by 麻生しげる
略歴:1971年サンフランシスコ生まれ.2000年医療大麻の免許取得.2003年オークランドへ転居しメディカル・マリファナ・グロワーとして生活.2010年PROP19のボランティアでディスペンサリーや大学キャンパスにて有権者登録を実施するなど大麻合法化運動に参加.職業は司法通訳.
「どのような結果が出ようとも、我々の勝利はもう決まった。世に議論を巻き起こしたのだから・・・」 - あるPROP19のボランティア
今回、審議にかけられたマリファナ新法の選挙では、カリフォルニア州民の生の声が反映されなかったように思うのは私だけか。
無残な結果に終わった選挙だが、恐らくはそうではあるまい、今回の開票結果がカリフォルニア住民の大麻擁護センチメントを反映しているとはとうてい思えない。マリファナ新法の為だけに投票所を訪れた人々の数は10人に1人にも満たなかったという。最初から最後まで盛り上がりに欠けたキャンペーンだった。
この無残な敗北の影には様々な要因が働いている。ひとつには、アメリカの選挙はすべて登録制度になっており、選挙登録してなければ、投票できない仕組みになっていることがあげられる。登録所に赴いて選挙権を獲得したら、通知が届く。不在者投票の場合や人口の少ない地域では郵送にて参選できる。
が、選挙が始まる前から実際に投票する嗜好大麻擁護派の若者に問題意識が欠けているのではないかと、私は以前より懸念していた。彼らの視界には、あらゆる産業、医療、伝統、文化への貢献、莫大な税収、悪法を適正化するという姿勢、こういったものが存在しないのではないかと思うようになった。
少なくとも、全国民に投票が義務付けられていたとしたら、今回の選挙はこのような残念な結果に終わらなかったと思う。万能ではないが民主主義とは本来こういうものであり、アメリカでは権利は勝ち取っていくものだと信じられている。
PROP19はその起草からして呪われていた。原案を作ったのは誰だか知らないが、その内容はあやふやで、明確な栽培のガイドラインや社会的ルール、課税の仕組みの説明なども曖昧、すべては自治体に任せるというお粗末な代物だった。ハナから草案がこれでは、負け戦に挑むようなものだ。
マスコミもマスコミである。マリファナを擁護する報道はかなり多かったものの、余りにセンセーショナリズムに走りすぎたキライがあった。これが不評を買ったひとつの要因とも考えられる。又、PROP19を応援したタレントや俳優、コメディアンなど、メディアに多大な影響力をもつ彼らがしたことは、僅かなものだった。最大限の努力を払ったスーザン・サランドンやスヌープ・ドッグなどでさえ、それほど活発な行動力は見受けられなかった。投票しろ、という前に、登録しろ!というほうが大事だと思うのも私だけか。しかも、マスコミがPROP19に傾倒し始めたのが遅すぎた。前日や前々日のあわてた報道では、とてもじゃないが間に合わない。ここにも登録制度の落とし穴がある。登録してから通知が届くまで何週間もかかるのだ。ソロス氏の献金も遅きに失した。
マリファナ新法の投票率が高かったベイ・エリアは兎も角、ディスペンサリーのもっとも多いロサンゼルス地区での苦戦も敗因の要素といえる。
朝日新聞はこれをヒスパニック系の住民の間のマリファナ依存症が問題になっている云々と分析したようだが、そうであれば、これは間違いである。
ヒスパニック系住民の多くはメキシコ系の不法滞在者で、生活の為に麻薬カルテル等に関わるものが多いのは事実、そしてメキシコは毎年大量のマリファナをテキサスやサンディエゴ経由でアメリカに輸出しているが、だからといって、このような人たちに投票権がある筈もない。又、ヒスパニック系アメリカ人の間でマリファナが問題になっているなんて聞いたことがない。それを証明するかのように、今回の選挙ではヒスパニック系や黒人の警察官連盟がマリファナ新法をサポートした。
投票所に向かうと思われたグロワーやディスペンサリーにも内分裂があった。嗜好大麻が合法化されると困る人たちも中にはいるのだ。
現在のシステムでは、ディスペンサリーはマリファナ栽培免許を持った人々から、平均1グラムあたり約$5で半ポンドづつ預かり、委託という形を取って販売している。これをグラム$15前後で患者に売るわけで、とりわけ都市部では非常に儲かるシステムになっている。ブラック・マーケットをも考慮にいれると、一部のグロワーも大麻が合法化されると困るわけだ。
もう一つの問題点はアメリカにおける、州法と連邦法の食い違いである。メディカル・マリファナはカリフォルニア州では完全に合法化されている現状だが、連邦政府がこれに目を光らせている状況は今も変わりない。
連邦法ではマリファナの使用、販売、輸入、栽培等が依然として禁止されている。だから、カリフォルニア州でも100株以上の大麻栽培で捕まると、連邦法により処罰されるが、オバマ大統領はそれ以下は自治体の定めによって追訴しないとの公約を現在の所、守っている。又、カリフォルニア州の知事のシュワルツネッガー氏も1オンス以下のマリファナ所持を非犯罪化させた事情もあり、その現状で満足なポット・スモーカーが多いのも事実である。
見つかると、罰金刑のみが科せられる。つまりは違反切符のようなものを切られるらしいが、まだそれで捕まった人の例を私は知らないので詳しい所は判らない。何れにせよ、メディカル・マリファナ・グロワーがアメリカの連邦機関であるFBIやDEA, ATF等を恐れなければならない現状は何一つ変わってやしない。
これはあらゆるメディカル・マリファナ患者にとっての生存権の侵害であり、リスボン宣言にのっとった患者の権利に相反する制度である。
それでは、予測される2012年の住民投票に向けての課題を整理してみる。
1)少しでも多くの有権者を獲得、登録すること。
2)とりわけ若い層に問題意識を持って貰うよう、教育すること。
3)原案の改正。マスコミの有効利用。
4)社会の新しいルール、所持や栽培のガイドライン、マナーや納税義務を明確にすること。嗜好品としてアルコール等と同様の厳しい規則を設けること。
5)連邦政府と折り合いをつける意味で、なんらかの不起訴保証を獲得すること。
以上の点を踏まえて、歴史から学びましょう。
民衆の意思を尊重しない政府は必ず興亡の道をたどる。カリフォルニア州よ、目を覚ませ!どちらにせよ一歩前進したのだから。
「我々は大麻草を植える一方で、人間という草に水をやり、人間という草に時間を割く。苦労を承知で。」― あるカリフォルニアのマリファナ農家
了
[※THC編集部注] カリフォルニア在住で医療大麻のライセンスを持ち、合法的に栽培もしている麻生しげるさんに、医療大麻法のことや制度の実際的な運用面でのことなど、さまざまな観点から、現地の様子を読者会員コーナーに不定期連載して頂くことになりました。日本にはどのような制度設計で医療大麻を落し込むのが妥当かなど、日本の今後を考えるうえで、とても参考になりそうです。お楽しみに。
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