専門家、カナビスの分類変更に反対

イギリス政府の罰則強化策には科学的根拠なし

Source: Guardian, The (UK)
Pub date: July 27, 2007
Subj: Experts Dismiss Case For Cannabis Reclassification
Author: David Batty
http://www.ukcia.org/news/shownewsarticle.php?articleid=12740


カナビスを使うと統合失調症のリスクが最低でも40%増えるという論文が発表されたが、専門家は、カナビスの取締分類をCからより厳しいBへとアップグレードする証拠としては依然不十分だと語っている。

イギリス労働党のブライアン・イドン議員とロンドン精神医学研究所のロビン・マリー教授は、カナビスの分類をB分類に戻しても何のメリットもないと主張している。

このコメントは、イギリスではカナビスの喫煙が原因で少なくとも800人が深刻な精神病に苦しんでいるとする論文が医学雑誌ランセットに掲載された1日後に行われた。

内務省当局は、昨晩、この論文の結果については、2004年にC分類にダウングレードの決定をする時点ですでに検討されていることを認めている。

だが、つい最近になって再び分類の見直しが決定されたが、これは、効力の強い「スカンク」の使用が統合失調症の引き金になる恐れが指摘されたからだとしている。

カナビス誘発性精神病の専門家であるロビン・マリー教授は、ランセットの論文には、カナビス使用と健康リスクの関連を示すような新しい発見はほとんどないと語っている。

「政治家の人たちは、分類をBに戻すことが重要だと考える傾向があるますが、それは正しくはありません。14才でカナビスを吸っている未成年たちは、分類がBかCかどうかなどには何の関心も持っていませんし、彼らにとっては現在のC分類でも禁止されているのですから、もしB分類に戻しても何の違いもないのです。必要なのは刑罰の強化ではなく、リスクについて教育することなのです。」

ランセットの論文では、過去に行われた研究を総合的に検証した結果、イギリスの15才から34才の統合失調症患者の14%はカナビスの喫煙が原因で引き起こされているとしている。

これに対してマリー教授は、「精神病傾向のある人の中でも、その傾向が弱く普通は顕在化しない程度の人が、カナビスを使った場合に統合失調症を発症する可能性があるのです。これは、僅かながら糖尿病の傾向のある人が、節制せずに過食して糖尿病を顕在化させてしまうのと同じです」 と説明している。

また、ドラッグ乱用に関する超党派研究グループの代表で下院科学技術委員会のメンバーも務める医師のブライアン・イドン議員も、ランセットの研究だけではカナビスをB分類に戻すべきだと思わないと語っている。

「カナビスと統合失調症の間に因果関係があることが証明されたとは思えません。カナビスが精神病の引き金になるとしたら、遺伝的な傾向のある人が若年時に使った場合なのではないかと考えています。」

さらに、イドン議員は、カナビスの分類を変えて罰則を強化すれば、非常に多くの若者を危険にさらすことになるとも指摘している。

「もし、ゴードン・ブラウン首相がカナビスの分類を変更したら、それは科学的証拠をベースにしたものではなく、政治的理由からということになります。」

「2004年1月にカナビスの分類をBからCへとダウングレードして以来、カナビスの使用は減少しています。それなのに、このような思いつきの政策で再び泥仕合のような議論を繰り返すことに意味などあるのでしょうか?」

ドラッグ・チャリティのドラッグスコープも、カナビスの使用を止めさせなければならないほどの証拠はないとして、分類の変更に反対する立場を表明している。

ドラッグスコープのマーチン・バーネス代表は、「われわれの考え方は、若者を指導しなければならない教師や保健関係者が、若者に耳を傾けて理解してもらえるように、カナビス使用にともなうリスクについて教育できるようにすべきだということです」 と語っている。

「脅しの戦略は通用したためしがありません。必要なのは、みんなが何にも問題なくカナビスを使っているように見えても、個人個人で見れば大丈夫でない人もいることを分からせることなのです。」

ランセットの論文:
Cannabis use and risk of psychotic or affective mental health outcomes: a systematic review.  H.Moore, S. Zammit, et al. Lancet. 2007 Jul;370(9584):319-28  (pdf)

イギリスでは、ランセットの論文が発表される10日ほど前に、新しく発足したばかりのブラウン政権が、カナビスの分類をC分類からより厳しいB分類に戻すことを検討していると 発表 している。

カナビスは2004年1月にB分類からC分類にダウングレードされ非犯罪化が行われたが、その後、カナビスが精神病を引き起こすという証拠が出てきたとしてB分類に戻すべきか 見直し が行われた。

専門家で構成される諮問委員会は、2006年1月にC分類のままにしておくことを答申し、いったん決着がついたが、ブラウン政権になってまた見直し議論が蒸し返された。

今回のランセットの論文は、一般には、政府の主張を補強するものと受け止められているが、この記事のように、ロビン・マリーなどの著名な専門家の間からは、ランセットの論文には何ら新しいことはなく、分類の見直しは政治的なパフォーマンスに過ぎないという意見も語られており、新しい諮問委員会でも結論は変わらない公算が大きい。

しかし、分類の見直しは、法律の変更ではなく、諮問委員会の答申を得て最終的に内務大臣一人の意思決定で行われる。過去には、諮問委員会の答申に従わなかった例はないとされているが、来年の4月に予定されている決定では、政治情勢によっては政治家の意見が優先される懸念もある。

ブラウン首相は一度もカナビスをやったことがないと強調している一方で、担当のジャッキー・スミス内務大臣はじめ何人もの閣僚が青年時代にカナビスを吸っことを告白しており、「反省」を強調して強硬な態度をとる可能性があるためだ。

こうした例は、アメリカのクリントン大統領が過去のカナビス喫煙を問い詰められたときに、「吸ったが吸い込んではいない」 と詭弁を使い、カナビス反対派をなだめるために、レーガン時代の何倍もの予算をドラッグ戦争に貢いだことが知られている。政治家は、しばしば、自己保身にためにドラッグに強硬に反対することがある。

この記事で分類の変更に反対しているロビン・マリー教授は、カナビスの使用にともなう精神病のリスクに関して最もよく知られた専門家に一人で、早くから若年のカナビス使用の危険性を警告してきた人物として知られている。2005年には、他の研究者と共同で、今回と同様に過去に発表された論文を検証し、カナビスのヘビー・ユーザでは リスクが2倍 になるという結論を導き出している。

カナビス反対派もたびたび教授の発言を大きな拠り所にして 取締りの強化を主張 してきた。Smoking Just One Cannabis Joint Raises Danger of Mental Illness by 40%  (2007.7.27)

しかし、教授が常々に主張していることは、大多数のカナビス使用者は精神病になることはなく、ごく一部の精神的脆弱性を抱えた若者に危険があるために、教育 によってカナビスのリスクを知らせるべきだということで、この記事の発言もその考えを反映している。

また、教授は、カナビスの危険性ばかりではなくカナビスを使った精神病の治療の可能性も含めて研究するために、各国から専門家を招いて 「カナビスと精神病カンファレンス」 を開催している。

この記事に出てくる ドラッグスコープ は、イギリス有数の独立系のドラッグ情報センターで、害削減に基づいた政策提言をしていることで知られている。分類見直しに反対する声明は、ここ に掲載されている。

また、分類の変更については、統合失調症患者を支援している リシンクも反対 をあらためて表明している。