Q:世界的に見れば多くの国で大麻は非犯罪化されていると言いますが、シンガポールのように大量の所持が死刑になる国もあるのではないですか?
A:大量に所持していると死刑になるというのは、営利目的の組織的犯罪だと看做されるからです。個人的に使う目的の少量の大麻の場合、シンガポールでも必ずしも死刑になるわけではありません。
現在、30か国以上がドラッグ事犯に対する死刑制度を持っているようですが、実際の執行は年々減る傾向にあります。ですがアジアではまだまだ多く、マレーシアでは2004年7月から1年間に36人、ベトナムでは毎年約100人、中国では、2005年6月には2週間でまとめて55人が処刑されています。
●ベックレー・ファンデーション 『国連のドラッグ政策には人権ベースのアプローチが必要』25p(PDFファイル)
特に顕著なのがタイで、2003年にタクシン首相が厳罰化したドラッグ戦争を立ち上げ、最初の3か月で2500人が処刑されています。しかし、彼が失脚した後に設けられた調査委員会が調べたところでは、全体の半数以上の1400人がドラッグとは無関係だったことが判明しています。
また、ドラッグで死刑になるとよく引き合いに出されるシンガポール(人口500万人)では、1991年以降400人以上が死刑になっていますが、その大多数はドラッグ事犯で、多い年には30人以上が処刑されていることになります。この数は日本で700人以上に相当します。
こうしたことから考えて、ドラッグ事犯での死刑制度はもともと治安維持的な側面を強く持っているのです。当然のことながら、アジアでは独裁体制の国ばかりなのも無関係ではありません。
●Most Killed in Thailand’s 2003 Drug War Not Involved With Drugs, Panel Finds (2008.2.20)
ドラッグがなぜ治安維持の理由にされやすいのかは、体制側にとっては、敵対するターゲットの荷物に現物を簡単に紛れ込ませることができる上に、ドラッグ撲滅という大義のもとで動かぬ証拠をつきつけられるからです。
このことは、大麻に使用罪を新設しようとしている日本も似ています。大麻は、吸うのでなければ本人の意志とは無関係に食べさせたり飲ませることが簡単にできますから、陥れようとする人間に気付かれないように摂取させて、尿検査が陽性になるように画策することができます。昨年、ロシア人力士2名が尿検査で大麻の陽性反応が出たとして解雇されましたが、このケースでも本人たちが故意に吸引したという証拠はありませんでした。
スポーツ競技の公平と公正を保つためのドーピング検査と、職場におけるドラッグ・テストの区別もなく、相撲やラグビーの選手が尿検査で大麻の陽性反応が出たとして解雇されましたが、最近は山梨県の臨時職員が使用罪のない大麻の尿検査で陽性反応が出て懲戒免職になっています。
また、ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマンも指摘していますが、大麻禁止法は被害者のいない犯罪ですから、販売者と購入者が自発的に取引しただけでは何も起こりません。つまり、禁止法をまともに機能させることはできないのです。政府が人々の自発的な活動に干渉して禁止法を執行しようとすれば、結局は密告に頼るしか方法がないのです。この点でも大麻禁止法は治安維持法とよく似ています。
●ミルトン・フリードマン インタビュー ドラッグ禁止法とドラッグ戦争
いずれにしても、治安維持法と同様に、独裁的な体制側にとって、ドラッグは国民を逮捕するのにとても便利なのです。ドラッグ政策に限りませんが、日本も近年は警察国家のようになりつつあると感じるのは杞憂といえるでしょうか。
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