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第1回公判 被告人冒頭陳述
白坂裁判 : 投稿者 : 白坂@THC主宰 投稿日時: 2015-07-23

本日、私の初公判が行われました。傍聴に来てくれた方たち、ありがとうございました。公判の記録は取り寄せてから公開します。下記は、被告人の私自身による冒頭陳述です。30分の予定でしたがちょっと長くなりました。



平成25年(わ)第149号 大麻取締法違反被告事件

冒頭陳述要旨

平成27年7月23日

長野地方裁判所松本支部 刑事部 御中

被告人 白坂 和彦

公判の冒頭に発言の機会を与えていただきありがとうございます。

私はこの裁判で、大麻取締法は憲法違反であり、今回の事件は大麻取締法の合法化運動に対する不当で違法な弾圧であることを主張します。

今回の事件に至るまでの、大麻取締法の改正を求める私自身の取り組みの経過について説明させて頂きます。その取り組みの経過を説明することが、大麻取締法の現在の違憲状態は、同法を所管する厚生労働省の、もはや不作為とは言えぬ作為的な怠慢と、反国民的とも言うべき振る舞いに、主な原因があることを明白にすると考えるからです。

私が初めて大麻を喫煙したのは30年以上前の米国でのことで、その後は海外旅行からこっそり大麻を持ち帰った友人が遊びに来て一緒に吸ったり、18年前に埼玉県から長野県に転居してからは、今回同じ事件で逮捕された桂川さんからも時々もらうようになりました。

その頃は、私は大麻に医療的な有効性があることなど知らず、ただ単にアルコールとは全く違った大麻の穏やかな酔いを、一人で、あるいは友人たちと、楽しんでいるだけでした。もちろん違法であることは認識していましたが、誰かに被害や危害を与えるわけでもなく、誰にも迷惑すらかけずに、音楽やおしゃべりや甘いものを楽しむだけなのです。なぜこのような行為に対して刑事罰が科されなければならないのか、私にはまったく理解できず、おかしな法律があったものだという程度の認識でした。それは私だけでなく、大麻を愛好するおそらくほとんどすべての者が、強く疑問に感じていることでしょう。

私が大麻の医療的有効性について知ったのは、2000年頃、インターネットを通じてのことでした。それまでも、大麻で多発性硬化症の症状が緩和したとか、持病の偏頭痛や神経痛が治まるといった体験談を断片的に聞いたことはありましたが、私は個人の主観的感想として受け止めていたに過ぎませんでした。

ところが、インターネットには、大麻が様々な疾病に効果があったという説得的な体験談が多数あるばかりか、米国では医療大麻の制度化を求める住民運動があることも知りました。オランダやカナダでは政府が医療大麻の販売を始めたり、ポルトガルで開催されたサッカーのワールドカップではフーリガンの暴徒化を防ぐ目的でアルコールが禁止される一方、大麻の使用が黙認されるという出来事も英語圏ではニュースになっていました。

当時すでに米国では複数の州が住民投票によって娯楽目的の大麻を非犯罪化していましたが、流れは娯楽目的の大麻合法化よりも、より優先度の高い医療目的での合法化にシフトしているようでした。インターネットに流れている大麻情報を国際的に見れば、娯楽目的にせよ医療目的にせよ、合法化を求める市民運動が最も活発なのは米国であり、ヨーロッパではそれほどでもないことがわかります。米国では年間約80万人にものぼるという大麻所持による検挙が、人種差別と結びついているという指摘もあり、統計もそれを裏付けています。米国とは一線を画すヨーロッパでは、多くの国で、営利目的の大量栽培や所持を別にして、個人的な使用目的で少量の大麻を所持することなど、実際上は刑事罰の対象にならないことが多いのです。

そのような海外の情報に接し、その頃、私は大麻の非犯罪化を掲げる市民団体の会員になったり、大麻の誤解を解くためのビラ撒きに参加したり、大麻裁判の傍聴に出かけたり、デモに参加したりするようになりました。

2003年の春から、私は桂川直文氏のホームページを作り始めました。反骨精神に溢れる桂川さんの文章が好きでした。同時に、私は、自分自身のホームページを開設しました。私のホームページのタイトルは、大麻や他の違法薬物に関する情報を国民に周知教育している、厚生労働省所管の外郭団体、財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター(以下、「ダメセン」と略称)の「薬物乱用防止 ダメ。ゼッタイ。ホームページ」を皮肉ったもので、「権力乱用防止 ダメ?ゼッタイ?ナンデ? ホームページ」としました。その内容は、大麻を合法的に扱うための免許、大麻取扱者免許の交付を長野県に求め、その手続きをリアルタイムで報告し、大麻取締法と免許制の問題点をより広く社会に知ってもらおうとするものでした。

そのころには、イベントやインターネットを通じて知り合った、癌、リウマチ、神経痛など、何人かの病人たちから、自らの症状を緩和する目的で大麻を使ってみたいと私は相談を受け、不定期にあげていました。病人たちに無償で提供していた大麻のほとんどが桂川さんから譲ってもらったものでした。

桂川さんと私自身のホームページを開設してから間もない7月、厚生労働省近畿麻薬取締部の家宅捜索を受け、同月18日に桂川さんが、30日に私が逮捕されました。桂川さんの容疑は、当時ご存命だった小説家の中島らも氏に大麻を譲渡した疑いで、私の容疑は桂川さんの大麻を隠匿した疑いでした。その後、緑内障の自己治療目的で大麻の入手を希望した中島らも氏に桂川さんを紹介したという「幇助」の罪で、医療大麻を考える会代表の前田耕一氏も逮捕されました。

桂川さんも私も前田さんも、大麻取締法は憲法違反であるとして、それぞれの主張で一審の大阪地裁から最高裁まで争いました。結果的にそれらの主張は裁判所に受け入れられませんでしたが、その後につながる一定の成果はありました。

桂川さんの一審判決は弁護側の違憲主張に対し、『大麻取締法の立法事実である大麻の有害性ないしその使用による影響については、大麻には幻視・幻覚・幻聴・錯乱等の急性中毒症状や判断力・認識能力の低下等をもたらす精神薬理作用があり、個人差が大きいとしても、長期常用の場合だけでなく、比較的少量の使用でもそのような症状の発現があることが報告されており、有害性が否定できないことは公知の事実といえる。』としました。

そこで、控訴審で大麻の有害性を明らかにするよう求めた弁護側の求釈明に対し、検察は、厚生労働省所管の外郭団体、ダメセンの「薬物乱用防止 ダメ。ゼッタイ。ホームページ」から大麻の項目を印刷して法廷に提出しました。
しかしその内容は現代の科学的知見に照らして明らかに誤りが多く、弁護側はさらにその根拠を求めましたが、検察官は、ダメセンに照会したものの、出典は分からなかったと回答しました。

また、大麻取締法第4条で大麻の医療的施用を禁止しているのは憲法違反であると主張した前田耕一氏の裁判において一審判決は、「医療目的での大麻使用は研究段階にある以上,人体への施用が正当化される場合がありうるとしても,それは,大麻が法禁物であり,一般的な医薬品としては認められていないという前提で,なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られると解される。」と述べています。

私自身の裁判では、検察官が論告において『被告人は「大麻はタバコやアルコールより依存性等の害悪が少なく、医療分野での活用や個人使用は認められるべきだ」との信念から犯行に及んだ旨供述しているところ、被告人が大麻についていかなる考え方を持とうと被告人の自由であり、大麻取締法の違憲性を主張してその改廃を求める運動を展開するのも何ら非難されるべきことではない』と前置きしました。ところが、朝山芳史裁判長は量刑の理由として、『被告人は、捜査、公判を通じて、大麻取締法の非合理性を主張するなど、その態度はよくなく、その刑責は到底軽視し得ない』と、被告人の思想や信条を、量刑を重くする理由としたのです。私は最高裁まで争いましたが、まったく納得のいかない結果で終わりました。

この裁判で私は執行猶予付きの判決を受けましたが、桂川さんは懲役5年という極めて重い実刑判決を受けて服役しました。私は、自分が執行猶予付きの判決を受けたからといって終りにすることはできず、むしろ改めて大麻取締法の改正を求める取り組みを深めなければならないと思うに至りました。

その当時、私には家庭がありましたが、私の逮捕によって家族にはとてもつらい、ひどい思いをさせてしまいました。大麻で逮捕された者の多くは、親しい者たちに多大な迷惑をかけてしまったこと、悲しくてつらい思いをさせてしまったことについて反省しますが、なぜ誰にも迷惑すらかけていない行為で刑事罰を受けなければならないのか、捜査当局や司法に対して納得のいかない思いを抱き続けるのです。

私の逮捕は予測できたことで、妻や子供たちにも、私が大麻で逮捕されることになるであろうこと、しかし私は決して人道的に悪いことをしたわけではなく、大麻取締法という法律が間違っているのであるから、周りの人たちに何か言われても気にしないように、と予め伝えてありました。それでも実際に私が逮捕されると、その後どのような展開になるのか、裁判はどうなるのか、保釈されるのかなどなど、家族たちは大きな苦痛と不安の中で過ごしました。

私は収監された大阪拘置所の独房で、大麻取締法で逮捕された人たちの家族に対するサポート活動が必要であると考えました。そこで、保釈されてまだ裁判を続けていた2004年に「大麻取締法被害者センター」というホームページを立ち上げ、桂川さんと私の裁判の報告と同時に、大麻で逮捕された人たちからの相談を受け付ける取り組みを始めました。多くの場合、相談者は逮捕された本人ではなく、付き合っている彼女とか、奥さん、父親や母親といった身内の人で、会社の上司といったケースもありました。その上司氏は、大麻で逮捕された部下はとても優秀な男なので、話は自分の肚に収めて休職扱いとし、懲戒にならないように処理すると話していました。

私には法的な知識はありませんが、近親者が大麻で逮捕されてしまったという相談などは、親しい人たちにもなかなかできず、話せる相手がいるだけで、大麻の事実を知るだけで、精神的には楽になります。相談対応とはいっても、できることは限られていて、話しを聞くこと、大麻の事実を伝えることが中心で、このあとどのような展開になるのかといった見通しを伝えたり、必要であれば弁護士を紹介したりもしています。その相談数はこの 10年で 500件近くになると思います。

個人的に使う目的で大麻の栽培や所持をしていた場合など、まったく誰にも迷惑すらかけていないわけですが、それが発覚して検挙され起訴されると、まるで重大な罪でも犯したかのように実名入りで報道され、学生であれば退学処分となり、勤め人であれば解雇されます。私が具体的に接したケースでも、なぜこれほどの社会的制裁を受けなければいけないのか、怒りとともに暗澹たる気分になる話が少なくありませんでした。

東北のある田舎町で夫が捕まった例では、奥さんとお子さんが村八分のような状態となってアパートからの転居を余儀なくされたり、関東地方で捕まった会社員は懲戒解雇となり、奥さんと小学生のお子さんが社宅から追い出されたりと、少量の大麻を所持していただけで生活の基盤を破壊される現実があるのです。これは果たして罪と罰のバランスが取れていると言えるでしょうか。

相談を寄せてくる人たちの中には外国人もいました。2003年に憲法裁判所において個人使用目的の大麻少量所持に刑事罰を科すのは憲法違反であるという判決を出したドイツから来日していた男性は、10日間に及ぶハンガーストライキを決行して捜査当局に対する抗議の意思を示しました。

フランス人の夫が捕まったという日本人の奥さんからは、フランスはヨーロッパでは大麻に対して厳しい方だが、大麻をくれ、あげない、といったケンカの仲裁に来た警察官が、大麻を持っていたほうの男に、今度からは人に見えない場所で吸ってくれと言って去った、という話を聞きました。

大麻に寛容なデンマーク出身の夫が捕まったという、日本人の奥さんからの相談もありました。2005年当時の話ですが、デンマークでは少量の大麻を所持していた場合、口頭か文書による警告若しくは罰金300デンマーククローネ(約5,400円)で、その罰金は自転車を乗りながら携帯電話を使った場合の罰金500デンマーククローネ(約9,000円)よりも安いとのこと。大麻より自転車携帯のほうが危ないからだそうです。そのデンマーク人は手記に『ヨーロッパ人として、私は、大麻を吸う事はそれほど「悪い」事ではないという印象の中で育ちました。しかしながら、日本は同じ視点を共有していないようです』と書き、『デンマークでは大麻は自由の象徴だったが、日本では不自由の象徴だと知った』という言葉も残しています。

逮捕された人たちの相談を受ける取り組みをする中で、自らも裁判で大麻取締法は憲法違反であるという主張したいという話も入るようになりました。私は、自分の裁判で使った資料や、新しく入手した資料などを提供する活動も始めました。

私は、大麻取締法被害者センターの活動の一環として、桂川さんの裁判で検察が大麻有害論の根拠として提出した、ダメセンのホームページに記載されている大麻の内容について、医学的根拠を示すよう求め続けていました。なんといっても、裁判の場において、大麻有害論の根拠として、つまりは立法事実に関わるデータとして、検察が出してきたものなのです。当時、ダメセンのホームページには、「このホームページは厚生労働省の委託を受けて運営されています」との記述がありました。ダメセンの糸井専務理事も私の電話取材に対し、ホームページの内容は厚生労働省とも相談して決めたと語っていました。

私は、厚生労働省にも電話し、大麻取締法を所管する医薬食品局監視指導麻薬対策課の担当者に、「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」に書かれている大麻に関する内容について、医学的根拠示すよう求めました。担当者は、調べて回答するとのことでしたが、結局2カ月以上が過ぎても、同僚にも手伝ってもらって探したそうですが、医学的根拠は分からないままでした。

取材を進める中で、「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」に書かれている大麻に関する内容は、ダメセン自身が米国テキサス州の反薬物団体から輸入して販売していたアタッシュケース入り薬物標本レプリカの、使用説明書の翻訳でしかないことを私は知りました。その説明書は、アタッシュケース入りの薬物標本レプリカとは別に、独立した冊子「薬物乱用防止教育指導者読本」としてダメセンによって国内の教育関係者向けに売られていたのです。

私はその読本を入手しました。「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」とこの読本の大麻に関する記述内容はほぼそっくりそのままです。「ほぼ」そっくり、というのは、英語原文を翻訳したままの読本に対し、「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」の記述には稚拙な改ざんがあったり、重要な情報が書かれていなかったりするからです。

私は厚労省に対し、ダメセンのホームページに記載されている大麻の記述について、その医学的・薬学的根拠を示す文書を開示するよう、情報公開請求を行ないました。そして、厚労省自身が発行した古い資料などに混じって、唯一の医学的資料として開示されたのが、1997年にWHOが発行した「Cannabis : a health perspective and research agenda」でした。

WHO発行のこのレポートには、大麻を使用した場合の急性症状や慢性症状といった内容のほか、癌の疼痛緩和やAIDS患者の食欲亢進など、医療的な効果がある可能性にも言及しています。しかし、ダメセンのサイトに書かれているような、『心拍数が50%も増加し、これが原因となって脳細胞の細胞膜を傷つける』といった記述は見当たりません。

私は厚労省に、WHO発行の文書のどこが、「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」に使われているのかを電話で聞きましたが、担当者は、全体的に参照しているとして具体的には回答しませんでした。そこでダメセンの糸井専務理事(当時)にも確認したところ、「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」は1997年以前に作成されており、その後は改訂していないので、時系列から考えて、WHOが発行したレポートは参照されていない、とのことでした。つまり、厚労省による情報開示請求の回答は、嘘だったのです。

その後も厚労省は「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」の英語原文を隠蔽しようとし、私は厚労省による情報開示に対する異議申立を行ない、内閣府に置かれた個人情報審査会は、当該の英語原文を開示するよう厚労省に命じました。

これ以降毎年、私は、厚労省が大麻に関する海外の文献などを収集しているのかどうか、また日本国内の研究はどうかなどを確認するため、「厚労省が所有する大麻に関する全ての文書」を情報公開請求していますが、科学的な文献は全く増えていません。

また、この「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」の大麻に関する記述については、某医大に勤務する腫瘍内科専門の医師に検証論文を書いて頂き、それを添付して、厚労省とダメセンに、記述の内容を科学的に正しい内容に改めるよう要望書を送付しました。その要望書は無視されましたが、2007年3月28日、糸井専務理事は情報が古いことを認め、予算をつけて内容を見直すと明言しました。そして、2008年度の予算が付き、「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」の内容を外部の専門家に委託して見直すことが決定しました。

その後、それは実際に外部の専門家に委託され、少なくとも 2008年10月の時点で、糸井氏の後任として着任した富沢専務理事の手元には「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」に掲載されるべき新たなデータがあり、2008年中に更新したいと富沢専務理事は私の電話取材に答えましたが、現実には2015年の今もなお、古い情報がそのまま放置されており、世界では大麻はアサ科に属す1年草ですが、「ダメ。ゼッタイ。ホームページ」ではずっと「クワ科」のままです。

2008年当時、日本社会は、大学のラグビー部に所属する学生たちが寮で大麻を栽培したという事件を契機に、マスコミがこぞって「大麻汚染」といった報道を繰り返していた時期です。私は、誤った報道については訂正を求めるように努めてきました。 あるテレビ番組に出演した、元麻薬取締官で、現在もダメセンの指導員を務める浦上厚氏が、大麻を吸うと凶暴になるといった、まったく根拠も不明な説明をしていたので、私は浦上氏にその根拠を確かめるべく、連絡を取るためダメセンに電話したところ、対応した富沢専務理事は、ホームページの記述の根拠を示すのは「イヤです」と言って無責任な対応に終始しました。社会が、大麻についての正しい知識を今こそ必要としていた時期、修正した情報を持っていたはずの天下りは、それを握り潰し、今も尚、古い情報のままなのです。

私は、大麻取締法に関する疑問について、度々厚労省や関係官庁に電話取材しています。そして、厚労省の場合は必ず、外郭団体であるダメセンの大麻情報を見直すよう求めます。これまで対応してくれた課長補佐2名、係長1名にも、何度も伝えてきました。が、自分たちの先輩である天下りに意見することなどできないのか、日本の公的大麻情報は、20年近く前の米国製薬物標本レプリカの説明書のままなのです。根拠もなく「ダメ。ゼッタイ。」と学校で子どもたちに教え続けているのです。マスコミの報道姿勢は変化を見せていますが、まだまだ日本社会は大麻に関して情報鎖国と言ってもいいような状況です。

2009年、監視指導麻薬対策課の安田課長補佐(当時)は、ダメセンの大麻情報の見直しを求める私との電話での対話のなかで、厚生労働省のホームページに大麻情報のページがないので、それを開設すると説明し、実際にようやく遅ればせながら、厚生労働省のホームページにも大麻情報のページが追加されました。そのページには、医学的な大麻情報として、1997年にWHOが発行した「Cannabis : a health perspective and research agenda」が明示されました。

しかし、海外では各国がそれぞれ独自に大麻に関する様々な研究を行っており、WHOのその情報はすでに陳腐化していました。私はそれを指摘しました。安田課長補佐は、大麻に関する医学的な情報は国際社会で共有する必要があると言いました。そして、第52会期国連麻薬委員会に日本政府として提出した安田氏起草の提言の中で、大麻に関する科学的な情報をWHOにおいてアップデートし、国際社会が共有できるようにすることを求め、この提言は採択されました。つまり、日本政府は、1997年にWHOが発行した報告書の内容が古いことを認識しているのです。G8と呼ばれる先進国のなかで、例外なく大麻の使用を禁止しているのは日本だけです。

大麻取締法被害者センターとして1人で活動を始めた取り組みでしたが、2008年頃には趣旨に賛同してくれる人たちとのネットワークが形成され、相談対応も逮捕経験のある元相談者が担当してくれるようになりました。

その頃、私は大麻取締法被害者センターという名称から、大麻取締法変革センターという名称に変更し、NPO的なあり方を模索しました。国政選挙の際には必ず各政党に「大麻取締法についてのアンケート」を送付して政策を確認し、主要政党に大麻取締法問題を知ってもらう機会としてきました。

また、ダメセンの大麻情報を改めさせるだけでなく、英語の得意な人に呼びかけ、大麻に関する海外の医学的な研究や、社会的な動向などを翻訳し、日本社会に提供する取り組みも始めました。官製情報公害であるダメセン大麻情報へのカウンターとしても、まず何よりも正しい知識を普及させる必要があると考えてのことです。これまでに仲間たちと翻訳した英語記事は優に1000本を超えると思います。

大麻の医療的有効性についての翻訳記事が増えるにつれ、身内や自らの疾病に大麻を試してみたいという相談が入るようになりました。しかし、この活動をスタッフ的な関係性で手伝ってくれている人の中には大麻の所持などしていない社会的な立場のある人もいて、何かあって迷惑が及ぶといけないので、私自身も大麻そのものには関わらないことを約束して協力をお願いしたこともあり、実際に所持してもいなかったので、当初は病人の依頼を断っていました。多くの病人が、大麻を試してみたいと願いながら死んだだろうと思います。

私はその後も志を共有する仲間たちの協力を得ながら、衆参両院の厚生労働委員会に所属する全国会議員70名に大麻の科学的検証を求める要望書を送付したり、国連麻薬委員会に同様の要望書を提出したりしてきました。

私が今回病人に大麻の提供を始めたのは、出所して2年近く経っていた桂川さんが大麻栽培を始めたのを知ってのことでした。それまで断っていた病人からの依頼ですが、なんとかならないかという、泣きつくような、縋り付くような、切実な連絡が入るようになり、私は桂川さんから譲り受けた大麻を病人に提供するという、10年前と同じことを再開しました。初めのころは診断書をもらっていましたが、話を聴けばウソか本当か分かるので、それはやめました。

私は再び大麻の現物を手にすることにしたので、そのことをスタッフ的な関係性で協力してくれた人たちには率直に話し、態勢を再構築し、運動体としての名称を大麻報道センターに改め、関係官庁やマスコミなどに取材して報告する取り組みを強化しました。

2013年4月。大麻報道センター英語版編集長を引き受けてくれている、カリフォルニア在住で、医療大麻の使用ライセンスと、販売目的で栽培も手がけている、麻生しげる(仮名)が、注目すべき情報を投稿してくれました。米国では、向精神作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)ではなく、向精神作用のないCBD(カンナビジオール)を主原料とするオイルが評判だというのです。特にてんかんには大きな効果が期待できるとの話でした。

大麻から抽出したエキスなど日本では違法だと私は思い込んでいました。念のため、厚労省にも電話して聞きましたが、大麻草から抽出したものは違法だと説明を受けました。が、改めてメーカーのサイトをよく読むと、その原料は産業大麻の茎から作られていることが分かり、私は再度、厚労省や税関や麻薬取締部に連絡し、合法的に輸入できることを確認しました。そして、大麻草から作られたCBDオイルが日本にも合法的に輸入できることを祝って、そのお披露目イベントとして、今回私が逮捕されたイベントを企画したのです。

日本の大麻鎖国の状況は変わらないなか、近年、米国では大麻を巡る環境が劇的に変化しており、それは現在も続いています。米国では、医療目的に先行して、娯楽目的の大麻の非犯罪化が各州の住民運動として取り組まれてきました。大麻には薬としての価値などまったくないというのが連邦政府の立場です。しかし、大麻が様々な疾病の症状を緩和することが科学的に次々と明らかになり、米国での大麻合法化運動は、娯楽目的よりも、医療目的での制度化が優先的に求められるようになり、2015年4月現在、日本に大麻取締法を強要した米国では、娯楽目的の大麻が20州で非犯罪化され、医療大麻は23州とワシントンDCで合法化されています。来年はいよいよWHOでも大麻の扱いについて議論になるようです。

日本では、大麻取締法を合憲とした昭和60年の最高裁決定以降、時間が止まったままです。同じ捜査当局とはいっても、検察と警察は訳が違います。警察官が法と命令に従って職務を遂行するのは当然であり、恣意的であっては困りますが、検察官は法律家として、法廷の場で、事実と真実を追求する責務があるのではないでしょうか。

私は、こちらが争点化している大麻の有害性の程度について、一切の審理を拒否するかのような、公判前整理手続における検察官の対応にはまったく納得できず、憤りを覚えています。100件以上の書証を提出しましたが、桂川さんの裁判で同じ立証趣旨で認められたものが私の裁判では不同意とされたり、法的手続きとしては問題ないのかもしれませんが、誠意も公平も公正も正義も検察にはないのだと再認識しました。桂川さんの裁判では、検察官は学術論文系の書証すら拒否しておいて、大麻が癌にどう効くのか、などと訊問しているのです。それを明らかにするために書証を出しているのに。

私は、検察官の被告人質問に答えることを拒否します。但し、公正な裁きをお願いしたいので、裁判長の質問には積極的にお答えしたいと思っています。

以上です。

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