関東学院大学ラグビー部の部員2名が、宿舎の部屋の押入れで大麻栽培をしていたとして逮捕され、同大ラグビー部は来年3月までの対外試合を自粛することになった。この事件を各メディアは大々的に取り上げ、相も変わらぬ警察情報垂れ流しの思考停止報道を繰り返している。
しかし、この部員2名は、大麻栽培それ自体によって誰にどんな迷惑や被害を与えたのだろうか。これほど大騒ぎする話なのか。バカバカしい。
昨今、ネットでも、ヘッドショップなどの実店舗でも、大麻の種が「観賞用」として売られており、自分で栽培する者が増えているのだろう。ネットで種を買って栽培し、逮捕される事件も増えているそうだ。
「大麻草の種子、ネットで入手し栽培…摘発相次ぐ」-読売新聞 2007年11月7日-
今回の大々的な警察の垂れ流し情報は、そのような種の販売の規制を強化する流れのなかで起きているプロパガンダだと思われる。これまでにも栽培で捕まった者の供述から、種を販売した店の店主が逮捕される事件もあったし、栽培用の器具を販売した者が逮捕された例もある。
今回逮捕された部員2名は渋谷で種を購入したと供述しているようだが、今後、種を販売したショップに捜査が入る可能性もあるだろう。
没論理の御用新聞・産経が、この事件について、いつものように没論理の記事を書いている。社説の「主張」では、「今年度の活動を自粛して、残りのリーグ戦と大学選手権の出場辞退を決めたのは当然だろう。」と、なぜチーム全体の活動自粛が当然なのかも示さずに、単なる主観で断定している。小学生の作文レベルだ。「よく考えましょう」という花マルを押したい。
「産経抄」というコラムでは、「20歳を過ぎた大人で、立派な体をしたラグビー選手だ。いかにも幼稚で、薄気味悪い感じさえしてくる。」とまで書いている。
【産経抄】11月11日
このコラム、「ラグビー界だけでなく社会全体が「幼稚化」していることの表れなのだろうが。」と結んでいるが、幼稚で薄気味悪いのは、反動の提灯持ち、御用新聞産経のメンタリティーのほうである。
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大麻取締法被害者センターを任意団体としてのNPOと位置づけ、サポーターを募集して以来、19名の方に登録して頂いていますが、ほとんどの方が、ユーザー名とパスワードでログインしてもサポーター専用のコンテンツにアクセスできない状態になっていました。まことにまことに申し訳ありませんでした。ボランティア2名とスタッフ9名はアクセスできる設定になっていますが、登録して下さったサポーター用の設定にミスがありました。ごめんなさい。
な~んでせっかく登録してくれたのにアクセスしてないのだろうと、解析を見て不思議に思っていましたが、そういうことでした。
現在は設定を修正したのでログインすれば専用コンテンツにアクセスできると思います。
今後は注意して設定の確認をします。穴があったら入ります。
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これまで見てきたように、様々な課題や問題がハームリダクションの実践には伴うが、敷居の低い治療プログラムによって中毒者が受ける恩恵は大きい。
彼らが社会復帰へのきっかけをつかむことは、非合法麻薬の需要削減につながるだけでなく、ひいてはコミュニティの治安向上、公衆衛生環境の向上へとつながる。
ハームリダクションの治療プログラムには、中毒者に「完全な使用の中止」か「社会的排除」かの二者択一ではなく、彼らの置かれている現状を受け入れたうえで、いかにして彼らを社会やコミュニティに再統合するかという視点が基本にある。
そして、この排除ではなく中毒者の社会的再統合を通じてしか、恒久的な需要削減効果を得ることは不可能と思われる。
了
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メタドン治療を受けていても、中毒者が持つヘロインやコカインなどの薬物への精神的依存や欲求そのものを抑えることはない。
メタドン治療はその他のカウンセリング、セラピーと併用して行われる時にアブスティナンスの実現への効果が現れていることが証明されており、中毒者の生活パターンを転換させ社会に復帰させるための一つの手段ないしは入り口として認識するべきである。
むしろメタドン治療が現実に直面している問題は、これを取り巻く社会環境の方にある。
APAは、メタドン治療を希望するヘロイン中毒者の数は多いが、資金とサポート不足によってすべての希望者にメタドン治療を受けさせることができていない現状を指摘している[27]。
また精神病患者のための社会復帰施設と同様、メタドンクリニックの開設には地元住民からの反対運動が起こる。仮に開設に至っても、そのほとんどが都市部に集中しているため、地方に住むヘロイン中毒者はメタドン治療を受けることが難しい。
こうした問題の解決には、オランダで行われているようなメタドンバスによる移動クリニックの普及が有効と思われる。
またメタドンに比べ薬効時間の長い代替物質の使用も近年採用されつつある。メタドンは薬効時間が短いためヘロイン中毒者は毎日メタドンクリニックに出向く必要がある。これに対し、ラーム(LAAM: L-alpha-acetylmethadol)はその半減期が長く48時間ヘロインの禁断症状を抑えることができるので、中毒者がクリニックへ来る回数を減らすことができる代替物質として近年注目されている。
またこの他、ブプレノルフィンというオピオイド拮抗薬は、メタドンと同様の効果を持ちつつメタドンに比べ禁断症状が著しく少なく、メタドンに代わる代替薬物としての普及が期待されている[28]。
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[27] Ibid., p.4.
[28] Ibid., p.4.
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大麻密輸の冤罪で逮捕され、千葉地裁の一審で懲役5年罰金100万円の判決を受けた裕美さんの控訴審初公判が昨日あった。
控訴審の弁護は、刑事司法改革を求め、取調べの可視化などを主張するミランダの会の高野弁護士が受任し、千葉地裁の事実認定に重大な誤りがある点などを趣意書で指摘した。裕美さん本人が書いた趣意書と併せ、彼女が意図して大麻密輸の犯罪にコミットすることなどありえないこと、ナイジェリア人の男に騙された事実について論証が行われた。
しかし、東京高裁(裁判長裁判官・池田修、裁判官・吉井隆平、兒島光夫)は審理もせずに、昨日の初公判で即日結審したうえ判決を出し、裕美さんの控訴を棄却した。この裁判官たちは、初公判の法廷の場で直接祐美さんと向かい合い話を聞くつもりが最初からなかったということだ。初公判の前に既に棄却の判決文が書き上がっていたのである。滅茶苦茶な暗黒裁判だ
現在の司法のシステムでは、冤罪は必然的に起きる。裁判所などと無縁の生活をしていると、漠然と、裁判所や裁判官は正しい判断を下し、公正な判決を出していると思い込みがちだが、現実は違う。
警察の暴力的・恫喝的な取り調べで無実の者が自白を取られ、起訴される。起訴した以上、有罪にするのが検察の商売だ。
明らかに無実の者に、審理を尽くさず懲役5年を科す裁判官。司法改革は冤罪を生まないシステムを構築するためにこそ必要なのだと思う。
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しかしメタドンプログラムにもいくつかの批判と問題点がある。まずメタドンはその禁断症状がヘロインよりも激しいという欠点を持つ。ゆえにメタドンプログラムは長期間に渡って行われ、徐々に使用量を減らす漸減方式が一般的である。
アメリカ精神医学学会(APA)によれば、メタドンメインテナンスの治療には、多くの中毒者が最低でも2年、多くは5年から10年を要しており、中には糖尿病患者のインシュリンと同様に生涯メタドンを継続使用する場合も少なくない[26]。
このことから、メタドンのメインテナンス治療も身体的依存性があるという点で、何らヘロイン中毒と変わらないのではないかという批判が生まれる。確かにメタドンを使用する中毒者は完全なアブスティナンスの状態にはなく、メタドンに依存した生活を送っている。ただしメタドンはヘロインほどの多幸感をもたらさないため、使用者にヘロインのような現実解離効果を引き起こすことはない。
また一般に鬱や不眠症などの精神的症状に対して処方薬が継続的に使用されている現状からすれば、同じく禁断症状を抑えるためのメタドンの使用が道徳的非難にさらされることには一定の社会的バイアスが働いていると思われる。
むしろメタドン治療も様々な精神病への処置と同様、投薬で症状を押さえることはできても問題の本質的解決とはならないという認識こそが重要である。
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[26] American Psychiatric Association(1993)Methadone Maintenance Treatment Position Statement, APA Document Reference No.930005, p.3.
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非合法麻薬の使用に際して想定される害は多岐に渡る。使用者の短期的、長期的な健康上のリスクの他、経済問題、麻薬の入手、逮捕、留置を含む法的問題、薬物の効果による労働や家庭生活の遂行能力の衰退、また社会的スティグマ化やレイベリングなどである。
また麻薬の密売行為や麻薬を入手するための盗みなどの犯罪行為は、コミュニティの安全を脅かし地域に暴力をもたらす。ハームリダクションプログラムは、これら多様な悪影響を削減させる包括的な視点から中毒者へのケアを行う。
ハームリダクションの具体的なプログラムの中心となるのは、メタドンに代表される代替物質の使用である。代替物質を使用することの最大の利点は、それらがヘロインと異なり合法的に入手が可能という点である。
ヘロインから代替物質への転換によって中毒者は非合法麻薬のマーケットに依存する必要性が基本的になくなるため、非合法麻薬を購入、使用するという違法行為、ヘロインの代金を得るための盗みなどの犯罪行為や売春から手を引くことができ、結果として取締り、裁判、留置措置への不安からの解消と、これにかかる社会的コストも同時に削減することができる。
また中毒者の健康という点では、服用式のメタドンを使用することで注射針の使用を中止させHIVやその他の感染症を防げるだけでなく、質の一定しないブラックマーケットのヘロインがしばしば引き起こすオーバードーズやカッティングによって混入された不純物による健康被害を防ぐ。
その他、完全にメタドンに移行していないヘロイン中毒者もヘロインを購入できない時に禁断症状を抑えるためこれを利用することができる。
こうしたプログラムの敷居の低さと具体的にプログラムが中毒者に対して持つインセンティブは、サービスの提供者と中毒者との間での定期的な接触と交流を持つことを可能とする。
メタドンや注射針の配付を通じて、中毒者に健康相談や他のサービスを提供でき、恒久的な離脱プログラムへの勧誘とカウンセリングへの入り口を持つことが可能となる[25]。
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[25] Tapert, S.F., Kilmer, J.R., Quigley, L.A., Larimer, M.E., Roberts, L.J., Miller, E.T. "Harm Reduction Strategies for Illicit Substance Use and Abuse"in Marlatt, G.Alan (ed.) (1998) op.cit., pp.162-163.
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現在全米で2,000万人と推定されている非合法麻薬の使用者のうち、ONDCPは約770万人が治療が必要な中毒者と推定しているが、そのうち治療を実際に受けているのは約140万人(約18%)にすぎない[23]。
しかしこの現状に対し、2004年度のDrug Strategyでは、「実際の問題は、膨大な数のアメリカ人が非合法麻薬に依存しており、彼らが治療を求めていないということである。このように中心的問題は、治療の順番待ちのリストではなく、治療の必要性を認識していない人々がこの必要性を認識することをこちら側が待っている状態にある」と述べ、治療を受ける中毒者数が少ない原因を治療プログラムが構造的に持つ敷居の高さにではなく、中毒者が自分達の置かれている危険性を認識していないからだと説明している[24]。
このような問題認識が変わらないかぎり、今後治療プログラムへの中毒者の低アクセス率が改善される見込みはほとんどないと思われる。
こうした敷居の高い(high-threshold)治療プログラムに対して、ハームリダクションではメタドン治療や注射針の交換を中心とした敷居の低い(low-threshold)プログラムの提供によって、中毒者が置かれている状況の段階的改善と本格的な治療プログラムへの準備段階としての初期プログラムの活用を目指す。
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[23] ONDCP (March 2004) op.cit., p.21
[24] Ibid., pp.20-21
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禁止政策において行われている需要削減政策の今一つの柱は、既に麻薬を常用している中毒者への治療プログラムである。しかしながら、現行の制度では、中毒者が実際に治療プログラムに参加することは容易ではない。
その主な理由は、前述したようにアメリカの治療プログラムの大半が完全なアブスティナンス(abstinence:断つこと[THC注])を要求している点にある。しかし中毒者が治療を受けることを困難にしているのはそれだけではない。
ONDCPの97年のDrug Strategyが明らかにしているように、「慢性的使用者が治療を受ける意志は、治療プログラムの利用可能性と、サービスを受ける経済的余裕、公的資金によるプログラムと医療保険へのアクセスの有無、個人的モチベーション、家族と雇用者のサポート、そして中毒を認めることによる潜在的結果(potential consequences)に影響される」のである[22] 。
このONDCPの分析は、アメリカの中毒者が直面している様々な問題を実に的確に表現したものである。治療プログラムは予算不足から指摘されているようにその利用可能性が十分でないだけでなく、中毒者の経済的負担という点においても問題が大きい。
またONDCPが、「中毒を認めることによって生じる潜在的結果」と表現している事柄の中身も、中毒者にとっては治療を受けるにあたっての大きな障害となっている。
薬物中毒を認めれば、逮捕、留置、財産の没収だけでなく、解雇、失業、また子供を取り上げられるなどの厳しい現実が待ち受けている。
つまり治療を受けるだけの経済的余裕があり、雇用者が文字通りの理解とサポートを示し、信頼できる生活基盤の保護が保証された中毒者でないかぎり、何らかの治療を求めていてもよほど状態が悪化するまで中毒者が治療プログラムの門を叩くことはない。
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[22] Marlatt, G.Alan (ed.) (1998) op.cit., p.366.
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隔月刊誌「実話ナックルズ X vol.3」(10月25日発売)に、「大麻取締法は『ダメ。ゼッタイ。』」というタイトルで短いコラムを書きました。目次にも出ていない巻末のほうにある短文ですが、連載させて頂けるとのことなので、ウェブとは異なる読者層の目に少しでも触れればと期待しています。
この号にはポンさんこと山田隗也氏の「日本最初のマリファナアウトローは俺たちだ!」という文章があり、また別の特集として「アイヌとして生きる誇り」があり、「警察の犯罪、こいつらどこまでワルなのか?」があり、「徹底ルポ、合法シャブを巡る大騒動、リタリン・パニック!」があり、巻頭には「ロックンロールをなめんなよ」という、ロック界の大御所・内田裕也氏インタビューがあり、その次の2ページ目には「リア・ディゾン(21)”ハメ撮り映像”流出秒読みか」があって、いやあ、飽きないというか、硬軟混在で、全体の記事のボリュームにも圧倒されます。不思議な雑誌。
書店やコンビニや下記で買えます。
ミリオン出版「実話ナックルズX vol3
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こうした効果と理論に疑問の多いLSTプログラムやDAREに代わり、近年アメリカの教育現場で需要対策として活発に行われているのが生徒への抜き打ちのドラッグテスティングである。
現ブッシュ政権のONDCP長官ジョン・ウオルターズは、これを麻薬問題へのsilver bullet(魔法の解決策)と呼び、2004年のNational Drug Strategyでは教育現場での麻薬対策の目玉として2,300万ドルの予算が組まれている[13]。
教育現場でのドラッグテスティングは、1995年に当初法的には陸上部に所属する生徒のみに許可されていたが、2002年6月の最高裁による決定を受けて、陸上以外(バスケット、チアリーディング、弁論、チェスなど)の課外活動に参加する中高生にも広く実施されるようになっている。
ONDCP発行のパンフレットでは、アラバマ州のある郡でのパイロットプログラムの成功例と、この地域の第1部でも紹介した父兄組織PRIDE(National Parents' Resource Institute for Drug Education)によるドラッグテスティングの効果に対する肯定的統計が紹介され、ドラッグテスティングの教育現場での積極的な採用が啓蒙されており、ブッシュ大統領も2004年1月の一般教書演説の中でドラッグテスティングに触れ、この2年間で若者の麻薬使用が減少しており、「我々の学校でのドラッグテスティングは、この努力の中の効果的な一部であることが証明されている」と述べている[14]。
しかし政府の発表とは裏腹に、専門家による調査によってドラッグテスティングの実施と効果には既に多くの問題点と疑問点が指摘されている。
2003年に発表されたミシガン大によるドラッグテスティングの効果に関する初の大規模な調査では、1998年から2001年にかけて全米で76,000人の8年生、10年生、12年生を対象に、ドラッグテスティングが実施された学校と実施されていない学校との麻薬の使用状況の比較調査が行われている。
その結果、何らかの非合法麻薬を使用している12年生の割合は、ドラッグテスティングを実施している学校の生徒が21%、実施していない学校の生徒が19%、同じく12年生のマリファナの使用者数の割合は、テストを実施している学校で37%、実施していない学校で36%とほとんど差がないことが明らかとなった[15]。
この調査を行ったミシガン大のロイド・ジョンストン教授はこの調査結果から、「実施されているドラッグテスティングの影響は、全くないことを示唆している」と述べ、ドラッグテスティングは、「子供達の気持ちや心情を勝ち取ることのない一種の介入であり、私はこれがドラッグに対する子供達の態度や、あるいはその使用に伴う危険性に対する彼らの信念に何らかの建設的な変化をもたらすとは思わない」と結論している[16]。
また先の1995年の最高裁によるドラッグテスティングの実施許可の裁定を導いた当の本人であるオレゴン州の高校の元校長ランドール・オールトマン氏も、ドラッグテスティングは、「あらゆる状況で常に効果をもたらすとは思っていない。(中略)実際には、多くの生徒が『OK、シーズン中だけはやめよう、シーズンが終わってからまたドラッグを始めればいいさ』と言っている。でも中には生涯を通じてやめる生徒もあり、その場合には効果がある」と述べ、ドラッグテスティングが決してsilver bulletでなく、限られた効果しかないことを認めている[17]。
しかしドラッグテスティングが仮にわずかでも効果を示すとしても、そのわずかな効果にかかる経済的コストは決して小さくはない。テストの方法によってコストは変わるが、一番安価で一般的に行われている尿検査で一人のテストにかかる一回のコストが10ドルから30ドル、皮膚についた汗から行う検査法(sweat patch)で20ドルから30ドル、最も高い髪の毛のテストでは60ドルから75ドルかかる[18]。
またドラッグテスティングの結果に一定の精度と信頼性を保つためには、テストの頻繁な実施、テスト法の切り替え、陽性者への再テストの実施など、さらに多くのコストをかける必要性が常にある。そのため精度の高いテストの実施は、学校の財政と総合的な予防教育の予算を圧迫する結果を招く。
オハイオ州ダブリンでは、一人あたり24ドルのコストで1校につき年間35,000ドルがドラッグテスティングに使われており、陽性反応が出た生徒(1,473人中11人)一人を見つけるために単純に計算して32,000ドルのコストがかかっていた。
その後、ドラッグテスティングによって他の予防対策への資金がなくなったダブリンでは、その費用対効果を再検討し、結局ドラッグテスティングを中止し、代わりに2名のフルタイムの麻薬中毒の専門家を雇い、他の予防プログラムに予算を振り分ける決定を行っている[19]。
またドラッグテスティングは本来課外活動への参加が必要な生徒を、かえって課外活動から遠ざけてしまうという教育上逆の効果をもたらす可能性が高い。
課外活動は生徒をより長い時間学校に留め監督下におくことができるため、一般に生徒を非行行為から遠ざける効果があることが認められている。
また生徒に勉強以外の関心、目標、また仲間との交流をもたらす点で多様な教育効果をもたらす。
本来麻薬を常習している生徒にこそ、学校は積極的に課外活動への参加を呼びかけるべきであると思われるが、ドラッグテスティングは結果的に彼らを課外活動から締め出してしまう。
また週末のパーティなどでマリファナのみを使用する普通の生徒にとっても、課外活動への参加を避ける要因となる。また一般に行われている尿検査は、マリファナには反応しやすいが、アルコールとタバコ、MDMA(エクスタシーの主要成分)には効果がなく、体内での残留期間の短いメタンフェタミン(スピード)やコカインも陽性反応が出にくい。そのためドラッグテスティングの実施は、生徒にマリファナよりもリスクの高いアルコールやその他のハードドラッグの使用を選択させている[20]。
このようにドラッグテスティングは、教育現場における需要削減と予防効果という観点からみて、その効果よりもマイナス面の方が大きく、かえって麻薬の使用を影へと追いやり、非合法麻薬を使用する生徒達のリスクをかえって増大させている可能性が高い。
禁止政策の理念を根本とするドラッグテスティングは、週末だけにマリファナを使用する生徒も、ヘロインの静脈注射やクラックを常用するものも、すべて同じダーティーな非合法麻薬の乱用者とみなす。
しかし本当に問題なのは後者のようなハードドラッグの常用者であって、この場合ドラッグテスティングに頼るまでもなく、態度の変化、成績の悪化、欠席の増加、喧嘩、軽犯罪へのコミットなどの日常生活での問題行動から、少なくともまじめに職務を行っている教師であるならば、彼らが何らかの問題を抱えているということは容易に推察可能と思われる。またコストを含めた具体的な問題以上に、ドラッグテスティングの実施は両親、教師と生徒達との関係に亀裂を生じさせる結果を招く可能性がある。
テストに備えて当然生徒達は、親や学校を欺くための対策を講じる。既にテスト対策としてクリーンな尿の提供、体内の麻薬の成分を中立化する薬品、髪の毛から反応を出さないシャンプーなどのテストへの対抗商品は数多くインターネット上で販売されており、またテストに抗議してスキンヘッドにし体毛を剃る生徒も現れている[21]。
ドラッグテスティングとは、抜き打ちテストによって実質的な取締りを行うだけでなく、生徒達に麻薬の使用が親や学校にばれるかもしれないという恐怖心と、発見された時の何らかの制裁への恐怖心を起こさせ、この恐怖心を利用し子供達に麻薬の使用を思いとどまらせようとする手段であり、教育的手段ではない。
この点で、ドラッグテスティングは現行の禁止政策の需要削減手段である逮捕、懲罰による使用の抑制と本質的には何ら変わるものではない。
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[13] U.S. Office of National Drug Control Policy (March 2004) National Drug Control Strategy 2004, [http://www.whitehousedrugpolicy.gov/publications/policy/ndcs04/index.html].
[14] U.S. Office of National Drug Control Policy (ONDCP) (2002) What You Need to Know about Drug Testing in Schools, [http://www.whitehousedrugpolicy.gov/publications/drug_testing/], p.3., News Week (Feb.25, 2004), "Web Exclusive Report: Guilty Until Proven Innocent"[http://www.msnbc.msn.com/id/4375351/].
[15] Yamaguchi, R., Johnston, L.D., O'Malley, P.M. (2003) "Relationship Between Student Illicit Drug Use and School Drug Testing Policies", Journal of School Health 73.4, pp.159-64.
[16] Winter, Greg(May 17, 2003)"Study Finds No Sign That Testing Deters Students' Drug Use", New York Times, International Herald-Tribune.
[17] Ibid.
[18] Gunja, F., Cox, A., Rosenbaum, M., Appel, J.(January 2004)Making Sense of Student Drug Testing, Why Educators are Saying No, The American Civil Liberties Union and The Drug Policy Alliance,[www.aclu.org/drugpolicy], p.9.
[19] Ibid., p.10.
[20] Ibid., p.16.
[21] Ibid., p.16.
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多くの先進国では、かつてのような職業訓練や師弟制度によって生涯保証された仕事につく時代は過ぎ去り、社会的紐帯が強い地方の製造業が衰退し、都市部ではサービス業など賃金の安いマニュアル化した仕事が増えている。
労働市場が流動化し、フルタイムに代わってパートタイムの仕事が増える一方で、大卒などの高い学歴が必ずしも安定した雇用の確保につながらず、青年期に経済的な自立をすることが難しくなってきている。
これと連動して若者は結婚しなくなり親にもならなくなり、近年、家族社会学がポスト青年期(post-adolescence)と呼ぶライフサイクルの一時期を過ごすものが増えてきた。
パーカーらは、彼らポスト青年期を送る、経済的にも、社会的にもさほど責任を担っておらず、稼いだ金を好きなことに消費できる中流階級の若者達が、生活の中でtaking time out(小休止)する時に、レジャーの一つの選択肢としてドラッグの使用を選択していると調査結果から分析している[11]。
また多くの先進国では、文化の個人化が進み、かつての集合的なカウンターカルチャーやサブカルチャー運動は影を潜めてきた。これと平行して、麻薬の使用用途も種類も個人化、多様化している。彼らの麻薬の使用の動機は、かつての反抗的サブカルチャー精神の表明ではなく、むしろメインストリーム文化である商品の消費、快楽の消費とより親和性が高いように思われる。彼らは社会的に疎外された貧困層や差別階級の人々による中毒的なドラッグの使用と異なり、生活をドラッグにフィットさせるのではなく、余暇活動として他のレジャーと同じように、ドラッグをノーマルな学生生活や社会生活にフィットさせているのである。
こうした現状の道徳的是非はともかく、ハームリダクション政策では若者の間で麻薬が既に広く使用されているという事実、麻薬使用のノーマライゼーション化を認めたうえで、よりプラグマティックな教育的予防プログラムの実践を主張する。まず前提となるのは、合法、非合法、また処方薬も含めた薬物全般の持つ効果と危険性に対する客観的、科学的な事実に基づいた情報の提供である。前述したように、非合法麻薬をいたずらに悪魔化する手法は、何らかの非合法麻薬を経験しその危険性を実体験している若者からは情報ソースとしての信頼性を失う結果を招く。
その結果、彼らが主な情報ソースとしている友人の、時には不確定で特殊な経験的知識に基づく情報が先行し、使用の際に必要以上のリスクを被る可能性が常につきまとう。この情報ソースとしての信頼性の回復こそが、予防プログラムを行う教育現場が取り戻さなければならない最初の課題であると思われる。
このことを前提としたうえで、麻薬のハームリダクション教育の研究者であるスケイジャーにしたがって、ハームリダクション政策が提唱する教育現場でのリスク予防プログラムの目標と実践項目をみてみよう。
- できる限り使用開始年齢を遅らせること。
- (完全にやめさせようとするのではなく)使用する量を削減させること。
- 生徒に使用すべきではない時、場所、状況があることを理解させること。
- 問題のある使用(やり過ぎ、他のドラッグとの混ぜ合わせ、知らないドラッグ、不純なドラッグの使用など)を回避させること。
- 麻薬の使用に関して自分自身及び他人への責任感を促すこと。
- 中毒及び依存を示す兆候に対する知識を持たせること。
- 問題の多い使用を行う仲間に対するアプローチとアシストの教育。
- 助けが必要な時に学校、コミュニティなどのサポートリソースがあることを自覚させておくこと。
そしてこれらの目標項目は、次のような事柄を教師が念頭に置く時に効果的に達成される。
- 多くの生徒がアルコールや他のドラッグの肯定的経験を持っていることを受け入れる。
- トップダウンではなく生徒とのインタラクティブなディスカッション形式において行う。
- 生徒に疑念を抱かれる情報ではなく麻薬の否定的、肯定的両面の効果に関する確かな情報を生徒に提供する。
- 生徒の合理的自己決定を重視し、非裁量的(non-judgemental)アプローチをとる[12]。
大人達の麻薬に対する感情的、否定的反応、若者達から見れば間違った麻薬に対する認識の押し付けは、彼らに大人から極力麻薬の使用を隠す努力を選択させる。そのため子供が不適切かつ危険の多い麻薬の使用方法を実践していても、明らかな身体的、精神的症状が出るまで、親、教師、ホームドクターらがそれを発見することは困難となる。
現代社会のように、洪水のような情報量とその不確実性にあふれた社会環境では、麻薬を使用する若者達は常に危険な立場に置かれており、彼らが準拠できる信頼できかつ確かな情報リソースの確保が求められる。
しかしながら実際の麻薬教育の予算は使用の完全中止をベースとした予防教育にのみ限定されており、一部の私立学校を除いて上述した教育項目はアメリカではほとんど実施されておらず、またそのための訓練を受けた教師の数も少ないのが現状である。
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[11] Parker, H., Aldridge, J., Measham, F. (1998) op.cit., pp.23-25.
[12] Skager, Rodney, op.cit., pp.17-18.
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学校現場でのマリファナの害を誇大に強調した教育は、その実際の効果を既に体験している生徒の大半からは失笑を買うだけで、教師や政府の伝える情報をプロパガンダとしてしか受け取ることはない。
そのため教育機関や政府は、若者にドラッグに対する信頼すべき情報のリソースとはみなされず、そまた9年生のアルコールやその他の麻薬の使用動機は、その大半が「どんなものか知りたかったから」(52.3%)「楽しむため」(50.1%)「うさばらし」(46.7%)「友達がやっていたから」(50.1%)などの通常の娯楽とほぼ変わらない動機が占めており、予防プログラムが前提とする性格的問題のカテゴリーに入ると思われる、「やることがないから、倦怠、退屈」など比較的問題があると考えられる使用動機は25.6%にとどまっている[7]。
そもそもアルコールを含め、ハードドラッグの使用やリスクの高いドラッグの使用パターンを実践している者は、社会環境や家庭環境に起因した社会的、精神的問題を抱えている者であり、彼らの問題解決にはドラッグの危険性の認知教育やLSTではほとんど効果はなく、より総合的な社会福祉や心理カウンセリングなどの対応が行わなければならない。
またこの調査から明らかとなった使用状況では、いわゆる友人からの圧力という要因はほとんどみられず、生徒が彼ら自身の判断で自発的(spontaneous)にドラッグの使用を行うモデルが優勢であった[8]。
またイギリスで行われた調査でも、この友達からの圧力という使用動機はほとんど認められず、「自己責任のもとで、自分自身で麻薬の使用の決断を行っている」若者が大半を占めていると結論されており、LSTプログラムが前提とするモデルが実際の若者の使用状況とは必ずしも一致していないことが明らかとなっている[9]。
むしろここで認められるのは、一種の対人関係における個人主義(do-your-own-thing ethic)であり、アルコールを含め、友人からすすめられたドラッグの使用を拒否しても、それが友人関係に影響を与えることは実際にはほとんど認められていない[10]。
むしろ先進国で顕著な個人主義の考え方の下では、仲間からのドラッグの使用の強要などといった、本人が設定したリミットを超えるリスクテイクは彼らの信条によって拒否されることが一般的である。
ではなぜ他に問題行動を起こさない中流階級の若者達の間で、麻薬の使用が通常の娯楽やレジャーとして広がりをみせてきているのであろうか。
ここには多様な社会的要因が影響していることは間違いないが、非合法麻薬の使用のノーマライゼーション化の理由の一つとして社会学者のパーカーらが注目しているのは、彼らを取り巻く近年の社会、経済状況、特に労働状況の変化である。
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[7] Ibid., p.87.
[8] Ibid., p.85.
[9] Parker, H., Aldridge, J., Measham, F. (1998) Illegal Leisure: The Normalization of Adolescent Recreational Drug Use, New York and London; Routledge, P.161.
[10] Skager, Rodney "On Reinventing Drug Education for Adolescents", in The Reconsider Quarterly Winter 2001-2002 Vol. 1, No.4, p,16.
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DAREプログラムに代表される一次、二次予防は、一般に麻薬の使用開始のメカニズムとして次の二つの要因を前提としている。それは、友人からの圧力(peer pressure)と使用者の性格的欠陥(personal deficit)である。
友達にすすめられた時にノーと言えない自己決定や自立心の欠如、また感情のコントロールができない若者が、アルコールや薬物に手を出すという使用者像である。このモデルにしたがって、予防プログラムではアルコール、タバコを含めた麻薬の使用を促すとされる身近な社会的圧力に抵抗する能力、意思決定、怒りと不安のコントロール、自尊心などを養うための生活技能訓練LST(Life Skills Training)が採用されている。
問題はLSTが前提としている、問題のある生徒が麻薬を使用するというモデルが現実の麻薬使用者のプロファイルとは大きな開きがあることである。
およそ30年に渡って全米の学生の行動調査を行っているモニタリング・ザ・フューチャー(MTF)によって2002年に行われた8年生、10年生、12年生を対象にした調査によれば、53%の生徒が何らかの非合法麻薬を経験しており、マリファナ以外の非合法麻薬も30%(1997年の数値)の生徒が経験していた[5]。
またカリフォルニアでの調査では、9年生の自己申告による数字によれば、24%の生徒がマリファナを使用したことがあると解答しているが、同じ解答者の53%が同年の生徒の半分かそれ以上がマリファナを使用していると推測している。
同様に11年生では、自己申告では45%が使用したことがあるのに対し、72%の生徒が半分かそれ以上の同年の生徒がマリファナを使用したことがあると推定している[6]。
このように非合法麻薬の使用は既にアメリカ社会では特に家庭問題や経済問題を抱えた生徒に限らず広く一般的に行われており、これを特に問題行動として認識することに予防プログラムのそもそもの問題点があると思われる。
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[5] National Institute on Drug Abuse (NIDA) & U.S. Department of Health and Human Services, Johnson, Lloyd D., O'Malley, Patrick M., Bachman, Jerald G. (2003) Monitoring the Future: National Results on Adolescent Drug Use, Overview of Key Findings, 2002, [http://www.nida.nih.gov/DrugPages/MTF.html], p.28.
[6]Austin,G., Shager, R. (1999) Eighth Biennial Statewide Survey of Drug and Alcohol Use Among California Students in Grades 7,9, and11, Sacramento,CA; Office of the Attorney General, Crime Prevention Center, p.85.
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