禁止政策において行われている需要削減政策の今一つの柱は、既に麻薬を常用している中毒者への治療プログラムである。しかしながら、現行の制度では、中毒者が実際に治療プログラムに参加することは容易ではない。
その主な理由は、前述したようにアメリカの治療プログラムの大半が完全なアブスティナンス(abstinence:断つこと[THC注])を要求している点にある。しかし中毒者が治療を受けることを困難にしているのはそれだけではない。
ONDCPの97年のDrug Strategyが明らかにしているように、「慢性的使用者が治療を受ける意志は、治療プログラムの利用可能性と、サービスを受ける経済的余裕、公的資金によるプログラムと医療保険へのアクセスの有無、個人的モチベーション、家族と雇用者のサポート、そして中毒を認めることによる潜在的結果(potential consequences)に影響される」のである[22] 。
このONDCPの分析は、アメリカの中毒者が直面している様々な問題を実に的確に表現したものである。治療プログラムは予算不足から指摘されているようにその利用可能性が十分でないだけでなく、中毒者の経済的負担という点においても問題が大きい。
またONDCPが、「中毒を認めることによって生じる潜在的結果」と表現している事柄の中身も、中毒者にとっては治療を受けるにあたっての大きな障害となっている。
薬物中毒を認めれば、逮捕、留置、財産の没収だけでなく、解雇、失業、また子供を取り上げられるなどの厳しい現実が待ち受けている。
つまり治療を受けるだけの経済的余裕があり、雇用者が文字通りの理解とサポートを示し、信頼できる生活基盤の保護が保証された中毒者でないかぎり、何らかの治療を求めていてもよほど状態が悪化するまで中毒者が治療プログラムの門を叩くことはない。
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[22] Marlatt, G.Alan (ed.) (1998) op.cit., p.366.
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