●市販薬・処方薬から薬物中毒になるという問題(副作用と依存性問題)
腰痛や持病の片頭痛があっても、現役世代の日本のサラリーマン等は我慢して市販の痛み止めを使う。しかし、痛み止めが効かない場合もある。又、同じ薬ではだんだんと効かなくなって、服用量が増えてしまう事もある。市販の痛み止めには必ず一日の総服用量の厳守が書かれているが、実際に働きながら我慢している人たちがまず希望するのは、早期の痛みからの回復だろう。
そのために一回で痛みが引くように服用量を多くして働いたりするが、それが段々増量になり、薬物依存症になる人もいる。(赤城高原ホスピタル「薬物乱用200人の証言」)
●全国の精神医療施設からのアンケートによる乱用薬物の使用データ
普通の人が持病として痛みを抱えた場合の、市販の痛み止め薬での対症療法には、実は問題がある。日本精神医学界調査の薬物使用による精神患者の調査がインターネットに公開されているが、その読み方によれば、日本の市販薬も含めて薬物依存の問題がかなりよく見える。
▼参照
・全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(PDF)
・薬物乱用問題:政策不在の日本
このデータは2004年の日本における薬物乱用問題の特徴を表すものであると言える。全国の精神医療施設アンケートによる乱用薬物の使用データを、いろいろな角度から評価し、検討を加え、表にもしている。
「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」として、全国の精神科医療施設に文書でアンケートをおくり、得た回答をまとめたものだが、アルコール依存についての症例は除いてある。
「対象症例は,"アルコール以外の精神作用物質使用に関連した精神疾患患者"である。」ということで、回答者は担当医師、患者にも性格について自己評価尺度を求めたものという事である。その限られたデータのごく一部を見ても、いわゆる薬物乱用問題について日本では的外れな対策をやっているのかがわかると思う。
その得られた数字は、覚醒剤を主剤として精神疾患になったとされる者が最も多く、全回答例で症例があったもの453人のうち233人(51%)と過半数を占めている。大麻については17人(3.8%)と低い。
近年の増加傾向と多剤の中での使用例が多いことをこのレポートでは指摘している。其の他の薬物として多いのは、有機溶剤77人(17%)、以下睡眠薬44人(9.7%)、抗不安薬7人(1.5%)、鎮痛薬11人(2.4%)、鎮咳薬16人(3.5%)、其の他20人(4.4%)、多剤(医薬品)16人(3.5%)、多剤(規制薬物)12人(2.6%)である。
しかし、もう少し、項目を丸めると、睡眠薬以下の普通の治療薬、市販品の他、医師の処方したものもあると思われるが、全部合わせる78人である。又、医薬品と規制薬物の多剤も合わせて28人、恐らく、ヘロイン、コカイン、睡眠薬から鎮咳剤まで、多くの薬品を使ったのであろうと思われるが、これを合わせると116人(25.6%)と、有機溶剤を上回る。有機溶剤と合わせると193人(42.6%)である。これは覚醒剤、大麻などの規制薬物に匹敵する。規制のない薬物の乱用問題が2004年には深刻であるという事を物語っているのである。
日本でハード・ドラッグと言われるヘロイン・コカインの使用率は欧米各国と比べ非常に低いといわれるが、併用薬物としてコカイン45人、ヘロイン20人の使用がある。決して少なくはないのである。圧倒的には覚醒剤を主たる薬物として使用しているものが多く、コカイン34人、ヘロイン14人である。又大麻を主たる薬物として使用したものはコカイン4人、ヘロイン1人と絶対数において少ないが、覚醒剤と同じく規制薬物として違法行為に手を染めた心理もコカイン・ヘロインに手を出しやすいと考えられる。
又、大麻が覚醒剤の入門薬だという相関はない。データ上もゲートウェイは否定される。私は、もともと大麻についてよく言われるゲートウェイ論は、因果関係についてまで述べられると言うことは非科学的な素朴な俗論であると思っている。2004年において、薬物乱用問題は、圧倒的に覚醒剤と有機溶剤を含んだ薬品による精神疾患を問題とするべきなのである。それ以降この問題は改善されているのであろうか?
又、この報告でも例えば覚醒剤を主たる薬物とした者のうちの過半数130人が有機溶剤の使用歴がある。その開始年齢が若いため、有機溶剤はあらゆる乱用薬物のゲートウェイ、すなわち入門薬であるとも言えるとされている。(PDFファイル10ページ、26ページ表13、表14-1)
(1)主たる使用薬物の覚醒剤使用者の過半数が有機溶剤使用経験がある。
(2)主たる使用薬物の有機溶剤使用者のうち3分の1が覚醒剤使用者である。
こういう事を述べることは出来ても、それが有機溶剤使用者が覚醒剤使用者になるというゲートウェイ仮説を証明するものではない。単なる相関が見られるという事である。同様に、覚醒剤使用者の42.9%(100人)が大麻使用者である。大麻使用者の41.2%(7人)が覚醒剤使用歴がある。これについては両方とも開始年齢がほぼ同時、覚醒剤の大麻併用開始年齢が21.8才±6.5才に対し、覚醒剤開始年齢が21.6才±5.9才と変わらないことからも、大麻は覚醒剤の入門薬という事は否定される。
日本では、大麻使用は覚醒剤などの違法ドラッグの入門薬であるという相関自体が存在しない。
実はこの報告でもよく読めば薬物乱用者の家庭環境や入手経路などについて非常に詳しく報告されていて、問題の解決に示唆を与えるデータも明示されていると言える。
赤城高原ホスピタルホームページでも同じ内容の記述があると思う。又、薬物乱用による精神疾患で、圧倒的に大きな問題は違法・合法を問わず、乱用薬物は多剤使用者が圧倒的に多いことという事が覗えると思う。
これは一つの薬物による強力な依存性が原因で精神疾患になる、という図式だけでは正しい解決が導き出されるわけではないという事も言えるだろう。其の他、この報告には他のデータが数多く一覧表として出されているが、総体的・大局的に、この多くの一覧表を全て見た上での判断が、日本の薬物乱用対策について考えるうえで有効な方法だと思う。
日本の薬物乱用問題における重大な課題として、「覚醒剤問題」と、大麻を除く他の薬剤についての乱用問題について、国や自治体などの行政機関は向き合わなければならないと思う。この報告書と、「赤城高原ホスピタル」の公開サイトを、よく読む事を是非勧めたい。
患者自身の手記と院長のコメントを見ると、前述した全国の薬物による精神疾患患者の調査データは見事に符合する。
むしろ、「薬物としての大麻」については、他の薬物に比較すれば危険性の少なさを立証する様なものばかりか、アルコールを加えるならヘロイン・コカインより危険な物として酒について考える必要が出てくると思う。
衝動的な殺傷事件に覚醒剤が絡んでいる事例はよく報道されるが、アルコールもそれに負けない位多いと思われる。
酒の上での喧嘩などは日常的にありふれたものであるが、それをアルコールの「向精神作用」として覚醒剤やコカインなどによるものと同様と日本では見られないのはおかしいのである。
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