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大麻草:環境にやさしい植物資源(その1)
大麻草:環境にやさしい植物資源(その1)
◇見直される 環境にやさしい 大麻草
環境にやさしい植物資源として、大麻草(英語名・ヘンプ)が見直されている。戦前までは縄やひも、衣服などに利用されていたが、戦後、化学繊維の普及で廃れた。しかし、ここ数年、麻の実の料理、衣類、化粧品、車の燃料、住宅建材など多くの用途に使われるようになってきた。環境教育の教材としても活躍している。【小島正美】
▲▼用途いろいろ
大麻草の国内最大の産地は栃木県。現在、鹿沼地方の24農家が全国の収穫量の9割以上を作っている。栽培には都道府県知事の許可が必要で、赤羽根正美さん(73)=栃木県鹿沼市=は親の代から栽培している一人だ。大麻草は春に種をまくと、8月の収穫期には3メートルにも伸びる。刈り取った麻はいったん熱湯に浸した後、3日間ほど干す。さらに発酵させて、皮をはぎ取り、この皮を薄い繊維にして出荷する。赤羽根さんによると、かつて、助産師はへその緒を切るときに麻糸を使い、麻の肌着を赤ちゃんに着せたという。
マリフアナなどの原料になるため、大麻取締法で栽培が規制されたうえ、化学繊維の普及もあって、戦後は栽培農家が激減。約20年前、栃木県農業試験場が幻覚成分をほとんど含まない新品種「とちぎしろ」を開発、生き残った。国産の麻は主に神社の鈴縄、弓の弦、力士の化粧回しなど日本の文化や伝統行事に使われているが、赤羽根さんは「後継者がいない。途切れてしまうのが心配」と話す。
麻はやせた土地でも3~4カ月で成長し、害虫にも強いことから、植物資源として見直す動きが世界的に出てきた。麻の魅力を満載した「ヘンプ読本」(築地書館)を著した赤星栄志さん(東京都)によると、麻の実は食料や化粧品、オイルは車の燃料、茎や葉は壁や床の材料、車の内装材、家畜の飼料、紙や医薬品の原料など数多くの分野で使われているという。
赤星さんは「石油はいずれ枯渇する。麻なら日本のどこでも栽培できる。市民がもっと簡単に栽培できるよう行政が知恵を絞るべきだ」と話す。
ヘンプでできたジャケットやシャツなど。夏に着るとさわやかだ=川崎市宮前区土橋のうさとジャパン直営店で、小島正美写す
▲▼肌に合う素材
一般に麻の服やシーツとして流通しているのは、亜麻(あま)(リネンともいう)や苧麻(ちょま)(ラミー)のことで、大麻ではない。
欧米で活躍した服飾デザイナーのさとううさぶろうさん(タイ在住)はヘンプにこだわった衣類を作り続けている。人の肌に合った本物の素材を世界中に求めた結果、タイのヘンプにたどりついた。さとうさんの指導で、現在、村の人たちは草木染の麻で手織り衣類を作っている。
さとうさんの手がけた衣類などを輸入・販売する「うさとジャパン」(京都市、電話075・213・4517)はワンピースやジャケット、Tシャツなどを扱う。値段は、亜麻を使った製品に比べても約8000~2万円とけっして高くない。中村宜睦・代表取締役は「ヘンプは肌に抵抗感がなく、自然なやさしさが感じられる」と川崎市の直営店や全国約250カ所で展示販売を行っている。
▲▼教材でも活用
城下町として知られる愛知県犬山市では、環境緑化研究会を主宰する岡村智恵さん(46)が中心になって、小学4~6年生を対象に麻のワークショップを始めた。麻の糸を使ったアクセサリーの制作、麻の実を使った料理、麻の紙すきなどさまざまな活用法を学ぶ。
岡村さんは「麻は外来種のケナフと違い、在来の植物。持続可能な資源として、日本のエネルギー問題を考える上でもよい教材になる」と話す。麻のワークショップに助成金を出す石田芳弘市長は「伝統的な木曽川の鵜(う)飼いの鵜匠も麻の装束で身を包む。犬山から麻の情報を発信していきたい」と麻の見直しに意欲的だ。
■ ■ ■
ヘンプに関する問い合わせは「ヘンプ製品普及協会」(電話03・3681・6861)。
毎日新聞 2006年8月30日 東京朝刊
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