上告趣意書
平成17年(あ)第1219号
被告人 ■■■■
大麻取締法違反・関税法違反被告事件
最高裁判所 第三小法廷 御中
平成17年7月28日
弁護人 真木 幸夫
上告趣意書
第1、 憲法第13条、14条、31条違反
1、 憲法第13条は「すべて国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については公共の福祉に反しない限り立法その他の国政のうえで最大の尊重を必要とする」と規定している。
憲法第14条は「すべて国民は法の下に平等であって人種、身上、性別、社会的身分又は門地により政治的経済的又は社会的関係により差別されない」と規定している。憲法第31条は「何人も法律の定める手続によらなければその生命若しくは自由を奪はれ又はその他の刑罰を科せられない」と規定している。
2、 大麻それ自体は害悪性がなく、あったとしても非常に少なく他方薬用産業用との効用を有するものであるのに大麻取締法や関税法の刑罰規定のように厳しく罰することは憲法第13条の保障する幸福追求権を侵害するものであり、又憲法13条が内容とする実体的適法手続きとしての罪刑の均衡を著しく欠くものであって同条に違反し又タバコやアルコール等の合法的嗜好品に比較して直接的害悪性が少なく且つ犯罪を引き起こす副次的効果も著しく少ないのに大麻についてのみ厳罰をもって臨んでいるということはタバコやアルコール愛好者と合理的理由なく取り扱いを異にし厳罰に処していることになり大麻取締法(及び関税法)は憲法14条に違反すると言わなければならない。
3、 大麻に有害性は認められず、認められるとしても非常に少ないものであること、他方大麻の薬用や産業上有用であること、外国では大麻の規制が緩やかになってること我が国の大麻の厳罰による法的規制は違憲であることは原審弁護人が3通、145頁に亙る控訴趣意で述べているところであり刑罰による大麻規制の合憲性についての職権判断を求めたのに対し、原判決は「大麻取締法が憲法違反でないことは明白である(最高裁判所昭和60年9月10日決定参照)とわずか3行で弁護人の主張を退けていて(原判決書2頁11行乃至13行)真に不当極まりない。
4、 上記最高裁判所決定は「弁護人の上告趣意第1は、憲法13条、14条、31条、36条違反をいうが、大麻が所論の言うように有害性がないとか有害性が極めて低いものであるとは認められないとした原判断は相当であるから、所論は前提を欠き同第2は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらないとするものである(判例時報1165号183頁、法曹界発行最高裁判所事務総局編麻薬・覚せい剤等刑事裁判例集続735頁)」とする中身の無い簡単なものである。
5、 しかも上記判決は20年以上も前の知見に基づく判断でありその後大麻規制が緩やかになっていることは世界的衰勢である。
従って大麻取締法(と関税法)の現行大麻取り締まり規制は憲法違反であるから原判決及び一審判決は破棄されなければならない。
第2、 憲法第37条2項違反、同31条違反
1、 憲法第37条2項は「刑事被告人は・・・・公費で自己のために強制手続きによる証人を求める権利を有する」と規定し、同31条は「何人も法律に定める手続きによらなければその生命若しくは自由を奪はれ又はその他の刑罰を科せられない」と規定している。
2、 憲法37条の規定は単に被告人の証人尋問請求権を規定しているだけでなく被告人に有利な鑑定、検証等の申立てや証拠物や書証等の証拠の提出権を保証したものである。従って重複証拠や関連性のない証拠等明らかに取り調べの必要がない証拠取り調請求を却下できるのは当然として、本条は争点に関する重要証拠の被告人の提出権と裁判所の取調べ義務を規定したものである。そして憲法31条の規定する法律の手続きとは憲法37条2項が規定する被告人の証拠調請求権が実効的に保証された手続きを含むことが必要である。
3、 原審において原審弁護人は詳細にして具体的な理由を付して控訴審弁護人請求カード3乃至12、15乃至93の書証を請求したが原審裁判所はこれらの証拠請求を全て却下した(原審記録183丁乃至214丁)。
4、 上記証拠は控訴趣意を直接理由付け、裏付ける重要証拠であり、見解の相違は別として真剣に検討されるべき真面目な書証である。これを取り調べたうえでそれらの証拠の見解には賛成出来ないというのであれば格別、取り調べもしないでその証拠価値を判断出来ないのにこれを却下したのは証拠に対する先入観に基づく証拠価値の先取りとして絶対に許されない。原審森川弁護人は3通の控訴趣意書(合計145頁)で大麻の有害性の検討、効用、刑罰による規制の問題点、海外の動向等あらゆる観点から真摯に述べているのであって正に本件の争点であり争点に関する証拠である。
5、 従って原審の上記証拠調請求却下は上記憲法の各規定に違反し違法であり上記証拠の取り調べを行なうために本件を原審に差し戻しされたい。
第3、 刑事訴訟法第411条3号による破棄を求める。
1、 原判決、原原判決とも被告人の否定にかかわらず営利目的を認定したのは判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認でありこれを破棄しなければ著しく正義に反する。
2、 密売を疑わせる手紙の下書きについて原審における被告人質問で弁護人の問に対して答えているとおり「海外でお金を無くしてしまい帰るためのお金が必要なので送金してほしいという内容です。私にとって大切な大麻を売ってもいいと思うくらいお金に困っているという意味で書いたまでで」(原審記録237丁)、密売を持ちかけたものでない。被告人は大麻を密売しなければならないほど経済的に窮していなかったしこれまで一度も大麻を密売したことがない。
従って営利目的の認定は上記手紙の下書きを誤って解釈したものでこれを認定した原判決と原原判決は上記刑事訴訟法により破棄されなければならない。
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