KYさん裁判一審の判決文です。
平成22年9月24日宣告 裁判所書記官 平林達也
平成22年特(わ)第541号 大麻取締法違反(変更後の訴因 大麻取締法違反、関税法違反)被告事件
判 決
被告人 KY
生年月日 昭和29年1月17日
本籍 **************
住所 不定
職業 無職
検察官 渡辺 慶
弁護人(国選) 原 崇之
主 文
被告人を懲役1年2月に処する。
未決勾留日数中130日をその刑に算入する。
押収してある大麻1袋(平成22年押第95号の1)を没収する。
理 由
【犯罪事実】
被告人は、大麻を日本国内に輸入しようと考え、みだりに、平成22年2月15日(現地日時)、タイ王国内の郵便局において、大麻である乾燥植物片約2.01g(同年押第95号の1は鑑定後の残量である。)を隠し入れた郵便物1個を航空小包郵便として東京都台東区上野郵便局留め被告人あてに発送し、同月17日(現地日時)、同国空港において、事情を知らない同空港関係作業員に航空機に積み込ませた上、同日、千葉県成田市所在の成田国際空港第413番駐機場に到着させ、事情を知らない同空港関係作業員にこれを航空機き外に搬出させて日本国内に持ち込み、もって大麻取締法が禁止する大麻の日本国内への搬入を行うとともに、引き続き、同月18日、東京都江東区新砂3丁目5番14号郵便事業会社東京国際支店EMS・小包郵便課検査場において、東京税関東京外郵出張所職員き検査を受けた際、関税法が輸入してはならない貨物とする前記大麻を発見されたため、同検査場を通過して前記郵便物の配達を受けることができず、その輸入の目的を遂げなかった。
【証拠の標目】括弧内き甲乙の数字は証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。
被告人の公判供述、検察官調書(乙5)、警察官調書(乙2、3)、差押調書(甲2)、国際郵便物到着状況調査報告書(甲7)、写真撮影報告書(甲8)、犯則嫌疑事件通報書(甲9、10)
出帰国状況調査報告書(甲13、14)
鑑定嘱託書謄本(甲5)、鑑定書(甲6)
押収してある大麻1袋(甲4、平成22年押第95号の1)
【争点に対する判断】
1 弁護人の主張
弁護人は、その提出に係る証拠及び被告人の供述を踏まえて、後記(1)(2)記載のとおり大麻取締法は憲法13条、14条、及び31条に反して違憲であり、また、仮に、法令違憲でないとしても、後記(3)記載のとおり被告人の「輸入」行為に大麻取締法を適用することは立法目的達成の必要最小限を超えるものとして違憲である旨主張する。
(1)憲法13条は喫煙の自由が幸福追求権の一つに含まれることを承認しているところ、大麻の有害性はタバコに比して低いものであるから、大麻使用の自由についても、同法13条の幸福追求権の一つとして保障すべきである。ところで、基本的人権は、公共の福祉に反しない限り最大限尊重されなければならず、その制限立法の憲法適合性を判断するに際しては、その立法制定の合理性を支える社会的、経済的、政治的又は科学的な事実等の一般的事実が存在しなければならない。しかし、近時、大麻については、その有害性を否定し、あるいは著しく低いものとする各国研究機関等の発表がされ、たま、その研究結果を受けて世界各国の大麻規制が緩和されている状況(弁19)にもあり、さらに、厚生労働省等ですら、大麻の有害性を根拠付ける論文等を所持していないなどの事情にかんがみれば、大麻取締法の合理性を支える社会的、経済的、政治的又は科学的な事実等の一般的事実は存在しないというべきである。よって、同法は憲法13条に反して違憲である。
(2)刑事罰、特に懲役刑は人の身体、行動の自由に対する重大な制約であり、当然、刑罰法規の謙抑性、人権保障の観点からして必要最小限のものでなければならない。この点、アルコールやタバコは、大麻に比してその有害性が極めて高いにもかかわらず、成人以上の者には何ら制限がない。また、大麻の有害性が極めて低いことは近時の研究により明らかとなっていることからすれば、大麻の「輸入」等につき懲役刑を科すのは罪刑の均衡を逸するものといえ、憲法31条に反するばかりか、タバコやアルコールと比較して著しく重い刑罰であり、同法14条に反する。
(3)被告人は、大麻使用による悪影響を全く受けておらず、被告人自身に保健衛生上の危害発生の可能性はなく、また、被告人には、所持した大麻を第三者に譲渡する意思などもとよりなく、第三者の保健衛生上の危害は発生し得ないのであるから、被告人の大麻使用及びそれに先立つ「輸入」行為に対し、大麻取締法による懲役刑を科さなくても、同立法目的は十分達成可能であるから、大麻の「輸入」に対し懲役刑を科している同法は、被告人の「輸入」行為に適用される限度において立法目的達成の必要最小限を超えたものとして違憲である。
2 当裁判所の判断
そこで、検討すると、大麻はその薬害等の詳細がいまだ十分解明されていないのであるから、国民の保健衛生の向上と社会の安全保持をもその責務の一つとする国家が、大麻の使用やそれにつなかる輸入等の行為を刑罰で規制することは、合理的根拠を有するのであり、立法における裁量の限界を逸脱しているものとはいえない。そして、酒及びタバコとの対比でいえば、酒及びタバコが人体に対する作用の面で大麻とは異なり、また、酒やタバコが多年にわたり国民一般にし好品として親しまれ国民生活に定着していることに照らすと、国家が、大麻については、酒やタバコに対するのと異なって、懲役刑をもってその使用やそれにつながる輸入等を規制することにも合理性がある。加えて、大麻取締法は、国民の保健衛生の向上と社会の安全保持のために予防的見地から大麻の輸入等の行為を規制するものであり、結果として悪影響が出ないからといってその適用が違憲となるものではない。
結局、憲法13条、14条及び31条違反(法令違憲)並びに大麻取締法の適用違憲をいう弁護人の主張はいずれも採用することができない。
【累犯前科】
1 平成10年11月19日千葉地方裁判所宣告
大麻取締法違反、関税法違反の罪により懲役2年6月、4年間執行猶予(平成14年5月7日その猶予取消し)
平成17年7月17日その刑の執行終了
2 前科調書(乙8)
【法令の適用】
罰条 大麻取締法違反につき同法24条1項、関税法違反につき同法109条3項、1項(平成22年法律第13号附則2条による改正前のもの)、69条の11第1項1号
科刑上一罪 刑法54条1項前段、10条(犯情の重い大麻取締法違反の罪の刑で処断する。)
累犯加重 刑法56条1項、57条
未決勾留日数算入 刑法21条
没収 大麻取締法24条の5第1項本文、関税法118条1項本文
訴訟費用不負担 刑訴法181条1項ただし書
【量刑理由】
1 犯行態様は犯罪事実記載のとおり大麻の密輸入という悪質なものであるほか、前掲の同種累犯前科等で服役しているのに、格別酌むべき事情もなく、その密輸入に及んでいるなど、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
2 そうすると、他方て、本件大麻はすべて税関検査により押収されていること(関税法違反の罪は未遂にとどまる。)、被告人において、関係法規の違憲性を争ってはいるものの、捜査公判を通じて事実関係は自認していることなどの事情を十分に考慮しても、主文の実刑はやむを得ない。
(求刑 懲役1年6月、主文同旨の没収)
平成22年9月24日
東京地方裁判所刑事第10部
裁判官 本間敏広
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