元内閣法制局長官の林修三さん(故人)という方が、次のような随筆を書いています。
『時の法令』財務省印刷局編 1965年4月 通号530号「大麻取締法と法令整理」より
<一>
近頃、マリファナたばこなどという麻薬の一種がマスコミの話題になっている。先頃、来朝した黒人ドラマーなどがこの麻薬使用のかどで逮捕されて世間の注目をひいた。ジャズマンなどが好んで使用するのは、この麻薬が一種の陶酔状態を作り出すからだという。あへん、ヘロインなどとは作用のちがうものだそうであるが、中近東地方の麻薬といえば、大体がこの系統のものらしい。十一、二世紀のイランの山地地方にハッシーシュという麻薬を使って若者を誘惑し、これを暗殺者に仕立てて近隣諸国をふるえ上らせたという暗殺者王国(山の老人の王国)があったことは有名な話であるが、そこで使われた麻薬も、この種類のものであったようである。ついでであるが、英語のアサシネーション(暗殺)ということばの語源は、このハッシーシュから出ているらしい。
<二>
それはさておき、このマリファナたばこの麻薬的作用はカンナビノールという成分によるものだそうであるが、その原料になるものは大麻草(カンナビス、サティバ、エル)である。大麻草といえば、わが国では戦前から麻繊維をとるために栽培されていたもので、これが麻薬の原料になるなどということは少なくとも一般には知られていなかったようである。したがって、終戦後、わが国が占領下に置かれている当時、占領軍当局の指示で、大麻の栽培を制限するための法律を作れといわれたときは、私どもは、正直のところ異様な感じを受けたのである。先方は、黒人の兵隊などが大麻から作った麻薬を好むので、ということであったが、私どもは、なにかのまちがいではないかとすら思ったものである。大麻の「麻」と麻薬の「麻」がたまたま同じ字なのでまちがえられたのかも知れないなどというじょうだんまで飛ばしていたのである。私たち素人がそう思ったばかりでなく、厚生省の当局者も、わが国の大麻は、従来から国際的に麻薬植物扱いされていたインド大麻とは毒性がちがうといって、その必要性にやや首をかしげていたようである。従前から大麻を栽培してきた農民は、もちろん大反対であった。
しかし、占領中のことであるから、そういう疑問や反対がとおるわけもなく、まず、ポツダム命令として、「大麻取締規則」(昭和二二年 厚生省・農林省令第一号)が制定され、次いで、昭和二三年に、国会の議決を経た法律として大麻取締法が制定公布された。この法律によって、繊維または種子の採取を目的として大麻の栽培をする者、そういう大麻を使用する者は、いずれも、都道府県知事の免許を受けなければならないことになり、また、大麻から製造された薬品を施用することも、その施用を受けることも制限されることになった。<三>
こういういきさつがあるので、平和条約が発効して占領が終了したあと、昭和二七年から二九年にかけて、占領法制の再検討、行政事務の整理簡素化という趣旨で、大規模な法令整理が考えられたときには、この大麻取締法の廃止(少なくとも、大麻草の栽培の免許制などの廃止)ということが相当の優先順位でとりあげられたのであり、私ども当時の法制局の当局者は、しきりに、それを推進したのである。厚生省の当局も、さっきも書いたように、国産の大麻は麻薬分が少ないことから整理の可能性を認めたのであるが、なお最後の踏切りがつかないというので、私どももそれ以上の主張はせず、この法律の廃止は見送られることになった。
もし、このとき、法令整理の方に踏み切っていたとしたら、最近のような大麻系、麻薬横行の事態に直面して、厚生省当局は、必要な法令まで廃止したものとして、世論の批判をまともに受けることになっていたであろうし、それにつながって、私どもも責任を感じなければならない破目になっていたであろう。
こういう点をみても、法令整理とか行政事務の整理ということが中々難しいものであることがわかる。昨年九月に出た例の臨時行政調査会の答申も、行政事務の整理、法令整理ということを内容に含んでいるが、わが国の現状で、整理すべき法令、整理すべき行政事務のあることはたしかであるとしても、その選択については一時の思いつきによることなく慎重な調査と検討を必要とする。そうでないと、この大麻取締法の場合のような危険をおかすことになりかねない。これは別に臨時行政調査会の答申を批判しているわけではなく、むしろ、私のざんげ話である。<四>
ところで、これまで麻薬の国際的な取締りについてはいくつかの条約が併存し、規定も重複していてわかり難いところが多かったが、それらを統一整備するために、「一九六一年の麻薬に関する単一条約」という条約が作られ、昨年一二月一二日発効している(この条約については、本誌第五二五号に解説が出ている。)。わが国も、昨年の第四六回国会で承認を受けて、これに加入しているが、この単一条約では、大麻について、第二八条に、従来の国際条約になかったような新しい規定を設け、締約国は、大麻または大麻樹脂の生産のための大麻植物の栽培を許すときは、大麻植物につき、けしの統制についてこの条約の規定する統制制度と同様の統制制度を適用しなければならないとしている(二八条1)ので、この条約が発効したあとは、わが国の場合、逆に、従来の大麻取締法程度の取締りだけでいいのか、あへん法がけしの栽培について行なっている程度の厳重な統制をしなければ条約違反になるのではないかという疑問が生じてきた。大麻取締法が法令整理のやり玉に上った当時とくらべると、まさに一八〇度の方向転換である。
単一条約と大麻取締法の関係については、昨年、単一条約を国会に出すにあたって、私も若干心配になったので、厚生省あたりにいろいろ研究して貰ったのであるが、条約第二八条は、前記の規定に続いて、この条約は、もっぱら産業上の目的(繊維およぴ種子に関する場合に限る。)または園芸上の目的のための大麻植物の栽培については適用しない旨を定めており(二八条2)、わが国で現在、大麻草の栽培の免許を受けているのは、大部分は繊維または種子を採取する目的のものばかりであり、これについては、右の規定で条約の適用が排除されるから問題はないし、研究目的で大麻を栽培するため研究者の免許を受けている者も若干いるが、それはわずか十数人で、その栽培量もきわめて少なく、さらに大麻取締法は、大麻研究者が大麻を他人に譲渡することを禁止する旨の規定を設けているから、このさいは、わざわざ大麻取締法を改正するには及ぶまいということであった。そこで、その改正は、見合わせということにしたのである。
一時は廃止されるかという運命にあった法律が、今度は強化の必要性が問題にされるとは、まさに有為転変の世の中である。それにしても、昨今の新聞などをみると、青森県あたりでは、繊維または種子を採取の目的で栽培されている大麻が米軍基地などに流れているという話である。こういうことが大きくなってくると、あるいは法律の改正話も出てくるかも知れない。
(前内閣法制局長官)
当時の法制局長官が、「なにかのまちがいではないかとすら思ったものである。大麻の「麻」と麻薬の「麻」がたまたま同じ字なのでまちがえられたのかも知れないなどというじょうだんまで飛ばしていたのである。」というほど、何が目的の法律か、為政者たち自身にすら全く理解できなかった法律。だから、大麻取締法には第一条に書かれるべき「目的」がないのでしょう。立法の経緯からして、ズサンだったわけです。
当局者がこれではマトモな法律ができるわけがありません。占領下だったので、占領軍に言われるまま、テキトーに作った法律だということですね。
厚生労働省は立法の当初から「有害性」についてのデータを持っていなかったばかりでなく、わが国の大麻はインド大麻とは毒性が違うとか言って、大麻取締法の必要性に首をかしげていたと言うのです。
もし、このとき、法令整理の方に踏み切っていたとしたら、最近のような大麻系、麻薬横行の事態に直面して、厚生省当局は、必要な法令まで廃止したものとして、世論の批判をまともに受けることになっていたであろう
そんなことなかったでしょうね。もし、あの時、法令整理に踏み切って大麻取締法を廃止していれば、今ごろは嗜好用途で逮捕されないだけでなく、医学的な研究も進んでいて、産業的にも自由な研究と開発が認められ、さすが我が国の厚生労働省は先見の明があったと、後世まで日本の誇りだったかもしれないのに。
ひょっとすると、当時の為政者たちは、占領軍の指令で止むを得ず大麻取締法を作ったけど、こんなくだらない法律には目的なんかないのだという抵抗の意地を見せて、敢て目的条項を入れなかったのかもしれないとさえ思えてきます。大麻とは、伊勢神宮の御札のことでもあります。
大麻と日本人のアイデンティティの問題については、丸井英弘弁護士の「大麻取締法の運用の改善と改正を求める請願」に論考があります。
戦争に負け、大麻を奪われ、私たち日本人は神を失ったのだと思います。国家神道といっしょに宗教性まで奪われてしまったような気がしてなりません。
大麻取締法の問題に取り組むことは、占領国に押し付けられた悪法を克服するという意味で、私たち日本人自身が自分たちの社会を創り、回復する活動でもあるのだと思います。
林修三さん、戦後歴代の内閣で長く法制局長官を務めた方のようです。ご存命だったらぜひ大麻裁判で証言して頂きたいところでした。このような随筆を遺して下さったことに感謝です。
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午後から、ある若者の父と呑んだ。
お父さんは、若者の使っていたワンボックスで迎えに来てくれた。
小さな市街地を抜け、10分ほど走って山道に入ると、力強くもあり清楚でもあるような、白い花をつけたコブシが、緑の谷に散在した。
「今日が満開じゃないかな」
とのこと。
猿が喰った痕だという皮のめくれた木々など説明してもらいながら、凸凹の激しい細い林道を車は走り上がり、お父さん手作りだという山小屋に着く。冬はオートモービルで往き来するそうだ。
谷向こうの斜面にも、背にした山にも、コブシが咲き誇っている。
雲が全くない。
真っ青に高い天が頭上に広がっている。
高度は1000メートルとのこと。
この方の息子は、執行猶予中に又も大麻で逮捕され、拘置所にいる。
南の旅先で財布を落としたことがきっかけになったらしい。
落とした財布には、彼が熱心なボランティアとして所属する大麻関連団体のパンフレットが入っていた。
親切な人が拾って財布を警察に届けてくれた。
財布は若者の手に戻ったが、免許証とパンフレットは警察の目に留まった。
弁護士は、若者の逮捕は、その財布が原因の狙い討ちだと言う。
逮捕時の職質への対応といい、あまりにも無防備だった。
若者は懲役2年の判決を受け、執行猶予中の2年6月と併せて4年6月の長期の実刑となってしまった。
控訴するかどうか。
本人は思案中だと思う。
お父さんとの一献は、一審判決を受け、その慰労会という意味もあった。
山小屋は谷側の斜面を小さく拓いて作られていた。
居住用の小屋とは別に、茶室のような、頭を下げてくぐらなければ入れない、東屋風の一棟があった。
座布団を乗せた椅子用の杉丸太数脚。その椅子用の丸太を縦に切って横にしたような小さなカウンター。その向こう側が厨房の空間になっていて、ガスコンロもある。4・5人入れば満席だろう。
お父さんが厨房の椅子に座り、もてなして下さった。
寒く、雪深い季節を終え、ようやく来た春。
鳥の囀りが楽しそうに聞こえる。
地元の酒蔵で利き酒係をしている知り合いが、出荷はしていない、旨いところを一升くれたとのこと。
ラベルのない一升瓶のそれは、引き締まったフルーティーな香りで、甘過ぎず、濃く、さっぱりしており、喉越しの辛さが爽やかな、春にふさわしい酒だった。
ご馳走だった。
自家栽培の椎茸。傘の裏に醤油と日本酒を垂らし、網焼き。
筍の煮物。野沢菜漬。海草サラダ。ホタル烏賊の酢味噌はお父さん手作りだったのだろうか。
摘んだばかりの山菜の天麩羅。
雪の下、ミョウブ、タラの芽、ふきのとう、こごみ、行者にんにくの葉、などなど、その場で天麩羅にして頂いた。
「足りなけゃそこらで摘んできますから」
と、冗談を言いながら、呑みながら、手際よく揚げて頂き、揚がる順に片っ端から頂いてしまって、お父さんの分を取っておくのが遅くなり、失礼しました。
お父さんは調理師免許をお持ちで、打った蕎麦が吉兆に供される達人である。
谷を飾る白いコブシの花。
山桜も所々に咲いている。
地べたには高山植物のイワウチワの紫も満開。
「花を愛でつつ、こうして酒を呑む。こういうのが好きなんですよ。」
お父さんの言葉、ナイスであります。
若者から来た手紙に、「今年は山菜が食べられないのが残念」と書いてあったのを思い出す。
なんか、若者に悪い気もするが、ま、仕方ない。
たらふくご馳走になり、歓談し、帰りは、お母さんの運転で私宅まで送って下さった。
送迎付きの、申し訳ないような、VIP待遇であった。
このご両親に育てられた若者は、刑務所に入るような悪いことなど何もしていない。
それなのに、小さな狭い社会で、世間から後ろ指を刺されることに怯えて、うしろめたい思いを強いられて暮らさなければならない。
本当に、日本はいつまでこんなアホなことを続けるつもりなのだろう。
春爛漫。息子を刑務所送りにされるご両親の心痛は深い。
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大麻で逮捕しないでほしいという主張を聞いて、では大麻は何の規制もせずに野放しにしてよいのか、という反問に遭うことがある。
「ダメ。ゼッタイ。」ホームページなどで厚生労働省や財麻薬覚せい剤乱用防止センターが社会に流している大麻についての記述には根拠がないことは、もはや法廷の場でも明白になっている。徒に恐怖を煽るような過剰な記述は、現実との落差もあって、他の記述に対する信用も失う結果を招くだろう。
野放しにするのではなく、ちゃんと管理したら良いと思う。
そのために必要なことは、まず正しい情報を社会に定着させることではないだろうか。そのような意味でも啓蒙的な活動は大麻で逮捕されない社会をめざす上での基調的な意味を持つと思う。
大麻について正しい理解が得られば、逮捕投獄するようなことではないことが分かってもらえるだろう。
大麻の規制緩和として、「酔い」はアルコール程度、「煙害」は煙草程度を求めたい。乗るなら吸うな、吸うなら乗るな、公の場での大麻喫煙は周辺の者が酔っちゃうので禁止。
自家消費用の数本程度は栽培免許を出す。税収にもなる。
そのような規制のあり方で良いと思う。それは野放しとは違う。
誤った情報であることに気づきながら、それを流布することを止めず、逮捕投獄することを止めず、更に輪をかけて取締りを強化することで問題を糊塗しようとする暴君的官僚の罪は極めて重い。
担当の官僚諸君は大麻問題の落とし所を探るべきである。
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大麻で逮捕されない社会は、既に複数の国や地域で実現されているし、そもそも取り締まりの対象などではない国や地域も多数ある。
欧州に目をやれば、薬物問題は犯罪ではなく健康からのアプローチが社会化されている。
井の中の蛙、日本。
大麻の個人使用で逮捕されない社会はそんなに遠くないと思う。
医療、産業、大麻の可能性は、そこから更に花開くだろう。
そこにどう辿り着くか。
大麻自由化というゴール、新たなスタート地点へ向けてのオリエンテーリング。
いろんな人やグループが、あっちのポイントやこっちのポイントを巡りながら紆余曲折、奮闘努力している。たまには衝突することもある。
大麻で逮捕されない日が来たら、THC解散記念大麻パーティーを開催したい。
その日をひとまず目標に。
欲しがりません。勝つまでは。
禁断症状もありません。(´・ω・`).
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※書き起こし文中の「**」は伏せ字にした箇所です。
大麻規制「厳し過ぎる」 裁判官 異例の見解
地裁伊那支部―「立法論 再検討の余地」長野毎日新聞 1987年(昭和62年)5月31日
大麻を知人に譲り渡した被告が「大麻取締法は憲法に違反して無効」などと主張して争っていた裁判の判決公判が31日、長野地裁伊那支部で開かれ、平湯真人裁判官は懲役十月の求刑に対し、懲役三月執行猶予二年の判決を言い渡した。判決の中で、平湯裁判官は大麻取締法は合憲としながらも「アルコールやタバコに比べ大麻の規制は著しく厳しい」とし、また、少量、私的使用の場合の懲役刑についても「立法論としては再検討の余地がある」と異例の見解を示した。大麻の害の程度については一部で議論があるが、検察側は「立法にまで踏み込んだ判決は厳しい」と受け止めるなど、反響を呼びそうだ。
知人に譲り渡した被告 執行猶予の判決
裁判は、**が、昭和56年11月初旬ころ、伊那市内の知人に大麻草 約20グラムを郵送し無償で譲り渡したとして、麻薬取締法違反に問われた事件。60年3月から地裁、伊那支部で公判を続けていた。
被告弁護側は―大麻の吸引は生理的にも社会的にも無害、個人の自由を制限し刑罰を科すには具体的社会被害が明確でなければならない、タバコ・酒に比べ害が小さいのに重い刑罰は不合理―などとし、憲法13条(個人の尊重と公共の福祉)、14条(法の下の平等)、18条(奴隷的拘束、苦役からの自由)、19条(思想、良心の自由)、20条(信教の自由)、21条(表現の自由)、31条(法廷手続きの保障)、36条(残虐な刑罰の禁止)に違反し、無効であると主張していた。
判決で平湯裁判官は「大麻が社会生活の場で使用されると社会生活上一定の障害が生じたり、多量、長期的に使用された場合は、種々の障害を生じ、あるいは生ずる恐れがある」として有害を認めた。
その上で、同法の違憲問題について、私的使用の場合でも、プライバシーと公共の福祉の両面から検討して、公共の福祉が優先、刑事罰はやむを得ない選択として合憲の判決を示した。
しかし、一方で「少量の大麻を私的な休息の場で使用し、その影響が社会生活上支障を生じなかったような場合にまで、懲役刑をもって臨むことはどれほどの合理性があるかは疑問なしとせず、立法論としては再検討の余地」があり、「アルコールやニコチンタバコに比べて、大麻の規制は著しく厳しい」などの考え方も示した。
これらの判断や違法性の認識が弱かったこと、前科がない―などから懲役三月、執行猶予二年とした。
判決について被告や被告側弁護士は「かなり踏み込んだ判決。こうした判決を機に、大麻の有害性について厚生省などがもっと調べて欲しい」などと話している。
この判決に対し、担当の藤井俊雄検事は「立法論にも触れた厳しい判決。量刑はかなり軽いと感じているが、対応は本庁とも検討して考えたい」と話している。
【補足】
伊那支部裁判について:
この裁判は、大麻問題の専門家である丸井 英弘弁護士が受任されたものです。昭和61年9月10日に開かれた第10回公判では、大麻取締法の立法目的・理由について、当時の厚生省麻薬課長への証人尋問が行われました。戦後の大麻取締法の制定当時の経緯から、国民の保健衛生上の間題やそれを調査した事実もなかったことなど、詳細な証言がなされたことは画期的でした。
公判速記録は丸井氏と中山 康直氏の共著「地球維新2」に全文が収録されています。この問題に関心のある方には必読の書です。
丸井弁護士を中心とした麻の研究グループのサイト
「麻と人類文化」 http://www.asahi-net.or.jp/~IS2H-MRI/
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大麻、欧州「容認」へ傾斜
朝日新聞 2001年(平成13年)3月27日 8面「世界発2001」
ヘロインやコカイン、覚せい剤などに比べ、中毒性が低いとされる大麻。個人が使う限り罰しないというオランダの先駆的な施策が有名だが、他の欧州諸国でも最近、これに追随する流れが定着してきた。取り締まりでは根絶が難しい現実を「容認」する動きだ。しかし、やみ市場や密輸といった問題もはらむ。欧州連合(EU)の中で、大麻を含めた「麻薬ゼロ社会」を掲げる国はスウェーデンぐらいになってしまった。(ハーレム〈オランダ北部〉=山本敦子)
「少量所持、訴追免除」オランダにならえ
ハーレム氏のノル・バンシャイクさん(46)は、大麻愛好家の世界ではちょっとした有名人だ。大麻を客に販売する「コーヒーショップ」を三店と大麻博物館を経営する。目下、ブリュッセルにも、栽培指導や吸引コーナーがある博物館をつくる計画を進めている。ベルギーがこの一月、大麻の少量所持や個人使用を、他者に迷惑をかけないなどの条件つきで訴追しないことを閣議で決めたからだ。
他のEU諸国も同じような動きをみせている(※表)。シラク大統領の「オランダの政策は欧州にとって害悪だ」という発言が外交問題に発展したフランスでさえ、訴追免除に転じた。ドイツは州によっては、販売を認めている。
背景には、大麻を完全には駆逐できないというあきらめがある。ベルギーの新政策づくりにかかわったバート・レマンス氏は「1990年代の世界規模での大麻使用の増加は、30年以上の厳しい取り締まりが失敗だったことを物語っている」という。
「麻薬と麻薬中毒の欧州監視センター(EMCDDA)」によると、EU内で「少なくとも一度は大麻を試した」人は約4千5百万人。若年層に特に多く、18歳では4割、15~16歳では25%に達した。
個人使用を取り締まろうにも、警察や検察の陣容が追いつかない。しかも、厳しく取り締まってきた国の経験者数が、寛容なオランダより少ないわけではない(※グラフ)。
難しい駆逐、やみ市場・密輸に問題
また、ベルギー・アントワープ市の依存症専門医、スベン・トッズ氏は「吸引使用が多い大麻はたばこ同様、肺などに負担をかける。だが禁断症状は少なく、週に数回ぐらいなら、ヘビースモーカーよりずっとましだ」と説明する。こうした大麻の害の認識が容認派の根拠となっている。
大麻を入り口に、より強い刺激を求めて他の麻薬に移行するという説も、医学的には立証されていない。オランダ保健省依存症対策課のボブ・カイザー課長は「身体的な誘惑よりは、大麻と他の麻薬が市場で混在することによる社会的誘惑の方が危険だ」と語る。例えば、やみ市場の売人は依存者を増やすため、大麻を求める若者に他の麻薬を無料で与えたりする。オランダが大麻販売を認める目的の一つは、若者をやみ市場から遠ざけることだ。
だが、「容認」は「合法化」ではない。EU諸国は、大麻を規制する国際条約を批准しているため、合法化には踏み切れない。オランダの販売も訴追されないだけのことだ。栽培も原則禁じられている。
栽培と輸入が禁止されると、コーヒーショップは仕入れをやみ市場に頼る。大麻は依然として犯罪組織の大きな収入源だ。
一方、ベルギーは使用は認めたが、売買は禁じたままだ。代わりに少量の栽培を認めた。だが、少量の定義が明確でなく、売人が出現するのは時間の問題とみられている。「完全禁止も合法化もできない。われわれは矛盾のとりこになっている」。カイザーさんは自嘲気味に語る。
根絶めざすスウェーデン、麻薬の授業/強制収容措置も
「大麻使用が減らないから、受け入れるというのは敗北主義です」。スウェーデンのマロウ・リンドホルムさんの口調は厳しい。麻薬問題に取り組む非政府組織「ハッセラ北欧ネットワーク」の事務次長。昨年まで欧州議会の議員でもあった。98年、欧州議会に大麻の個人使用容認へ向けた加盟国の政策調和が提案された。反対の急先ぽうに立ち、提案を撤回させたのがリンドホルムさんだった。
60年代前半、米国の反戦運動とともに大麻と覚せい剤が、スウェーデンに流れ込んできた。麻薬欲しさの強盗などが社会問題化した65年、政府は医療保険での麻薬処方を始めた。だが、依存者が薬をほかに回すなどして中毒がかえって激増し、70年代から厳しい対策へと再転換した。
麻薬についての授業を学校に取り入れ、友人の誘いをどう断るかなどを具体的に教えている。麻薬使用がわかった場合、裁判所の判断で自治体が使用者を強制的に更生施設に収容する措置がとられている。その結果、70年代初めに15%近かった15歳の麻薬体験率が、80年代後半には5%以下に減った。
だが、90年代に入り、再び増加に転じている。リンドホルムさんは「政府と自治体が更生施設を減らすなど手を抜いてしまったからだ。麻薬との戦いには終わりがないのに」と残念がる。「何世紀も吸われ続け、文化の一部であるたばこでさえ、禁煙が叫ばれる時代。歴史が浅く、害もある大麻をなぜ今、受け入れなければならないのですか」。
※資料‐表(EMCDDAなどの調べ)
■大麻:
中央アジア原産のアサ科の植物。古代から繊維として利用されたほか、高揚感や酩酊感などをひきおこす物質を含むため儀式や治療にも用いられた。1960年代、米国の若者の間で流行、世界中に広がった。■オランダの大麻政策:
1976年に薬物法を改正し、社会が看過できない危険があるヘロインやコカインなどの麻薬と大麻を区別。18歳以上の30グラム未満の大麻所持は訴追されない。コーヒーショップでの大麻販売は、(1)一回の販売量が5グラム以下、(2)18歳未満への販売禁止、(3)公共の秩序を乱さない、などの条件を満たせば認められる。■欧州の主な国の大麻政策:
【デンマーク】 少量の大麻所持については警告のみで対応するよう、検察長官が警察に勧告。
【ドイツ】 すべての麻薬の少量所持は、「第三者に迷惑をかけない」、「未成年者が関与しない」、「個人使用目的である」、などの条件を満たせば訴追を免れる。一部の州では販売を容認。
【スペイン】 公共の場などでの個人使用は罰金の対象だが、実際はほとんど取り締まりは行われていない。
【フランス】 1999年、個人使用は訴追しない方針を政府が発表。
【イタリア】 一回目は警告、二回目以降は運転免許証没収など行政罰だが、実際はほとんど適用されていない。
【ポルトガル】 今年一月、法改正案が議会を通過。すべての麻薬の個人使用を罰則の対象としない代わりに、麻薬使用者は依存症の程度に応じて治療を受ける義務を負う。
【英国】 少量使用は警告か罰金刑。政府は最近、大麻使用者が雇用主に警告を犯歴として報告する義務を廃止すると発表。
【スイス】 個人使用容認へ政府が法改正案を提出。
※資料‐グラフ(1999年、オランダ保健省調べ)
■15歳~16歳で大麻を一度でも体験したことがある割合:
米国 41%
フランス 35%
英国 35%
アイルランド 32%
オランダ 28%
イタリア 25%
デンマーク 24%
フィンランド 10%
ギリシャ 9%
ポルトガル 8%
スウェーデン 8%
※写真のキャプション: バンシャイクさんは昔、ボディービルの選手だった。右の人形は大麻博物館のマスコット(=ハーレムで、山本写す)
【補足】
■ノル・バンシャイク氏の名前(Nol van Schaik)は、日本語表記では「ノル・ヴァン・シャイク」、「ノル・ファン・シャイク」などと書かれる場合が多いようです。
■オランダの薬物政策について:
概略は、オランダ外務省から英語版の小冊子が発行されており、オランダ外務省のサイトにPDFファイルで公開されています。2003年版の日本語訳が「青少年の薬物問題を考える会」のサイトに掲載されています。
「青少年の薬物問題を考える会」による日本語訳:
『Q&A薬物 2003 オランダの政策へのガイド』
オランダ外務省のサイトにある英語版:
『Q&A DRUGS 2003 A guide to Dutch policy』
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