メタドン治療を受けていても、中毒者が持つヘロインやコカインなどの薬物への精神的依存や欲求そのものを抑えることはない。
メタドン治療はその他のカウンセリング、セラピーと併用して行われる時にアブスティナンスの実現への効果が現れていることが証明されており、中毒者の生活パターンを転換させ社会に復帰させるための一つの手段ないしは入り口として認識するべきである。
むしろメタドン治療が現実に直面している問題は、これを取り巻く社会環境の方にある。
APAは、メタドン治療を希望するヘロイン中毒者の数は多いが、資金とサポート不足によってすべての希望者にメタドン治療を受けさせることができていない現状を指摘している[27]。
また精神病患者のための社会復帰施設と同様、メタドンクリニックの開設には地元住民からの反対運動が起こる。仮に開設に至っても、そのほとんどが都市部に集中しているため、地方に住むヘロイン中毒者はメタドン治療を受けることが難しい。
こうした問題の解決には、オランダで行われているようなメタドンバスによる移動クリニックの普及が有効と思われる。
またメタドンに比べ薬効時間の長い代替物質の使用も近年採用されつつある。メタドンは薬効時間が短いためヘロイン中毒者は毎日メタドンクリニックに出向く必要がある。これに対し、ラーム(LAAM: L-alpha-acetylmethadol)はその半減期が長く48時間ヘロインの禁断症状を抑えることができるので、中毒者がクリニックへ来る回数を減らすことができる代替物質として近年注目されている。
またこの他、ブプレノルフィンというオピオイド拮抗薬は、メタドンと同様の効果を持ちつつメタドンに比べ禁断症状が著しく少なく、メタドンに代わる代替薬物としての普及が期待されている[28]。
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[27] Ibid., p.4.
[28] Ibid., p.4.
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