米国での四年半の留学生活を終え、Nさん(26歳・男性)は、今年7月16日に帰国した。
8月13日、就職活動の用もあって大阪に出かけていたNさんは、東京での用事を片付けてから新宿発の高速バスで■■県の実家に帰る予定だった。
東京に着いた時は、移動の疲れもあってか、腰に辛い痛みを感じていた。持病のヘルニアだった。高速バスに乗るのも腰に負担となりそうだった。近くに整形外科があれば診てもらおうと思い、いくつかの病院に電話をしたが、お盆休みで緊急医しかいなかった。持病のヘルニア痛に大麻が効くことを知っていたNさんは、渋谷に向かい、イラン人と思われる男から0.5グラム4,000円で大麻樹脂を買った。
高速バスは、お盆の帰省混雑で空席はなかった。都内の友人宅に泊めてもらうことにし、所用を済ませたNさんは、吉祥寺駅に降り立った。徒歩で友人宅に向かう途中、井の頭公園を抜ける際、腰の痛みが激しくなっていたNさんは、大麻樹脂を一服した。パイプは米国滞在中に彼女から貰ったものだった。
Nさんが大麻を知ったのは米国に渡ってしばらくしてからのことだ。喘息に悩んでいたNさんに、大学の友人が勧めてくれたのだ。確かに、大麻を吸って、喘息がよくなった。だが、Nさんは大麻はあまり自分には合わないと思い、常用することはなかった。アルコールの方がいいと思っていた。パーティーなどでジョイントが回ってくることはあったが、吸わずに隣に回した。
喘息が治まると、Nさんは特に大麻と触れることもなく留学生活を過ごしたが、今年の1月末、腰痛に耐えかねて日本人医師のいる病院へ行った。ヘルニアと診断され、以降、4月まで毎週3回の通院を続けた。薬を処方されたが、便秘になったり、眠気が取れなかったりと、明らかに副作用があった。
当時、Nさんはジャパニーズ・レストランでバイトをしていた。50歳くらいの日本人オーナーは癌で、医師からマリノールを処方されていた。だが、オーナーはマリノールよりも大麻そのものの方が効果が高いと言って、マリノールではなく大麻を服用していた。その大麻は医療用に開発されたものだとオーナーは言っていたが、それが合法的に処方されたものかどうかNさんは知らない。
ヘルニアに悩んでいるNさんに、オーナーは、処方薬なんか服用しないで大麻を試してみたほうがいいと勧めた。Nさんは、喘息が治まったことを思い出し、大麻に切り替えてみた。日中も眠気が晴れないとか、便秘の症状は消え、大麻を吸って一定時間は痛みも治まり、快眠できるようになった。
それでもやはりNさんは大麻を嗜好目的で使うようにはならなかったが、ヘルニアの痛みを抑える目的で、時々大麻を服用するようになった。その事情を知った彼女が、自分の誕生日にプレゼントとして友人からもらったタバコ型のパイプを、自分は使わないからとNさんにプレゼントした。
帰国前には既にしばらく大麻から離れていたが、彼女からもらったパイプはお守りのように持ち歩いていた。
渋谷で買った大麻樹脂を一服してみたものの、パイプはしばらく使っていなかったせいもあり、埃でも詰まったのか、空気の通りが悪かった。午後11時半頃。Nさんは歩きながらパイプを口にし、空気の通りを良くするために、数度吹いたりした。
いきなり後ろから手を捕まれた。
「何か吸ってたろ?」
制服の警察官が二人立っていた。その場で所持品検査をされ、パイプと大麻樹脂が出た。パトカーが5台来た。警察官は10名ほどいた。パトカーの中で簡易試薬で検査したところ、反応が出たとのことで、三鷹署に連行され、取り調べを受けた。だが、その取り調べ中、パトカーの中では反応が出たように見えたが、明るい場所で見ると判別できないので、詳しい鑑定結果が出たら連絡するから出頭に応じるようにとのことで、パイプと大麻樹脂を任意提出し、採尿され、その日は帰宅を許された。
実家に戻り、ネットで調べてTHCを知り、メールした。任意出頭に応じる必要があるのかどうか、問題が微妙で素人判断は危ないので、この問題に詳しい弁護士に相談することをTHCは勧めた。
東京に事務所を持つ弁護士◆◆先生に連絡し、Nさんは相談に訪ねた。弁護士は、悪いことをしたわけではないのだから罪の意識なんか持たずに元気を出すようNさんを励まし、事情を聞くとその場で担当の刑事に電話を入れ、状況を確認した。刑事の話では、お盆を挟んで鑑定が遅れているが、陽性反応が確認でき次第、逮捕状を取るとのことだった。
弁護士の相談料は10,000円だった。一時間の料金だが、相談は一時間半に及び、状況が明確になり、大麻問題について書かれた弁護士の著書ももらい、Nさんは相談して良かったと思った。
8月25日、夜。担当の刑事から電話。鑑定の結果、大麻の陽性反応が出たので、逮捕状を取るから28日土曜日に出頭するように。Nさんはそう告げられた。
8月28日、三鷹署に出頭。逮捕。
取り調べでは、ヘルニアの痛みを和らげる目的で大麻を買い、持っていたことを話した。米国内での経験も通院歴も話した。取り調べは実質3日で終わった。刑事に厳しく責められるようなことはなかった。調べは二人の刑事が行った。直接担当したのは新米の刑事だったが、補佐指導する立場らしい年配の刑事は渋谷で薬物事犯に20年関わっていると言っていた。
Nさんについては自分の腰痛治療目的の微量所持であり、不起訴にすべきであると、◆◆弁護士は参考資料を添付して検察に正式な文書を出した。
9月8日、起訴。大麻樹脂0.4グラムの所持。
年配の刑事は、起訴後になって、自分としては不起訴でいいケースだと思うが検察が認めないのだとNさんに話した。
9月14日、保釈。保釈金250万円。Nさんには人生で最も長い17日間だった。
法を犯したことについては反省しているが、痛みが激しく、病院も休みで治療も受けられず、緊急手段として手に入れた大麻だ。犯罪者として扱われ、罪に問われるのはおかしいのではないかとNさんは考えている。
被告人にされてしまったNさんは、ヘルニアでの通院歴を証明するため、米国の病院から記録を取り寄せる手続をし、書類を待っているところだ。
◆◆弁護士とも相談のうえ、Nさんは、裁判で無罪を主張するつもりだ
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