カリフォルニアで合法的に医療大麻を使っていた米国人男性に対し、前橋地裁は大麻所持の罪で実刑判決を言い渡した。国選の若い女性弁護士の力量不足が致命的だったと思う。クローン病の成田君も大麻所持の無罪を主張しているが、カンナビストの報告を見る限り、前橋地裁の例と同じ弱点を内包している。その危惧については、成田君本人に、既に何度も伝えてある。
法廷で第一義的に問われるのは、事実行為として法違反があったかどうかであり、検察の論証はその一点に限られる。厳密に言えば、そのうえで、その法違反行為に、どの程度の悪質性や計画性があったかが問われ、量刑に影響する。
前橋地裁の例では、弁護士はその法違反行為を事実として認めながら、鬱の治療目的だったとして情状酌量、つまり、刑を軽くするよう裁判官に求めた。
米国人男性が大麻所持で逮捕され、奥さん(日本人)から相談を受け、何度も電話で話をし、私はこの事例は最低でも適用違憲を主張すべきだと進言してきた。3年前にもこの女性から、アメリカ人の夫が覚せい剤の使用で逮捕されたと相談を受け、まだその事件で執行猶予が解けたばかりだから、状況は厳しかった。
大麻所持は法違反行為として刑事罰の対象となっているが、自分の病気を治療する目的で大麻を所持していた場合についてまで刑事罰の対象とするのは、生存権の侵害であり、幸福追求権の侵害である。だから、このような事案に大麻取締法の罰則規定を適用するのは憲法違反である。それが「適用違憲」の主張だ。
また、同時に、医療目的の大麻所持までを一律に刑事罰の対象としている大麻取締法第4条は、やはり上述の観点に加え、法の実体としてもデュー・プロセス・オブ・ローの見地から重大な問題があり、法の規定そのものが憲法違反である。このような主張を「法令違憲」という。
私自身の裁判では、岸上弁護士がこの「適用違憲」と「法令違憲」の主張を行った。ま、それまでは、私は「適用違憲」とか「法令違憲」なんて知らなかったのであるが。(^^y-~
本来、前橋地裁の事例でも、この「適用違憲」と「法令違憲」の主張を基本に据え、そのうえで無罪を主張すべきだった。なんと言っても、アメリカで合法的に発行された医療大麻を使用するライセンスまであり、それは証拠として採用されているのだ。情状で罪を軽くしてほしいという主張では、立論としてあまりにも甘過ぎる。国選で受任した女性弁護士は、決して手を抜いたわけではなく、逮捕直後に接見してくれたり、親身に相談に乗ってくれたりしたそうだ。そのうえで、経済的に余裕のない被告人の事情を知り、国選として弁護を担当してくれた。そのような意味では、とても良い人柄の弁護士なのだろう。だが、いくら人柄が良くても、法廷戦略が誤っていては、裁判に勝つことはできない。
執行猶予が充分に見込めるような簡単な裁判であれば、弁護士の手腕が問われることもないが、実刑の恐れがあり、審理の内容に困難を伴うような裁判では、弁護士の力量が判決に重大な影響を及ぼす。
奥さんから相談を受けたとき、群馬では信頼できる弁護士を知らないので、東京の高野隆弁護士に相談して群馬の弁護士を紹介してもらうことを勧めた。高野弁護士も群馬に紹介できる弁護士はいないと言っていたそうだが、それでも調べてくれて、紹介を受けたのがこの女性弁護士だった。もちろん、高野弁護士に落ち度があるわけでもなく、高野弁護士を責めるつもりは全くない。むしろ、高野弁護士は数少ない信頼できる弁護士の一人であり、法廷での実力も申し分ない。
あまりにも戦える弁護士が少なすぎることを悲しく思うだけである。
実刑判決を受けた米国人男性と奥さんは、控訴するかどうか迷っているようだ。10か月の求刑に対し、6か月の実刑判決なので、マジメにおつとめすれば5か月程度で仮釈放になるだろう。控訴して戦うとなれば、その程度の時間を費やすことになるだろうから、いっそ服役してしまったほうが早いと米国人男性は考えているようだ。
私の個人的感想としては、医療大麻のライセンスが証拠採用されているのに、その点については何ら言及していないらしい判決に不服だし、このような判例を残すことにも不満なので、控訴して戦ってほしいし、控訴審は東京高裁に移るので、刑事弁護の第一人者である高野弁護士に依頼することもできる。が、弁護費用も時間も労力も大きな負担になることなので、本人の気持ちに判断を委ねる以外にない。
成田君の裁判でも、まだ弁護士を探している段階から、私は適用違憲と法令違憲の二段構えで立論し、海外の学術文献や専門家の証言で大麻がクローン病に有効であることを論証する一方、日本では厚労省がまったくこの種のデータを持っておらず、大麻の薬学的研究すら認めないという、行政の不作為を指弾すべきであり、そのような重層的な立論が必要だと意見を伝えてきた。
しかし、どうも私の意見は受け止められていないようだ。成田君の裁判では、クローン病の治療目的で大麻を所持していたのだから、大麻所持は無罪だという適用違憲に関わる論証を行ってはいるが、大麻取締法第4条の規定を問題視する明確な立論は行われていない。
このような場合、検察は、大麻所持という外形的事実のみを立証し、それで公判を終わらせようとする。弁護側が提出した文献などが、検察の不同意によって証拠採用されておらず、また、証拠採用された論文についても、成田君が大麻を入手しようとした動機として矮小化されてしまっている。この現状を見ても、検察や裁判官は、違憲論審理に踏み込んでいないことが明らかだ。
裁判官は、検察の意向を受け入れて、弁護側が提出した証拠を簡単に不採用にする。残念ながらそれが通例だ。だからこそ、成田君個人の事例を離れ、大麻取締法第4条の違憲性を論証する証拠として、学術論文や専門家の証言を採用させる戦略が必要なのである。
さらに言えば、既に前田さんの医療大麻裁判で、司法は、医療大麻は海外で研究が始まったに過ぎないと言っている。しかし、現実には既に多くの国や州で医療大麻は合法化されているのであり、前田さんが司法から引き出した言質に、現在の世界的現実を新たな証拠として加えることもできる。しかし、成田君の裁判では、そのような主張もなされていない。これまでの大麻取締法違憲論裁判の蓄積が、全く活かされていないのだ。
成田君の裁判は、共産党系の弁護士2名が担当しており、やはり人柄は良いようだ。だが、繰り返すが、弁護士の人柄が良くても、法廷戦略が甘いと、裁判には勝てない。
あと40歳くらい若ければ、俺は弁護士をめざすのだが・・・
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