産経新聞のニュースサイト「sankei WEB」に掲載された下記の記事について、オランダの大麻事情に関する多数の情報を掲載しているカナビス・スタディハウスのダウさんに検証して頂いた。
尚、この件に関する意見や感想や質問を歓迎します。フォーラムに専用トッピクを立てたので書き込んで下さい。理解を深めましょう。
*各書き込みの最下部右にある「REPLY」をクリックして返信できます。
大麻天国のジレンマ…オランダ「寛容政策」転換 周辺国は反発(2007/07/19)
http://www.sankei.co.jp/kokusai/europe/070719/erp070719002.htm
この題は、オランダが寛容政策を転換しようとしていることに対して周辺国が反発しているということか? よくわからない題だ。
この記事は多くの部分で
Many Dutch coffee shops close as liberal policies change(2007.4.26)
Dutch Coffee Shops Close as Authorities Weed out Drug Tourists(2007.4.29)
をパクっている。ただ孫引きしたり、論旨を借りてきていると疑わせるところが多い。
エンシェデのコーヒーショップに無造作に置かれた大麻入りの袋と水たばこの器具(右)。カウンターでは、男性客が大麻を吸っていた(左)
水たばこの器具? この記者は、ボングも知らないのか? つまり、カナビス専用の喫煙器具であるボングを知らないということは、カナビスのことも何も知らないということ。この記者は、カナビスやコーヒーショップについての事前の情報収集や勉強は何もやっていないのではないか?自分はプロのジャーナリストで、素人が体験記を書くのとは違うという自覚はあるのだろうか?
一定限度の大麻使用が認められているオランダで、大麻を販売する通称「コーヒーショップ」の数が激減している。防犯上の懸念から保守政権が締め付けを厳しくしているためだ。ところが、他の欧州連合(EU)加盟国は、これが大麻吸引者の越境や大麻の流入を増やさないかと懸念している。大麻は適切に管理しうるという寛容政策を取ってきた同国だが、“手綱”を締めるのも容易ではないというジレンマを抱えることになった。(オランダ東部エンシェデ 黒沢潤)
この記事では、コーヒーショップの数が激減しているという認識を前提としてストリーを展開しているが、激減は誇張で、その前提自体が間違っている。このことはオランダの研究報告書を見ればわかる。確かに減りつづけてはいるが、2000年以降の減りかたは年間1~4%程度に過ぎない。
急激に減ったのは、1997年からの2年間で、ロッテルダムでアルコールとカナビスを同時販売している店舗でどちらか1つだけを選択させ、半分がアルコールを選んで店舗数が激減したのと、各地で認定シールを発行して課税することになり、税金を払えない多数の弱小店舗が自主的に脱落したことが最大の原因。
コーヒーショップ数の変遷
THE NETHERLANDS
DRUG SITUATION 2005、100p
オランダは圧倒的に強い政党はなく、常に連立政権で、日本で言うところの「保守政権」というイメージとは全く違う。現在の内閣は、キリスト教民主党のバルケネンドをリーダーとする、キリスト教民主党、労働党、自由民主党の3党による左派中道連立政権。昨年までは、キリスト教民主党、自由民主党,D66の中道右派連立政権で右よりだったが、最後は中道D66の離脱で解散に追い込まれた。オランダの政党の種類
「防犯上の懸念」は嘘。犯罪行為があればコーヒショップは直ちに閉鎖されるので、実際には防犯上の懸念をしているわけではなく、対外的な問題が起きて批判されること、移民問題での寛容政策の見直しによる保守化、売春や同性愛などとともにモラル的に認めたがらない勢力がいることから締め付け政策がとられている。難民政策を巡る非常事態の背景と経過、一般赦免の過半数支持とVVDの孤立、11月22日の選挙結果:社会党の躍進と極右の伸び=分極化
寛容政策と何がジレンマを起こしているというのだろうか? 寛容政策は全面禁止政策を取らないということで、寛容の中身を明確にきめて厳しく運用しようとしているのであって、国会でも大多数が賛成している。禁止すべきかどうかとジレンマがあるわけではない。
吸引者の越境を懸念
吸引者とは、オランダ人のことか、それともドイツ人(などの他国人)のことか? 懸念している当事国は、オランダなのかドイツなのか? このサブタイトルも意味不明。
オランダ人だとすれば、ドイツに行くことになるが、ドイツがオランダ人の入国を懸念していることになる?
ドイツ人だとすれば、オランダ側がドイツのドラッグ・ツーリストを懸念していることになり、これは、その通りだが、オランダ側とすれば、観光のお客さんでもあり、またEU間の通行の自由を認めるシェンゲン協定もあり、必ずしも積極的に締め出す動きはない。
実際、2003年には、ドナー法務大臣(当時)が、コーヒーショップをオランダ人のみの会員制店舗にして外国人を全面的に締め出す計画を発表したが、地元のみならず国会でも支持されず、いつのまにか立ち消えている。マーストリヒトの混迷、オランダ・コーヒーショップに過去最大の試練
オランダが、ドラッグや売春目的のツーリストであっても、基本的には観光客を歓迎しているのはアムステルダムを見れば分かる。確かに、アムステルダムのコーハン市長に近いグループが IAmsterdam キャンペーンで、市のイメージをセックスとドラッグからクリエイティブな産業都市へと変えたいと運動したりもしているが・・・
「『コブラ』なら0.6グラムで5ユーロ(約840円)、『スカンク』ならもう少し安い」。ドイツとの国境沿いに建つエンシェデのコーヒーショップ「デ・モレン」で、女性従業員は大麻の銘柄を悪びれもせず説明した。
店名やボングの名称にコブラという名前はあるが、「コブラ」というバッズはないのではないか? 絶対ないとは断言できないが、「コウラ(Khola)」という品種なら、シードバンクの老舗のダッチ・パッションが以前から販売していて割りと知られているが。
たまに5ユーロ単位で売っていることろもあるが、普通はグラム単位で売っているところがほとんど。
モレンではなく、モーレン(風車)と書くのが普通だが。この記者はmolenというオランダ語を知らない?
エンスヘーデ(人口15万5000人)は、オランダ東部の中都市だがガイドブックに載るような観光地ではない。7軒のコーヒーショップがあるが(1999年は17軒)、国境のショップだけあってパスポートの提示を厳しく求められる。お客さんの感じも、普通の地方のショップとはなんとなくちがう。つまり、オランダの典型的なコーヒーショップとは言えない。
仏陀像やアメリカ先住民の彫り物などが置かれた薄暗い店内では、罪悪感もなく煙をくゆらせる中年男性の姿が妙に目立つ。若者たちがアイスクリームでも買うように、簡単に大麻を買う。同店を訪れる客は平日約50人、週末はその倍。客の半分は一時の多幸感を目当てにドイツから訪れる「ドラッグ・ツーリスト」だという。
コーヒーショップでは、普通の商品と同じように実際上合法なのだから、罪悪感を持って売ったり買ったり使ったりするほうが奇妙だ。実際、普通のカフェと何ら違いはなく、記者が、ありもしない情景を「期待」していたに過ぎない。この記者は、自分自身が奇妙な存在であることに気付いていないらしい。
中年男性が目立つと書いてあるが、地元民がほとんどのコーヒーショップでは、実際には若者が圧倒的に多く、時間によっては若い女性のグループが多かったりもする。そもそも、記事の写真では、ほとんどお客さんがいないのに中年が目立つという表現自体が奇妙だ。
多幸感目当てと言うのはあまりにステレオタイプ。多幸感はカナビスの効果のほんの一面に過ぎず、実際に、多幸感を期待してカナビスを吸う人などあまりいない。
ただ多幸感目当てで吸うのであれば必ずしもオランダに来なくてもできる。例えば、オランダ以上にカナビスが溢れているアメリカからは、わざわざ高い旅費を負担してまでも訪れる人たちが非常に多いが、彼らはカナビスそのものよりも、カナビスを吸う自由と開放感を求めてやってくる。
ただ最近は、オランダ国内で店舗激減が目立つ。「寛容政策」を見直している政府が店舗を強制閉鎖しているためで、約740軒の店舗数は1997年時の約4割減だ。
コーヒーショップの数が激減しているというのは誇張。急激に減ったのは、1997年からの2年間で、ロッテルダムでカナビスとアルコールの同時販売を認めなくなったために多くの店舗がカナビスの販売を止めたことと、認定シールを発行して課税することになり、税金を払えない多数の弱小店舗が自主的に脱落したことによる。以後も確かに減りつづけてはいるが、2000年以降の減りかたは年間1~4%程度に過ぎない。
コーヒーショップの過半数(52%)は人口20万人以上の大都市に集中しているが、減少はこれらの地域を中心としたもので、人口20万以下の自治体では2000年以降ほとんど変化していない。また、自治体の約80%には、もともとコーヒーショップがない。コーヒーショップ数の変遷
オランダ政府もしばしば自分の努力を外国にアピールするために4割減という数字を強調して使ったりしているが、実際には、店舗を強制閉鎖したりなどしていない。閉鎖するのは地方自治体の権限で行われる。それも強制ではなく、規則違反が繰り返されたケース、あるいは、移転させることを条件に閉鎖したり、オーナーが死亡してもライセンスの継続を認めないケースで、理由もなく一方的に閉鎖するようなことはない。
オランダは歴史的に中央政府に対して都市の権限が強い。また、市長は選挙ではなく任命制で、地方議会議員が選出した2名の候補者の中から政府が指名し、州知事が任命するようになっている。従って、選挙目当てのパフォーマンスは必要なく、全体のバランスを考えた実務的で、政治や行政経験の多い人が選ばれる。任期は6年間で、中央政府の任期最大4年より長く、政府の意向を必ずしも反映しているわけでもなく、独立性は強い。また、多くの市長は警察署長を兼任しているので、警察が暴走することもない。
オランダの自治体は日本よりはるかに独自性が強い。日本の中央政府と自治体のような上下関係をイメージするのは間違いで、役割の階層分担がもっと明確。
実際に、コーヒーショップのバックドア問題に関連して、カナビス供給のために栽培を合法化することについてさえ、オランダの20大都市の3分の2の市長が支持している。
背景にあるのは治安悪化への懸念。独国境添いの街フェンローの主婦は「ゾンビみたいなドイツ人が真夜中の3時ごろ、店舗の場所を教えてほしくて自宅の呼び鈴を激しく鳴らした」と、6年前の“恐怖”を振り返る。
確かに、ドラッグ・ツーリストが押しかける国境の都市では、ツーリスト目当ての違法ドラッグのストーリト販売も増えるが、フェンロー(人口3万5000)の最大の問題は狭い街中にドイツ人の車が押しかけて大渋滞してしまうことで、特にドラッグ関連の暴力などの凶悪犯罪が多発したとは伝えられていない。
記者は、このような主観的で疑わしく確かめようもない証言をなぜ強調して書くのか? これではまるでUFOの目撃情報だ。まともな記者なら、少なくとも同種の証言を複数集めてから書くのではないか?
この主婦の話には、第2次大戦で突然ドイツの侵攻を受けたオランダ東部の人たちの記憶が背景にあるのではないか? オランダは何ら抵抗できずにわずか5日で降伏している。オランダ人は基本的にドイツ人を嫌っているので、ドイツの話になると嫌味ぽくなる。
ロッテルダムでは子供への悪影響を懸念し、来年末までに、市内にある約60店舗のうち学校から約100メートル以内にある店舗の閉鎖を決めた。
もう少し詳しい報道によれば、中高等学校の200メートル以内の27軒を閉鎖する計画。小学校は、児童がカナビスを吸わないという理由で対象に含まれていない。Rotterdam bans cannabis-selling cafes near schools
こうした措置は、中小都市ではそれほど珍しくない。ロッテルダムが遅れているだけ。
単に強制閉鎖するのであれば、2009年までとは言わず即座に実行すれば済むはずだが、1年半の猶予を与えているのは移転させることを意図していると考えられる。しかし、移転にあたっては銀行などがコーヒーショップに融資したがらないという現実があり、資金を調達できない弱小店舗は潰れるだろう。
第2次大戦でほとんど破壊されたロッテルダムは、半世紀を経て現在、建物の建替えで建築ブームの最中にあり、多くの一般店舗の移転や閉鎖が促されていることも背景になっている。
いずれにしても、この件は将来のことで、現実に起こったことではない。
相次ぐ閉鎖は密売人にも打撃を与えている。かつて、モロッコの砂漠に密売組織が埋めた大麻を掘り起こして車のすき間に隠し、アフリカ各地を経由してオランダに運んだというドイツ人密売人(38)が嘆く。「同業者が途中で捕まり懲役刑を受ける中、おれは計16トンも運んだ。ドイツ人だから怪しまれなかったが、今はご覧の通り、ブラブラする毎日だ」
急激な閉鎖で運び屋の仕事がなくなったと言いたいようだが、最近コーヒーショップが急減した事実はない。
通常、リスクの大きい国境越えのハシシの密輸入にコーヒーショップが直接関与することはなく、卸売業者から買っている。コーヒーショップのハシシ・メニュー
モロッコのハシシ生産地は、地中海に面した北部の嶮しいリフ山岳地帯にあり、南部のサハラ砂漠とは全然逆方向で、わざわざアフリカ「各地」を経由して運ぶことなどほとんど考えられない。モロッコ、ハシシ生産は衰えず、国連カナビス根絶作戦の最前線 (2006.7.15)
車のすき間に16トンも詰め込むのは不可能。ノル・ファン・シャイクがバンを改造してモロッコからハシシを運んだときは4トン。
また、普通は、ある程度回数を重ねた運び屋はリスクが多くなって使われなくなる。ましては仲間が捕まったのであれば即座に敬遠される。彼に仕事がなくなったとすればそのためだろう。コーヒーショップとは関係ない。
◇
問題は、オランダの厳しい姿勢が、隣国では必ずしも歓迎されていないということだ。
この文は、オランダが厳しい姿勢をとってカナビスを禁止したら歓迎されないということか?
確かに、オランダ国内に限って見ていると、政府がコーヒーショップに厳しい政策を取っているように見える。しかし、視野を広げてみれば、言うまでもなく周辺国のオランダ政府の政策に対する見方は厳しい。この構図から、オランダ政府は、基本的には禁止法ではなく、容認政策を貫いて秩序あるコーヒーショップを守ろうとしていることがわかる。その意味では上の表現も意味深ではあるが。
フェンロー市は最近、街中の吸引者を減らそうと、街外れの国境近くに「ドライブスルー方式」の新店舗建設を計画した。ところが、独側のネッテタル町は、麻薬吸引者の越境が増えることを警戒し、これに猛反発している。
フェンローの移転計画は最近ではなく、2001年ころから始まり2004年には、街の中心部にあった2軒の店(OaseとRoots、同一オーナー)が合併して、国境付近に移転して決着している(店名Oase-Roots)。ネッテタルが猛反発したというのは嘘で、一部を除けば、むしろ見通しがよくなって監視しやすくなったといって歓迎すらしている。
Dutch Mega McDope will open on German border shortly (03-15-2004)、 Venlo: Grenznaher Coffeeshop umstritten (22.10.2004)
フェンローの中心にショップがあったからといって、「麻薬吸引者の越境が」減るわけでもないだろう。そもそも越境とはどちらの方向を言っているのかよくわからないが。
最近、国境地帯へのコーヒーショップ移転計画が問題になっているのはマーストリヒト。マーストリヒト、現実主義と教条主義の闘い、本格的カナビス合法化論議が始まる (2006.7.4)
ディトマー・ザゲル同町総務部長(55)は「わが町にはこれまでも、民家の庭に小便をし、注射器を捨てる連中が越境して町民を怖がらせてきた」と語る。
小便という話はよく出てくるが、実際には、あちこちにあるオープンスペースでのビール販売で飲んで、一風吹かれて立ち小便している姿が目につく。カナビスを吸っても、特に小便がしたくなることはないが。
何で注射器とカナビスが関係しているのか? わざわざオランダ人が注射器を捨てにくると言っているのか?
この記者は、カナビスでも注射することがあると思っている? ヘロインとカナビスの区別もついていないのだろうか?
欧州の「麻薬の首都」と米誌が揶揄するオランダからは、人だけでなく大麻も隣国に流出している。
オランダ人がドイツに行く? わざわざドイツに行かなくても待っていれば、コーヒーショップで売ることができるのになぜ行かなければならないのか? 観光では、オランダに来るドイツ人のほうが圧倒的に多い。オランダのカナビスを持って帰っているのはドイツ人。
オランダ~ドイツ間の高速道路では、独警察が目を光らせるが、全車を止めての検査は物理的に無理だ。実際のところ、記者の車も停車を命じられなかった。
自由に行き来できるようにするためにEUを作ったのだから、こんなことはわざわざ書くほどのことなのか? 記者にとっては、今度が初めてヨーロッパだったのだろうか?
野放しにも近いオランダの政策にはドイツ以外のEU加盟国も反発。ベルギーは「自国の不浄物は自分たちで処理せよ。他国にまで“感染”させるな」と非難し、首相が4月に抗議文を送った。スウェーデンはオランダ製品のボイコットを警告、フランスやアイルランド、イタリアも批判する。
「野放しにも近い」? まったく逆。オランダ以上にカナビスを管理できている国はないし、ヘロイン・ユーザの大半がコンピュータに登録されて治療を受けている。
実際イギリスなどでは、異物の混入した危険なソープバーやガラスビーズの入ったグリットウィードなどが出回り、保健省が警告を出したりしているが、オランダのカナビスは、コーヒーショップのプロがチェックしているために異物の混入や低品質のリスクは少ない。
オランダでは、ストリートドラッグの分析サービスも行われているが、このようなサービスは、70年代のアメリカを除けば余り聞かない。
また、ハードドラッグが原因で死亡する人の数は、年間10万人あたり、オランダが1人だけなのに対して、デンマークでは5人、ノールウエイでは8人になっている。また、カナビスには非常に厳しい政策を取っているスエーデンでは年間150人以上がドラッグで亡くなっているが、スエーデンの1.8倍の人口を持つオランダでの2005年のドラッグ関連死亡者数は122人に過ぎない。従来の見積よりはるかに多い、スエーデンのカナビス消費量(2007.6.11)
オランダではコーヒーショップと注射針支給プログラムの組み合わせが成功して、ヘロイン中毒者が高齢化・減少してきている。オランダ、ヘロイン・ジャンキーが高齢化(2007.6.20)
「ドイツ以外のEU加盟国も反発」とは、ドイツは反発していないということなのだろうか?
ベルギーの首相がオランダの首相に書簡を送ったのは事実だが、常識から考えてこのような乱暴な文面であるはずがない。記者の作文でないのなら、ソースを知りたいものだ。もしかしたら、ベルギー側の決め台詞、「Keep your misery and filth to yourself and don’t come spreading it in our region」 からか?
この書簡は、ベルギーのフェルホフスタット首相が出したものだが、選挙を控えて、不利な情勢を打開しようとしたものと受け取られている。
コーヒーショップに関するオランダとベルギーの戦い (2007.4.19)
ベルギーもドイツもコーヒーショップをオープンすべき、オランダ・マーストリヒト市長インタビュー (2007.4.27)
だが、6月の選挙では、フェルホフスタット首相の連立与党が大敗し、8年ぶりの政権交代となった。
ベルギーでは、フェルホフスタット政権が2001年に3グラムまでの所持を認める決定をしたが(2003年5月から実施)、一方で販売は禁止したままで、当時の司法相は、カナビスを手に入れるにはオランダのコーヒーショップで買えばいいと答えている。(ダッチ・エクスペリエンス) ベルギーには根本的にこのようなご都合主義がある。
スエーデンが介入したのは2000年以前のエンスヘーデの問題。実際にボイコットしたという話は伝えられていない。
スエーデンとフランスとアメリカは禁止論者の牙城なのでごく当然の反応に過ぎない。また、アイルランドやイタリアの場合は、議会内部でもカナビスに対する意見が分裂しており、自国の政争がらみの材料になっている。
◇
品種改良にたけた「チューリップ大国」のオランダは、「大麻栽培のエキスパート」(国連薬物犯罪事務所=UNODC=のトーマス・ピーチマン研究員)でもある。多幸感を引き起こす同国産の大麻の化学成分THCは近年、10%から25%へと急激に高められ吸引者にとっては危険な状況となっている。
これは、UNODCなど禁止論者の常套句。25%というのは、おそらくオランダ産のハシシのことだろう。オランダのトリンボス研究所の報告では、バッズに関しては2004年と2005年が18%となっており、2003年の20%から下がり気味になっている。
オランダでバッズが広く吸われるようなったのは1980年代後半からで、それまではバッズよりも効力の強いハシシが主流だった。従って、ユーザの吸っているカナビスの効力はむしろ昔のほうが強かった。
慣れれば、効力が変化しても吸う量を簡単に調整できるので、効力が強いからといって特に危険なわけではない。神話 17 効力の強いカナビスほど危険
品種改良は、もともと強い品種を室内で簡単に栽培できるようにしたもので、それが多く出回るようになって全体の平均効力を押し上げているだけ。品種改良で従来なかった特に強いものができたわけではない。
シードバンクでは、現在も70~80年代の種も売っているが、これは昔からの品種でも、新しいものと同様に十分効力が強いことを示している。
世界最大級のロッテルダム港を抱えるオランダには、コカインなどマフィア絡みのハード・ドラッグも入り込み、近隣国への国境越えも進む。
エクスタシーなどはオランダを経由して世界に流れているが、製造しているのはライン川沿いのドイツからスイスにかけての地域。もともと、この地域は、ロマンチック街道の城の多さをみてもわかるように、ドイツの地域権力者が群雄割拠していたところで、独自の染料を秘密に作って自分の権勢を誇示していた。秘密工場は見付からないように移動式だった。こうした伝統がいまも残っていて、この地域の密造工場の製薬技術や開発力は高いことが知られている。
ロッテルダムはライン川の下流にあるために、昔から、ドラッグばかりではなくあらゆる製品の中継地になってきた。このために密輸は今に始まったことでもない。
オランダでは、「大麻を管理する(寛容)政策が結局は『マフィアのゲーム』を封じ込めることになる」=ドラッグ対策協会のフルア・ウドストラ代表(50)=との主張が依然、支配的だ。ただ周辺国を納得させるのは、容易ではない。
オランダ議会の多数も、実経験から同じ見方をしている。しかし、最近は、販売を認め栽培を禁止しているバックドア問題が顕在化してきて、ギャングへの新たな封じ込め措置が求められている。オランダは素面、正面からカナビス法のあり方を議論
最近はドイツでも寛容政策を追認するような記事が出るようになっている。Dutch Benefit From Relaxed Rules on Cannabis (2007.2.10)
◇
【用語解説】オランダの麻薬政策
大麻購入は原則として違法だが、購入しても「訴追されない」という寛容政策が1976年に導入された。現在はコーヒーショップで、1人5グラム未満の大麻を購入できる。大麻(ソフト・ドラッグ)の使用を認めることで、コカインやヘロインなどのハード・ドラッグ使用を防ぐ狙いがある。歴史的に宗教迫害者を受け入れるなどの寛容精神を持ち合わせてきたことに加え、麻薬の根絶は不可能と考える「現実主義」も反映している。
「麻薬」という表現には疑問もあるが、この部分はだいたい正しい。たぶん、どこかからコピペしたのだろう。だが、些細なことを指摘すれば、5グラム「未満」は間違いで、正しくは5グラム「以下」。
現在マーストリヒトでは、未成年でないことと1日5グラム以下ということを徹底させるために、コーヒーショップに入場する際には、IDカードの提示、顔と指紋をスキャンすることが始まっている。1日5グラムという制限の徹底は、例えば一日に何度も訪れてその都度5グラム買われるようなことを防ぐ目的を持っている。実質的にデータは1店舗ごとにしか管理されないので、10店舗回れば50グラムまで買えることになるが、多量仕入れ目的の密売人を遠ざける効果を狙っている。Dutch cannabis buyers to be fingerprinted and have faces (2007.6.22)
その他で現在最も注目されているのは、レストランやカフェでの全面喫煙禁止の動きで、一部の勢力はそれを口実にコーヒーショップを閉鎖させようと画策していた。しかし、最終的には内閣は同調せず、従業員が働くディラー・スペースと喫煙ルームをガラスなどで分離することで決着が図られている。オランダ、コーヒーショップの喫煙,条件つき容認へ(2007.7.4)。また、この決着については、コーヒーショップの対応に連立内部に対立があり、決して一枚岩ではないことを浮き彫りにしている。オランダの連立政権、コーヒショップの禁煙をめぐり内部対立(2007.7.3)。Cabinet: Smoking Only in Separate Areas in Bars from (2007.6.9)
●この記事の全体的印象
この記者は、主語が入れ違がえていることが多く論理性に欠ける。自分のわずかな知識とイメージと他の記事からのパクリをつなげているだけで、署名記事を書くジャーナリストの文章だとはとても思えない。編集デスクは、この記事を本当にOKしたのだろうか?
表現に露骨なバイアスがかかり過ぎていて、客観的な観察に乏しい。
一番のベースになっているコーヒーショップの急減という認識の間違いが根本にある。これは、この記事に限ったことではなく、あちこちに見られる。また、オランダ政府自身も、自分の努力を外国にアピールするために急減していると言ったりしているが、それを鵜呑みにして調査報告書の原典に当たっていないことが、見当違いの憶測を持つ原因になっている。
エンスヘーデのコーヒショップは、オランダの典型的なコーヒーショプを代表していない。また記者は、カナビスやオランダのことはほとんど何も知らないで書いている。このことが、あちこちでちぐはぐな表現になって表れている。
出てくる事例が非常に古かったり、あるいはまだ起こっていないことだったり、逆に現在最も問題になっているマーストリヒトには全然触れていないなど、全くちぐはぐ。
また、国境問題では、ツルネーゼンのように、外国人に対応するためにコーヒーショップの増設を考えている例もある。オランダ南部の都市がコーヒーショップの店舗増設を計画 (2007.1.4)
国境問題は、オランダというよりも、自国の若者が国境を越えて行くのだから本来はベルギーやドイツ自身の問題。彼らの禁止法がいわれているように抑止力があるとすれば越境者は出ないはず。結局、「自国の不浄物」を自分で処理できず、オランダに押し付けて、禁止法の失敗を他の国のせいにしているだけ。ダッチ・エクスペリエンス 第7章 国境地帯のコーヒーショップ
この記事の根底には、暗黙のうちに、カナビスを禁止しておく目的が正しいのだから誇張も嘘も許されるという意識が横たわっている。しかし、こうした詭弁にもとずいた世論操作は、結局、法の尊厳そのものを傷つけ、法を軽視する社会を生み出し、社会を害し破壊する。
了
★ ランキングとツイートにご協力ください ★