格差の問題が社会に顕在化してきた。そして、格差問題と呼んではいるもの、本当は貧困問題をオブラートにくるんだ言い方にしているだけかもしれない。
日本は、国民のほとんどが中流意識を共有してきたし、今でもそうなのだろう。貧困の問題はあっても見ない事にしているようだ。何せ貧乏タレントが売りになるほどなのだから。
しかし、医療の現場では底辺の人を見る。それは衝撃だし考えさせられる。例えば・・・。
休日の当直で。50代の女性。熱があると言う事で、救急搬送されてきた。ただこれだけの情報で運ばれてきたので、ただ風邪か何かだろうと思ったら、まったく期待を裏切られた。
見るからに汚れた服装で、風貌も50代にしてはとても老けている。そして、異臭を放っている。確かに高熱であるが、左胸と左腕が痛いと訴えている。しかし、痛い痛いと言うばかりで、質問にまともに答えてくれない。
救急隊によれば、アル中・アルコールによる慢性膵炎・糖尿病でうつ病もあり、かかりつけの病院があるそうだが、何か問題があり断られたようだ。(おいおい、救急隊、それをなぜ先に言わないのだ。)同居人が居るようだが、仕事のために来るのに時間が掛かると言う。
きちんと問診も出来ないまま、とりあえずレントゲン写真を取ると、左腕がぼっきりと折れている。そして、左の肋骨も折れていそうで、肺にも影がある。本人に、転んでいないかと聞いても、分らないと言う。
とにかく、訳が分らないので、詳しく検査をし、できれば入院にしようと考えていると、同居人から電話があり、「お金が無いので、とりあえずの処置だけで良い。入院も出来ない。」と。同居人が到着するまで、解熱鎮痛剤で様子を見る。
同居人が到着し話を聞き、ようやく話がわかった。どうやら、患者は元ホームレスで施設に入っていたが、放浪癖があり脱走などを繰り返すため追い出されてしまった。ちょっとした知人であった同居人が、行きがかり上面倒を見ることになってしまったと言う。同居人も裕福ではなく、年収は300万ぐらいのようだ。(それでホームレスの面倒を見るとは・・。)
患者は、数カ月前に放浪し、帰って来た時に腕がへんに曲がっており、その時から骨折しているのではないかと思っていたが、病院にはいかず自己流で固定して様子を見ていた。(骨、曲がっちゃってるよ・・。)ときどき高熱が出るが、自然に解熱するので放っておいた。今回も、お金が無いので、応急処置だけで良い、と言う。
そうですか。いろいろ事情があるのですね。そう言う人達もいるのだなあ。と言う事で、済ませてしまいそうになった。しかし、ちょっとまてよ。
自分でものを決められる立場に無い患者。そして、経済的理由で医療を受けさせない事を同居人と医者で決めて良いものなのか。日本国憲法では、国民は文化的で健康的な最低限の生活をする権利があるとしている。(アル中の元ホームレスには憲法の光が届かないこともあるようだ・・。)
強い口調でお金は無いと言う。結局、無理やり入院させるわけにもいかず、とりあえず、骨折の応急処置をし、家に帰した。どう考えてもこのような人は生活保護の対象だろう。生活保護ならば医療費は出る。平日になったらもう一度病院を受診しソーシャルワーカーに相談し生活保護の手続きを取るように強く勧めた。
日常でこういう人と接することは無いだろう。しかし、見えない(見ない)だけで、いるのである。貧困者がさらに貧困者の面倒を見る。福祉の手は、積極的には差し伸べられない。人の命は地球より重いという表現があるが、どうやら人によるらしい。
定額給付金もいいが、こういう人たちの面倒を見るのが国の仕事だろうと、僕は思う。
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