弁護士による弁論は以下の通りです。
平成25年(わ)第174号等 大麻取締法違反被告事件
被告人 桂 川 直 文
弁 論 要 旨
平成27年3月17日
長野地方裁判所松本支部 刑事部 御中
弁護人 森 山 大 樹
上記被告人に対する大麻取締法違反被告事件について、弁論要旨は下記のとおりである。
記
第1 はじめに
近年の世界的な薬物規制は、一般的に、厳罰化に進んでいるといわれている。日本をみても、飲酒運転の厳罰化、歩きたばこの禁止、店舗内での禁煙、たばこの箱に有害である旨の記載の強制、いわゆる危険ドラッグの取締りなど、薬物に対する規制は年々厳しくなっている。
他方で、有害性や有用性についての研究が進み、正しく再評価され、世界的に規制が緩やかになってきている薬物もある。その典型例が大麻である。多くの先進国の研究機関が大麻に関する研究結果を発表し、その内容はテレビや新聞、インターネット等で報道されている。
日本では、大麻取締法が制定されて以降、誤った情報を元に大麻の有害性のみが誇張され、大麻の所持、栽培等が厳しく処罰されてきた。大麻の研究が進んでいなかった時代においては、その結果はある程度仕方がないともいえる。
しかし、大麻の研究が進み、その情報を容易に知ることができる現在においてもなお、今までと同様に誤った情報を元に大麻の所持、栽培等を厳しく処罰することは、司法の自殺行為といわざるを得ず、司法に対する国民の信頼を失いかねない。
裁判所は、大麻の有害性や有用性を正しく再評価し、それを前提として判断を下すべきである。
第2 弁護人の意見
1 大麻の医療目的利用(医療大麻)を一切禁止し、その栽培、所持に対し罰則を与える大麻取締法4条1項2号3号(施用の禁止)、24条1項(栽培に対する罰則)、24条の2第1項(所持に対する罰則)は違憲無効であり、医療大麻として大麻を栽培、所持した被告人は無罪である。
2 仮に、同法が違憲無効でないとしても、裁判所は、人道的観点から大麻を栽培、所持した被告人に対し、重い懲役刑を課すべきでなく、寛大な処分をすべきである。
第3 医療大麻について
1 医療大麻に関する医学的、科学的知見
(1) 医療大麻とは、生活のなかで利用されてきた大麻草の穂の部分を吸ったり食べたりして、医療効果を得る目的で使用するものである(弁2、5頁)。大麻は、日本だけではなく、数千年前から世界各地で利用され、特に漢方では効果の高い医薬品として処方されてきた(弁2、5頁)。
かつて日本薬局方には、印度大麻草、印度大麻エキス、印度大麻チンキが掲載されており、日本において、大麻は医療目的で利用されていた(弁18)。
その後、大麻取締法が昭和23年に施行され、昭和38年改正の際に同法4条1項3号が追加され、大麻から製造された医薬品の受施用行為は禁止された。それ以降、日本において、大麻の医療目的利用は一切禁止されている。
しかし、海外では大麻の研究が進み、多くの国が医療利用目的での大麻の栽培や所持を認め、中には嗜好品としての大麻の栽培や所持を認める地域も出てきた。
世界では、多くの研究機関が大麻の有害性及び有用性を明らかしている。
(2) 世界保健機関(WHO)は、1997年、大麻に、がん化学療法による悪心嘔吐制御、食欲増進に効果があると発表し、続けるべき研究として、喘息、緑内障、抗うつ剤、食欲増進薬、抗けいれん薬、免疫学的研究を挙げている(弁2、6頁)。
同機関は、大麻の有害性について次のように述べている(弁30、45頁以下)。
① 大麻は関連するプロセスを含め、認知発達(学習の能力)を障害する。学習と回想の両方の期間で大麻が使用されるとき、以前学習した項目の自由な回想はしばしば損なわれる。
② 大麻は、幅広い種類の作業(自動車運転など)、注意の配分、及び多くのタイプの作業過程における運動神経を損なう。複雑な機械に関する人間のパフォーマンスは、大麻に含まれるわずか20mgのTHCの吸引後、24時間にわたって損なわれる可能性がある。大麻によって運転する人々の中には自動車事故のリスクが増加する。
③ 注意と記憶のプロセスに関する様々なメカニズムで、複雑な情報の組織化と統合を含む認知機能の選択的障害を引き起こす可能性がある。
④ 長期間の使用は、より大きな障害につながる恐れがあり、使用を中止しても回復しないかもしれず、日常生活機能に影響を及ぼすかもしれない。
⑤ 大麻の制御不能で過剰な使用に特徴付けられる大麻依存症の進展は、恐らく慢性の使用者中に存在するであろう。
⑥ 大麻の使用は統合失調症患者の病状を悪化させるかもしれない。
⑦ 器官と主要な気管支の上皮の損傷は長期の大麻喫煙で引き起こされる。
⑧ 気道の損傷、肺の炎症、及び長期の間の持続的な大麻の消費からの悪影響に対する肺の防御力の低下
⑨ 重度の大麻使用は、禁煙群と比べて高い慢性気管支炎の兆候の蔓延とより高い急性気管支炎の発生に関係している。
⑩ 大麻使用は妊娠中に胎児の発育における出生時の体重減少に通じる障害に関連している。
⑪ より多くの研究がこの領域で必要だが、妊娠中の大麻使用は出生後のまれな形態のがんの危険性につながるかもしれない。
また、同機関は、大麻の有用性について、次のように述べている(同、46頁)。
① いくつかの研究は、癌やエイズなどの病気の進行期における悪心嘔吐にカンナビノイドが治療効果を示した。
② カンナビノイドの他の治療用途は制御された研究で示されており、この分野の研究は続けるべきである。例えば、胃腸の機能へのカンナビノイドの効果の中枢と抹消のメカニズムの更なる基本的な研究は、悪心嘔吐を軽減する力を進歩させる可能性がある。
③ THCと他のカンナビノイドの基礎的な神経薬理学の更なる研究が、より良い治療薬の発見を可能とするためにも必要である。
(3) 全米科学アカデミー医学研究所(IOM)は、1999年、大麻とその含有物質であるカンナビノイドに潜在する健康への有益性及び危険性を評価するために科学的根拠を調査し、大麻に、疼痛緩和、悪心嘔吐制御、食欲増進、(痛み、嘔吐、食欲不振などに対する)広範囲にわたる同時的緩和効果があると発表した(弁2、6頁)。
同研究所は、大麻の有害性について以下のように述べている(弁10、4頁以下)。
① 大麻は全くの無害の物質ではない。様々な作用を持つ強力な薬物である。しかし喫煙に伴う害を除けば、大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度である。
② 大麻の有害作用を主張する研究結果を読む際は、これらの研究の大多数は大麻「喫煙」を前提としていること、したがって、カンナビノイドの作用と、植物それに含まれる有害物質が燃焼して生じる煙の吸引による作用を区別することができないという点を念頭において解釈するべきである。
③ 大多数の人の場合、大麻使用による主な急性有害作用は精神運動能力の低下である。したがって、大麻やTHC、その他同様の作用を有するカンナビノイド系薬物を摂取した状態での車の運転や危険を伴う機械類の操作は勧められない。
④ 少数ではあるがマリファナ使用によって不安や不快感を経験する人がいる。
⑤ 大麻使用者で依存性を示すものは稀だが、ゼロではない。
⑥ いわゆるゲートウェイドラッグ論について、大麻の薬理作用と他の違法薬物使用への進行に因果関係があることを決定づける証拠はない。
また、同研究所は、大麻の有益性について以下のように述べている(弁10、2頁以下)。
① カンナビノイドは、痛みの軽減、運動機能の制御及び記憶に作用する性質を持っている可能性がある。
② 蓄積されたデータからは、カンナビノイド薬の治療的価値、特に、疼痛緩和、悪心や嘔吐の制御、食欲増進といった効果がある可能性が示された。
③ カンナビノイド薬が持ついくつかの効能(不安の軽減、食欲促進、悪心抑制、疼痛緩和)は、化学療法による悪心や嘔吐、エイズによる消耗等、ある特定の症状に対し、適度な効果があることを示唆している。
④ 症状が多岐に渡る場合、THCの複合的作用が一種の補助的療法として働く場合があるということである。例えば、体重減少の症状を有するエイズ患者には、不安感や疼痛、悪心を制御すると同時に食欲増進効果を持つ薬が有効と考えられる。
⑤ 不安抑制や鎮静作用、多幸感といったカンナビノイドの心理的作用は、カンナビノイドが潜在的に持つ治療的効果に影響を与える可能性がある。
同研究所は、以上のように報告した上で、次のように提言している(弁10、9頁以下)。
① 化学合成及び植物由来のカンナビノイドの生理学的作用、また、人の体内に存在するカンナビノイドが生来持つ機能について研究を継続すべきである。科学的データは、カンナビノイド薬が疼痛緩和、悪心や嘔吐の制御、食欲促進に効果があるという可能性を示している。この機能は、薬剤に即効性があることでさらに高まる。
② 症状緩和のためのカンナビノイド薬については、即効性、確実性及び安全なデリバリー(体内摂取)システムの開発を目的とした臨床試験が行われるべきである。
③ 不安抑制や鎮静作用等、治療効果に影響を与えるカンナビノイドの心理的作用を、臨床試験で評価すべきである。
④ 大麻喫煙による個々の健康リスクを判断するための研究を、特に大麻使用率の高い集団を対象に実施すべきである。
⑤ 医療目的での大麻使用の臨床試験は、以下に挙げた限定状況下で実施されるべきである。
・大麻使用期間を短期間に限定すること(6ヶ月未満)。
・効果が十分に期待できる症状の患者に対して実施すること。
・治験審査委員会の承認を得ること。
・有効性に関するデータを収集すること。
⑥ 衰弱性の症状(難治性疼痛や嘔吐など)を持つ患者に対する大麻たばこの短期使用(6ヶ月未満)は、以下の条件を満たさなければならない。
・承認済みの薬物による治療が、すべて症状緩和に無効であったことが文書で記録されていること。
・即効性のカンナビノイド薬により症状が緩和されることが十分に期待されること。
・その治療法の有効性を検証できる形で、医学的監督の元に治療が行われること。
・治験審査委員会による審査の手続に匹敵し、医者から報告を受けて24時間以内に大麻を指定用途で患者に提供できるような指導が可能な管理手順があること。
(4) カナダ・マギル大学の研究チームは、2010年8月30日、カナダの医学誌に、大麻吸引は、慢性的な神経障害痛を和らげ、患者を睡眠に誘導してくれるという研究結果を発表した(弁22)。
同研究チームは、有効な治療法がほとんどない外傷後または術後の神経障害痛に苦しむ21人の患者に、大麻を1日3回、5日間吸引してもらった。大麻の主な有効成分であるTHCの含有率は9.4%、1回の吸引量は25mgとした。
その結果、痛みが弱まり、睡眠の質が高まり、気分が向上したことが明らかになった。
他方、程度こそ極めて低いものの、頭痛、ドライアイ、痛みのある部分のしゃく熱感、めまい、無感覚、せきといった副作用が一般的に認められた。
(5) カナダ・アルバータ大学などの研究チームは、2011年2月23日、英医学誌に、服用者を「ハイ」にさせ、食欲を刺激することでも知られる大麻の成分が、がん患者に食の楽しみを取り戻させるのに役立つとの研究結果を発表した(弁21)。
同研究チームは、化学療法を受けている進行がん患者21人を対象に、大麻に含まれている精神活性化合物(THC)のカプセルかプラセボ(偽薬)を18日間服用してもらい、実験終了時に様々なアンケートに答えてもらった。
「食欲が以前よりもある」と回答したのは、THCを服用したグループで73%、プラセボを服用したグループで30%だった。
「食べ物が以前よりもおいしくなった」と回答したのは、THCを服用したグループで55%、プラセボを服用したグループで10%だった。
さらに、THCグループは、プラセボグループよりも睡眠の質が高く、リラックスの度合いが高いことも明らかになった。
同大学のウェンディ・ウィスマー准教授は、味覚や嗅覚、食欲を失った患者にTHCを服用させることを推奨している。
(6) アラバマ大学医学部予防医学科とバーミングハムの退役軍人医療センターは、2012年1月10日、米国医師会の医学誌に、時折マリファナを吸っても、喫煙のような長期的な肺へのダメージはなく、むしろやや改善する場合もあるという研究結果を発表した(弁20)。
研究者らは、1985年から2006年の間に4都市に住んでいた18歳から30歳を対象にマリファナ吸引について調査した。データは米国立心肺血液研究所の出資で運営される研究機関CARDIAのものを使用し、吸引量は、1日1ジョイントないしパイプ1本を1年間吸った量(365ジョイント)を「1ジョイント年」とする単位を使用した。
研究の結果、平均で1日あたり1ジョイントを7年間吸引し続けた人の肺に、悪影響はみられなかった。
たばこの喫煙者とマリファナ吸引者の肺機能を比較した結果、喫煙者の肺機能の方は喫煙時間の増加に伴って悪化したのに対し、マリファナ吸引者の肺機能はやや改善した。
(7) カンナビジオール(CBD)を多量に含む大麻には、一日に数百回訪れる、生死に関わる重度のてんかん発作の諸症状を劇的に抑制する薬理効果があることが確認されている。(弁6、弁16、弁37)。
米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)が、2013年、18人のCBDで治療中のてんかん児童を抱える両親にアンケートをとったところ、てんかん発作の減少が確認され、また他のてんかん治療薬にありがちな副作用がなかったことが確認された(弁6、2頁)。
オーリン・デヴィンスキー医学博士が統括するニューヨーク州立大学の総合てんかんセンターは、CBD化合物の安全性や有用性を調査し、米国食品医薬品局の認可を得ようとしている。同博士は、「もし私に重度てんかんの子どもがいて、15種に及ぶ医薬品やこれまでの治療法が効かず、障害を伴うてんかん発作を一日に何度も起こしたならば、私は高CBDの大麻草製品を使用することが理にかなっていると判断します。」と述べている(同、3頁)。
(8) 米国立薬物乱用研究所は、2013年、大麻の中毒性について以下の調査結果を発表した(弁11)。
① 大麻使用者の9%が依存傾向にあり、大麻を吸い始める年代が早かった人ほど、その傾向が強くなることが判明した。他の薬物使用による依存の割合は、アルコール15%、ヘロイン23%、ニコチン32%である。
② 常用者が大麻をやめた場合、睡眠障害、不安やイライラを感じるなどの症状が時折みられた。しかし、麻薬の離脱症状とは比べ物にならないうえ、大麻の過剰摂取による死亡は今までに一度も報告されていない。
③ 自分の意志で使用をコントロールできる大麻に中毒性はない。
(9) 米国立医学図書館の国立生物工学情報センターが運営する医学・生物学の学術文献検索サービス(PubMed)には、大麻に関し、以下の論文が掲載されている(弁25~弁27)。
① 2013年12月29日、小児の難治性てんかんにカンナビジオール(CBD)含有濃度の高い大麻を使用している保護者を対象に行った調査の報告(弁25)
この調査は、子どもがてんかんと診断されていること、及び現在、子どもに対しCBDの含有濃度が高い大麻を使用している保護者を対象に行われた。
19名の保護者のうち、16名(84%)が、CBDの含有濃度が高い大麻の使用中に子どものてんかん発作の頻度が減少したと報告した。そのうち、2名(11%)が発作の完全な消滅を、8名(42%)がてんかん発作頻度の80%以上の減少を、6名(32%)が25~60%の発作減少を報告している。
その他の有益な効果には、注意力の上昇、気分の改善、睡眠の改善が含まれた。副作用には、眠気、疲労感などがあった。
② 2013年11月21日、カンナビジバリン(CBDV)は、ペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発によるてんかん関連性遺伝子発現の増加を抑制するとの報告(弁26)
この調査は、PTZにより科学的に発作を誘発された動物に対し、CBDV(400mg)を服用させ、てんかん関連性遺伝子数種の発現量を数値化し、発現の変化と発作の重篤度の相関関係を分析するものである。
調査の結果、発作の軽減と、てんかん関連性遺伝子数種の発現との間に相関性を確認できたと報告している。
③ 2014年4月15日、カンナビジオール(CBD)含有量の多い大麻抽出物による大腸がん発生の抑制効果についての報告(弁27)
この調査は、CBD含有量の多い大麻抽出物が、結腸直腸がん細胞の増殖と大腸がんの生体内実験モデルに与える影響を調べるものである。
結果、CBDは、腫瘍性細胞においては細胞増殖を減少させたが、健康な細胞においては減少させなかった。CBDは、前腫瘍病変とポリープ、および大腸がん異種移植モデルにおける腫瘍の成長を減少させた。
CBDは、大腸における発がん現象を軽減させ、結腸直腸がん細胞の増殖を抑える。この結果は、大麻から製造される薬のがん患者に対する使用について、臨床的関連性を持つ可能性がある。
(10) 米国立がん研究所は、2014年3月25日、「カンナビスとカンナビノイド(PDQ)」という題名で、以下のように報告した(弁39、1頁以下)。
① カンナビス(大麻草)は世界各地に分布している植物で、マリファナとも呼ばれている。
② 医療目的での大麻の使用は、古代より行われている。
③ 米国では、連邦法により大麻の所持が違法とされている。
④ 米国では、大麻は使用に特別な許可が必要な規制薬物である。
⑤ カンナビノイドは、大麻に含まれる活性を持った化学物質で、中枢神経と免疫系を含む全身に薬物様の効果を引き起こす。
⑥ カンナビノイドの投与方法は、服用や吸入、あるいは舌禍への噴霧である。
⑦ 大麻とカンナビノイドは、研究室や診療室で、痛み、吐き気、不安、食欲不振などの軽減について研究されている。
⑧ 大麻とカンナビノイドは、がんの症状やがん治療の副作用に対する治療に有益である可能性がある。
⑨ 2種類のカンナビノイド(ドロナビノールとナビロン)は、化学療法に関連する吐き気と嘔吐の予防用または治療用として米国食品医薬品局(FDA)に認可されている。
⑩ 大麻は、研究室において、がん細胞を殺傷し、免疫系に影響を及ぼすことが示されている。しかし、大麻が免疫系に及ぼす影響が、がんと闘う身体の働きにとって有用かどうかについては、証拠が得られていない。
(11) 世界保健機関(WHO)は、2014年6月、第36回ECDD会議において、「大麻の治療への応用、治療目的による使用および疫学による医療使用への広がり」という題目について以下のように報告している(弁48、8頁)。
① 20世紀の最後の10年間以来、医療使用による証拠が大幅に増加した。特に検討されている適応症は、麻痺、慢性疼痛およびいくつかの神経精神症状がある。様々な方法で様々な国が、大麻の安全で効果的な医療使用の役割を認識している。
② 現在、大麻の医療使用は多くの国で許可されている。過去20年間での医療消費量は2011年までで23.7トン、2014年には77トンに上昇している。
③ イギリスは、多発性硬化症による痙縮の治療に、植物材料から抽出されたカンナビノイドを使用して調製されるドロナビノール・カンナビジオール複合製薬(サティベックス)の製造のために大麻を生産している。
複合製薬は24カ国で医薬品として承認されている(オーストリア、オーストラリア、ベルギー、カナダ、チェコ共和国、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリスを含む)。
(12) 大麻は、喘息、緑内障、腫瘍、吐き気の緩和、てんかん、多発性硬化症、腰痛、筋肉のけいれん、関節炎、ヘルペス、嚢胞性線維症、リウマチ、不眠、肺気腫、ストレス、偏頭痛、食欲不振などの治療薬として可能性があり、研究が続けられている(弁50、77頁?85頁)。
2 大麻に関する世界の動向
(1) 米国麻薬取締局の保守的な行政法判事フランシス・ヤングは、1988年9月、15日間に及ぶ医療的証言に耳を傾け、何百もの米国麻薬取締局や「薬物乱用に関する全米学会」の研究書類と大麻合法化活動家たちによる反対意見陳述を精査した後、「マリファナは人間の知る限り、もっとも安全にして治療に有効な物質である。」は判示した(弁50、67頁)。
(2) 米マイクロソフトの元幹部は、2013年5月30日、米国の一部州で成人用嗜好品としての大麻が合法化されたことを受けて、同国初の大麻の全国ブランドを立ち上げる計画を明らかにした(弁7)。
同人は、新会社が嗜好用と医療用の大麻業界で、コーヒー界のスターバックスのような存在になりたいと語っている。
(3) オバマ大統領は、2014年1月19日、米誌ニューヨーカーのインタビューに対し、「何度も紹介されている通り、私も子どもだった頃に大麻を吸ったことがある。悪い習慣だという点では若い時から大人になるまで長年吸っていたたばこと大差ない。アルコールよりも危険が大きいとは思わない。若者や使用者を長時間刑務所に閉じ込めておくべきではない。」と述べている(弁5)。
(4) 米紙ニューズウィークは、2014年1月22日、マリファナ解禁の莫大な経済効果という記事を掲載した(弁9)。同記事には以下のように書かれている。
米国では、コロラド州とワシントン州で嗜好品としてのマリファナ使用を既に合法化した。
マリファナの使用禁止は禁酒法と非常に似た弊害をもたらした。犯罪は急増し、税収は減り、違法な利用を減らす効果はほとんどなかった。
米税務政策センターによれば、マリファナが解禁されて取り締まり費用がいらなくなれば、90億ドル程度の節約効果が期待できるという。
カリフォルニア州査定平準局が2009年に行った研究によれば、マリファナに課す売上税から徴収できる税収は、カリフォルニア州だけで14億ドルにも上る見込みという。
(5) 米財務省は、2014年2月14日、西部コロラド州などで嗜好品としてのマリファナ売買合法化の動きがあることを受け、全米の金融機関に大麻販売などを手がける企業との取引を解禁する通達を出した(弁8)。
米国は、大麻使用を連邦レベルで禁じているが、約20州と首都ワシントンは医療目的などの使用を認めているほか、西部のコロラド、ワシントン両州は、2012年の住民投票で嗜好品としても使用の合法化を決定している。
(6) 米紙ニューヨークタイムズは、2014年7月27日、大麻の所持や使用を禁止する米国の連邦法を撤廃し、禁止するかどうかは州に委ねるべきだと主張する社説を掲載した(弁47)。
同紙は、かつて、米国で制定された禁酒法と大麻を禁止する法律を比較し、「アルコールよりもずっと危険性が低い物質を禁止するために、社会に大きな損失をもたらしている。健康な成人が少量の大麻を使用することによるリスクはなさそうだ。」と述べ、国としては合法化すべきだと主張している。
(7) ウルグアイでは、2014年、世界で初めて大麻の使用、生産、販売が合法化され、大麻完全合法化を成し遂げたムカヒ大統領は、同年のノーベル平和賞にノミネートされた(弁12)。
(8) フランスの社会問題・保健省は、2014年1月9日、大麻由来の医薬品の処方を解禁すると発表した(弁42)。これにより、欧州数カ国で既に認可されている多発性硬化症治療用スプレー薬「サティベックス」の処方ができるようになった。
医療目的での大麻の使用は、オランダ、スペイン、イタリア、ドイツ、英国、カナダ、オーストラリアのほか、米国の一部の州でも認められている。
3 大麻に関する日本の動向
(1) 大阪地方裁判所の地引広裁判官は、2004年3月17日、医療利用目的での大麻使用等について、「医療目的での大麻使用は研究段階にある以上、人体への施用が正当化される場合がありえるとしても、それは、大麻が法禁物であり、一般的な医薬品としては認められていないという前提で、なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られると解される。」と判示した(弁49)。
(2) 当時の厚生省麻薬課長の証言によると、厚生省は、今まで大麻の保健衛生上の危害ということについて、特別に研究したということはあまりない(弁28、85頁)。同省は、海外で行われている研究レポートをフォローすることで大麻の研究をしている(同、85?86頁)。
同省は、そのホームページにおいて、世界保健機関(WHO)が1997年に発表した報告書である「大麻:健康上の観点と研究課題」(弁30)を掲載し、公開している(弁29)。
同省は、このWHOの大麻に関する報告書以外に、海外の医療大麻に関する文書を保有していない(弁13、弁15)。
同省は、2009年3月11日から20日までの間、外務省のほか、警察庁、財務省、海上保安庁とともに、第52会期国連麻薬委員会に参加し(弁51)、内容が古くなったWHOの1997年の大麻に関する報告書(弁30)の更新を提言し、その提言が可決されている(弁52、2頁)。
(3) 検察官は、厚生労働省外郭団体財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」のホームページの記述を大麻の有害性の根拠としている(弁31)。
同ホームページにおける大麻に関する記述は、「DRUG EDUCATION MANUAL」(弁32)という名称の冊子の表紙、中表紙、目次及び「CANNABIS」に記載されている大麻に含まれている成分やその有害作用等を翻訳したものである(弁33、6頁)。
同冊子は、20年以上前に米国テキサス州の団体が販売していた薬物標本レプリカの説明書であり、英語の原文には、この情報は必ずしも化学的に正しいものではありませんと書かれている(白坂、6頁)。
同冊子に書かれている内容は古く、これを販売していた団体も今や使っていない(白坂、6?7頁)。
(4) 麻薬・覚せい剤乱用防止センターの糸井理事は、同センターのホームページの大麻に関する情報が古いことを認め、内容の見直しをすると述べていた(弁35、白坂、8頁)。
後任の富澤理事も、2008年内にはホームページを見直すと述べていたが、見直されることはなかった(弁35、白坂、9頁)。
同センターの指導員がテレビ番組において大麻は暴力性を引き起こすと述べていたことから、白坂氏が富澤理事に対しその根拠を尋ねたところ、富澤理事は根拠を答えることはなく、最後には「嫌です。」などと回答し、極めて不誠実な態度を示した(弁35、白坂、9頁)。
(5) 大麻の合法化を求める市民団体が、2013年、大麻取締法4条1項2号3号の削除を求める請願書に署名を集め、衆参両議院議長に対し、それを提出した(弁38、白坂、13頁)。
(6) その後、有志一同が民主党国会対策委員長・松原仁衆議院議員に会い、医療大麻の有用性と大麻取締法の問題点について伝えたところ、同議員は管轄官庁である厚生労働省への説明が必要であろうと判断し、2013年12月25日、同議員事務所において、有志一同と厚生労働省大臣官房長らとの間で会合が行われた(弁17)。
会合において、厚生労働省大臣官房長は以下のように発言している。
① なるほど、大麻が麻であることは知りませんでした。また、戦前には資料写真にあるように多くの麻が栽培されていたのですね。そして、大麻取締法4条によって臨床研究ができないということが問題なのですね(同、2頁)。
② アメリカの連邦法が変わっていくと、日本でも大きな変化が起きてくるでしょう。そのときに私たち官僚が何も知らないということはいえない。いろいろと勉強しておく必要があります(同、2頁)。
③ 我が国では1985年の最高裁判決において、大麻に有害性があることを理由に取締法は合憲となったが、その後、30年近い研究によって、世界ではこのような状況になったのですね(同、3頁)。その間の研究によって、状況が大きく変わっていった。これは、我が国におけるハンセン病の問題と同じということですね。
④ 大麻といわれると、触るのも見るのも恐ろしいものという認識が一般にあり、まさか、麻が大麻だとは思わなかった。そこから認識する必要があると思います。恥ずかしながら、今日のお話をお聞きして、我々の知らないことも二つ三つありました。医療大麻について知ることは大切だと思いました。ありがとうございました(同4頁)。
(7) 経済学者である池田信夫氏は、2008年11月22日、ブログにおいて、大麻は合法化して規制すべきだと主張している(弁40)。
同氏は、以下のように述べている。
問題は大麻そのものではなく、こうした非合法の流通ルートが暴力団の資金源になり、犯罪の温床になることだ。禁酒法がマフィアを育てたのと同じである。合法化して販売し、高率の税金をかければ、酒やタバコで暴力団が出てこないのと同じように、こうした弊害は防げる。大麻の害はタバコとほぼ同じ(かそれ以下)なのだから、取扱いもタバコと同等にするのが当然である。大麻取締法の改正が政治的に困難なら、罰金ぐらいの軽い処分にとどめるべきだ。種子の所持ぐらいで逮捕するのはバランスを欠いている。
(8) 昭和大学保健医療学部の渡辺雅幸医師は、2013年5月、日本神経精神薬理学会において、マリファナの成分であるカンナビノイド系に関する生物学は近年大きく進展し、カンナビノイド系に作用する薬剤は様々な病気への治療薬として期待されていると述べている(弁46)。
カンナビノイド系薬物は多発性硬化症による痙縮、神経障害性疼痛、過活動膀胱の治療薬として各国で使用され始めており、日本神経精神薬理学会においても、医療大麻が取り上げられるようになっている。
第3 大麻取締法の違憲性
大麻取締法4条1項は、大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること(2号)、大麻から製造された医薬品の施用を受けること(3号)を一切禁止する。
これにより、何人も大麻の医療目的利用(医療大麻)は禁止されている。
前述第2で示したとおり、大麻そのものは医薬品である。
嗜好品としての大麻だけでなく、世界中において有用性、必要性、許容性が認められ、広く利用されている医療大麻をも一切禁止し、その栽培、所持にまで罰則を与える大麻取締法4条1項2号3号(施用の禁止)、24条1項(栽培に対する罰則)、24条の2第1項(所持に対する罰則)は、現在の医学的、科学的知見に照らして合理性はなく、憲法13条、14条1項、25条、31条、36条に反し無効である。
1 憲法13条、25条違反
医療大麻を栽培、所持することは、患者の権利ないしライフスタイルに関わる個人の自己決定権であり、憲法上、幸福追求権(憲法13条後段)、生存権(25条)の一内容として保障される。いかなる方法、いかなる医薬品で病気の治療をするかは、患者の権利ないしライフスタイルに関わる自己決定権のひとつだからである。
大麻取締法が大麻の有害性(副作用)を前提として、薬物乱用による保健衛生上の危害を防止するために、医療大麻の栽培、所持に合理的な制限を加えることができるとしても、当該合理性は、制限の必要性と制限される人権の内容、具体的制限態様との較量で決せられなければならない。
大麻の有害性は、近年の研究で明らかになっており、前述第2で示したとおり、大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度である。他方で、大麻の有用性をみると、多くの難病に効果的であることは明らかである。
有害性を前提として大麻を規制する必要性があったとしても、使用によるその有害作用が他の医薬品に許容される範囲内におさまるのであれば、その規制の程度は、必要最小限度の規制として他の医薬品と同程度でなければならない。
向精神薬や麻薬に指定されている薬物は、医師の処方が認められており、所持が許されている。他方、医療大麻については医師の処方は認められておらず、その所持は一切禁止されている。これは、他の医薬品に対する規制と比較して過度な規制であるといわざるを得ない。
大麻の医療利用目的の栽培、所持を一切禁止する大麻取締法4条1項2号3号、24条1項、24条の2第1項は、憲法13条、25条に反し無効である。
2 憲法14条1項違反
(1) 大麻取締法4条1項2号3号は、大麻の医療利用を一切禁止する旨を規定している。
大麻同様に薬物関係取締法規で規制されている向精神薬、麻薬等は、指定を受ければ、施用のための交付、使用、所持が認められている。これと比較して、施用のための交付等を禁止し、医療利用目的で大麻を栽培、所持した者に懲役刑を科すことは、憲法14条1項の意味における差別的取扱いである。
法の下の平等は、法適用の平等のみならず法内容の平等をも意味する。法内容に不平等な取扱いが定められていれば平等に適用しても個人尊厳の原理が無意味に帰するおそれがあるからである。
大麻取締法は、昭和23年に施行され、昭和38年改正の際に同法4条1項3号を追加し、大麻から製造された医薬品の受施用行為を禁止した。それ以降、大麻の医療利用は禁止されている。
しかし、大麻の有害性と有用性の研究は進み、大麻を禁止していた諸外国も、次第に大麻規制を廃止し、または緩和して、医療利用を認めている。
現在の大麻に関する医学的、科学的知見を前提とすると、大麻の医療利用を一切禁止することは、他の薬物規制と比較して著しく厳しい規制といえ、不合理な差別的取扱いであり正当化することは許されない。
不合理な差別によって、大麻の医療利用目的での栽培、所持を規制する大麻取締法4条1項2号3号、24条1項、24条の2第1項は、憲法14条1項に反し無効である。
(2) 大麻に対する規制は、たばこやアルコールに対する規制と比較して厳格であり、憲法14条1項の意味における差別的取扱いである。
同程度の可罰的評価を受ける行為に関する各種法律の規制は同等でなければならない。
例えば、脳、行動への影響をみると、前述第2で示したとおり、大麻は、急性的に学習能力、運動能力を低下させ、認知機能への影響を及ぼす可能性がある。
他方で、一般的にたばこは、脳卒中の罹患率を上昇させるニコチン依存症の原因となる可能性がある。
一般的にアルコールは、急性的に暴力的、衝動的になるという人格変化、急性中毒による死亡の危険、自動車運転における事故発生の危険の増大、慢性的な学習能力、集中力、記憶力の低下、アルコール依存の原因となる可能性がある。
アルコールやたばこの所持、使用は、危険性において大麻同様またはそれ以上の可罰的評価を受ける行為である。
しかし、タバコ、アルコールの取扱いについては、未成年者のみ使用を禁止し、親権者等に科料に処し、販売者を罰金に処するにとどまる(未成年者喫煙禁止法1条、3条、5条、未成年者飲酒禁止法1条、3条)。他方で、大麻の栽培、所持は一般的に禁止され、違反した場合には懲役刑に処される。
大麻、アルコール、たばこはいずれも人体に影響を及ぼす物質であり、大麻のみを合理的根拠なく差別的取扱いすることは許されない。
合理的根拠なく大麻の栽培、所持を規制する大麻取締法24条1項、24条の2第1項は、憲法14条1項に反し無効である。
3 憲法31条、36条違反
(1) 大麻取締法24条1項は、大麻栽培に対し、1月以上7年以下の懲役刑を規定し、同法24条の2第1項は、大麻所持に対し、1月以上5年以下の懲役刑を規定する。
刑の内容は、法益侵害およびその危険性の程度から決められる。
大麻の有害性は、前述第2で示したとおり、他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度である。
大麻の医療利用目的での栽培に対し7年、所持に対し5年の懲役刑を科すことは過度に重いといわざるを得ない。
下限は1月であり、減軽によって15日までになり得るとしても、医療利用目的にまで懲役刑を科すことはやり過ぎであり過度に重い。
目的に関係なく、大麻の栽培、所持に対して、初犯においては懲役1年6月、執行猶予3年程度の判決を下し、2回目以降は実刑とする現在一般の裁判所の運用は、大麻に関する医学的、科学的知見を前提とすると過度に重く、罪刑の均衡を失するもので著しく不合理である。
大麻の医療利用目的での栽培、所持に懲役刑を科す大麻取締法24条1項、24条の2第1項及び刑事裁判における現在の運用は、罪刑の均衡からして著しく不合理なものであって、憲法31条、36条に反する。
(2) 薬物使用、所持に対する刑事罰が許容されるのは、使用による具体的な社会的被害が立証されている場合に限られる。
たばこの喫煙、所持に対しては、その有害性は顕著であるが自傷行為にすぎず、未成年者に対するパターナリスティックな介入はあっても、一般的に刑罰的介入はなされていない。
具体的な社会的被害を想像できるアルコールでさえ、たばこ同様に未成年者に対する介入はあっても、一般的にその使用、所持に対する刑罰的介入はなされていない。
大麻の使用も、自傷行為にすぎず、その使用、栽培、所持に対する刑罰的介入の理由はない。検察官が根拠とするような大麻の有害性(弁31参照)が公知の事実であったとしても、その有害性は、薬理作用そのものないし使用者本人への有害作用(自傷行為)に止まる。
大麻の自己使用目的、医療利用目的での栽培、所持に犯罪の実質性はない。
大麻の自己使用目的、医療利用目的での栽培、所持に懲役刑を科す大麻取締法4条1項2号3号、24条1項、24条の2第1項は、刑罰的介入の理由なく、罪刑の均衡を失するもので著しく不合理であり、憲法31条、36条に違反する。
第4 情状
大麻取締法が違憲無効でなく有罪であったとしても、被告人には有利な情状事実があり、人道的観点から本件大麻を栽培、所持したのであるから、裁判所は、被告人に対し、重い懲役刑を課すべきでなく、寛大な処分をすべきである。
1 大麻に関する活動経歴
(1) 被告人は、1993年、友人である宮下賢一が大麻取締法違反で起訴されたことから、同人の裁判を支援した。
その際、加藤就一裁判官が大麻の需要があれば法が変わると述べたことから、被告人は、■■■■らと「麻の復権をめざす会」を結成し、大麻合法化運動を始めた。■■■■の裁判後、被告人は、大麻合法化運動として、音楽イベント、裁判支援、書籍の出版などを行った。
(2) 被告人は、1994年、小冊子「フリータイムス」を出版した。
被告人は、オランダの大麻品評会(カンナビス・カップ)を取材し、テレビ番組として放映した。この頃、被告人は、医療大麻を知り、医療大麻も含め大麻合法化に向けた運動を始めるようになった。
(3) 被告人は、1995年、「意識を変える麻が世界を救う」と題するシンポジウムを中央大学の学園祭において行った。
被告人は、同年、「麻の復権をめざす会」のメンバーや弁護士丸井英弘らとともに、「マリファナX」を出版した。
(4) 被告人は、1997年、この頃から大麻関連のイベントを主催し、多くの人々に対し、大麻に関する海外の事情についてレクチャーするようになった。被告人は、この頃、白坂氏と知り合い交流が始まった。
(5) 被告人は、1998年、長野県において大麻栽培者免許の交付を受けた。栽培目的は、麻の紙を作るためであった。
被告人は、この頃、多発性硬化症患者の団体と交流するようになり、難病患者に対し医療利用目的で大麻を使えないかなどの協議をした。
被告人は、2001年まで大麻栽培者免許を所持し、紙を作るために大麻を栽培していた。しかし、2002年度免許申請時、長野県は、被告人が栽培目的に「神経痛のための使用」を加えたことから栽培者免許の不許可処分をした。被告人は、異議申立てを行ったが却下された。被告人が大麻を栽培したことで問題が発生したということはなかった。
(6) 被告人は、2002年、スイスの大麻国際見本市(カナ・トレード)を取材した。
(7) 被告人は、2003年、作家中島らもに対し、同人の緑内障の治療のために大麻を譲渡して有罪となり、2009年まで服役した。
(8) 2011年、白坂主宰の大麻報道センターのホームページ上の医療大麻情報を閲覧した多くの難病患者から、同センターに対し、医療大麻を譲って欲しいとの声が寄せられた。白坂氏は、被告人に対し、医療大麻の栽培を依頼した。被告人は、白坂氏からの依頼に応えて、本件大麻を栽培し始めた。
(9) 被告人と白坂氏は、2013年7月頃、大麻草の茎から抽出したCBDオイルを輸入した。同オイルは大麻草の種子と茎から製造されており、厚生労働省や税関等から輸入を許可されている製品である。
被告人は、同年9月、「あとの祭り?だから今こそ医療大麻を」というイベントにおいて、CBDオイルについての講演を行った。
(10) 被告人は、現在、白坂氏とともにCBDオイルを輸入販売する会社である「株式会社あさやけ」を立ち上げ、取締役になっている。
2 本件の動機
(1) 医療大麻合法化運動を行う白坂氏は、2011年春頃、被告人に対し、医療大麻の栽培の協力を依頼した。
白坂氏は、大麻報道センターの主宰である。大麻報道センターは、大麻の医療的な効果を示す海外の文献や報道などを日本語に訳して公開する団体であり、その情報をホームページに掲載している。
末期がんや難病を抱える多くの患者が、大麻報道センターの情報を閲覧し、白坂氏に対し、医療大麻を試したいと打診した。白坂氏は、医療大麻を患者に配るため、大麻栽培に精通している被告人に対し、医療大麻の栽培を依頼した。
被告人は、白坂氏から医療大麻栽培の依頼があり、前述第2の3(1)の判決で非常手段、緊急避難的に大麻の使用が認められることがあると認識していたことから、患者のために必要であれば作ろうと考え、白坂氏の依頼を承諾した。
(2) 被告人は、2011年春から、ストロベリーコフという品種の大麻を栽培した。
同種は、世界各国で医療大麻として使用されている品種であり、CBD、CBNの含有量が多く、THCの含有量が少ない。いわゆるハイになりにくい品種である。
(3) 被告人は、白坂氏からも患者からも、医療大麻を栽培した見返りとして金員は受け取っていない。
被告人は、自らの経験や前記第2で示されている海外の文献および研究結果から、医療大麻で患者が救われることを知っており、主に患者に利用してもらう目的で本件大麻を栽培した。
被告人は、人道的観点から本件大麻を栽培、所持したのであって、その動機は、身勝手でなく悪質でもない。
なお、本件大麻を受け取った難病患者らは、被告人の刑罰が軽くなることを望んでおり、本裁判において証言したいと述べている。
3 被告人の反省
被告人は、今後は、大麻栽培等の違法行為からは一切身を引き、そのような大麻合法化運動には関わらないと述べている。
被告人は、今回逮捕されるまでは大麻規制は憲法違反であると主張し、大麻合法化運動を続けてきた。なぜなら、厚生労働省の外郭団体「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」がそのホームページにおいて誤った情報を掲載し、その情報を教育現場で使い、また検察官も裁判においてその情報を大麻の有害性の根拠とするなど、誤った情報をもとに大麻所持等が厳しく取り締まられていたからである。
しかし、被告人は、現在では、アメリカで大麻合法化が進んでおり、アメリカが合法化すれば日本も合法になるはずであり、現に大麻製品がアメリカから日本に入ってきていることから、自分の役割は終わったと考えるようになった。
被告人は、今後、大麻合法化運動から身を引き、大腿骨を骨折し寝たきりになっている父親の介護に専念するつもりである。客観的にも、父親の食事の世話や下の世話、デイサービスとのやり取りなどで介護を行っている被告人に、大麻合法化運動を続ける時間も余裕もない。
被告人は、公訴事実を認め、嘘偽りなく証言し、違法行為により様々な人に迷惑をかけたことを反省し、大麻合法化運動から身を引くと述べ、反省を示している。
4 医療大麻の栽培、所持に懲役刑を科す実質的根拠がないこと
最高裁判所は、昭和60年9月10日、「大麻が所論のいうように有害性がないとか有害性が極めて低いものであるとは認められないとした原判決は相当であるから、所論は前提を欠き、」と判事した。この判決以降、大麻の有害性は公知の事実とされ、以降の裁判において、大麻栽培、所持等に懲役刑を科す実質的根拠があるかどうかの判断は行われなくなった。
しかし、かかる判決は、大麻に有害性があることを認めただけである。医療大麻の栽培、所持に懲役刑を科す実質的根拠があるかどうかの判断はなされていない。
大麻の有害性が公知の事実であるから、医療大麻も一律に禁止されるということにはならない。なぜなら、医療で使用される薬物には一定の有害性があるのが通常だからである。すなわち、大麻も一定の有害性を前提とした上で、海外では他の薬物と同様に医療利用されているのであり、有害性があることは医療での使用を禁止する理由にあたらない。
医療大麻の栽培、所持に懲役刑を科す実質的根拠は、言い換えれば、医療大麻を認めることによる害悪である。医療大麻を認めることで国民の保健衛生上何らかの危害が生じるのかということである。
前述第2で示したとおり、大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度とされている。強力な副作用を伴う多数の薬物が医薬品として許容されている日本において、海外で安全な医薬品として認められている大麻を禁止し、さらに懲役刑までを科すのは著しく不合理である。
医療大麻の栽培、所持に懲役刑を科す実質的根拠の有無は、被告人に同法を適用する上で、犯罪の成立を妨げる重要な事実、または犯状事実にかかわるものであり、検察官の立証を必要とするものである。しかし、検察官は何ら立証していないし、その実質的根拠は過去の判例でも公知の事実とされていない。
懲役刑を科す以上はその実質的根拠がなければならず、本件においては何ら立証されていないのであるから、医療大麻の栽培、所持に懲役刑を科す実質的根拠はないといわざるを得ない。
仮に何らかの実質的根拠があるとしても、大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度なのであるから、重い懲役刑を科すのは明らかに不合理である。
5 結語
被告人は、人道的観点から医療大麻として本件大麻を栽培、所持したが、現在では、その行為によって様々な人に迷惑をかけたことを反省し、大麻合法化運動から身を引くことを誓っている。
医療大麻の栽培、所持は違法行為であるが、それを処罰する実質的根拠はなく、ただ大麻取締法で禁止されているという形式的根拠があるにすぎない。
被告人は、人道的観点から医療大麻として本件大麻を栽培、所持したのであり、大麻取締法はそれを処罰する実質的根拠を欠くのであるから、裁判所は、被告に対し、重い懲役刑を科すべきではなく、寛大な処分をすべきである。
以上
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