野中さんの投稿によると、「World Drug Report 2009」は、これまでにないニュアンスを含んでいると、海外のメディアが報じているそうだ。国連薬物犯罪事務所のアントニオ・マリア・コスタが、違法薬物の合法化には反対を明言しつつも、「規制を緩和することはそれほど悪い考えではないかもしれないことに同意した」とのこと(TIME誌)。昨年の第51会期国連麻薬委員会で、NGOの発言を「おしまい!(ピリオド)」と遮っている動画の印象が強いのだが、同委員会にNGOの参加が認められるようになったのも昨年からだそうで、世界の麻薬対策政策は、地殻変動を起こし始めているようにも思われる。
今年の第52会期国連麻薬委員会で、日本政府は「不正目的のための大麻種子の使用に関するあらゆる側面の探求(Exploration of all aspects related to the use of cannabis seeds for illicit purposes)」と題する決議案を提出し、採択されている。この決議文には、「大麻に関する報告書の更新に期待」するという記述も見られる。これはつまり、日本政府としても、WHO97大麻レポートが陳腐化していることを暗に認めたものといえるだろう。
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以下はカナビス・スタディハウスからの転載です。
いつものことながら、カナビス・スタディハウスのリアルタイムで有意義な情報提供に感謝。
第51回国連麻薬委員会
黙らされたNGO代表の発言
真実から逃げまくる国連ドラッグ戦争司令官
Source: Hungarian Civil Liberties Union (HCLU)
Pub date: 14 Mar 2008
Subj: Silenced NGO Partner
Author: Peter Sarosi
http://www.drogriporter.hu/en/node/929
意外な幕開け
今回の第51回国連麻薬委員会の開催にあたってちょっと意外だったのは、国連薬物犯罪事務所のアントニオ・コスタ事務局長が政府代表団の前ではオープニング・スピーチせずに、批判的なNGOの前で行ったことだった。
彼はそこで、自分たちが誇る国連のドラッグ・コントロール・システムが顕著な成果を上げていることには 「確固たる事実」 があるのにもかかわらず、多くの人たちが 「故意に認とめようとしていない」 と挑発的な主張を展開した。
それを聞いていた私は、コスタ局長から 「口うるさい少数派」 で 「がさつなドラッグ擁護派」の集まりと決めつけられたNGOメンバーの一人として、少々入り組んだ気持ちになった。
だが何よりもうれしく思ったのは、われわれの声が 「明瞭に」 国連のドラッグ・コントロール・システムの最高責任者に届いていることがわかったことだった。これで、彼が、この世界最大のドラッグ政策意志決定フォーラムのオープニングに当たって、断固たる構えでわれわれの批判を受けて立つつもりになっているのがはっきりした。
もう一つのポジティブな驚きは、彼が、ドラッグ政策においては人権が重要だと強調していたことだった。これは、間接的ながらドラッグ犯罪に対する死刑を廃止することを求めたもので、厳罰国からは異議が出てくることは間違いない。
時代は変わる
麻薬委員会にNGOの参加が認められたのは今回が初めてのことになる。私は、この委員会のテーマ別の会合で、ヨーロッパ・ハームリダクション・ネットワーク と ハンガリー市民の自由ユニオン の代表として発言する機会が与えられたことをとても光栄に思った。
数年前ならば、このようなことは考えられなかった。また、これまでは多くの人たちが期待するのが無駄だと思っていたが、ドラッグ・ユーザーに対する刑事制裁の緩和についても最近の国際麻薬統制委員会(INCB)年次報告書で取り上げられ、エイズ問題への指摘やハームリダクションにも前向きな議論が見られるようになってきた。
明らかに、時代は変わってきた。ドラッグ政策の分野で市民グループの果たす役割が重要であることがますます認められるようになってきた。
しかしながら、コスタ局長のNGO批判派に対する態度は総じて尊大で、特に、「黙っているだけの人は不要」 というスローガンの下で開かれたNGOフォーラムでは顕著だった。
単純で核心を突いた質問
それが最も強く表れたのは、オランダの精神分析医であるフレデリック・ポーラーク氏が問いかけた非常に単純な質問にまともに答えられずに彼の理性が退いた時だった。
ポーラック氏の質問は、「禁止法がドラッグ問題に対処できる唯一の方法だとすれば、オランダのカナビスの使用率が近隣諸国の多くよりも低いか同じ程度である事実について、どう説明するのですか?」 というものだった。
この質問単純ながら、まさに国連の政策の欺瞞性の核心を突いたものだった。なぜなら、国連のドラッグ禁止政策では、ドラッグの供給源を断てば自動的に需要も無くなるという仮説の上に成り立っているからだ。この理論が正しければ、社会や経済や文化的な背景が同じような2つの国で、片方が店でカナビスを買うことができ、もう片方が売買で刑務所行きになる場合には、カナビスの使用率に大きな違いが出てこなければならない。
だが、実際にはそのようになっていない。オランダではコーヒーショップでカナビスを買うことができるようになっているが、統計では、オランダのカナビス使用率はアメリカやヨーロッパの多くの国に比べて低い水準で比較的安定している。
オランダとアメリカのカナビス使用状況の比較
社会指標 比較年 アメリカ オランダ 12才以上の生涯カナビス使用率 2001 36.9% 17.0% 12才以上の過去1カ月のカナビス使用率 2001 5.4% 3.0% 12才以上の生涯ヘロイン使用率 2001 1.4% 0.4% 10万人当たりの投獄者数 2002 701 100 一人当たりの刑事犯罪システムの費用(ユーロ換算) 1998 379 223 10万人当たりの殺人数 1999-2001 平均 5.56 1.51 Source: Drug War Facts
レッド・ハーリング
コスタ局長はスピーチの中で、黙っているNGOは不要だと強調して、自分の見解に挑んでくるように大見得を切ったが、それに応じて挑んだポーラック氏の質問に返ってきた答えは誠実さも明解さもないレッド・ハーリングだった。
レッド・ハーリングとは、赤い燻製ニシンの強い臭いが猟犬の鼻を狂わせることから出てきた言葉で、本来の問題とは全く無関係なもっともらしいことを言って注意を別の方向にそらす詭弁論法だが、まともな返答をできない政治家や官僚の常套手段になっている。
コスタ局長は、コーヒーショップ数が最近では減ってきているというデータを持ち出してきて話をそらそうとした。局長の言っているデータは不正確ではあるが、確かに、オランダ政府は、他の国ばかりではなく国連からさえも強いプレッシャーを受けてコーヒーショップ数を減らしてきてはいる。しかし、このことは何の説明にもなっていない。
実際には、最近の減り方と言っても年間せいぜい数%で、コーヒーショップ・システム機能は1976年以来実質的にずっと変わっていない。そして、何よりも重要なのは、若者のカナビス使用率が、厳格な刑事政策を採っている国よりもオランダのほうが低くなっているという厳然たる事実があることだ。だが、コスタ局長は、このことには全く触れようとはしていない。
当然のことながら、政治家は証拠にもとずいて決定を下さなければならないが、だからといって、政治家の意思決定が問題の証明になるわけではない。だが残念なことに、国連のドラッグ政策は、科学ばかりではなく人権をも下に置いて政治の意志決定を優先させたドグマの上に成り立っている。
ポーラック氏がこのことを指摘すると、コスタ局長はいきり立って、これ以上の議論は不要だとして 「ピリオド、ピリオド」 と叫んで次の発言者に話を振り向けようとした。すかさずポーラック氏の後ろにはセキュリティ・ガードが・・・
手飼グループの演出
このとき、一部の人たちは、コスタ局長の反コーヒーショップ発言に喝采を送っている。彼らは、会合が終わって局長が退席するときも立ち上がって拍手喝采を送っていた。
もちろん、彼らは演出のために送り込まれてきた反ドラッグ政府の手飼で、スエーデン政府が自国のドラッグ政策を売り込むために資金を出している国際機関の反ドラッグ・ヨーロッパ・シティー同盟や、「治療」と称してドラッグ・ユーザーをチェーンで縛って卑しめることで悪名高いロシアのSUNDIAL (Supporting United Nations Drug Initiatives And Legislation) のメンバーたちだ。
また、アメリカ政府のドラッグ戦争司令官のスピーチライターだった人物に率いられたNGOグループやドラッグ・フリー・アメリカ・パートナーシップの代表の顔もあった。ドラッグ・フリー・アメリカは、学校でのドラッグテストはドラッグ防止しは何の役にも立っていないという証拠がたくさん出てきているのにもかかわらず、相も変わらず子供たちの小便を強制的に集めればドラッグ問題は解決できると主張しているグループだ。
許しがたい侮辱
今回の会合では、国連の高官ともあろう人物が、現在のドラッグ・コントロール体制に理路整然と反論する専門家を侮辱的に扱うという到底受け入れることはできない態度を示した。
コスタ局長は、オープニング・スピーチで議論を挑んでくるように言ったが、片方で、強力な質問を投げかけてくる誠実で前向きな反対派を 「イカれている」 (lunatics) とか 「プロ・ドラッグ」 などと呼んでアドホミネム攻撃している。そもそも、このような偏見を持った人物とオープンでまともな議論ができるはずもなかった。
加盟国の納税者の税金から無税のサラリーを得ている国連の高官として、また、過去10年の世界のドラッグ政策と統括している責任者として、彼には誠実に説明責任を果たす義務があるはずだ。
そして、まず第一に、限られた資源と安いサラリーにもめげず、汚名と差別の壁をのり越えてドラッグ乱用問題に取り組み、害を削減しようと奮闘している人たちに尊敬の念を払うべきなのだ。
たとえ、ドラッグを合法化すべきだと信じている人であっても、あるいは、たとえ自身がドラッグ・ユーザーであったとしても、国連の憲章にも誇らしく掲げられているように、奪うことのできない人権と尊厳を持つ人間であることには何ら変わりはないのだ。
ピリオド.
昨年の12月の始めにニューオルリンズでドラッグ政策の変更を求めるグループが中心になって 国際ドラッグ政策改革カンファレンスが開催されたが、それに招待されたコスタ局長は果敢にも出席して、ドラッグの供給を減らすことができればドラッグへの要求や問題も少なくなると主張するスピーチを行った。
これに対して質問者のひとりが、オランダの例を上げて、ドラッグの入手しやすさとドラッグ問題は結び付いておらず、抑圧的禁止政策を取っている周辺の国のほうが中毒や過剰摂取による死亡事故が多いと指摘すると、コスタ所長は、この時もそれには直接答えず、オランダは 「アンフェタミンを作ってヨーロッパを毒している」 とレッド・ハーリングを投げつけてはぐらかしている。
オランダで密造されているのはアンフェタミンではなくエクスタシーなのだが、彼は、国連がエクスタシーを 「アンフェタミン・タイプの興奮剤」 と位置づけていることを利用して、最近急速に大きな問題になってきているヨーロッパのアンフェタミン問題をオランダのせいにして、オランダを悪く印象付けようとしていた。
このように、禁止論者たちは反論に窮するとレッド・ハーリングを投げつけたり、アドホミネム攻撃をしたり、自分に都合の良いように定義や基準を変えてそれを梃に非難を展開することが常套手段となっている。
禁止法は期限切れ? フレデリック・ポーラック、インタービュー (2007.12.4)
コーヒーショップ数の変遷
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国連麻薬委員会宛てに「国際条約による大麻規制の見直しを求める提言」をFAXで送りました。どのように扱ってもらえるかは定かではありませんが、日本からのメッセージ、あるいは意思表示としてどんどん発信していこうと思います。
英語を母語とする友人の友人・・・アルカイダではありません・・・に書いてもらった前置きに、当方の住所氏名を記載して送付しました。
英語サイトにも掲載し、海外からもコメントを受けられるようにしたいと思いつつ、誰かウェブ系の作業を手伝ってくれる人はいませんか?
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国連麻薬委員会と海外のNGOに宛てた「国際条約による大麻規制の見直しについての提言」、ネイティブチェックを受けた英語訳ができたので掲載します。
We (Japanese NGO) submit the following proposal to the 51st session of the UN Commission on Narcotic Drugs as a formal request to conduct an objective review of Cannabis regulation by international treaties.
Please examine the information presented to build an effective drug policy.
A Proposal for Reforming Cannabis Control under the International Treaties
Cannabis Control Law Victim Center (THC Japan)
THC stands for:Taima torishimariho (Cannabis Control Law) Higaisha (Victim) Center
Mar 2008
Cannabis is a strictly controlled plant as well as coca and poppy under the regulation of international treaties such as the 1961 Convention and the 1988 United Nations Convention. Many scientific reports have concluded that cannabis is much less harmful than heroin and cocaine, and some suggest even alcohol. As for the benefits associated with cannabis, It is widely accepted that use of cannabis causes relief of mental stress, and enhances homeostatic function. Some reported that it shows positive effects in pain relief treatment of multiple sclerosis and terminal cancer, on the loss of appetite and body caused by the progressive wasting syndrome of HIV carriers, and the dependence of alcohol. Moreover, it is expected that cannabis can be applied as a reliever to syndromes of mobility impairment, physical drug dependence, neuronal disorder and psychiatric disease. Despite its legal status, it has actually been prescribed as a medicine to a various diseases in some countries.
In many developed countries, especially in Europe, police do not make arrest for the personal possession of cannabis. These policies, which literally conflict with the international drug treaties, are consistent with scientific findings about the physical risk of cannabis and allow law enforcement to focus there efforts on real drug problems that negatively impact society. On the other hand, prohibition has created drug-related organized crimes and increased the law enforcement cost, losing the public credibility for the policy's effectiveness. We see many public demands for reforming the international drug policies so to address real drug problems more effectively.
In Japan, cultivation and use of cannabis for recreational purposes in any form leads to a prison term under the zero-tolerance policy backed by the prohibitive international treaties. Only a person who acquires the hemp grower's license can grow cannabis licitly. However, it is limited only for industrial purposes and rarely issued by the authorities. The same strict prohibition is applied to the use for medical purposes. These prohibitive policies have consequently spawned a number of social problems in this country such as the expansion of the underground economy and, proportionately, its law enforcement cost, and, above all, violation of human rights of personal users and depriving therapeutic opportunities from medical cannabis patients.
It seems clear that these restrictions are attributed to the exaggerated negative claims and misconceptions about actual effects of cannabis. The schedule under the international treaties, is inconsistent with recent scientific findings, and should be reviewed and reformed to make the drug policy work properly. As the United Nations defined the year 2008 as a "Year of Reflection", holding meetings to review its drug policy of the past decade, we think it is a time to re-address the policy so it is consistent with scientific data and potential benefits associated with cannabis which is after all a natural plant.
1.The Current Japanese Cannabis Policy and Its Problems
1-1.Current Policy
Using prohibitive international treaties as a basis for domestic legislation, the Japanese authorities
1) have banned noncommercial use, cultivation and distribution with prison term regardless of its amount and purpose.
2) have banned application and delivery of cannabis-based medicines for medical purpose with prison term.
3) have conducted public campaign aiming to reinforce the stereotype that cannabis is a dangerous narcotic.
4) have rarely issued the hemp grower's license for licit industrial purpose even with due procedures.
5) have conducted the eradication project of wild cannabis in the name of "crusade against illicit cannabis".
1-2.Problems
1) Human rights are violated by imposing prison terms for noncommercial use, possession and cultivation of cannabis: a plant widely accepted to be less harmful than cigarettes.
2) An expanding market controlled by criminals is placing cannabis users whom are otherwise law abiding citizens in contact with hard drug dealers.
3) The potential of cannabis as a substitute for more harmful drugs is ignored.
4) The law enforcement cost to crack down on cannabis-related crimes is not worth the physical harm of cannabis itself.
5) Choice of treatment of medical cannabis patients is jeopardized by sentencing prison term for application, delivery and use of cannabis-based medicine in any form.
6) Banning application of cannabis for addiction treatment deprives people, who have dependency on drugs such as alcohol, nicotine and metha-amphetamine, of effective opportunity to recover.
7) The exaggerated messages about physical harm of cannabis from authorities have little scientific basis. They misinform young people and deteriorate the credibility of government information about drugs as a whole.
8) The factual errors about cannabis continue to promote human rights violations in the form of severe and unjust sentences in cannabis court cases.
9) The high applicative potential of cannabis as a natural resource cannot be developed by keeping grower's license application rejected.
10) Wild cannabis eradication project made an insect, hemp-longicorn, face almost certain extinction.
2.Proposal for the UN Commission on Narcotic Drugs
It is clear that the severe penalties used to enforce cannabis control are more harmful than the act of possession or use itself. Our position is that the Japanese cannabis policy is unjust and counterproductive. Outdated and un-renewed international treaties provide the foundation to Japanese authorities as a justification for their policy. In light of this, we hereby make following three proposals to the UN Commission on Narcotic Drugs.
1. International regulations of cannabis should be reexamined objectively with the latest findings from pharmaceutical, medical and social sciences.
2. Individual rights of cultivation, possession and use of cannabis for personal and medical use should be granted.
3. The basic idea for international cannabis control should be changed from zero-tolerance policy to one based on harm-reduction philosophy.
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国際条約による大麻の規制の見直しを求める提言の日本政府向けヴァージョンと国連麻薬委員会向けヴァージョンについて最終的な調整を行いました。
今回のプロジェクトにご参加いただいている皆様に改めて御礼申し上げます。
各提言はフォーラムにアップしました。
■日本政府向けヴァージョン
■国連麻薬委員会向けヴァージョン
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3月に開催される国連麻薬委員会と日本政府に対し、薬物政策、とりわけ大麻の扱いについて、提言を提出する予定です。以下は野中さんによる原案です。フォーラムのコーナーにも同じ草稿を掲載してありますので、みなさまのご意見や感想をお寄せ下さい。尚、フォーラムのコーナーに海外からの機械的な迷惑投稿が絶えないので、書き込みはユーザー登録をした方に限る設定に変更しました。誰でも投稿できる談話室でのご意見や感想も歓迎です。
ご意見などを参考に最終原稿を仕上げ、日本語原文と英語訳を付し、国連麻薬委員会と日本政府に提出し、海外で同様の問題に取り組むNGOなどとも意見と情報を交換したいと思います。よろしくお願い致します。
国際条約による大麻の規制の見直しを求める提言
━ 第51会期国連麻薬委員会に向けて ━大麻取締法被害者センター
1.はじめに
大麻は1961年の麻薬に関する単一条約(麻薬単一条約)及び麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(麻薬新条約)によって、けし、コカ樹などと共に規制されている植物であるが、近年の研究によって、大麻の有害性は、ヘロインやモルヒネ、コカインのみならず、現在は規制の対象外であるアルコールやたばこより低いことが報告されている。
大麻の適切な使用が、ストレスや精神の緊張の緩和を促し、体内の様々な器官での恒常性維持機能を高める働きをもたらすことは広く知られている。大麻は古くから医薬品として用いられており、多発性硬化症に伴う神経因性の疼痛やオピオイド系薬剤による治療で効果の見られない末期がんの患者の疼痛、AIDS患者の進行性食欲減退や体重減少などの症状を伴う消耗症候群、依存性薬物の依存症など、様々な疾病の治療に有効であり、実際に、大麻が治療薬として認められ、処方されている国もある。
先進諸国の間では、大麻の有害性に関する最新の科学的知見に基づいた正当な評価、個人の価値観を尊重する考え方などに基づいて、薬物の害削減政策として、個人的な使用目的の大麻の少量の所持については、逮捕しない政策を採用している国が多いが、栽培を禁止している国際条約との軋轢により、犯罪組織への莫大な不正利益の供給や取締りに費やされるコストの増大、各国の国民の薬物政策への信頼性の低下など、様々な問題が生じており、現在の国際条約を改めるよう求める声が上がっている。
一方、わが国においては、国際条約による規制を理由に、大麻取扱者を除いて、大麻の所持や栽培が量や理由の如何を問わず、懲役刑をもって全面的に禁止されており、正当な手続きを行って、大麻取扱者免許取得を申請しても交付されない状況が続いている。こうした現在のわが国の大麻政策がもたらす社会的な損失は甚大であり、重篤な人権侵害を引き起こしている。
国連は、2008年を「反省と熟慮の年」(Year of Reflection)とすることを明言しており、過去10年間の薬物政策を総括し、新しい政策を話し合う会議が開催される。そこで、古い国際条約に起因する大麻問題の解決と大麻取締法の抜本的な改正に向けて、以下のとおり提言する。
2. わが国の大麻政策の現状と問題点
2.1 大麻政策の現状
・大麻取扱者を除いて、大麻の所持や栽培、配布が、量や理由の如何を問わず、懲役刑をもって全面的に禁止されている。
・医療用途の大麻の施用や施用を受けることを全面的に禁止している。
・薬物乱用防止教育として、大麻の健康への影響に関する、ことさらに害を誇張した、事実に基づかない誤った情報を流し続けている。
・麻薬単一条約は、産業用途(繊維と種)あるいは園芸用途に限られた大麻草の栽培には適用されないにも拘らず、産業利用目的で、正当な手続きを行って、大麻栽培者免許取得を申請しても、大麻が国際条約により規制されている植物であることを理由に交付されない。
・不正大麻撲滅運動と称して、野生の大麻草までも撲滅の対象とした活動を行っている。
2.2 大麻政策の問題点
・大麻の有害性はアルコールやたばこより低いことが明らかにされているにも拘らず、個人的な使用や非営利目的の大麻の所持や栽培、配布を懲役刑をもって禁止することによって、大麻使用者に重篤な人権侵害を行っている。
・大麻使用者を犯罪組織と結び付け、覚せい剤などの、より危険なハードドラッグとの接触の機会を増加させ、犯罪組織に、不正利益を供給している。
・アルコールやたばこより安全な代替として大麻を選択することが認められていない。
・大麻の取締りに費やす労力や費用が、大麻の実際の有害性に見合っておらず、税金を浪費している。
・医療用途の大麻の施用や施用を受けることを全面的に禁止することによって、患者の生存権を著しく脅かしている。
・アルコールやたばこ、覚せい剤などの、より危険な依存性薬物の依存症の治療に大麻を使用することが認められていない為、患者の依存性薬物からの脱却を困難にしている。
・薬物乱用防止教育として、大麻の健康への影響に関する、ことさらに害を誇張した、事実に基づかない誤った情報を流し続けることにより、主として、未成年者を含む若年層に、政府による薬物に関する情報への信頼性を著しく低下させ、深刻な混乱を引き起こしている。
・繰り返し環境に利用でき、環境問題を改善する貴重な資源である大麻の栽培者免許の取得を過剰に厳しく制限することにより、持続可能な社会の発展と構築を著しく妨害している。
・麻薬新条約には、「第14条 2 締約国は、麻薬又は向精神薬を含有するけし、コカ樹、大麻等の植物であって自国の領域内において不正に栽培されたものにつき、その不正な栽培を防止し及びこれらの植物を撲滅するための適当な措置をとる。その措置をとるに当たっては、基本的人権を尊重するものとし、また、歴史的にみてその証拠がある場合には伝統的かつ正当な使用について妥当な考慮を払うとともに、環境の保護についても妥当な考慮を払う。」と規定されているにも拘らず、環境の保護について妥当な考慮を払うことを怠り、野生の大麻までも撲滅の対象としている為に、重篤な環境破壊を引き起こし、税金を浪費している。実際に、アサカミキリという昆虫が絶滅の危機に瀕している。
3 日本政府への提言
上記のような、大麻政策の現状と問題が、古い国際条約による大麻の規制に起因していることに鑑み、日本政府に対し、第51会期国連麻薬委員会に向けて、以下の2つを提言する。
Ⅰ.第51会期国連麻薬委員会において、国際条約による大麻の規制を最新の知見と照らし合わせ、薬学的、医学的、社会学的な観点から再検証するよう働きかけることを求める。
Ⅱ.第51会期国連麻薬委員会において、世界の全ての成人の個人使用目的及び非営利的目的の為の大麻の栽培と所持の権利を制定するよう提議することを求める。
以上
謝辞
私達に、最新の科学的知見を与えてくださった全ての研究者に感謝の意を表します。
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3月10日から14日にかけてウイーンで開催される国連麻薬委員会に、日本のNGOとして意見書を提出する予定です。
その内容について検討を始めていますが、この件に関する専用のトピックをフォーラムに作りましたので、多くの方からご意見などを寄せて頂きたく、ご案内します。議論を深め、理解を深めましょう。
以下、この件に関する談話室での野中さんの書き込みを引用します。
次回の国連の麻薬委員会の会議:第51会期は2008年3月10日から14日ウィーンで開かれるようです。
http://www.unodc.org/unodc/en/commissions/CND/index.html
麻薬委員会の権限についてはウィキペディアの以下のページにに詳しく紹介されています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%BB%E8%96%AC%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
この会期の直前の2008年3月7日から9日にかけて、ENCODという海外のNGOの人達が’VIENNA 2008: TEN YEARS AFTER THREE DAYS IN VIENNA TO STOP THE WAR ON DRUGS’と題してアクションを行う模様です。
彼らのメッセージは
過去10年間において薬物との戦いは再び失敗しました 。薬物の消費は問題を引き起こすことがあります、しかし、薬物の禁止は災難を引き起こします。何百万人もの人々が有罪とされ、何億ものユーロが効力がなく、逆効果を招く戦争に費やされます。有害で増大する原因となる使用を減らす努力は政府によって積極的に妨害されます。一方、薬物市場は、組織犯罪の手の中に残り、莫大な利益が世界経済を歪めて、広範囲にわたる腐敗を生み出します。
薬物政策は、警察ではなく公衆衛生の問題であるべきで、法の執行(警察)の問題ではありません。私たちは、国連に、世界の全ての成人の人民の個人的な利用や非営利的な目的のための、これに利用できるあらゆる技術的な設備を用いた天然植物の栽培と所有の権利を制定することを求めます。同時に、個々の国々は、禁止に基づかない薬物政策の試みを認めるべきです。
ウィーン2008は、国連にこの緊急のメッセージを送る機会です。ウィーンにて私たちに加わってください。
(野中訳)
という内容です。
http://www.encod.org/info/VIENNA-2008-TEN-YEARS-AFTER.html
同様のイベントは2003年にも行われており、最後は open air dance party で幕を閉じたそうです。
日本のNGOとして国連麻薬委員会に意見書を提出し、海外で同じ問題に取り組んでいるグループにもそれを伝え、日本での取り組みを知ってもらう機会に、あるいは海外のグループと連帯・連携する機会にできればと思っています。
ぜひみなさんのご意見を聞かせて下さい。
日本に大麻弾圧を押し付けたGHQの占領政策に未だに固執執着し、アメリカ連邦政府の模倣踏襲追従しかできない、これまでの日本を改める流れのなかで、大麻取締法の問題も考えたいと思っています。
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国連麻薬委員会 (CND)との対話との対話コーナー。下記の記事リストからどうぞ。
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