ハームリダクション政策では、麻薬中毒者を社会的に再統合するため、彼らの存在の社会的ノーマライゼーションが目標として掲げられている。
そこには、非合法麻薬の使用に限らず、売春婦、ホモセクシャル、精神障害者に対するレイベリングという社会的問題が、もとより社会がある特定の集団を周辺化していることから生じた問題であるという認識と、彼らの行為に対するメインストリームの価値規準に基づく道徳的判断を括弧に入れた、一定の異質性、逸脱性を受け入れる寛容性が必要とされる。
ゆえに本稿で取り上げたカナビスの非犯罪化政策も、それがヘロイン中毒者のみを分離してカテゴリー化し社会的に周辺化するのであれば、本来の政策的理念を本質的に見失った処置と言わざるを得ない。
カナビスの非犯罪化は、オランダモデルにみられるようなハードドラッグの使用者に対する多様なサービスの提供と同時進行されることによって、その本来の政策的意図が達成されるものと筆者は考える。
麻薬問題に関するハームリダクション政策の実践にとって大きな障害となるのは、麻薬の使用全般に対して多くの人々が自然に持っている道徳的嫌悪感ではなく、むしろある道徳的規準からみて異質とみなされる他者に対する否定と排除の論理であると考える。
ゆえに麻薬問題におけるハームリダクション政策が社会に根づくためには、その政策的効果から見たプラグマティックな動機だけでなく、その前提としてマイノリティ、社会的弱者、外国人文化、サブカルチャーを包摂した社会統合を可能とするような、他者理解を志向した一定の道徳的、倫理的寛容性が要求されると考えられる。
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