検察の論告は以下の通りです。
論告要旨
罪名 大麻取締法違反
被告人 桂川 直文
第 1 事実関係
1 本件各公訴事実は,当公判廷で取調べ済みの関係各証拠によりいずれも証明十分である。
しかるに,被告人及び弁護人は,公訴事実については争わないものの,「 大麻の 有害性の低さ及びその有用性の高さからすれば,大麻取締法4条1項2号,同項3号,同法24条1項及び同条の2第1項は,自己使用目的の所持・栽培等を禁止している点で憲法14条1項,25条,31条,36条に違反して無効であり,医療使用目的の所持・栽培等を禁止している点で憲法前記各条及び13条に違反して無効である。」旨主張して争っているため,以下,念のため,詳述する。
2 大麻取締法が違憲ではないこと
(1) 大麻取締法が違憲ではないこと
大麻が一定の薬理作用を有し,人体に有害であることは公知の事実であり,国家が国民の生命・身体の安全及び精神衛生等の見地から,大麻の栽培・所持等の行為を規制し,その違反に対して刑罰をもって臨むことには,十分合理性があるのであって,大麻取締法の前記条項が憲法に違反しないことは明らかである(最高裁第一小法廷昭和60年9月10日決定等)。
(2) 弁護人の主張及び証拠に対する検討
ア 被告人及び弁護人は,大麻の有害性の低さ及びその有用性の高さを根拠として自己使用目的及び医療使用目的の大麻を禁止する大麻取締法前記各条の違憲性を主張するが,当公判廷における被告人供述によれば,医療目的の大麻とは,いわゆる医療用に限らず,「気分がよくなって楽しくなる。」,「リラックスして明日への活力が湧く。」などの意味合いをも含むものなのであって,要するに,自己使用目的・医療使用目的の名称を問わず,単に大麻の薬理作用全般を求めるのと同旨であると思料されるところ,被告人の当公判廷における供述によっても,「現在では,被告人が人体に有用であると主張するCBD成分を含むオイルを被告人自身が輸入等している。CBD成分を含むオイルの存在は,平成24年から平成25年に知っていた。」ので、あって,本件犯行当時から,現行の大麻取締法違反の規制の枠内で被告人の自己使用目的・医療使用目的のいずれも概ねその目的を達成できることを知っていたことになるのであって,前記被告人供述は,被告人及び弁護人が当公判の当初に主張し ていた大麻取締法前記各条の違憲の主張がそもそもほぼその前提を 欠くものであるということを自認するに等しいものである。
イ(ア)以下,念のため,付言するに,弁護側請求証拠,弁護側証人の証言及び被告人供述のいずれによっても,被告人が大麻取締法の前記条項が違憲であるとの主張の根拠として挙げる大麻の有害性の低さ及び有用性の高さはいずれも明らかでなく,何ら前記結論を左右するものではい。
(イ)しかるに,証人白坂和彦(以下「 白坂証人」という。)及び同前田耕一(以下「前田証人」という。)は,自身が収集した大麻に関する情報を基に,大要,「大麻は,人体に対する有害性が低く,むしろ有効性が強い。」旨、「海外では,大麻それ自体が合法化される流れにあり,医療目的の大麻に限って言えば,その流れはより顕著である。」旨証言するが,証人両名とも,医療及び薬学等に関する高等教育を受けたことは一切なく,大麻の有害性及び有用性について検証するに足りる信頼性のある専門的知見を備えているとは到底言えないのであって,証人両名の各証言は,その信用性には自ずと限界があると言うほかなく,およそ前記結論を左右するものとはなり得ない。
(ウ)また,弁1,2,4~18号証(その余は違憲主張を基礎付ける証拠としては採用されていない。)は,①被告人の大麻に関する活動(弁4),②大麻の有効性等に関する論文等(弁1,2,5~12),③厚生労働省が保有する大麻関連書籍等(弁13~15),及び④日本で医療目的の大麻が使用されていたこと(弁18)の4つに大別されるところ,①及び③は,被告人及び弁護人が違憲主張の根拠とする大麻の有害性の低さ及びその有用性の高さとは直接的な関連性がなく,②のうち弁10号証を除くものはいずれも単なる私見に過ぎないものであり,米国国立医薬研究所の研究報告であるという弁10号証でさえ,大麻の研究及び臨床試験の必要性を 説いている のであって,大麻の有害性の低さ及びその有用性の高さをいまだ詳らかにできていない上,④も,日本において過去に大麻が医薬品として使用されていたことを示すに留まり,その有用性について医学的・科学的根拠をもって直接的に証明するものではないのであって,前記第1の2(2)イ同様,何ら前記結論を左右するものではない。
〈エ)被告人の供述についても,証人両名同様,被告人及び弁護人は医療及び薬学等に関する高等教育を受けたことは一切なく,大麻の有害性及びその有用性について検証するに足りる信頼性のある専門的知見を備えているとは到底言えないのであって,前記第 1の 2 (2) アと同様,その供述の信用性には自ずと限界があり,前記結論を左右するも のではない。
ウ 結論
以上のことからすれば, 被告人及び弁護人の大麻取締法前記各条の違憲の主張には理由がないことは明らかである。
第 2 情状
栽培・ 所持にかかる 大麻の量は多量であり,犯情も悪い。
(1) 被告人は,自宅及びその敷地内で,大麻草合計97本を栽培し,大麻を含有する植物片約101.361グラム及び大麻を含有する固形物約111.55グラムを所持したものであり,その栽培及び所持していた大麻の量は多量である。
(2) 被告人は,自ら栽培した大麻を自ら使用するだけでなく,被告人の供述によって も,白坂証人を通して他人に譲渡し,自宅やイベント会場で他人に振る舞い,食事に混ぜて家族に食べさせるなどしたのであり,犯情は悪い。
2 規範意識が欠如しており,再犯のおそれが大きい。
被告人は,平成5年に大麻取締法違反により懲役2年,4年間執行猶予の有罪判決を受け, 平成16年4月に同法及び覚せい剤取締法違反等により懲役5年,罰金150万円 (大麻取締法違反のみ)の有罪判決を受けて服役し,平成21年5月に出所した後,被告人の供述によっても,平成23年春頃から,大麻の栽培及び使用等を再開し,本件逮捕に至るまで継続して行ってきたいわゆる大麻解放論者であり,確信犯的に犯行を重ねてきたものであって,この種事犯における規範意識はおよそ欠如しており,再犯のおそれは大きいと言うほかない。
3 以上のことからすれば,被告人の刑事責任は重大であり,被告人が事実関係については自白していることなど被告人に有利な事情を考慮してもなお,被告人を矯正施設に収容し,徹底した矯正教育を施す必要がある。
第 3 求刑
以上の諸事情を考慮し,相当法条適用の上,被告人を懲役4年に処するとともに長野地方検察庁松本支部で保管中の大麻である植物片90袋(平成25年領第232号符号 1-1,2-1,3-1,4-1,5-1,6-1,7-1,8-1,9-1,10-1,11-1,12-1,13-1,14-1,15-1,16-1,17-1,18-1,19-1-1~67, 同年領第233号符号3~7)
大麻である植物片1個 ( 同号符号 1)
大麻を含有する練り物状のもの1個 ( 同号符号 2 )
を没収するを相当と思料する 。
以 上
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