ネバダ州

保守派がドラッグ戦争に反対


住民投票でラスベガスはアメリカのアムステルダムに?

Source: Mother Jones
Pub date: 11 August 2006
Subj: Nevada Conservatives Against the War on Drugs
Author: Sasha Abramsky
http://cannabisnews.com/news/22/thread22057.shtml


最近では、有権者たちのあいだではドラッグ戦争の説得力も通じなくなりつつある。ここ数年でも、アリゾナやアラスカからカリフォルニアやハワイまで、カナビスに対する取締りの優先順位を下げる動きがひろがり、所持の初犯ではわずかばかりの罰金で済ませてしまうことも多くなった。医療カナビス法も新たにいくつかの州で成立している。

しかし、ネバダ州の有権者たちは、この秋の住民投票ではさらに先を行こうとしている。カナビスを「課税と規制」で合法化しようという条例案の承認にむけて、提案者たちは8万6000人もの署名を集めた。この案では、カナビス・ショップ・システムを立ち上げ、学校周辺を除く場所にカナビスを販売する店の出店を許可制で認めて、アルコールの酒場と同じような方式で課税することを求めている。

この案の興味深いところは、リーノーやラスベガスがアメリカのアムステルダムになるかもしれないという点だけではなく、最も熱狂的な推進者がチャック・ムスのような典型的な保守派の人たちであることだ。彼は47才のがっちりした体格に角刈頭。グレン・イーグル・レストランに15年前の年期の入ったステーションワゴンで乗り付け、サラダは注文せず、ステーキも添えものの野菜には決して手を付けようとはしない。

ムスは、「シチズン・アウトリーチ」という保守系の集まる団体を運営している。1996年にワシントンDCで、共和党の大物ニュート・ギングリッチ下院議員の事務所が開催したセミナーに触発された彼は,それにさらに研きをかけたセミナーを自分で主催するようになった。そこでは、多くの共和党の政治家や現在の州のファーストレディであるデナ・グインなどの著名人もレクチャーを受けている。また、彼の電子ニュースレターは全国に散らばった1万5000人の読者に毎日配信されている。

ネバダは2000年と2004年の大統領選挙では、圧倒的というほどでもなかったがブッシュを選んだ。砂漠と山の土地で、保守層もウエスタン・センスの昔気質だ。メリーランド州のバルチモアで育ったムスは、19才のときに深夜市の公園でカナビスを所持していて逮捕され、その時からドラッグ戦争を完全に否定するようになった。彼の最も理想とする政治家は、最大限の自由を主張して、共和党でも一目おかれて神聖視されていた故バリー・ゴールドウォーター上院議員だと言う。「お互いに邪魔せずにやっていく。誰の邪魔もしないから邪魔しないでくれ、ということさ。」

ネバダで条例案が通過して、連邦政府の捜査官が割り込んできたらどうするのか尋ねると、ムスは大きな拳をテーブルに叩きつけて、「喧嘩さ。ここでは連邦主義をめぐっては昔から大喧嘩してきたんだ。大歓迎さ。連中がやってきたらドラッグ戦争や連邦政府に半旗が翻る。ドラッグ戦争は完全に失敗だ。兵士たちを家へ帰すべき時なのだ。」

10年前は民主党も共和党もドラッグについてはこぞって強行な姿勢を叫んでいたが、この10年間の様子は様変わりしている。ドラッグ戦争は、ムスのような保守派の台頭によって、もはや共和党支持の多い州では勝ち目がなくなってきている。

ムスと同じような主張は、彼の友人で保守系アメリカ税法改革のグルとの呼ばれるグローバー・ノルクイストや、作家のウイリアム・F・バックレイ、経済学者のミルトン・フリードマン、前国務長官のジョージ・シュルツなどからも出てきている。ニクソンは敵国中国を訪問することの利点を主張したが、みんな今度はカナビスにソフトな対応を、という具合だ。

ドラッグ政策アライアンスで連邦問題を担当するビル・パイパーは、国全体では共和党員のおよそ4分の1がカナビスの合法化を支持していて、その数は徐々に増加していると言う。「共和党員の次の世代には、社会派保守よりも自由主義的なリバタリアンが多くなっています。保守主義の根幹は、市場の自由、法の支配、小さな政府といったものですが、どれも過大なドラッグ戦争とは相容れません。」

2月のアメリカ保守政治活動カンファレンスでは、ドラッグ政策アライアンスのエサン・ネドルマン代表が共和党員に対して、「ブチ込め」というような乱暴なドラッグ防止戦略からの決別を求めて喝采を浴びた。

ネバダ州では、合法化を求める条例案は今回が初めてではない。4年前にも、3オンスまでの所持を認める住民投票案が提起されている。その時は、ネバダ警察・保安官協議会からも支持を獲得している。 協議会代表だったアンディ・アンダーソンは、率先して支持などすべきでないというメンバーの圧力をはねのけて 「社会を守るための活動に時間を費すべきだと言っているのだ」 と毅然と主張している。投票では賛成が39%だった。

今回も、初期に実施された世論調査では条例案に反対する有権者は56%だったが、条例制定をめざす支持者たちは投票日までに状況が好転することに希望をつないでいる。

条例案のキャンペーンを指揮しているニール・ルービンは、州のあちこちで、哲学的理由と同様に実理的な面でも改革に対して興味を持ちはじめた保守層がどんどん増えていると言う。また、投獄でカナビスの使用を撲滅しようとする試みは、「イラクとともに最悪に高コストな失敗政策」 だと糾弾している。ワシントンDCの判決監視プロジェクト(Sentencing Project)によれば、カナビスの違反者を逮捕・起訴・投獄するためにアメリカは年間40億ドルものコストを費している。

ラスベガスに住むルービンは、共和党内にいる多くの活動化と連絡を取り合っている。キャンペーンの広報担当者は共和党支持の同性愛団体(Log Cabin Republican)に所属している。条例案を最も強く支持しているのは、ムスの他にもアーライン・フォーサイスがいる。彼女は元従軍看護婦で、現在はガン患者ケアのスペシャリストとして活躍している。

フォーサイス(56)は、2004年の大統領選挙の時は州の共和党首をつとめ、そのときジョージ・ブッシュ夫妻と一緒に撮った写真を額に入れて今でもオフィスの壁に掛けている。しかし、党の医療カナビス問題に対する方針には我慢ならないと言う。肩をすくめながら 「もし、私の患者さんが外でジョイントを吸いたいと言ってきたら、ダメな理由なんて何かある?、と答えるわ。」

ムスに、どうしてネバダでドラッグ改革運動を立ち上げようと思ったのかと尋ねると、「どうせどこかで始まるからさ。ネバダこそ最初のドミノを倒すのにふさわしいだろ。」

NEVADA  Committee to Regulate and Control Marijuana (CRCM)

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かつてはカナビスの合法化を唱えるのは、ヒッピーみたいな連中だかりだと言われていた。しかし、現在、カナビス改革運動の中心にいるのは、むしろスクエアな経歴の人が多く、保守派と言われる人も多い。その代表としては、ドラッグ政策アライアンスのエサン・ネルドマンやNORMLのアレン・ピエールがあげられる。

60年代のカナビス文化を最もよく体現したコメディアン、チーチ&チョンのトミー・チョンは、現在でもカナビス開放のシンボルとして尊敬を集めているが、いつもTシャツ姿。「最近のカナビス運動をやっている人たちは、みんなモンテル・ウイリアムみたいだ。きちんと背広をきていなければ運動に参加できなくなった」 などと皮肉っている。

いずれにしても、アメリカではカナビスの改革運動を担う層が厚くなり、今までのような「保守=共和=反対」といった単純な図式は成り立たなくなっている。

これは、アメリカ保守派の中でも、超保守派といわれる人たちの根幹が、連邦より州優先や自由主義最優先のリバタリアン的であることを考えれば納得がいく。

昨年行われた、医療カナビスに関係する連邦最高裁の判決は5対3で却下されたが、賛成した3人の裁判官は州の権利を優先に考える保守派の人たちだった。
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実際にカナビス合法化されるとすれば、先導するのは、進歩派と言われるの人たちよりも、むしろ保守派の人たちなのかもしれない。