またハームリダクションアプローチを行う団体は、そのほとんどが草の根レベルから発生したボトムアップのコミュニティベースの運動で、政府や行政機関によるトップダウン式組織でないという特徴がある。
その多くが元麻薬中毒者やその家族、麻薬中毒者を持つ地域に住む人々によって運営されており、地域住民にとっては中毒者へのサービスの提供が地域の公衆衛生、住環境の改善と直接結びつくため、ハームリダクションプログラムは、サービスの供給者とその受益者が一致した活動:provider-client modelとして定義されることもある。[4]
実践としてのハームリダクションプログラムは次の3つの基本的戦略によって成り立っている。
1)リスク行為を行っている個人、グループへの働きかけ、2)環境の改修、3)社会政策の転換の実践である。[5]
この3つの基本戦略は車の運転を例に説明すると分かりやすい。車の運転は毎年数多くの死者を出すリスクを伴う行為の一つであるが、そのリスクを軽減するために、1)運転手の教育と訓練、2)車と道路の安全対策(シートベルト、エアバック、良く舗装された道路など)、3)運転を規制する法律と政策(速度制限、飲酒運転の禁止、その他の交通法)が、社会的に実践されている。
麻薬の使用に対するハームリダクションでも、この車の運転に伴うリスク軽減と同様の観点から種々のサービスが中毒者に提供されることが目標とされる。
まず「個人とグループへの働きかけ」においては、何らかのリスクを伴う行為を行う人々に、そのリスクを軽減させるための方法が教育プログラムの中で教えられなければならない。
いわゆるJust Say Noポリシー(日本でいうダメ絶対ダメ政策)で行われている予防プログラムとは異なり、ハームリダクションではすでにリスク行為の実践にイエスの選択をしている人々に対しても効果を持つような予防プログラムが想定される。
この教育プログラムには様々な形態があるが、学生、若者を対象としたリスク行為に対するグループディスカッションが一般的である。ここでは、政府や大人の専門家などの権威集団からのレクチャー形式のトップダウン型知識ではなく、参加者、学生からの意見、経験を取り入れた参加者相互間で与えられる情報をベースとする。
ワシントン大の中毒行為研究センターのアラン・マルラットは、ある高校で彼が行った飲酒のハームリダクションの教育プログラムをディスカッション形式の一例として紹介している 。[6]
そこでは未成年者の飲酒という、非合法ではあるが一般的に行われている行為について、学生間で教師を立ちあわさせずに彼らの考えを自由に議論させている。すると議論を通じて、飲酒を行わないもの、既に経験しているものの双方から、飲酒の良い面、悪い面に関する一般的、経験的知識と共に、飲酒に関する数多くの疑問や質問が出てくる。
さらに参加者の関心が強い飲酒にまつわるトピック=参加者が抱える具体的問題(他人に飲めと言われた時にどのように対応すべきか、飲みすぎた友人をどうやって介抱すればよいか、男性と女性の飲酒効果の違い、飲酒のセックスへの影響など)を自由に議論させる。こうした関心の高いトピックに対する議論を通じ、飲酒の善悪両面と、どういう飲酒パターンが危険であるかを生徒に認知させ、飲酒のハームリダクションの実践的知識を生徒に持たせる方法が採用されている。
ここで重要な点は、車の運転と同様に飲酒という行為にコミットすることの結果に対する個人の選択と責任が強調されることである。
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[4] Ibid., pp.53-54.
[5] Ibid., p.58.
[6] Ibid., pp.59-60.
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