サル・パラダイス
大麻草と文明
ジャック ヘラー (著), J.エリック イングリング (翻訳)
築地書館
1998年5月、アメリカは国連に対して、大麻草に関して次のような禁止政策を履行する旨、申し入れた。医薬品、紙、布、そしてありとあらゆる大麻草由来の製品を禁じようとしたのである。
何がアメリカをして、このように大麻を排除させようとするのか。ここまで神経質に恐れるわけは何であろうか。
アメリカ連邦政府や警察による統計では、毎年、アルコールによる死亡者数は10万人を超える。その一方で、述べ1万年に及ぶ喫煙習慣にもかかわらず、大麻草による死亡者はただのひとりもいない。
正確公平を期すために大麻を摂取するとどうなるかを言うと、大麻を吸えば酔います、というか飛びます。その作用があるからこそ嗜好品として求められるわけでして、アムステルダムのコーヒーショップで出されるような物は、心臓がばくばくするほど激しくきます。
しかし、この大麻の過剰摂取で亡くなった例は無いし、これを吸ったことに起因するとされる殺人事件や暴力事件はありません。
また、それはどんな酔い方(飛び方)かを説明すると、酒に酔っていく様が感覚が鈍くなって、だんだん気が大きくなって、本音を放出しやすくなっていくのに対して、大麻は感覚がより敏感になり、それは例えば音楽、映像、味覚など普段は気づかないような細部の良さまでくっきりと知覚できるようになる。又、それは正の感情のベクトルを肯定し、憎しみや怒りを不思議と遠ざけ、前向きに伸ばすというか、つまりその時の状況をこれでいいんだと納得して満足できるという心境にいたらせ、さらに進めば、瞑想時に到達するような究極の悟りの境地に近づいていく。
ただし、恐怖や不安を抱えて喫煙した時に、バッドトリップといって、さらに恐怖や不安を増長させた不快な体験となる時がある。
さて、この大麻が何故、誰によって、誰のために禁止されたのか?それは、この本「大麻草と文化」に詳しく書かれております。これを読めば、その辺のところが全てはっきり理解できます。社会の勉強にもなります。この世がどのように成り立っているか。このように裏から見てみることでよりよくわかるのではないでしょうか。ぜひ御一読ください。
ここからは、この本を読んでぼくが理解したところ、感じたことをおおざっぱに述べさせてもらいます。
一言で言えば、大麻が人類にとって最も必要な物であり、あまりにも有益すぎたために禁止されたと感じました。そんなばかな。その反対だろう。そう思われるのも無理はない。ぼくもまだ半分そうです。そこまで人類がバカな状況を作っているとは信じたくない。
19世紀後期まで船の帆の90%は大麻草から作られていた。アメリカでは1880年代まで、織物の80%は大麻草の繊維で出来ていた。1883年までは、世界中の紙の75~90%は大麻草を原料としていた。何千年もの間、ほとんどすべての良質な絵具や天然ワニスには大麻草か亜麻の種子を絞った油が使われた。1800年代頃まで、大麻草の種子の油は全世界で最も需要が多いランプ油だった。
それらに取って代わった物はデュポン社の化学繊維、樹木パルプ由来の製紙、ロックフェラーが熱心に供給した石油である。
1937年まで大麻草の種子は鳥類のエサとして世界一、利用されてきた。1900年代の初頭、ヘンリー・フォード等は化石燃料(石炭、油、天然ガスなど)に替えて大麻等のバイオマスにするべきとの見解を示した。1916年アメリカ農務省告示によると、0.4ヘクタールの大麻草栽培で、1.7ヘクタールの樹木と同じだけのセルロース繊維パルプが生産でき、大麻草は圧縮木質ボード等の建築資材の代用品となりえるとある。
現在、大麻を合法化しようとすると、ちょっと待ってとまず言いそうなのは製薬会社だろう。彼らは大麻に似た人工の類似体で酩酊を伴わない薬品の開発に勤しんでいるが、今だうまくいっていない。それに数百万ドルを費やしたにもかかわらず。
例えば、マリファナ喫煙者の間では、リリー社のナビロンやマリノールの効果はすこぶる評判が悪い。なぜなら、大麻草の花穂を一服するのと同じ効能を得るのには、マリノールで3倍から4倍の酩酊状態にならなければならないからである。
どんなにがんばってやっても、天然の大麻にかなう医薬品はまだできていないのである。
ところが、大麻は自然に生えてくる草なので、そのままでは特許も販売による利益も得ることができない。
さあ、だいたいのメンツが出そろったかな。そういうわけで、大麻がそのままあると困るのは、エネルギー産業、石油化学製品会社、製薬会社、酒造会社、タバコ産業等であろう。そして、彼らはマスコミや政治家の多くのスポンサーなのである。
ちょっと視点を変えて、過去の歴史を見てみよう。
この1937年からの約80年の大麻禁止期間以外に、人類の大麻草との1万年の歴史において、他に大麻草摂取が禁止されたことがなかっただろうか。
それは、12世紀のスペインと13世紀のフランスの異端審理裁判所(宗教裁判所)によって禁止された。ワインは宗教儀式に使用され、ビールや蒸留酒も黙認されたが、大麻草をコミュニケーションに利用したり、治療などに使用した者は、「魔女」の烙印を押された。
この時期は、カトリック教会やローマ法王が権力を欲しいままにしていた時代で、庶民は恐怖と無知に煽られた。初歩的なものを除いて、全ての学問は僧侶や聖職者によって厳しく管理された。庶民にはアルファベットを含むすべての読み書きが禁じられ、この命に背いたものには罰則か死が待ち受けていた。
また、この制度は、しばしば政敵等を追い落とすために便利に使われていた。あのジャンヌ・ダルクも大麻草を含む種々の魔女の薬草によってお告げを聞いたとして、告発されたのである。
つまりは、教会は庶民から学問やコミュニケーション能力や天然の薬を取り上げることによって、絶対的な支配を成し遂げようとしたのである。
同様に現在の大麻取締法でも、当初は黒人やメキシコ人、あるいはジャズやロックといった音楽やそのミュージシャンの排除のためにも利用されている。
現代では、この無実の人々を大量に虐殺した教会支配の暗黒時代を肯定的にとらえる人はほぼいないだろう。あまりに滑稽な、人類歴史上の負の部分である。
このようなことが起きることは、少なくとも我々先進国間では2度とないだろうと誰もが考えていると思う。
ところが、現代我々がいるこの社会も全く同じ状況にあるのだ。
一部の者の利益や支配欲のために、あらゆる産業に可能性のある大麻は使用を禁止されている。
大麻所持によりいきなり火あぶりにされることは無くとも、犯罪者の烙印を押され、監獄にぶちこまれるか、そうでなくても地位や財産を失ったりして社会的に排除される。(2005年、アメリカでの大麻単純所持罪の検挙者は786,545人である。)
さらには、大麻による自然循環型社会の実現ができないため、森林を失ったり、公害が蔓延したり、放射能の危険にさらされて、人類滅亡へと進んでいることを考えると、そのおろかさは中世の暗黒時代以上なのかもしれない。
(3に続く)
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