シーン9 大麻使用
良介は病院に早足で向かった。「法律が何だろうと、僕には早苗の幸せが一番大事なのだ。もし捕まるとしても、僕だけだ。」強い決意を胸にして。
病院に着くと良介は廊下で長島医師を捕まえた。
「先生。大麻を手に入れました。これから妻に使おうと思います。」
「えっ。久保田さん、本当に?」
長島医師は狼狽した。
「これしか方法はないと思って。」
「ちょっと待ってください。困ったな。確かに私が久保田さんにお話ししたことなんだけど。法的にまずいんだよな。許可はできないよ。」
「先生には迷惑をかけません。私が勝手にやることですから。先生は知らん顔していただければいいです。」
「ちょっと、久保田さん。まって、、」
良介は早苗の病室に入って行った。
「早苗、具合はどうだい?」
「うん。痛みはあるけど、気持ちは落ち着いているみたい。この間はごめんね。」
「いいんだ。気にしないで。僕が悪かったんだよ。ところで、いい薬が手に入ったんだ。知り合いからもらった。漢方薬みたいなものらしいけど、試してみてよ。」
「そうなの?」
早苗は、効くとは期待していなかったが、良介が自分のために薬を持ってきてくれたことをうれしく思った。
「タバコみたいに熱して吸うんだ。専用の機械もある。こうやって薬を詰めてスイッチを入れて、それからここから吸うんだ。」
良介は、機械に大麻を入れてスイッチを入れた。
「何か怖いな。むせないかな。」
「大丈夫。ちょっとくらくらするかも知れないからちょっとずつ吸って。」
早苗は恐る恐る大麻を吸った。数口吸ったところで、良介が止めた。
「まずはこの位にしておこう。どうだい?」
数分して、早苗は全身がジーンとして、皮膚感覚が鈍ってくるのを感じる。そういえば足の痛みも和らいでいる。
「効いてきたみたい。」
抗がん剤の吐き気もおさまっている。
「何だかお腹も減ってきたみたい。食べる物ある?」
「それは良かった。クッキーがあるよ。」
「おいしい。久しぶりにおいしいものを食べた気がする。」
良介は、驚いた。久しぶりに早苗が笑っている。まさか本当に大麻が効くとは。
「元気になったみたい。痛みも大分いいわ。足がほぐれた感じがする。ちょっと気分がいつもと違うけど、悪い感じじゃないみたい。この薬なんていうの?」
「名前は聞き忘れちゃったよ。今度聞いておく。」
苦痛から解放された早苗をみて、良介は涙ぐむ。
「よかった。本当によかった。」
早苗はその後いつの間にか寝てしまった。病気になる前の元気だったころの夢を見た。自分の足でどこまでも歩いていける、不安も絶望もなかったあの頃の夢。久しぶりにぐっすりと休むことが出来た。
翌日、早苗の気分は明るかった。食欲もあるし、気力も戻ってきたように感じる。長島医師が部屋に入ってきた。
「久保田さん、どうですか?」
「先生。今日は気分がいいみたい。痛みも和らいでいます。食欲もあって。」
「そうですか。それは良かった。」
早苗は良介の持ってきた薬のことは伝えなかった。病院の薬以外で良くなったことをつたえるのが悪いような気がしたからだ。
「次の抗がん剤治療はいつでしたっけ。早く良くなって退院したい。」
気持ちが前向きになっている早苗に長島は驚き、嬉しく思う。
「大麻が効いたのだろうか。しかし、これは良いことなのか。」長島医師は複雑な心境だ。
(つづく)
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