平成22年(う)第1979号
控訴趣意書
平成22年12月3日
東京高等裁判所第5刑事部 殿
被告人 KY
弁護人 土屋 眞一
上記被告人に対する大麻取締法違反、関税法違反被告事件について、平成22年9月24日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し同被告人が申し立てた控訴の理由は、下記のとおりである。
記
原判決は、被告人が、タイ王国内の郵便局から東京都台東区上野郵便局留めの自己あてに、航空小包郵便で乾燥大麻約2.01グラム在中の郵便物1個を発送し、成田国際空港で日本国内に持ち込み輸入するとともに、引き続き、郵便事業株式会社東京国際支店の検査場で検査を受けた際、関税係員に関税法で輸入してはならない貨物である前記大麻を発見されたため、その輸入の目的を遂げなかったとの犯罪事実について、被告人を懲役1年2月に処した。
しかし、原判決には、刑事訴訟380条の判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤り及び同法379条の同じく訴訟手続の法令の違反があり、被告人の本件所為は罪とならず、被告人は無罪であるから、同法397条1項により原判決を破棄すべきであると思料する。すなわち、
被告人の本件所為に適用した大麻取締法24条1項及び関税法109条3項、1項、69条の11第1項1号(以下において、「大麻取締法等関係条項という。」)は、憲法13条、14条1項及び31条に違反し無効であるから、原判決には、上記憲法各条項に違反する法令の適用の誤りがある。仮に、大麻取締法等関係条項が合憲であるとしても、原判決は、被告人の本件所為に同条項が適用される限度において、同条項が前記憲法法各項に違反する法令の適用の誤りがある。
また、原判決には、大麻の有害であることの具体的根拠がないことを立証するための証人2名の取調べ請求を却下した点において、刑事訴訟法298条、同法規則190条1項、同法309条等に反する訴訟手続の法令の違反がある。
第1 原判決の法令の適用の誤り(憲法13条、14条1項及び31条の解釈適用の誤りに)について
1 憲法13条について
(1)原判決は、弁護人の「大麻使用の自由は、憲法13条の幸福追求権の一つとして保障されるべきであり、この基本的人権は、公共の福祉に反しない限り最大限に尊重しなければならないが、大麻取締法には、この基本的人権を制限する立法法定の合理性を支える社会的、経済的、政治的又は科学的な事実等の一般的事実は存在しないから、同法は憲法13条に違反する。」旨の主張に対し、これを正面から検討することなく、「大麻は、その薬害等の詳細が未だ十分解明されていないから、国民の保健衛生の向上と社会の安全保持をもその政務の一つとする国家が、大麻の使用やそれにつながる輸入等の行為を刑罰で規制することは、合理的根拠を有するのであり、立法における裁量の限界を逸脱するとはいえない。」と説示する。
(2)しかし、原判決は、大麻の薬害等の詳細が未だ十分解明されていないのに、国が大麻の使用・輸入等の行為を刑罰で規制することに合理的根拠があるとするのは、誠に論拠不十分である。その薬害等の詳細が未だ十分解明されていない大麻の所持・輸入等に刑罰を科することは、国民の保健衛生の向上と社会の安全性の保持に合理的関連性がなく、論理的な破綻を来している。
したがって、上記行為に対する刑罰での規制は、合理的根拠がないが、これに続く、原判決の「合理的根拠があるから、立法における裁量の限界を逸脱していない。」との説示自体も、違憲審査基準として緩やかすぎて不当である。
経済的自由権とは異なり、幸福追求権や言論の自由のような精神的自由権等の重要な人権の侵害が、選挙や立法府等における議論等の民主政の過程において回復されるのを待つ間にも、その侵害が続くことになり妥当でない。そこで、精神的自由権等の重要な人権については、厳重な審査基準によるべきであり、当該立法の目的が真にやむを得ない目的(利益)であるか、手段(規制方法)が目的達成のために必要最小限度(必要不可欠)なものであるかを判断し、これが認められ場合には当該規制を合憲とする基準が妥当である。後述のとおり、大麻取締法等関係条項がこのような基準を充足していないことは明らかである。
このように、原判決の前記説示は、国が大麻の使用・輸入等の行為を刑罰で規制することに合理的根拠がないのに、その根拠があるとした点、しかも、幸福追求権のような精神的自由権にかかる違憲審査については、厳重な基準を用いるべきであるのに、緩やかな合理性の基準を採っている点で妥当でない。
(3)ところで、大麻使用の自由は、憲法13条の幸福追求権の一つとして保障されるべきであり、大麻の自己使用目的の輸入をも禁止する大麻取締法等関係条項は、公共の福祉によってこの基本的権利を制限する立法制定の合理性がないから、同条項は、憲法13条に違反する。
憲法13条は、生命、自由及び幸福追求する権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限の尊重を必要とすると規定する。この幸福追求権は、個人の人格的生存に必要不可欠な権利自由を包摂する包括的な主観的権利であり、また、あらゆる生活行動領域に関して成立する一般的自由の権利であると解される。最高裁が認めるとおり、喫煙の自由が憲法13条の保障する基本的人権の一つであるが(最大判昭和45・9・16民集24.10.1410)、後述のとおり、煙草より害の少ない大麻の使用の自由は、その幸福追求権として保障されると解すべきである。
(4)大麻が煙草やアルコールより害が少ないことは、原審弁護士が、取調べ済みの各証拠に基づいて詳細に検討しているので、詳述するのを避けるが、結論的には、大麻の身体的及び精神的各影響は、何ら立証されておらず、いずれも極めて低いといわざるを得ず、また、社会的危険性についても、大麻と暴力犯罪との結びつき及びそのゲートウェイ(他の違法薬物へのステップアップ)作用も実証されておらず(むしろ近年ではこれを否定する研究結果が多い。)、同危険も危険も低いといわざるを得ない(原審弁論要旨、弁1、2、15、17、20)。
また、大麻の有害性は、煙草やアルコールのそれと比較しても、極めて低いと認められる。例えば、アメリカ合衆国では、毎年35万件前後の死亡が煙草に関係した疾患に起因すると報告されており、また、イギリス政府顧問の立法にかかる薬物分類によると、有害性の高い順位では、アルコールはクラスAで5位、煙草は9位であるのに対し、大麻はクラスCで11位であるとのランク付けがされている。このように、大麻は、現在、合法化されているアルコール、煙草と比べて、その有害性が極めて低いことが明らかである(弁15)。
最高裁は、昭和60年代に大麻の有害性を認め、大麻の自己使用目的での輸入事件について、大麻取締法等関係条項について違憲主張を退けたが(最決昭60・9・10判時1165.183等)、前述のように、その後の長年にわたる経験と研究結果から、大麻に関する知見が大幅に変化している。現在では、大麻に対する人の身体的・精神的・社会的各影響は極めて低く、大麻の有害性は、煙草・アルコールのそれと比べても極めて低いと認められる。
(5)このような知見の変化が、近年における欧米諸国等の大麻の自己使用目的の所持等に対する非犯罪化、非刑罰化に現れている(原審弁16)。
ヨーロッパ連合加盟国では、その大麻に対する異なる法的アプローチにもかかわらず、各国に通ずる共通の傾向は、悪質自由のない使用や少量の所持に対する刑事訴追に代替する方策の発展である。大抵の加盟国では、代替的方策として、罰金、警告、保護観察、刑の免除及びカウンセリングが採用されている。特に大麻は、他の薬物と区別され、法律、検察の指針又は司法において特別の取扱いがなされている(原審弁16)。
一方、アメリカ合衆国のカリフォルニア州においても、知事が、平成22年10月1日に、1オンス(28グラム)未満の大麻所持を刑事罰(軽罪)から行政罪(交通切符のような反則金)に改正する州法(SB1449)に署名し、同法は平成23年1月1日から施工される。
これと併行して、同州では、平成22年11月2日に、「21歳以上の者の自己使用目的による大麻の所持、栽培又は輸送を適法とし、また、同州内の市政府が、大麻の商業的栽培及び21歳以上の者に対する大麻の販売について規則を定め、課税することを認める立法(但し、学校の校庭での所持・公共の場所での使用・少年の面前での・21歳未満の者への供与・大麻の影響下での運転を禁止する。)」の発議(Proposition 19)について、州民投票が行われた。投票の結果は、賛成が4,504,771票(53.6%)、反対が5,198,018票(46.4%)であり、発議は否決されたものの、州民の約450万人が成人による大麻の使用・栽培・輸送を非犯罪化することに賛成している。
原判決は、このような大麻をめぐる外国の法規制の変動や有害性の知見の変化等を正確に把握しようとせずに、「大麻の薬害等の詳細が未だ解明されていない。」と認めるに止まっているが、それにもかかわらず、大麻の使用・輸入の行為を刑罰で規制する合理的根拠があるとしたから、論理的破綻を来したのである。
裁判所としても、現在と昭和60年代とでは、大麻の有害性の認識・評価が変化したことから、大麻取締法等関係条項が違憲であると判断する時期に来ていると思料する。
(6)大麻の使用の自由は、憲法13条に定める幸福追求権として保障され、もとより公共の福祉に反しない限り最大限に尊重されるが、大麻の有害性は、合法化されている煙草やアルコールのそれよりも低いから、公共の福祉によっても、大麻の使用の自由の幸福追求権が制約されるものでないと解する。
憲法上の権利と公共の福祉とを調整するための基準として、過去の最高裁判例にも採用されている比較衡量論を採ると、人権の制限によって得られる利益と、人の制限によって失う利益(人権を制限しない場合に維持される利益)を比較衡量し、前者の方が後者より大きい場合には制限を合憲とし、その逆の場合には制限を違憲と判断することになる。
本件の大麻の自己使用やこれにつながる輸入という人権の制限により得られる利益は、使用者が煙草やアルコールより有害性が低い大麻を使用しないことの利益及びこれによる国民の福祉・衛生の向上の利益である。しかし、使用者が有害性の低い大麻の使用を止めても、その健康状態の維持・改善の利益及び国民の福祉・衛生の向上の利益はほとんどない。これに対し、大麻の自己使用や輸入に対し懲役刑を科すことにより、憲法13条によって保障される人身の自由を失う上、煙草やアルコールより有害性が低い大麻の使用という幸福追求の利益を失う事となる。この比較衡量から、被告人の大麻使用の自由という幸福追求権が、公共の福祉により制限されるべきでないことは明らかである。
したがって、被告人の本件所為に適用した大麻取締法等関係条項は、憲法13条に違反するものである。
2 憲法31条及び14条1項について
(1)原判決は、弁護人の「刑事罰、特に懲役刑は、刑罰法規の謙抑制、人権保障の観点から必要最小限のものでなければならないが、アルコールやタバコには、成人以上の者に対しては何ら制限がないのに、これより有害性が極めて低い大麻の輸入等につき懲役刑を科するのは、罪刑の均衡を逸するものであり、憲法31条に反するばかりか、同法14条にも反する。」旨の主張に対し、やはり正面からの検討と判断をせずに、「酒及びアルコールが人体に対する作用の面で大麻と異なり、また、酒やタバコは多年のわたり国民一般にし好品として親しまれ国民生活に定着していることに照らすと、国家が、大麻について、酒やタバコと異なり、懲役刑をもってその使用やそれにつながる輸入等を規制するのも合理性がある。」と説示する。
しかし、原判決の説示する「酒、タバコが人体に対する作用の面で大麻と異なること」、「酒やタバコはし好品として親しまれ国民生活に定着していること」は、いずれも単に両者の当然の違いに言及するにすぎず、大麻取締法等関係条項が憲法31条、14条1項違反でないことの理由にならない。
(2)まず第1に、大麻の自己使用につながる輸入行為に対し7年以下の懲役刑に処する大麻取締法等関係条項は、罪刑の均衡を著しく逸しており、憲法31条の適正手続の保障の規定に反する。適正手続の保障には、罪刑の均衡の原則等の実体適正も含むものである。
最高裁は、「およそ刑罰は、国権作用による最も峻厳な制裁であるから、特に基本的人権に関連する事項につき罰則を設けるには、慎重な考慮を要することはいうまでもなく、刑罰規定が罪刑の均衡その他種々の観点からして著しく不合理であって、とうてい許容し難いものであるときは、違法の判断を受けなければならない。」と判示する(最大昭和49・11・6刑集28.9.393)。
前述のとおり、大麻取締法等関係条項が大麻の自己使用につながる輸入行為を犯罪として規定すること自体が違憲であるが、仮にこの犯罪化を前提としても、上記輸入行為に対し、その法定刑として7年以下の懲役刑を定めることは、罪刑の均衡の原則に反する。使用者が自己使用のために、煙草・アルコールよりも有害性の低い大麻を輸入しても、大麻規制の目的である人の健康状態の維持・改善の利すことがないのみならず、国民の福祉・衛生の向上にもほとんど関係がない。
大麻の自己使用は、自己決定権に係る事項であり、煙草やアルコールよりも少ない身体的影響があるとしても、使用者の健康に係る問題であり、自分自身が納得の上で使用するものである。にもかかわらず、国がパターナリズムから介入して制裁を科す場合は、一層謙抑的である必要がある。
このように、大麻の自己使用につながる輸入行為を罪として、これに7年以下の懲役刑を定めることは、罪刑の均衡を著しく害し、適正手続の保障を定める憲法31条に違反するものである。
(3)第2に煙草やアルコールを自己使用目的で輸入した者についての規則と比較して、これらより有害性が極めて低い大麻の輸入等につき懲役刑を科する大麻取締法等関係条項は、法の下の平等の原則を定める憲法14条1項に違反する。
憲法14条1項の法の下の平等の原則は、すべての国民は、法の下に平等であって、人種、性別、社会的身分及び門地による差別を禁止しているが、その差別禁止自由は例示であり、列挙された以外の事由による不合理な差別も禁止される。このように、同条項は、広く法の下の平等の原則を定めるのであり、これを限定的に解釈するのは妥当でないから、一定の行為に関して差別禁止事由により差別することはもとより、同種ないし同様の行為に関して不合理な差別がなされることも禁止するものである。
本件の関係でいえば、アルコールや煙草の自己使用目的での輸入をした者には、輸入手続や関税納付等の規制があるにすぎないのに、これらよりも有害性の低い大麻を自己使用目的で輸入した者には、7年以下の懲役に処することは、憲法14条に違反することは明らかである。
ところで、法の下の平等に関する違憲審査基準として基本的には、ある法律の目的を達成するためには、別異な取扱いが合理的関連性をもつかどうかが問われ、立法府の裁量を前提とし、立法府の裁量の逸脱・濫用があった場合に違憲とされる。しかし、基本的人権の重大な制約を伴う場合には、立法府の裁量を考慮するとしても、法律の目的を厳格に解し、あるいは、手段が相当であるかどうかを厳格に問い、別異な取扱いが合理的関連性をもつかを判断すべきである。
大麻取締法等関係条項の立法目的は、国民の福祉・衛生の向上であるが、立法当時の大麻は有害であるとの認識・評価が変化し、現在では、大麻の有害性が煙草・アルコールよりも極めて低いと認識等されていることを素直に承認すると、前記立法目的を達成するために、煙草等とは別異の極めて重い取扱いをし、法定刑を7年以下の懲役刑とする手段が合理的で相当であるとは認められない。
このように、大麻取締法等関係条項は、憲法31条及び14条1項に違反することは明らかである。
3 大麻取締法等関連条項の適用違憲
(1)原判決は、被告人の「大麻使用による悪影響を全く受けておらず、また、所持した大麻を第三者に譲渡する意思もなく、被告人及び第三者に保健衛生上の危害が発生する可能性がないから、大麻の輸入に対し懲役刑を科している大麻取締法は、被告人の自己使用に先立つ輸入行為に適用される限度において立法目的達成の必要最小限度を超えたものとして違憲である。」旨の主張に対し、「大麻取締法は、国民の保健衛生の向上と社会の安全保持のために予防的見地から大麻の輸入等の行為を規制するのであり、結果として悪影響が出ないからといってその適用が違憲となるのでない。」と説示する。
(2)しかし、原判決の前記説示は、論理が逆転しており、大麻取締法が上記のような予防的見地から大麻の輸入等の行為を規制するのでなく、その輸入等の行為が国民の保健衛生の向上と社会の安全を害するから規制するのである。また、規制したことの結果として悪影響が出なかったのではなく、悪影響のない被告人に同法を適用したから違憲であるのであり、その論拠は不合理である。
(3)本件の適用違憲の主張における適用は、大麻取締法等関係条項の違反により、被告人が逮捕・勾留され、起訴されて裁判を受け、懲役1年2月の実刑を科せられたことであり、換言すると、検挙されてから懲役刑を科せられるまでが同法の適用である。
本件の捜査結果によると、被告人は大麻取締法等関係条項の違憲を訴えたかったため、自ら進んで逮捕され、裁判を受けることになった。本件大麻の輸入はその量が僅か約2グラムにすぎず、被告人は、これを第三者に譲渡する意思は全くなく、自己使用目的であり、誰にも迷惑を掛けることはない。被告人はこれまでの長年の大麻使用にもかかわらず、何らかの身体的及び精神的悪影響を受けておらず、大麻に親和性があり、むしろ有益で自分自身の向上に役立ってきたのである(原審弁6)。このような悪影響を受けていない被告人に対して、あえて公判請求をし、裁判を受けさせ懲役刑を科し、大麻取締法等関係条項を適用したことが憲法違反となるのである。
仮に、大麻取締法等関係条項が合憲であるとしても、同条項の適用対象となる者には、他への譲渡目的のある者、大麻と親和性のない者、病弱者、少年等の種々の人々がある。しかし、前述のとおり、被告人は、長年の大麻使用によっても全く悪影響のない大麻に親和性のある者であり、このような被告人に前記条項を適用し懲役1年2月の実刑に処するのが、憲法31条及び13条に違反し適用違憲である。
(4)まず、被告人の本件所為に大麻取締法等関係条項を適用し前記懲役刑を科したことは、憲法13条に違反する適用違憲である。
この適用違憲について判断する基準は、既に法令違憲の項で述べたとおり、被告人の本件所為について、懲役1年2月の実刑を科すことにより、国民の保健衛生の向上のために得られる利益と、同実刑を科さないことによる、被告人が同期間の身体の拘禁をされないという憲法13条の自由の保障が守られる利益、及び、自己にとって全く無害である大麻の使用の自由という同条の幸福追求権・自己決定権を行使できる利益のいずれが優越するかである。前者については、被告人にとって大麻は無害であるから、本人自身の健康の侵害はなく、また、国民の保健衛生の向上と合理的な関連性は全くないから、被告人に本件懲役刑を科すことによる利益は全くない。これに対し、被告人は、本件科刑により、憲法13条に保障される自由を長期間奪われ、幸福追求権・自己決定権という基本的人権の重要部分を奪われる。したがって、被告人の本件所為に大麻取締法等関係条項を適して前記懲役刑を科したのは、憲法13条に違反する適用違憲である。
(5)また、被告人の本件所為に大麻取締法等関係条項を適用し前記懲役刑を科したことは、憲法31条に違反する適用違憲である。
前記法令違憲の項で述べたとおり、憲法31条の適正手続の保障には、罪刑の均衡の原則が含まれる。大麻の使用が無害である被告人が自己使用目的で大麻を輸入する行為は、大麻取締法等関係条項の罪に該当するが、実質的にはその罪の保護法益を侵害しない。これに対し、懲役1年2月の実刑を科して長期間にわたる身体の自由を奪い、被告人の重要な人権を侵害することであり、両者を比べると罪刑の均衡を著しく害しており、適正手続を保証する憲法31条に違反する適用違憲である。
(6)法がある行為を禁じその禁止によって国民の憲法上の権利にある程度の制約が加えられる場合、その禁止行為に違反した場合に加えられるべき制裁は、法の目的を達成するために必要最小限度でなければならない。被告人の本件所為に対して加えられた前記懲役刑は、明らかに法の目的を達成するために必要最小限度を超えている。
したがって、被告人の本件所為に、大麻取締法等関係条項が適用される限度において、同条項が憲法13条及び31条に違反するものであり、これを被告人に適用することはできないと思料する。
第2 原判決の訴訟手続の法令違反について
原審が、厚生労働省麻薬対策課係官ら2名の証人尋問の請求を却下した点において、刑事訴訟法298条、同法規則190条1項、同法309条等に反する訴訟手続の法令違反がある。
原審弁護人は、それぞれ、大麻が有害であることの根拠がないことを立証趣旨として、国枝 卓(厚生労働省医業食品局監視指導・麻薬対策課長)及び冨澤正夫(同省外郭団体の財団法人麻薬覚せい剤乱用防止センター専務理事)の各証人尋問の請求をしたが、原審裁判所は、いずれも必要なしとして各証人尋問の請求を却下した。
ところで、原審において、証人白坂和彦(大麻報道センター・主催者)が「イギリスの下院科学技術委員会やアメリカの全米科学アカデミーは、大麻にアルコールや煙草ほどの有害性がない旨の報告を発表している。」などと証言し、「厚生労働省の担当者と同省の天下り財団法人の担当者を法廷に呼んで、一体大麻の有害性はどういうものか、本当に懲役に値するものかの検証をお願いします。」旨証言している。
原審は、このような公判経過の下で、弁護人の上記2名の証人尋問の請求を必要なしとして却下したが、他方で、原判決は、「大麻はその薬害等の詳細がいまだ十分解明されていない。」と説示している。原審は、大麻の薬害等が十分解明されていないのであれば、少なくとも大麻規制等を担当する同省係官の前記国技及び同省の委託を受けてホームページに大麻の有害性を広報している前記財団法人の責任者の前記冨澤を証人として採用して尋問すべきであった。
原審が前記2名の証人尋問をしていれば、大麻の有害性は、煙草やアルコールの有害性より極めて低いことが一層明確になったと思われるので、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があると思料する。
以上のとおり、原判決には、刑事訴訟法380条の判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤り(憲法13条、31条及び14条1項の解釈適用の誤り)及び同法379条の同じく訴訟手続の法令違反(同法298条、同法規則190条1項、同法309条等)があるので、同法397条1項により原判決を破棄すべきであると思料する。
以上
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- KYさん上告棄却に対する異議申立(一審証人 白坂和彦) (2011-07-28)
- 異議申立書(弁護人による) (2011-07-14)
- 上告棄却決定通知 (2011-07-11)
- 上告趣意書(弁護人による) (2011-06-20)
- KYさん上告に際しての意見書 (2011-05-16)
- 控訴審判決文 (2011-02-16)
- 控訴趣意書 (土屋眞一弁護士) (2010-12-03)
- 証人として裁判官宛てに抗議文を送付 (2010-10-08)
- KYさん裁判 証拠目録 (2010-09-24)
- 一審判決文 [ KYさん裁判 ] (2010-09-24)
- 検察官宛て「KYさん裁判についての抗議文」 (2010-09-23)
- KYさん裁判第5回公判-弁論- (2010-08-24)
- KYさん裁判第5回公判-論告- (2010-08-24)
- KYさん裁判第4回公判報告 (2010-07-09)
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