信州医療大麻裁判-桂川の陣-第2回公判の報告その2、弁護士による冒頭陳述です。
平成25年(わ)第174号等 大麻取締法違反被告事件
被告人 桂 川 直 文
冒頭陳述要旨
平成26年3月20日
長野地方裁判所松本支部 御中
弁護人弁護士 森 山 大 樹
上記被告人に対する大麻取締法違反被告事件につき、弁護人が証拠により証明しようとする事実は、下記のとおりである。
記
第1 被告人の大麻に関する活動、経歴
1 1993年、被告人は、友人である宮下賢一が大麻取締法違反で起訴され、同人の裁判を支援した。その際、加藤就一裁判官が大麻の需要があれば法が変わると述べたことから、被告人は、宮下賢一らと「麻の復権をめざす会」を結成し、大麻合法化運動を始めた。宮下賢一の裁判後、被告人は、大麻合法化運動として、音楽イベント、裁判支援、書籍の出版などを行った。
2 1994年、被告人は、小冊子「フリータイムス」を出版した。被告人は、オランダの大麻品評会(カンナビス・カップ)を取材し、テレビ番組として放映した。この頃、被告人は、医療大麻を知り、医療大麻も含め大麻合法化に向けた運動を始めるようになった。
3 1995年、被告人は、「意識を変える麻が世界を救う」と題するシンポジウムを中央大学の学園祭において行った。
4 1995年、被告人は、「麻の復権をめざす会」のメンバーや弁護士丸井英弘らとともに、「マリファナX」を出版した。
5 1997年、被告人は、この頃から年3回程度、大麻関連のイベントを主催し、多くの人々に対し、大麻に関する海外の事情についてレクチャーするようになった。この頃、被告人は、白坂和彦(以下「白坂」という。)と知り合い、交流が始まった。
6 1998年、被告人は、長野県において大麻栽培者免許の交付を受けた。栽培目的は、麻の紙を作るためであった。この頃、被告人は、多発性硬化症患者の団体と交流するようになり、難病患者に対し医療利用目的で大麻を使えないかなどの協議をした。被告人は、2001年まで大麻栽培者免許を所持し、紙を作るために大麻を栽培していた。しかし、2002年度免許申請時、長野県は、被告人が栽培目的に「神経痛のための使用」を加えたことから栽培者免許の不許可処分をした。被告人は、異議申立てを行ったが却下された。
7 2002年、被告人は、スイスの大麻国際見本市(カナ・トレード)を取材し、「スペクテイター誌 2002 春号」に寄稿した。
8 2003年、被告人は、中島らもに対し、同人の緑内障の治療のために大麻を譲渡して有罪となり、2009年まで服役した。被告人は、出所後、大麻合法化運動の引退を宣言した。
9 2011年、白坂主宰の大麻報道センターのホームページ上の医療大麻情報を閲覧した多くの難病患者から、同センターに対し、医療大麻を譲って欲しいとの声が寄せられた。被告人は、この頃、大麻合法化運動を再開した。
10 2013年7月頃、被告人は、大麻草の茎から抽出したCBDオイルを輸入販売し始めた。
同年9月、被告人は、「あとの祭り~だから今こそ医療大麻を」というイベントにおいて、大麻草の茎から抽出したCBDオイルについての講演を行った。
11 2014年3月現在、被告人は、大麻草の茎から抽出したCBDオイルを輸入販売するための会社設立準備を行っている。
第2 本件大麻栽培、所持に至る経緯
1 被告人は、2011年春頃から、再び大麻を栽培するようになった。その頃、医療大麻合法化運動を行う白坂は、被告人に対し、医療大麻の栽培の協力を依頼した。被告人は、依頼に応じた。
白坂は、大麻報道センターの主宰である。大麻報道センターは、大麻の医療的な効果を示す海外の文献や報道などを日本語に訳して公開する団体であり、その情報をホームページに掲載している。末期がんや難病を抱える多くの患者が、大麻報道センターの情報を閲覧し、白坂に対し、医療大麻を試したいと打診した。白坂は、医療大麻を患者に配るため、大麻栽培に精通している被告人に対し、医療大麻の栽培を依頼した。被告人は、医療大麻が数多くの難病に有効であり、世界各国で使用されていることを知っていた。被告人は、白坂に共感し、本件大麻を栽培した。
2 被告人が栽培、所持した大麻は、ストロベリーコフという品種の大麻だった。ストロベリーコフは、世界各国で医療大麻として使用されている品種である。ストロベリーコフは、CBDの含有量が多く、THCの含有量が少ない。
3 白坂は、被告人が栽培した本件大麻を難病患者らに配った。白坂も被告人も、医療大麻を渡した見返りとして金員などは受け取っていない。本件大麻を受け取った難病患者らは、本件裁判において、被告人の刑罰が軽くなることを望んでおり、被告人に対し、何かできることがあれば力になりたい旨述べている。
4 被告人は、栽培した本件大麻を自らも吸食していた。被告人は、乾燥させた本件大麻を葉巻にして大麻たばこを作り、また、バターに溶かして吸食した。世界各国において医療大麻は使用されており、一般的に大麻たばこやクッキーにして吸食される。被告人は、本件大麻を自己の健康維持目的、医療利用目的で栽培、所持した。
第3 大麻について
1 海外の大麻に対する対応
海外においても、わが国同様、1961年の麻薬に関する単一条約や1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約などを締結している国は、大麻を規制している。しかし、先進国において目的を問わず大麻の所持、栽培に懲役刑のみを科し、厳しく規制しているのはわが国だけである。
(1) アメリカ
アメリカ連邦政府は、大麻を厳しく規制し医療大麻を正面からは認めていないが、州単位では医療大麻法案が施行されている。エリック・ハンプトン・ホルダー司法長官は、2013年9月8日、児童を大麻から遠ざける州法の整備を条件に、大麻を合法化する州で吸引した場合、連邦法の罰則の対象にしないとの方針を表明した。全米弁護士組合は、2013年7月11日、「大麻の禁制を終結させると、多面的な恩恵が得られる。合法化されれば、大麻産業が安定した産業に変化し得る。また人権侵害が大幅に減少し、有色人の検挙・受刑率が減少する。さらに刑事における大麻の地位が変わると、法執行のコストが減少し、住民は刑事司法制度に関わらなくてすむことになる。合法化により、結果的に、医療大麻の研究を阻む制限がなくなり、必要に応じて治療を受ける患者が増えることになる。このような見通しはそれぞれ、健全な経済、刑事司法、公共保健政策にふさわしいものだ。」と表明した。オバマ大統領は、2014年1月19日、「大麻にアルコール以上の危険はない。若者や使用者を長期間刑務所に閉じ込めておくべきではない」と述べた。
ア アラスカ州
アラスカ州では、1998年11月3日、住民投票における58%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決さ、1999年3月4日に施行された。同法案は、1999年6月2日、修正された。患者は、医師から「大麻が治療に有効である」との推薦書を得れば、アラスカ州での大麻の使用、所持、栽培に関して訴追を免れる。患者は、乾燥大麻1オンス(28.5グラム)までの所持、成熟した大麻草3株までの栽培が認められる。
イ アリゾナ州
アリゾナ州では、2010年11月2日、住民投票における50.13%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、2011年4月4日に施行された。患者は、医師の推薦により、乾燥大麻2.5オンス(71.25グラム)までの所持、大麻草12株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
ウ カリフォルニア州
カリフォルニア州では、1996年11月5日、住民投票における56%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、同日に施行された。同法案は、2003年10月、修正された。患者は、医師の推薦により、乾燥大麻8オンス(228グラム)までの所持、成熟した大麻草6株もしくは未成熟の大麻草12株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
エ コロラド州
コロラド州では、2000年11月7日、住民投票における54%の過半数をもって、大麻の薬効を医学的に認める法令が可決され、2001年6月1日に施行された。同法案は、2010年6月7日、修正された。患者は、医師の判断より、乾燥大麻2オンス(57グラム)までの所持、大麻草6株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。また、コロラド州では、2012年11月6日、住民投票によって、嗜好品としての大麻使用が合法化され、州内の住民であれば1オンス(28.5グラム)、州外の住民であれば4分の1オンス(7.125グラム)までの所持が認められる。
オ コネチカット州
コネチカット州では、2012年6月1日、大麻の薬効による「苦痛の一時的緩和効果」を認める条例が可決され、同年10月1日に施行された。患者は、医師の推薦により、1ヶ月分の乾燥大麻を所持することが認められ、使用、所持の訴追を免れる。
カ デラウェア州
デラウェア州では、2011年5月13日、医療大麻に関する法案が施行された。患者は、医師の推薦により、乾燥大麻6オンス(171グラム)を所持することが認められ、使用、所持の訴追を免れる。
キ ワシントンDC
ワシントンDCでは、1998年、住民投票における69%の過半数をもって、医療現場における大麻治療の合法化法案が可決されたが、下院議会における医療大麻に関する禁止令が出され、2009年まで禁止されていた。ワシントンDCの立法評議会は、2010年5月、ディスペンサリー(大麻配給所)の設営を許可した。下院議会は、同年7月26日、修正案である医療大麻に関する法案を可決した。同法案は、2011年、修正された。患者は、乾燥大麻2オンス(57グラム)を所持することが認められ、使用、所持の訴追を免れる。
ク ハワイ州
ハワイ州では、2000年6月14日、医療大麻に関する新法案が可決された。患者は、医師から「大麻の使用が、病気による健康被害を防ぐ」と書面にて診断されれば、乾燥大麻3オンス(85.5グラム)までの所持、大麻草7株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
ケ メイン州
メイン州では、1999年11月2日、住民投票における61%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、同年12月22日に施行された。同法案は、2002年4月2日、2010年4月9日、2011年7月24日、修正された。医師の「専門的判断」により「医療大麻の使用が疾患に有効である」とされた患者は、乾燥大麻2.5オンス(71.25グラム)までの所持、成熟した大麻草6株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
コ メリーランド州
メリーランド州では、2003年、医療大麻弁護法案が可決され、2011年5月10日、修正案が可決された。患者が1オンス(28.5グラム)以下の大麻所持で起訴され、審理において「医療的必要性」を主張し認められた場合、刑罰が免除される。大麻栽培や1オンス以上の大麻所持の場合にも、「医療的必要性」が認められれば減軽される。
サ マサチューセッツ州
マサチューセッツ州では、2012年11月6日、住民投票における63%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、2013年1月1日に施行された。医師から「医療大麻が治療に有効である」と推薦された患者は、乾燥大麻60日分の所持が認められ、使用の訴追を免れる。
シ ミシガン州
ミシガン州では、2008年11月4日、住民投票における63%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、同年12月4日に施行された。同法案は、2009年4月4日、2012年末、修正された。患者は、医師の許可により、乾燥大麻2.5オンス(71.25グラム)までの所持、大麻草12株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
ス モンタナ州
モンタナ州では、2004年11月2日、住民投票における62%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、同日に施行された。同法案は、2011年5月14日、修正された。医師から「医療大麻が治療に有効である」と診断された患者は、大麻草6株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
セ ネバダ州
ネバダ州では、2000年11月7日、住民投票における65%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、2001年10月1日に施行された。患者は、医師の推薦により、乾燥大麻1オンス(28.5グラム)までの所持、大麻草7株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
ソ ニュージャージー州
ニュージャージー州では、2010年1月18日、思いやりある医療大麻法案が可決され、同年10月に施行された。患者は、乾燥大麻2オンス(57グラム)までの所持が認められ、使用、所持の訴追を免れる。
タ ニューメキシコ州
ニューメキシコ州では、2007年4月2日、医療大麻に関する新法案(リンとエリンの思いやり法案)が可決され、同年7月1日に施行された。同法案は、2009年1月、修正された。患者は、乾燥大麻6オンス(171グラム)までの所持、大麻草12株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。患者は、医師の推薦があれば、6オンス以上の乾燥大麻を所持できる。
チ オレゴン州
オレゴン州では、1998年11月3日、住民投票における55%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、同年12月3日に施行された。同法案は、1999年7月21日、2006年1月1日、修正された。患者は、乾燥大麻24オンス(684グラム)までの所持、成熟した大麻草6株及び未成熟の大麻草18株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
ツ ロードアイランド州
ロードアイランド州では、2006年1月6日、エドワード・O・ホーキンスとトーマス・C・スレイターの医療大麻法案が可決され、同日施行された。同法案は、2007年6月、2009年、2010年、2012年5月22日、修正された。患者は、医師の許可により、乾燥大麻2.5オンス(71.25グラム)までの所持、大麻草12株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
テ バーモント州
バーモント州では、2004年5月26日、医療大麻に関する新法案が可決され、同年7月1日に施行された。同法案は、2007年7月1日、2011年6月2日、修正された。患者は、医師の許可により、乾燥大麻2オンス(57グラム)までの所持、成熟した大麻草2株もしくは未成熟の大麻草7株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。
ト ワシントン州
ワシントン州では、1998年11月3日、住民投票における59%の過半数をもって、医療大麻に関する新法案が可決され、同日に施行された。同法案は、2008年11月2日、2010年6月10日、修正された。患者は、医師の許可により、乾燥大麻24オンス(684グラム)までの所持、大麻草15株までの栽培が認められ、使用、所持、栽培の訴追を免れる。同州では、2012年11月6日、住民投票により嗜好品としての大麻使用を認める法案が可決され、同年12月6日に施行された。21歳以上の者は、乾燥大麻1オンス(28.5グラム)までの所持を認められ、使用、所持の訴追を免れる。同州は、合法的に販売される大麻に25%の税金を課している。大麻合法化により、莫大な経済効果が期待されている。
(2) スイス
スイスでは、2013年10月初旬、少量の大麻所持を罰金刑とする法案が施行された。18歳以上の者が10グラム以下の大麻を所持した場合、懲役刑ではなく罰金刑とされる。
(3) チェコ
チェコでは、2013年2月21日、治療目的での大麻使用を合法する法案が可決された。患者は、医師の許可により、乾燥大麻を薬局で購入でき、使用、所持の訴追を免れる。
(4) イスラエル
イスラエルでは、2011年8月11日、大麻の療法的な有用性を認め、薬用大麻に関するガイドラインを公表した。イスラエルは、医療大麻に関する研究を積極的に行っている。
(5) スペイン
スペインでは、2010年8月26日、天然の大麻抽出物(THC、CBD)からなる経口スプレー(サティベックス)を医薬品として認可した。サティベックスは、多発性硬化症に伴う痙攣、疼痛、失禁を軽減する医薬品である。スペインは、それ以前から医療大麻を認めている。
また、スペイン・バレアレス諸島州は、2009年4月7日、医療大麻の処方を認める法案を可決した。
(6) イギリス
イギリスは、2010年6月24日、前記サティベックスを医薬品として認可した。イギリスでは、それ以前から医療大麻を認めている。
(7) アルゼンチン
アルゼンチンの最高裁判所は、2009年8月27日、成人による少量の大麻所持に対し、「成人は国家の干渉を受けることなく自らの望む生活様式を自由に決めることについて責任を負うべきである。他者の財産または権利を実際に脅かしたり損害を与えたりしない限り、個人的な行動は許される」と判事し、反大麻法を違憲とした。
(8) メキシコ
メキシコは、2009年8月27日、大麻およびその他の規制された薬物の少量所持を非犯罪化する法案を可決した。5グラムまでの大麻の個人使用目的での所持が認められる。
(9) フランス
フランスは、2013年6月、大麻の活性成分を医療目的に利用することを認める方針を打ち出し、2014年1月9日、前記サティベックスを医薬品として認可した。
(10) ウルグアイ
ウルグアイは、2013年12月11日、嗜好品の大麻所持を含め、大麻を完全合法化した。大麻を完全合法化したムカヒ大統領は、ウルグアイ大統領としての大麻の生産と販売を含む先進的な合法化政策を行ったとの推薦理由で、ノーベル平和賞にノミネートされた。
(11) ルーマニア
ルーマニアは、2013年10月、医療大麻を合法化した。
(12) その他
カナダ、オランダ、オーストリア、ドイツにおいても、大麻の医療利用目的での使用、所持が認められ、スリランカではアユールヴェーダで利用されている。
2 医療大麻を一切禁止する合理的根拠がないこと
(1) わが国における大麻の有害性の根拠
大阪高等検察庁の検察官は、被告人に対する平成16年の裁判において、大麻の有害性の根拠として、厚生労働省外郭団体財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」ホームページの抜粋を証拠調べ請求し提出した。
麻薬・覚せい剤乱用防止センターのホームページは、古いアメリカの薬物教育読本を抜粋し、翻訳したものである。
他方で、厚生労働省は、「大麻:健康上の観点と研究課題」と題する報告書を大麻の有害性の根拠にしている。これは、世界保健機関(WHO)が1997年に作成したものである。
(2) わが国の医療大麻に対する認識
厚生労働省は、大麻を医療的に使用している海外の事例に関する文書を保有していない。
厚生労働省大臣官房長は、大麻が麻であることを知らなかった。同人は、国は、医療大麻について研究し、知る必要があると表明した。同人は、昭和60年判決において大麻の有害性を理由に大麻取締法が合憲となったが、その後の30年間で研究が進み、状況が大きく変わったことを認識し、大麻の問題はわが国におけるハンセン病の問題と同じであると表明した。
日本薬局方には、明治39年から昭和26年まで、印度大麻たばこ、印度大麻エキス、印度大麻チンキが掲載されていた。当時の厚生省は、医薬品としての大麻に効果があること及び副作用がないことを認識していた。
(3) 海外における大麻の医学的・科学的知見
大麻草の成分であるカンナビノイド(THC、CBD等)については、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、慢性疼痛、糖尿病、ジストニア、線維筋痛症、消化管障害、グリオーマ、慢性C型肝炎、HIV、高血圧、失禁症、メチシリン耐性ブドウ球菌、多発性硬化症、骨粗鬆症、そうよう掻痒症、関節リウマチ、睡眠時無呼吸症、トゥレット症候群、鬱病、癌の進行抑制、緑内障、食欲回復、不眠症など約250の症状に対し効用があるとされている。
アメリカで1996年にカリフォルニア州の住民投票で医療大麻法案が可決されたのを受けて、ホワイトハウスと麻薬撲滅対策室(ONDCP)は、翌年、100万ドルを拠出し、全米科学アカデミー医学研究所(IOM)に対し、大麻の医療効果についての調査を依頼した。IOMは、1999年、「大麻と医薬品:科学ベースの評価」を報告した。
カンナビノイド(THC、CBD等)は、痛みの軽減、運動機能の制御および記憶に作用する性質を持っている可能性がある。この効能は、薬剤に即効性があることでさらに高まる。カンナビノイドによる心理的作用が間接的に症状に影響して、薬剤の効能について誤った印象を与える可能性もあり、補助治療として有益な場合もある。カンナビノイドがもつ効能(不安の軽減、食欲促進、悪心抑制、疼痛緩和)は、化学療法による悪心や嘔吐、エイズによる消耗等、ある特定の症状に対し、適度な効果がある。喫煙に伴う害を除けば、大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度である。大麻喫煙を長期間行っても肺に害はない。大麻を医療的使用の観点から見た場合、人体への有害作用は薬物乱用による有害作用と必ずしも同等とはいえない。大麻使用による主な急性有害作用は精神運動能力の低下であり、大麻を摂取した状態での車の運転や危険を伴う機械類の操作は勧められない。少数であるが、大麻使用によって不安や不快感を経験する人がいる。短期間の免疫抑制作用は完全に立証されていないが、そういった作用があっても大麻の合法的な医療使用を不可能にするほど重大なものではない。大麻使用者で依存性を示す者は稀であるが、ゼロではない。依存性を示す者は、薬効が切れて手の震えや嘔吐などの禁断症状を伴う身体的依存ではなく、精神的依存にすぎない。大麻の過剰摂取による死亡は一度も報告されていない。
以上
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