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控訴審第2回公判 判決
白坂裁判 : 投稿者 : 白坂@THC主宰 投稿日時: 2016-09-09

以下、控訴審の判決文です。




平成28年9月9日宣告 裁判所書記官 三根 聡子
平成28年(う)第723号 大麻取締法違反被告事件(被告人控訴,原審長野地方裁判所松本支部平成28年3月17日宣告)

判決

本籍 ■■■■■■■■■
住居 同上
職業 会社代表者

白坂 和彦

主文

本件控訴を棄却する。

理由

1 本件事案と控訴の趣意
本件は,被告人が,長野県安曇野市内の当時の被告人方で,大麻である植物片約4.979グラム及び大麻草約13.4グラムを所持した事案である。控訴の趣意は弁護人細江智洋作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり,論旨は,要するに大麻取締法は違憲であると主張するもので,法令適用の誤りの主張と解される。

2 原判決の判断
原審においては,大麻所持の事実そのものに争いはなく,弁護人は,大麻取締法の違憲性などを主張した。ニれに対し,原判決は,要旨,次のとおり説示して,被告人の行為は大麻取締法24条の2第l項の罪(大麻所持の罪)に該当するとして,有罪判決を宣告した。

 すなわち,弁護人は,大麻の医療利用 (医療大麻)を一切禁止し,その所持等を制限する大麻取締法24条の2第1項は憲法規定(13条,14条1項,25条,31条及び36条)に違反し,無効であるなどと主張するが,程度の高低はともかくとして,大麻が一定の精神薬理的作用を有し,それが人体に有害なものであることは公知の事実といえ,弁護人もその有害性は低いとの限度でこれを認めている。そして,大麻の有害性を前提に,それが個人のみならず,社会全体の保健衛生に影響する危険性を否定することができない以上,これを:公共の利益の見地から規制することは十分に合理的であり,どの範囲で法的規制を加え,どのような刑罰をもって臨むかは立法政策の問題といえる。本件罰条についてみると,その法定刑は1月以上5年以下の懲役であり,選択刑として罰金刑が規定されていないものの,懲役刑の下限は1月で,その刑期の幅が広く,理論上も酌量減軽が可能な上,執行猶予制度も存在することからすれば,罰金刑を選択できないからといって立法における裁量の限度を逸脱しているということはできず,憲法13条,25条,31条及び36条に違反するものではない。さらに,アルコール飲料や煙草と大麻とでは,それらが心身に及ぼす影響が異なるため,有害性の程度を単純に比較するのは困難である上,アルコール飲料や煙草は,古くからその社会的効用が認められ,広く国民一般に受け入れられてきたものであり,その摂取の心身に及ぼす影響についても周知され,大麻の場合とは事情を異にすることに照らせば,各規制の内容が異なる点を捉えて,不合理な差別であるとはいえず,また,向精神薬や麻薬等と比べてその規制内容が異なる点についても立法裁量の範囲内というべきであるから,憲法14条に違反しない。弁護人は,大麻の有害性や有用性の研究が進み,諸外国も次第に規制を廃止又は緩和し,大麻の医療利用を認めているなどと種々指摘するけれども,本法制定にかかる立法事実が,海外における科学的研究の進展や社会的現実の変化によって本件罰条の違憲性を疑うべきほどに変容しているともいえず,いずれも合憲判断を妨げない。

3 所論と当裁判所の判断
(1) 所論
所論は,①大麻使用を法律により規制する場合には,その規制目的の正当性と規制手段の合理性を満たしていなければならないところ,大麻の有害性について,原判決は,大麻が一定の精神薬理的作用を有し,それが人体に有害なものであることは公知の事実であるとし,また,程度の高低はともかくとして,それが有害で,個人のみならず,社会全体の保健衛生に影響する危険性を否定することができないとするが,大麻のいかなる精神薬理的作用が人体に有害なのか不明である上,具体的な有害性を説明せずに,少しでも有害性があれば,社会全体の保健衛生に影響する危険性があると判断するのは不合理である。また,大麻の有害性は公知の事実であるとする点も,海外における近年の科学的研究の進展や社会的現実の変化により,かつての公知の事実は現在ではもはや通用しなくなっているとし,原審証拠である世界保健機関等の報告書や論文,原審証人武田邦彦の証言等を挙げ,大麻の使用によって日常生活で問題となるような影響は生じないし,国際的には大麻の有害性の程度に応じた規制をするように変化しているとして,大麻取締法の違憲性を主張する(憲法13条,25条,31条,36条違反を主張しているものと解される。)。また,②原判決は,アルコール飲料や煙草と大麻とでは,それらが心身に及ぼす影響が異なるため,有害性の程度を単純に比較するのは困難であるとするが,そもそも原判決は大麻の一定の精神薬理的作用を公知の事実としており,大麻の有害性を科学的根拠により認定していないから,アルコール飲料や煙草と大麻とで,それらが心身に及ぼす影響が異なることを認定できないはずであるなどとし,やはり,大麻取締法の違憲性を主張する。さらに,③原審証拠である世界保健機関等の報告書を基に,医療大麻の有用性は明らかであり,大麻の有害性の程度に照らせば,原判決が,大麻から製造された医薬品の施用等の禁止を定めた大麻取締法4条1項2号について,国民の保健衛生の向上と社会の安全保持の見地からみて,当該規制が立法裁量の限界を逸脱しているとはいえないとしたのは不当である,④大麻所持の罪に罰金刑の規定がないのは,罪刑の均衡を失』しており,立法における裁量の限界を逸脱しているなどとし以上によれば,医療大麻を一切禁止し,その栽培,所持を制限する大麻取締法4条l項2号及び3号,24条1項,24条の2第1項は,憲法13条,14条1項,25条,31条,36条に反し無効であり,大麻喫煙を目的とする大麻の所持,栽培を制限する大麻取締法3条I項,24条1項,24条の2第1項は,憲法13条,14条1項,25条,31条,36条に反し無効であると主張する。

(2) 当裁判所の判断
しかしながら,所論①(大麻の有害性)は,原判決が適切に説示するように,大麻が精神薬理作用を有し,それが人体に有害なものであることは公知の事実である。すなわち,大麻はこれを摂取することにより陶酔的になったり多幸感をもたらす半面,衝動的あるいは興奮状態や不安恐怖状態になったり,妄想や幻覚の発現,パニック反応などが生ずることもあり,とくに多量摂取の場合には,幻視,幻聴が現れたり,錯乱状態になることがあること,身体的依存性については否定的な見解が強い反面,多用者や常用者には精神的依存性がみられること,慢性的な人格障害として,自発性や意欲,気力の減退,生活の退嬰化が生じうることなどが認められているのであり,原判決が説示するように,程度の高低はともかくとして,大麻が有害であることは公知の事実といえる。原審証拠を詳しく検討してみても,大麻に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の精神薬理作用は個人差が大きく,大麻には有害性がないとか,無視できる程度に極めて低いなどとは認められず〈例えば原審弁31・DVD-R参照),日常生活で実際に影響を受けるようなレベルではないと評価できるだけの根拠はない。

 所論②(アルコル飲料や煙草との比較)は,そもそも,原判決が適切に説示するように,アルコール飲料や煙草については,古くからその社会的効用が認められ,広く国民一般に受け入れられてきたもので,その摂取の心身に及ぼす影響について周知されているといえるのであって,その悪影響(有害性)に対する医療的な対応も広く周知されているアルコール飲料や煙草と,大麻の有害性を単純に比較できるものではないことは明らかである。

 所論③(医療大麻の有用性)は,前記のとおり,大麻の有害性が極めて小さいとまではいえず,また,カンナビジオール(CBD)の割合を高めた大麻であるとか,複合製薬した医療用大麻については,研究途上であることが明らかなのであって,有害性を否定しうる程度に有用性が明らかとは到底いえず,立法事実に変化があったとは到底いえない。

 以上のとおり,大麻取締法の違憲性主張の前提たる大麻の有害性等に関する立法事実についての所論①,②,③は失当である。
そして,前記のような大麻の有害性を前提に,それが個人のみならず,社会全体の保健衛生に影響する危険性を否定することができない以上,これを公共の利益の見地から規制することは十分に合理的であり,どの範囲で法的規制を加え,どのような刑罰をもって臨むかは立法政策の問題といえる。そして,本件における罰条である大麻取締法24条の2第1項の法定刑は1月以上5年以下の懲役であり,選択刑として罰金刑が規定されていないものの,懲役刑の下限は1月でその刑期の幅が広く,理論上も酌量減軽が可能な上,執行猶予制度も存在することからすれば,罰金刑を選択できないからといって立法における裁量の限度を逸脱しているということはできず,憲法13条,25条,31条及び36条に違反するものではない。所論④(罰金刑がないこと)は理由がない。また,既に検討したとおり,アルコール飲将や煙草と大麻とでは,それらの有害性の程度を単純に比較するのは困難である上,アルコール飲料や煙草は,古くからその社会的効用が認められ,広く国民一般に受け入れられてきたものであり,その摂取の心身に及ぼす影響についても周知され,その悪影響(有害性)に対する医療的な対応も広く周知されていて,大麻とは事情が異なるのであるから,大麻に対する規制がアルコール飲料や煙草に対する規制と異なるからといって,不合理な差別であるとはいえず,憲法14条に違反しないが。

 以上のとおり,大麻取締法の違憲性に関する所論は,いずれも理由がなく,論旨は理由がない。

4 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。
(検察官松山佳弘出席)

平成28年9月9日
東京高等裁判所第11刑事部

裁判長裁判官 栃木  力
裁判官 菱田 泰信
裁判官 佐藤 晋一郎

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