2.接見禁止
翌日は、仕事に行った。普段、親しくさせて貰っている人たちが、「旦那さん、腰大丈夫?」と聞いてきた。そう言えば、昨日嘘付いて休んでいたのだった。更に嘘を付くのが嫌だったので、2人の人には本当の事を話した。そして、上司のAさんにも状況を伝えた。
夫が逮捕されたとなれば、働かせてもらえないのでは?と心配しつつ。
Aさんは、「あなたは、これからどうするつもりでいるの?」と聞いてきたので、これからも夫を支えていきたいと答えた。暫くして、Aさんから、会社として私をどうこうするつもりはないと告げられた。
会社に本当の事を伝えた事は、後に面会や裁判等で、仕事を早退、欠勤する際に嘘をつかずに済むので結果として良かった。
休み時間に警察署へ電話を掛け、昨夜の夫の友人との会話について担当のIさんに伝えた。Iさんは、仕事が終わってからで良いから署に来て欲しいと言ってきたので、了解した。警察署に行くと、取調室に連れて行かれ、夫の友人とのやり取りを根掘り葉掘り聞かれた。この件でも調書を作るらしい。取調室は、3畳ほどの広さに机1つと、イスが3脚あり、壁はタバコのヤニで黄色く変色していた。悪い事をしていなくても居心地悪い。
夫はこの警察署に居るのかと思っていたが、ここは満杯で、昨日の時点で隣の市の警察署に居るとの事。更に遠くに行ってしまった気がして、寂しくなった。
警察署からの帰り道、インターネットカフェに寄り、色々と調べてみた。先ずは夫が居る警察署。あるHPによると、そこは新しく綺麗なので、犯罪者に人気の留置場だそう。
所轄の警察署は古汚いので、少し遠くなったが隣の市に移った事は良かった。
翌日は週末で仕事が休み。2日前に、警察と税関に家をひっくり返されたので、掃除をした。映画の様にグチャグチャにされた訳では無かったが…
そして丁度、同じ棟のアパートの2家族が外にいたので、夫の事を話した。この2家族には、小さい子供さんがいるので、“大麻で捕まった人が同じアパートに住んでいるとなると、子供の教育上好ましくないから、出て行って欲しいと言われるかな?”と思いながら。
しかし、それは杞憂だった。「大麻ぐらいで… 運が悪かったね。」と言ってもらえた。
午後から、またインターネットカフェに行こうかと思っていたら、弁護士から電話があった。その人が言うには、これから警察署に行くから、私も本や手紙を持って来るようにとの事。昨日の時点で、刑事さんに今は接見禁止で会えないし、本も手紙も駄目だと言われていたので、不思議に思いつつも期待して警察署へ行った。自宅からは車で1時間の道のり。警察署の駐車場で、弁護士さんに初めて会った。弁護士さんは接見禁止の事など知らなかったらしく、私も面会できると思っていたようだ。この人は当番弁護士で、会いに来たとの事。やはり私は面会できず、雑誌も差し入れできなかったが、日本語のテキストと、辞書は出来た。私からの手紙も、弁護士さんがガラス越しに夫に見せる事が出来、取あえずは、私の気持ちを伝える事が出来た。手紙には、「皆心配しているけどあなたの見方だから、前向きに!気を楽に!」と書いた。
夫も弁護士さんに伝言を託していた。「ごめんなさい」と「愛してる」それから、この弁護士さんを雇いたいとの事。弁護士さんには、費用の事もあるので後日連絡する事にした。(弁護士費用は40万円。私の父に費用を借りこの弁護士を雇う事にした。)
警察署の後はまた、インターネットカフェ。裁判の流れや、大麻事犯について調べた。
夫の逮捕以来、毎晩夫の父から電話があった。遠く離れた国で、息子が逮捕されさぞ心配した事でしょう。その義父からの提案で、デンマーク大使館に相談してみてはどうか?という事になった。正直、どうなるものでもないと思ったが、老いた父親が息子を心配しているのだから、私も出来る限りの努力をしなければと思い、連絡を取ってみた。すると、1人の職員が、ここまで来てくれる事になった。
翌週も、何かと忙しかった。8月4日、第2の小包が届いた。今回は成田のゴールデンレトリバーも見落とした?らしく(それともわざと?)無事に届いた。
I刑事さんに連絡を入れた。3人の刑事さんが来た。刑事さんが封筒を開けると、酸っぱい様な青臭いような匂いが微かに漂った。中身は2つのCDケースとソフトだった。
CDケースを開けても何も無かった。刑事さん達は、「外れだね。」と言って帰っていった。
私は、納得できず更にCDケースを分解してみた。するとケースの背の部分にラップに包まれた大麻樹脂が、入っていた。心臓がドキドキした。直ぐに刑事さんに連絡しようと思ったが、「もし、これを捨てたら…?」 実家の父親に電話をしてどうすべきか聞いた。
父も一瞬動転したらしく、いったん電話を切って考えて、折り返し掛けてきた。
やはり、正直に警察に連絡すべきだと。
さっき帰って行った刑事さんたちが、またやって来た。今度は、その大麻樹脂と記念撮影。
「何てドジな人たちだ!」と夫が自由の身になるまで思っていたが、一件落着してよくよく考えてみたら、あれはきっと私を試したに違いないと思えてきた。
何故なら、1回目の成田で押収された時も同じ方法で送ってきてあったので、それを刑事さんたちが知らない訳が無い。
何人かの人に、「2度目の小包の事は、最初から黙っておけば良かったのに。」と言われたが、あの時の私は、警察に正直に協力していれば、早く終わると期待していた。
同じ週にまた警察署に行き、2度目の小包の調書を取られた。その際に、I刑事さんに夫が所持していた大麻を誰から手に入れたかを聞いた。7月25日に家に来た、ニュージーランド人からであった。1年以上も連絡がなかったのに、何故彼は、その日に来たのか?
買った本人が一番悪いが、タイミングが悪かった。
本か何かに、「警察に捕まった時、仲間を売らない様に、入手経路等を考えておくべきだ。」といった感じの事が書いてあった。確かに夫は友人を売ってしまい、その人までも自分と同じ状況にしてしまった訳だが、夫曰く「自分の自由、私達の将来と彼を天秤にかけた場合、選ぶのは難しくなかった。」私もきっと同じことをしただろう。
8月6日 弁護士さんとデンマーク大使館の職員の方が、夫に面会に行った。私は警察署のロビーで待っていた。夫と同じ建物に居るのに、会えないのはつらい。
大使館職員の方とは、母国語で話せたらしく、きっと少しは気が楽になったに違いない。
取調べは英語又はデンマーク語の通訳を通してやる訳だが、それが果たして正確に伝えられているのか、疑心暗鬼になり、供述書にもなかなかサインしなかったらしい。
I刑事には起訴はいつか、しつこく聞いてみたが、「デンマークとのメールのやり取りの解析が、まだまだで…」と何時まで経っても起訴されない。
結局逮捕から20日後の8月18日大麻取締法違反で起訴された。
1歩前進。保釈の可能性も?
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