××××
昭和53年1月13日生
上記の者に対する大麻取締法違反被告事件について,××地方裁判所が平成16年10月25日言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官佐野年英出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中120日を原判決に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人藤澤和裕作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,上記検察官作成の答弁書に各記載のとおりであるから,これらを引用する。
1 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について
論旨は,要するに,原判決は,原判示第1の大麻栽培について大麻取締法24条1項を,同第2の大麻所持について同法24条の2第1項をそれぞれ適用しているが,(1)大麻には,耐性がほとんどないほか,身体的依存性や毒性もなく,また,有害性が指摘されているといっても,タバコと同程度かそれ以下のものでしかない上,大麻を使用することによって,暴力的ないし攻撃的になるということもなく,長年医療に利用されてきたことに照らすと,大麻の栽培,所持を規制すべき立法事実は存しないから,これらを規制する大麻取締法は幸福追求権を保障した憲法13条に違反しており,また,(2)大麻よりも危険性,有害性が高くあるいは同程度に有害と認められるアルコールやタバコの所持摂取が原則として個人の自由にゆだねられているのに,大麻についてはその所持や使用を規制するのは,法の下の平等を定めた憲法14条にも違反し,さらに,(3)大麻取締法が定める罰則規定は過度に重いから憲法31条にも反していて,大麻取締法は違憲,無効であるから,被告人の原判示各所為に同法を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある,というのである。
そこで,検討すると,記録によれば,大麻の有害性については,大麻の成分であるテトラヒドラカンナビノール(THC)が脂肪に溶ける性質を有することから,1週間程度体内に残ることや,近時大麻に含まれるTHCの量が増加していることに照らすと,大麻を継続使用した場合には,THCが体内に蓄積され,人間の脳に永続的な異常を生じさせる可能性があること,禁断症状,精神的な依存性,耐性のほか,不安,パニック,急性精神病状態等の急性症状を引き起こすなどの精神病理面での影響を与えること,反応時間,視覚認識を低下させるなど運動能力等への影響があること,男性ホルモンの生成を抑制するだけでなく,生殖能力を低下させる可能性もあることなどが指摘されている。このような指摘に対しては,その根拠となる動物実験による結果から,人体に対する影響を推測することの当否や,有害性の程度についての見解の相違などから,人体に対する有害性を否定し,又は有害性を肯定できるだけの決定的な証拠はないとする見解も存することが認められる。
このように,大麻の有害性については,多様な見解が存するところ,国民の福祉を向上,増進すべき責務を負っている国としては,国民に対する明らかな害悪を除去すべき責務を負うことはもちろんであるところ,その害悪の存否について,前記のとおり,異なる議論の存する大麻の場合であっても,その有毒性を肯定する研究が存在し,人体に対し害悪をもたらす可能性が否定できない以上,国民の福祉を向上,増進するという公共の福祉の見地から,大麻の栽培や所持を規制することには合理性を認めることができる。そして,大麻取締法は,大麻栽培に対しては,1月以上7年以下の懲役,大麻所持に対しては,1月以上5年以下の懲役をそれぞれ罰則として定めているところ,同法によれば,これらの行為に対して罰金刑を選択する余地はないけれども,懲役刑の下限はいずれも1月であって,更に酌量減軽も可能であるし,執行猶予制度もあることからすると,この法定刑が過度に重いとはいえない。したがって,大麻取締法24条1項,24条の2第1項の各規定は,憲法13条,31条に違反するものではない。
また,大麻や,タバコ,アルコールが心身に及ぼす影響はそれぞれ異なるため,これらの有害性を単純に比較することはできないから,大麻の有害性が,タバコやアルコールの有害性と同等かそれ以下であるにすぎないと断定することはできないし,大麻に対する規制が,タバコやアルコールに対する規制と異なっているとしても,このような異なる取扱いは,すべての人に等しく適用されるのであるから,これが憲法14条に違反するものともいえない。
その他,所論(弁護人の弁論を含む。)にかんがみ検討しても,原判決には所論のような法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
2 控訴趣意中,量刑不当の点について
論旨は,被告人を懲役1年6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,被告人に対しては,刑の執行を猶予すべきである,というのである。
そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに,本件は,大麻草8本を栽培し,大麻23.98グラムを所持した事案であり,原判決がその「量刑理由」の項で説示するところは,当裁判所においても,相当としてこれを是認することができる。
すなわち,各犯行の動機に酌量の余地がないこと,栽培した大麻の本数や,所持した大麻の量が少なくないこと,被告人は,平成12年2月に大麻取締法違反(譲受け,譲渡,所持)の罪により懲役1年8月,3年間刑執行猶予に処せられていながら,その猶予期間満了後,約7か月で原判示第1に係る大麻の栽培を始め,その後,収穫した大麻の一部を所持して原判示第2の犯行に及ぶとともに,その間,頻繁に大麻を使用していたというのであって,この種犯行の常習性や規範意識の希薄さが認められること,以上の諸点に照らすと,被告人の刑事責任を到底軽視することはできない。
そうすると,他方で,被告人が各事実を認めていること,今後,法律で禁止されている限りは,大麻の使用や所持等を2度と行わない旨述べていること,原審公判で,父親が今後の指導監督を誓っていること,被告人が,××として,父親の営む××で重要な役割を果たしているとうかがえることなど,被告人のためにくむべき諸事情を十分考慮するとともに,大麻の有害性について,これを否定し,あるいは小さいものであるとする見解があるといった所論指摘の点を検討してみても,本件が刑の執行を猶予すべき事実とは認められず,刑期の点でも,被告人を懲役1年6月に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中120日を原判決の刑に算入することとして,主文のとおり判決する。
平成17年4月19日
高松高等裁判所第1部
裁判長裁判官 古川 博
裁判官 河田 泰常
裁判官 幅田 勝行
これは謄本である
平成17年5月19日
高松高等裁判所
裁判所書記官 増田 耕一 〔印〕
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