野中さんの投稿によると、「World Drug Report 2009」は、これまでにないニュアンスを含んでいると、海外のメディアが報じているそうだ。国連薬物犯罪事務所のアントニオ・マリア・コスタが、違法薬物の合法化には反対を明言しつつも、「規制を緩和することはそれほど悪い考えではないかもしれないことに同意した」とのこと(TIME誌)。昨年の第51会期国連麻薬委員会で、NGOの発言を「おしまい!(ピリオド)」と遮っている動画の印象が強いのだが、同委員会にNGOの参加が認められるようになったのも昨年からだそうで、世界の麻薬対策政策は、地殻変動を起こし始めているようにも思われる。
今年の第52会期国連麻薬委員会で、日本政府は「不正目的のための大麻種子の使用に関するあらゆる側面の探求(Exploration of all aspects related to the use of cannabis seeds for illicit purposes)」と題する決議案を提出し、採択されている。この決議文には、「大麻に関する報告書の更新に期待」するという記述も見られる。これはつまり、日本政府としても、WHO97大麻レポートが陳腐化していることを暗に認めたものといえるだろう。
事実をベースにしたドラッグ政策が必要
11年前の1998年、国連は10年以内にドラッグ戦争に勝利すると約束したが、そうはならなかった。
国連麻薬委員会は今年3月にウイーンで、1998年からの成果について評価するために2日間のセッションを開いた。開会にあたって国連薬物犯罪事務局のアントニオ・コスタ所長は、「目にみえるほどの進展」があったと述べ、ドラッグ問題は封じ込まれつつあり、ドラッグの使用は一定の水準に抑え込まれていると主張した。
しかしコスタ所長のこうした発言は証拠に基づくものではなく、会議が終わるまで防戦的な姿勢に終始した。また進展があったとしながらも、今後の目標はこれまでと同じだとも言う。彼は、世界のそれぞれの国が選べる選択肢は厳格な禁止法か、あるいは全面的な合法化に屈服するかのどちらかしかないとする国連の立場を繰り替えし主張した。
コスタ所長の主張とは裏腹に、この会議が終わったすぐ後で、アフガンとパキスタン地域のアメリカ特使であるリチャード・ホルブルック氏はアフガンのケシ栽培の撲滅に失敗したことを認め、アメリカは年間8億ドルを超える巨費を投じてきたが、「まったく何の成果を得られなかった」 と語っている。
世界のドラッグ・コントロールシステムを担っている人たちは、失敗に言及せずに現行の政策を維持することばかりを考えているために、ドラッグ問題に関する世界の議論はもはや荒唐無稽なものになってしまっている。そのことを最も端的に表しているのが大麻に対する議論で、全世界の違法ドラッグのおそらく80%を占めているにもかかわらず、ウイーンでは大麻についてほとんど何も議論されることはなかった。
大麻が国際的に禁止されるようになったのは1961年に国連の単一条約が制定されてからだが、当時は大麻を使っていたのはほとんどが小規模なサブカルチャーで、今の時代とは全く違っている。現在では条約は完全に時代遅れのものになっているが、依然として大麻に対する位置づけは変わらないままで、国連で議論すらされる様子もみられない。
ウイーンで大麻について唯一言及したのはウルトラ禁止国の日本で、大麻の種を取り締まるように主張していた。自宅での大麻栽培が増えて 「世界的な脅威」 になっているので抑え込む必要があると言う。
だがそれは見当違いだ。昨年の秋に私が主筆になってイギリスのベックレー・ファンデーションから 『グローバル大麻委員会報告』 を発表したが、そこでは、どのようにすれば国はより公正で実効的な大麻コントロールシステムを構築できるかを示している。
政策決定者には、非犯罪化とか非罰則化といった膠着したやり方を打破するためのツールを提供し、もし実行すれば何が起こるのかを証拠を上げて示している。問題の核心は、禁止政策ではドラッグの流通や使用をコントロールすることが難しいという点にある。
大麻の使用による害を低く抑えるためには、禁止するよりもコントロールされた市場で扱えるようにすることのほうが勝っている。われわれは、ドラッグ政策の前に立ちはだかるデッドロックを乗り越える必要がある。極論だけの議論を克服し、どのように変えればいいのかについて真剣に考えなければならない。大麻はその手始めに最も適している。
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ロビン・ルームは、オーストラリア・メルボルン大学の教授で、市民健康学科のアルコール問題研究を担当している。また、メルボルンARCアルコール政策研究センターの所長も務めている。
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グローバル大麻委員会報告、大麻政策の手詰まりを越えて、結論と勧告(2008.9)
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ロビン・ルーム教授は、1995年のWHOから 『健康および精神に対するアルコール、大麻、ニコチン、オピエートの相対的な評価』(A comparative appraisal of the health and psychological consequences of alcohol, cannabis, nicotine and opiate use)という報告書(共著)を発表したことでも知られている。
この報告書は、大麻とアルコールやタバコの害を比較したもので、確かに大麻の長期的なヘビーユーズや大規模な疫学調査が十分ではないとはっきり認めたうえで、「現在の使用パターンで見る限り、西洋社会の大麻の公衆衛生問題はアルコールやタバコがもたらしている現状よりも深刻度はずっと少ない」 と結論づけている。
しかし、WHOが1997年に発表した、『大麻:健康への視点と研究課題』(Cannabis : a health perspective and research agenda)と題する別のレポートでは、「大麻と他の薬物との比較」というセクションをわざわざ最後に追加して、先のレポートは 「信頼性に劣り、公衆衛生上の深刻さの比較にも疑問があり」、「科学的と言うよりも推論的だ」 と指摘して論議を呼んだ。
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これに対して、98年2月に ニュー・サイエンティスト誌は、「インサイダーの話によれば、比較は十分に科学的なものだが、今回の報告書はWHOが政治的圧力にに屈したもので、アメリカの国立ドラッグ乱用研究所(NIDA)や国連の麻薬統制委員会が大麻の合法化運動グループに悪用される恐れがあるとWHOに警告したことに端を発している」 と批判した。
だが、WHO側はすぐに、『政治的圧力に屈しわけではない』 というプレスリリースを発表して反論し、信頼できる疫学調査が行われていない、信頼できる情報が欠如しているために世界的なコンセンサスが得られていないなどとした上で、先の論文は 「矛盾を含み、科学的とは言えないような結論を引き出している」 と主張した。
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この一連の経過の中で注目すべきことは、WHOが、「大麻のほうがアルコールやタバコよりも害が少ない」という主張自体を否定したり、あるいは逆の結論を出したわけではなく、結論を保留しているいという点にある。実際、『大麻:健康への視点と研究課題』でも、調査が足りないからもっと研究する必要があると繰り返し述べている。
しかし、そのレポートの発表からすでに10年以上が経過し、その間には、大麻と癌や統合失調症、交通事故の関係などさまざまなことが明らかになってきている。しかし、WHOには新たなレポートを出す気配は見られない。ということは、一般常識的な観点に立てば、WHOは、「大麻のほうがアルコールやタバコよりも害が少ない」 ことを間接的に認めたと解釈できる。
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またWHOは、やはり1995年にコカインに関する報告書も作成している。この報告書はそれまでで最大規模と言われているもので、事前に発表されたサマリーには 「アルコールやタバコなどの合法的はドラッグ使用による健康問題のほうが、コカインの使用による健康問題よりも大きい」 と書かれていた。しかし、アメリカの政策にあまりに対立していたために圧力がかかり、全文は公開されることはなかった。
WHOは報告書の存在自体を否定しているが、現実には、リークされたコピーを入手できる。これを見れば、少なくともドラッグに関する限り、国連やWHOが科学的というのは幻想に過ぎず、政治のツールでしかないことがわかる。
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国連はドラッグ統計を情報操作している オランダのドラッグ政策は破綻している?(2007.12.12)
ドラッグフリー世界は実現したか? 国連ドラッグ犯罪事務所の詭弁
Source: New Scientist
Pub date: 20 May 2009
Get real, drug czars
Author: Robin Room
転載元
事実をベースにしたドラッグ政策が必要/カナビス・スタディハウス
(※THC注:転載元のカナビス・スタディハウスでは、解説などが頻繁にアップデートされています。最新の情報を確認するためにも、転載元のカナビス・スタディハウスにアクセスすることをお勧めします。)
※本稿は2009年7月8日の記事を「国連麻薬委員会との対話」のカテゴリーに移動して加筆再掲したものです。
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- 事実をベースにしたドラッグ政策が必要 (2009-11-17)
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- 国連麻薬委員会宛てに提言を送付しました (2008-03-10)
- 国際条約による大麻規制の見直しを求める提言[英語版] (2008-03-07)
- 第51会期国連麻薬委員会に際しての大麻政策提言 (2008-02-18)
- 国際条約による大麻の規制の見直しを求める提言(案) (2008-01-28)
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