外務省より、’1961年の麻薬に関する単一条約を改正する1972年の議定書により改正された同条約の日本語翻訳版(麻薬単一条約)’についての開示決定通知書が届いた。
単一条約の日本語翻訳版の全文は官報の有料制のページでは閲覧できるようであるが、その他にweb上で閲覧できるものは見つけることが出来なかった。大麻取締法による規制の正当性を主張する者は、その根拠として大麻が単一条約によって規制されている物質であることを理由に掲げるが、果たしてその内容はどのようなものなのか?WEB上で閲覧できる情報を基に検証してみた。
単一条約による大麻に関する規制の内容については、「第28条 大麻に関する規制」において
1.締約国が大麻あるいは大麻樹脂の生産のための大麻草の栽培を許可する場合には、第23条に示されるケシに関する規制の制度を適用する。
2.この条約は、産業用途(繊維と種)あるいは園芸用途に限られた大麻草の栽培には適用されない。
3.締約国は、大麻草の葉の乱用と不正な取り引きを防ぐ為に必要な方策を採択する。
と定められている。[野中訳]
SINGLE CONVENTION ON NARCOTIC DRUGS, 1961
As amended by the 1972 Protocol amending the Single Convention on Narcotic Drugs, 1961,UNITED NATIONS (pdf)
単一条約の大麻に関する規制は、47年前の古い情報に基づいて制定されているために、アルコールやタバコよりも有害性が低く、様々な疾病やストレスに対して高い治癒的な効果を示すという科学的知見が現在では常識となっている大麻の生産のための大麻草の栽培や供給をヘロインやモルヒネ、あへんの原料となるケシと同等に厳しく規制する内容となっており、結果として大麻使用者を危険なハードドラッグの売人と接触する機会を増大させ、犯罪組織に巨額の不正収益をもたらすなど、社会に様々な弊害をもたらしており、改正を強く求める要望が上がっている。
2008年の3月20日には、各国の代表が出席して、1998年の国連のドラッグに関する特別総会(UNGASS)で採択された10年間政策を総括する会合が開かれることになっており、この問題を提起する絶好の機会となっている。
<参照記事 カナビススタディハウス「オランダ、もっと柔軟なドラッグ政策が必要、元首相、現市長らがバルケネンデ首相に書簡」>
さらに、単一条約による規制の内容を検証してみると、同条約は、「個人」使用目的でのいかなるドラッグの所持・生産・配布をも刑事犯罪として扱うことを締約国に義務付けるものではないことがわかる。
こうした解釈は、少なくとも、国連では条約に相反するものではないとして受け入れてきた。このことは、国連自身による単一条約に関する公式の見解によっても明確に述べられている。(‘Commentary on the Single Convention on Narcotic Drugs’, 1961, United Nations, New York, 1973.)
最も権威ある解釈は、条約会議の全権主任草稿委員を務めた事務次長アドルフ・ランド教授によるもので、「単一条約で罰則規定として使われている『所持』や『売買』という用語は、違法な流通目的での所持や売買を意味しているだけで、結果として、個人の使用目的でのドラッグの所持や入手に関しては単一条約の対象になる必然はなく、罰すべき罪や重大犯罪として扱うように定めているわけでもない」 としている。(A. Lande The International Drug Control System in Drug Use in America: Problem in Perspective, Appendix, Technical Papers, Vol. III, p 129.)
また、1969年の条約法に関するウィーン条約では、国際条約の条項の「選択的廃棄」手順が明文化され、条約そのものの 「事実誤認」 や 「環境の根本的な変化」 などを含むさまざまな理由で、国が条約の一部を一方的に廃棄できるようになっている。(The relevance of these provisions is considered in: Lienward The International Law of Treaties and US Legalisation of Marijuana, Columbia J Transnet. Law 1971 10(2) 413.)
<参照記事 「カナビススタディハウス「単一条約をめぐる神話」」>
◎ 憲法と単一条約、大麻取締法の関係
大麻取締法による大麻の規制の正当性を主張する者は、大麻が単一条約で規制されている物質であることを引き合いに出すが、上記のような単一条約による大麻に関する規制の内容と大麻取締法を照らし合わせて検証してみると、大麻の自己使用目的ないし医療利用目的の栽培や所持を懲役刑をもって禁止することには、国際法的な視点から見ても正当な法的根拠は存在しない。
また、憲法と条約の優位性の問題という視点から見ても、原則として、憲法98条1 項で最高法規とされた憲法に適合する条約のみが国内法的効力をもち、「違憲の条約」は効力を否定されると解されるため、単一条約による大麻の規制は、大麻の有害性がアルコールやタバコよりも低く、医療用として幅広い可能性があり、重要な治療の選択肢となることが明らかになっている現代において、大麻の自己使用目的ないし医療利用目的の栽培や所持を懲役刑をもって禁止することは憲法違反であると考えられることから、これを正当化する理由には当たらない。
実際に、オランダ・ドイツ・スペイン・スイスなどでは、麻薬に関する処罰設定の自由は各国の議会にあるという考え方が条約解釈として採用されており、わが国においても大麻の自己使用目的ないし医療利用目的の栽培や所持を取締りの対象から外す政策を採ることは充分に可能である。
<参照記事 「憲法の最高法規性と条約--98条 (水島朝穂-憲法から時代をよむ)」「Taku博士の薬物政策論 検証ダメゼッタイ「大麻について」(1)」 >
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