過剰反応こそ、敗戦によるアメリカの押しつけだったのだから。
1977年、約30年も前の時点でこのような論説が毎日新聞に出ていたことを思うと、大麻についてのマスコミの報道は、寧ろ後退してしまっているのではないでしょうか。タブー視されている感がある。反面、麻の実の食糧としての価値は、マスコミでも近年見直されつつあるように感じられます。これもその方面で尽力されてきた方たちの存在があったからで、黙っていたら麻の実の価値がひとりでに見直されてきたわけではないでしょう。医療用途についても、産業的な利用価値についても、嗜好目的についても、同じ流れにあるだろうと感じています。
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※書き起こし文中の「**」は伏せ字にした箇所です。
大麻規制「厳し過ぎる」 裁判官 異例の見解
地裁伊那支部―「立法論 再検討の余地」長野毎日新聞 1987年(昭和62年)5月31日
大麻を知人に譲り渡した被告が「大麻取締法は憲法に違反して無効」などと主張して争っていた裁判の判決公判が31日、長野地裁伊那支部で開かれ、平湯真人裁判官は懲役十月の求刑に対し、懲役三月執行猶予二年の判決を言い渡した。判決の中で、平湯裁判官は大麻取締法は合憲としながらも「アルコールやタバコに比べ大麻の規制は著しく厳しい」とし、また、少量、私的使用の場合の懲役刑についても「立法論としては再検討の余地がある」と異例の見解を示した。大麻の害の程度については一部で議論があるが、検察側は「立法にまで踏み込んだ判決は厳しい」と受け止めるなど、反響を呼びそうだ。
知人に譲り渡した被告 執行猶予の判決
裁判は、**が、昭和56年11月初旬ころ、伊那市内の知人に大麻草 約20グラムを郵送し無償で譲り渡したとして、麻薬取締法違反に問われた事件。60年3月から地裁、伊那支部で公判を続けていた。
被告弁護側は―大麻の吸引は生理的にも社会的にも無害、個人の自由を制限し刑罰を科すには具体的社会被害が明確でなければならない、タバコ・酒に比べ害が小さいのに重い刑罰は不合理―などとし、憲法13条(個人の尊重と公共の福祉)、14条(法の下の平等)、18条(奴隷的拘束、苦役からの自由)、19条(思想、良心の自由)、20条(信教の自由)、21条(表現の自由)、31条(法廷手続きの保障)、36条(残虐な刑罰の禁止)に違反し、無効であると主張していた。
判決で平湯裁判官は「大麻が社会生活の場で使用されると社会生活上一定の障害が生じたり、多量、長期的に使用された場合は、種々の障害を生じ、あるいは生ずる恐れがある」として有害を認めた。
その上で、同法の違憲問題について、私的使用の場合でも、プライバシーと公共の福祉の両面から検討して、公共の福祉が優先、刑事罰はやむを得ない選択として合憲の判決を示した。
しかし、一方で「少量の大麻を私的な休息の場で使用し、その影響が社会生活上支障を生じなかったような場合にまで、懲役刑をもって臨むことはどれほどの合理性があるかは疑問なしとせず、立法論としては再検討の余地」があり、「アルコールやニコチンタバコに比べて、大麻の規制は著しく厳しい」などの考え方も示した。
これらの判断や違法性の認識が弱かったこと、前科がない―などから懲役三月、執行猶予二年とした。
判決について被告や被告側弁護士は「かなり踏み込んだ判決。こうした判決を機に、大麻の有害性について厚生省などがもっと調べて欲しい」などと話している。
この判決に対し、担当の藤井俊雄検事は「立法論にも触れた厳しい判決。量刑はかなり軽いと感じているが、対応は本庁とも検討して考えたい」と話している。
【補足】
伊那支部裁判について:
この裁判は、大麻問題の専門家である丸井 英弘弁護士が受任されたものです。昭和61年9月10日に開かれた第10回公判では、大麻取締法の立法目的・理由について、当時の厚生省麻薬課長への証人尋問が行われました。戦後の大麻取締法の制定当時の経緯から、国民の保健衛生上の間題やそれを調査した事実もなかったことなど、詳細な証言がなされたことは画期的でした。
公判速記録は丸井氏と中山 康直氏の共著「地球維新2」に全文が収録されています。この問題に関心のある方には必読の書です。
丸井弁護士を中心とした麻の研究グループのサイト
「麻と人類文化」 http://www.asahi-net.or.jp/~IS2H-MRI/
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大麻、欧州「容認」へ傾斜
朝日新聞 2001年(平成13年)3月27日 8面「世界発2001」
ヘロインやコカイン、覚せい剤などに比べ、中毒性が低いとされる大麻。個人が使う限り罰しないというオランダの先駆的な施策が有名だが、他の欧州諸国でも最近、これに追随する流れが定着してきた。取り締まりでは根絶が難しい現実を「容認」する動きだ。しかし、やみ市場や密輸といった問題もはらむ。欧州連合(EU)の中で、大麻を含めた「麻薬ゼロ社会」を掲げる国はスウェーデンぐらいになってしまった。(ハーレム〈オランダ北部〉=山本敦子)
「少量所持、訴追免除」オランダにならえ
ハーレム氏のノル・バンシャイクさん(46)は、大麻愛好家の世界ではちょっとした有名人だ。大麻を客に販売する「コーヒーショップ」を三店と大麻博物館を経営する。目下、ブリュッセルにも、栽培指導や吸引コーナーがある博物館をつくる計画を進めている。ベルギーがこの一月、大麻の少量所持や個人使用を、他者に迷惑をかけないなどの条件つきで訴追しないことを閣議で決めたからだ。
他のEU諸国も同じような動きをみせている(※表)。シラク大統領の「オランダの政策は欧州にとって害悪だ」という発言が外交問題に発展したフランスでさえ、訴追免除に転じた。ドイツは州によっては、販売を認めている。
背景には、大麻を完全には駆逐できないというあきらめがある。ベルギーの新政策づくりにかかわったバート・レマンス氏は「1990年代の世界規模での大麻使用の増加は、30年以上の厳しい取り締まりが失敗だったことを物語っている」という。
「麻薬と麻薬中毒の欧州監視センター(EMCDDA)」によると、EU内で「少なくとも一度は大麻を試した」人は約4千5百万人。若年層に特に多く、18歳では4割、15~16歳では25%に達した。
個人使用を取り締まろうにも、警察や検察の陣容が追いつかない。しかも、厳しく取り締まってきた国の経験者数が、寛容なオランダより少ないわけではない(※グラフ)。
難しい駆逐、やみ市場・密輸に問題
また、ベルギー・アントワープ市の依存症専門医、スベン・トッズ氏は「吸引使用が多い大麻はたばこ同様、肺などに負担をかける。だが禁断症状は少なく、週に数回ぐらいなら、ヘビースモーカーよりずっとましだ」と説明する。こうした大麻の害の認識が容認派の根拠となっている。
大麻を入り口に、より強い刺激を求めて他の麻薬に移行するという説も、医学的には立証されていない。オランダ保健省依存症対策課のボブ・カイザー課長は「身体的な誘惑よりは、大麻と他の麻薬が市場で混在することによる社会的誘惑の方が危険だ」と語る。例えば、やみ市場の売人は依存者を増やすため、大麻を求める若者に他の麻薬を無料で与えたりする。オランダが大麻販売を認める目的の一つは、若者をやみ市場から遠ざけることだ。
だが、「容認」は「合法化」ではない。EU諸国は、大麻を規制する国際条約を批准しているため、合法化には踏み切れない。オランダの販売も訴追されないだけのことだ。栽培も原則禁じられている。
栽培と輸入が禁止されると、コーヒーショップは仕入れをやみ市場に頼る。大麻は依然として犯罪組織の大きな収入源だ。
一方、ベルギーは使用は認めたが、売買は禁じたままだ。代わりに少量の栽培を認めた。だが、少量の定義が明確でなく、売人が出現するのは時間の問題とみられている。「完全禁止も合法化もできない。われわれは矛盾のとりこになっている」。カイザーさんは自嘲気味に語る。
根絶めざすスウェーデン、麻薬の授業/強制収容措置も
「大麻使用が減らないから、受け入れるというのは敗北主義です」。スウェーデンのマロウ・リンドホルムさんの口調は厳しい。麻薬問題に取り組む非政府組織「ハッセラ北欧ネットワーク」の事務次長。昨年まで欧州議会の議員でもあった。98年、欧州議会に大麻の個人使用容認へ向けた加盟国の政策調和が提案された。反対の急先ぽうに立ち、提案を撤回させたのがリンドホルムさんだった。
60年代前半、米国の反戦運動とともに大麻と覚せい剤が、スウェーデンに流れ込んできた。麻薬欲しさの強盗などが社会問題化した65年、政府は医療保険での麻薬処方を始めた。だが、依存者が薬をほかに回すなどして中毒がかえって激増し、70年代から厳しい対策へと再転換した。
麻薬についての授業を学校に取り入れ、友人の誘いをどう断るかなどを具体的に教えている。麻薬使用がわかった場合、裁判所の判断で自治体が使用者を強制的に更生施設に収容する措置がとられている。その結果、70年代初めに15%近かった15歳の麻薬体験率が、80年代後半には5%以下に減った。
だが、90年代に入り、再び増加に転じている。リンドホルムさんは「政府と自治体が更生施設を減らすなど手を抜いてしまったからだ。麻薬との戦いには終わりがないのに」と残念がる。「何世紀も吸われ続け、文化の一部であるたばこでさえ、禁煙が叫ばれる時代。歴史が浅く、害もある大麻をなぜ今、受け入れなければならないのですか」。
※資料‐表(EMCDDAなどの調べ)
■大麻:
中央アジア原産のアサ科の植物。古代から繊維として利用されたほか、高揚感や酩酊感などをひきおこす物質を含むため儀式や治療にも用いられた。1960年代、米国の若者の間で流行、世界中に広がった。■オランダの大麻政策:
1976年に薬物法を改正し、社会が看過できない危険があるヘロインやコカインなどの麻薬と大麻を区別。18歳以上の30グラム未満の大麻所持は訴追されない。コーヒーショップでの大麻販売は、(1)一回の販売量が5グラム以下、(2)18歳未満への販売禁止、(3)公共の秩序を乱さない、などの条件を満たせば認められる。■欧州の主な国の大麻政策:
【デンマーク】 少量の大麻所持については警告のみで対応するよう、検察長官が警察に勧告。
【ドイツ】 すべての麻薬の少量所持は、「第三者に迷惑をかけない」、「未成年者が関与しない」、「個人使用目的である」、などの条件を満たせば訴追を免れる。一部の州では販売を容認。
【スペイン】 公共の場などでの個人使用は罰金の対象だが、実際はほとんど取り締まりは行われていない。
【フランス】 1999年、個人使用は訴追しない方針を政府が発表。
【イタリア】 一回目は警告、二回目以降は運転免許証没収など行政罰だが、実際はほとんど適用されていない。
【ポルトガル】 今年一月、法改正案が議会を通過。すべての麻薬の個人使用を罰則の対象としない代わりに、麻薬使用者は依存症の程度に応じて治療を受ける義務を負う。
【英国】 少量使用は警告か罰金刑。政府は最近、大麻使用者が雇用主に警告を犯歴として報告する義務を廃止すると発表。
【スイス】 個人使用容認へ政府が法改正案を提出。
※資料‐グラフ(1999年、オランダ保健省調べ)
■15歳~16歳で大麻を一度でも体験したことがある割合:
米国 41%
フランス 35%
英国 35%
アイルランド 32%
オランダ 28%
イタリア 25%
デンマーク 24%
フィンランド 10%
ギリシャ 9%
ポルトガル 8%
スウェーデン 8%
※写真のキャプション: バンシャイクさんは昔、ボディービルの選手だった。右の人形は大麻博物館のマスコット(=ハーレムで、山本写す)
【補足】
■ノル・バンシャイク氏の名前(Nol van Schaik)は、日本語表記では「ノル・ヴァン・シャイク」、「ノル・ファン・シャイク」などと書かれる場合が多いようです。
■オランダの薬物政策について:
概略は、オランダ外務省から英語版の小冊子が発行されており、オランダ外務省のサイトにPDFファイルで公開されています。2003年版の日本語訳が「青少年の薬物問題を考える会」のサイトに掲載されています。
「青少年の薬物問題を考える会」による日本語訳:
『Q&A薬物 2003 オランダの政策へのガイド』
オランダ外務省のサイトにある英語版:
『Q&A DRUGS 2003 A guide to Dutch policy』
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