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Taku博士の薬物政策論稿 > オランダの薬物政策
第5節(1) オランダのハームリダクション政策に対するアメリカ政府の反応
オランダの薬物政策 : 投稿者 : 白坂@THC主宰 投稿日時: 2006-12-08

アメリカ合衆国では、実のところオランダよりも早く1973年から78年にかけて、オレゴン州を皮切りに11の州でカナビスの少量の所持を非犯罪化する法律が成立している。
しかし、比較的麻薬に寛容であった70年代が終わり、80年代のレーガン政権以後内外でのドラッグウオーが本格化してからは、長年に渡ってアメリカ政府はオランダの麻薬政策に批判的態度を貫いてきた。

以来、様々な客観的根拠の乏しい非難や中傷をアメリカ政府はオランダに対して行ってきている。中でもクリントン政権時のONDCP(Office of National Drug Control Policy)長官であったバリー・マキャフリーのオランダ訪問に先だって行われた批判は有名である。

この一連の出来事は1998年の7月の始め、マキャフリーがホワイトハウスの麻薬政策の責任者としてオランダへの視察旅行を発表したところから始まる。
マキャフリーはオランダ訪問に先立ち、7月9日のCNNのインタビュー番組の中で、オランダの麻薬問題に対するアプローチを「全くの大失敗」(unmitigated disaster)と評し、「オランダの若者の間では麻薬中毒者の割合がこの間劇的に増加する傾向にあり、一方我々は減少している」と発言した。[27]

さらに彼はその4日後の13日には訪問先のストックホルムでの記者会見で、ソフトドラッグとハードドラッグを区別しない禁止政策を維持しているスウエーデンの麻薬政策を称賛したうえで、アメリカでは人口10万人に対して8.22件の殺人事件が発生しているの対し、オランダでは17.58件の殺人事件が発生し、さらに犯罪件数全体でも人口10万人に対しアメリカは5,278件であるが、オランダは 7,928件とおよそ40%以上もオランダの方が犯罪発生率が高いという統計を示し、「その原因はドラッグである」との発言を行った。[28]

ONDCPのスタッフがどのようなリソースからこの統計を持ちだし、オランダの殺人と犯罪の発生率と麻薬との因果関係を証明したのかは定かではないが、当然この発言に対してオランダの統計中央局(CBS)はその誤りをすぐに指摘した。

翌14日に発表されたオランダCBSによる統計によれば、マキャフリーが持ちだした1995年の実際のオランダでの殺人の発生率は、人口10万人に対し1.8人とアメリカのほぼ4分の1で、マキャフリーの統計は未遂を含めた数字であったことが明らかとなった。[29]

マキャフリーの発言に対しオランダ大使館が正式な抗議を行ったところ、ONDCP副長官のジム・マクドナーは15日のワシントンポスト紙上でこのCBSの統計に対し、「仮にそれは正しいとしよう。しかし依然としてオランダ社会はより暴力的で、殺人に対し適切な対応をしておらず、それは自慢するようなことではない」と述べ、事実上オランダの抗議を無視し一切謝罪することもなかった。[30]

このマキャフリーの一連の発言に対しオランダでは、保守的なキリスト教民主系の新聞Trouwでさえ、一面でマキャフリーの発言を「統計の乱用」と批判し、同じく自国の麻薬政策に批判的な保守系新聞、De Volkskrantもその社説の中で、アメリカは「既にドラッグウオーに敗戦」しており、マキャフリーの間違いだらけの申し立ては「禁止政策の破綻」を証明しているもので、アメリカの麻薬撲滅運動は既に「脱線してしまっている」という主張を掲載した。[31]

これと同様のアメリカの役人による発言は、NIDA(National Institute on Drug Abuse)の創設時の長官であったロバート・デュポンによる、フォンデルパーク(アムステルダムにある公園)のオランダ人の若者を、「カナビスでストーンしたゾンビ達」と評した発言や、また他のドラッグツァーリによる、「アムステルダムの通りは、ジャンキーにチップを渡しながらでなければ歩くことはできない」などの発言が有名である。[32]
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[27] Portland NORML News, July 15, 1998 [http://www.pdxnorml.org/980715.html].
[28] Reuters, 13 Jul 1998, “U.S. Drug Czar Bashes Dutch Policy on Eve of Visit, Monday”.
[29] Portland NORML News, op.cit.
[30] Reinarman, C. (1998) “Why Dutch Drug Policy Threatens the U.S.” (Published in Dutch), Het Parool, July 30.
[31] Ibid.
[32] Ibid.

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