Q:ヨーロッパでのドラッグ政策は、アメリカの非寛容政策と距離を置くハームリダクション(害縮減)政策が主流だと言われますが、昨年11月に行われたスイスの国民投票では、大麻の非犯罪化が否決されています。スイスでも国民の多数は大麻の非犯罪化に反対しているのではありませんか?
A:まず大前提として、既にスイスでは個人使用目的の大麻を少量所持していたところで処罰の対象にはなりません。
確かに昨年11月の投票で、個人による大麻の使用と栽培の非犯罪化を求めた住民発議(イニシアティブ)は否決されました。しかし、その理由ははっきりしています。
大麻そのものの害が問題になったわけではなく、タバコやアルコールなどと同じような規制のもとでスーパーなどでの成人への販売を認めるように求めていたために、オランダの国境の都市が見舞われている災難と同じようなドラッグ・ツーリズムがスイスにも起こるのではないかという懸念が大きくなったためです。
これは、同時に行われたヘロイン・プログラムの投票が、圧倒的賛成で恒久化されたことを見てもわかります。これにより、ヘロイン中毒者はプログラム・センターを1日に2回訪れて、政府に認可されたラボで製造されたヘロインを受け取ることができるようになりました。
ヘロインの量は慎重に計量され、クリーンな注射針と注射器は名前が張られたカップに入れられて提供されます。部屋には看護師が付き添い、4人が同時に自分で注射するようになっています、また、精神科医やソーシャルワーカーのカウンセリングも受けられるようになっています。
つまり、ヘロイン中毒者は、きちんと製造されたヘロインを政府から無料で支給されることになったわけです。大麻のほうがヘロインより危険性が少ないという点からすれば、投票で否決されたのは大麻の健康への懸念が理由ではないことがわかります。
また、今回の投票が、大麻に対する政策を緩和する代わりに厳しくすることを求めたものでないことにも注意しなければなりません。実際、以前には大麻を犯罪化するイニシアティブも行われていますが、スイス国民は大麻を使っても中毒にならないことが分かっているので、やはり否決しています。
スイスの政治状況については、2002年以降の世界的な右傾化の影響をうけて、2003年の総選挙で国民党が4位から第1党に躍進したことで大きく変わりました。
国民党は人種差別主義的との批判を受けるほど攻撃的な移民政策を掲げて、移民に対する世論の反感と背景に支持を拡大しています。2007年10月行われた総選挙でも国民党が大きく伸びて第1党の地位をさらに強固なものにしています。
今回の大麻のイニシアティブでも 「スイスがヨーロッパのドラッグのメッカになってしまう」として最も強く反対していたのが国民党です。
移民問題では世界的な不況でますます圧力が強まりそうですが、与党側でも経済政策に決定的に失敗することもありえますので、今後の流れを予想することは非常に難しいですが、ヨーロッパでの大麻問題が、健康問題ではなくドラッグ・ツーリスト問題に移行してきているという点は押さえておく必要があると思います。
スイスの大麻規制
○関係法律:1924年制定の連邦薬物法(Swiss Federal Narcotics Law:LStup)
○罰則:罰金あるいは1年以下の禁固
○付記:州(canton)によって法運用に差があり、売買などに対して西部フランス語圏では比較的厳しい法運用がなされているが、個人使用目的の所持で罰せられることはない。
2007年を含め過去に数回連邦議会で大麻合法化の法案が提出されているが否決されている。
参照
麻は広いなー大きいーなー いーってみたいーなー よそのーくーに~♪
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