「ダメゼッタイ」を周知する保険所や役所など、公的団体から出されている反大麻情報のひとつに、「大麻乱用患者29歳男性の手紙」として使われているものがある。数年前には(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター(以下「ダメセン」と略称)のサイトにも掲載されていたし、保険所のサイトでも見かけることがあった。先日ネットを探してみたが、現在はこの「手紙」、反大麻情報としては削除したところも多いようだ。今では本家ダメセンのサイトにも見当たらない。ネットでは東京都のサイトにpdfファイルが未だに掲載されていた。http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/yakumu/yakubutu/shizai/leaflet/koukou-16n.pdf
大麻乱用者が書いたものとして税金を使って周知されているこの「手紙」について、医師であるフロッガー氏に検証をお願いした。
* * *
病気の原因を突き止める学問を疫学(epidemiology)という。
具体的にはある曝露因子(病気の原因と仮定しているもの;我々の場合は大麻)が、病気の発生と関連しているかを調べる学問で、その方法は幾つかある。
最も信頼性の高いものはランダム化比較試験である。これはある集団に対してランダムに曝露ありなしを分けて、一定期間観察して病気の発生を見るものである。ただしこれは本人の意志とは関係なく曝露を決定する為倫理的な問題があり行うことが難しい。
次がコホート研究である。これは、曝露因子のある群と無い群を前もって同定し、一定期間観察して病気の発生を見るものである。手間と時間がかかるという欠点があるが、バイアスがかかりにくい。
その次がケースコントロール研究である。これは、病気にかかった人の内での曝露因子があるかないかを調べ、病気になっていない人と比較するものである。手間がかからない反面、バイアスがかかる可能性があるため信頼性がおちる。
ある要因が病気の原因であると言う為には、このような、「ある程度の人数」で「対照群と比較して」「統計学的な検証も加えた」疫学的研究が不可欠である。
それが偶然そうなったのかそれとも何か理由があってそうなったのかについて、正しく検証しないで事実のように語ることは似非科学であり、先日話題になった「あるある大事典」の捏造問題はまさにそれである。「あるある大事典」の問題は最も権威のある科学雑誌Natureでも報告されており、世論に対して影響力をもつマスメディアが科学を装って嘘を伝えることの危険性を訴えている。
さて、我が国における政府や行政団体からの大麻情報は、似非科学では無いだろうか?ここに一つの例を提示する。
これは、財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター発行の「薬物乱用防止教育指導者読本」に掲載されている手紙である(THC注:「薬物乱用による健康障害」の項p77.筆者は医療法人せのがわ「Konuma」記念広島薬物依存研究所所長小沼杏坪)。
29歳男性が書いたもので、大麻を乱用すると知能が低下し手紙がひらがなばかりになってしまう、という例として出されている。
これ以外にもこの手紙は他の大麻に反対する団体からもよく引き合いに出されている。
私が調べたところではこの手紙は、精神医学31(9);p919-929, 1989.「 大麻精神病の6例」徳井達司ら、からの引用である。
論文の内容以前の問題であるが、この論文は少数例の症例報告であり、疫学的な検証は不可能で、この論文を一般に当てはめることは出来ない。
つまり、それがたまたまその人に起こったものなのか、それとも一般化出来る事なのか結論を出すことは出来ない。
これをあたかも誰にでも起こりうることとして公式な文書に掲載することは問題と考える。
さらに、内容について詳しく検討したい。
この手紙を書いた人の経過がどのようなものであったのかについて一部引用すると、
「当時29歳の男性。20歳時にデザイナー専門学校を中退後、米兵と知り合い大麻を経験するも継続はせず数回で止めた。23歳、東南アジア旅行をきっかけに大麻を再開。24歳の時に1kg持ち込もうとして逮捕される。26歳、友人に誘われLSD使用し再逮捕。その後表情が暗く寡黙になり性格も変わった。28歳時、タイで急性ヘロイン中毒となり現地の病院に入院。その後窃盗容疑で逮捕、その時に自殺未遂。日本に強制送還され入院となった。その時には奇声を発したり、トンチンカンな言動が見られた。悪口を言う幻聴があり。入院後に言動が整ったが幻聴は持続したとのことだが逮捕を逃れる為なのではないかという不審がもたれた。」
このような経過の人が、書いた手紙である。これは大麻によるものだろうか。
まず、多剤の影響がある。LSDの使用歴や急性ヘロイン中毒の既往がある。
これは分かっているものだけであり、海外でその他の薬を使用した可能性も否定できない。
大麻以外の薬物による精神症状の可能性がむしろ高いのではないか。
さらに、海外で入院し強制送還され逮捕にいたるという経過から、かなりの精神的ストレスがあったと考えられる。精神的ストレスから精神病症状を起こすことがあるのは広く知られている。
この経過から、この手紙がひらがなばかりになっているのは大麻が原因と断定することは出来ず、むしろ他の要因の影響を強く疑う。
これを大麻が原因であるとして、公的な文書に載せることは「あるある大事典」並みに酷い事実の捻じ曲げであると考える。
WHO97年のレポートによれば大麻精神病は仮説の病態であり、大麻使用中に起こった統合失調症と明確に区別できないとしておりその存在に異論のあるところである。
さらに、日本で大麻精神病として報告されているものは20例以下と少なく、ほとんどが大量使用者で、他剤の使用歴があることが多く、心理的精神的影響も強いことが多く、一般の大麻使用者ではない。
つまり、大麻精神病は無いか、もしあったとしても、ヘビーな大麻使用者に限られる稀な病態である。
これを、あたかも大麻を使用することにより多くの人に起こることとして公的に流布することが、正しい近代国家のあり方なのか強い疑問を感じる。
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大塚製薬がアメリカでのサティベックス開発販売に関するライセンス契約を締結したというニュースについて、医師のフロッガーさんによる解説です。
世界の医学会の現実と、「大麻取締法は時代遅れである」という現場の医師の指摘を、厚労省は真摯に受け止めてほしいものです。
大塚製薬のプレスリリース
http://www.otsuka.co.jp/company/release/2007/0214_01.html
大塚製薬株式会社とGWファーマシューティカルズplc.が、米国において開発中のカンナビノイド系がん疼痛治療剤「サティベックス(英語表記:Sativex)」の米国における開発・販売に関するライセンス契約を締結しました。
「サティベックス」は大麻からの抽出物であるテトラハイドロカンナビノールとカンナビダイオールを主成分とする溶液で、口腔内スプレーで薬剤を投与するものとのことです。
そして、米国で「オピオイド系薬剤による治療で効果の見られない末期がんの患者の疼痛治療」第Ⅱ/Ⅲ相試験が行われるとの事です。
このニュースについて簡単な解説をしておきたいと思います。
[がん疼痛治療]
記事によれば、大塚製薬はサティベックスをがん疼痛治療剤として考えているようです。がん疼痛治療の現状と問題点について解説します。
現在がん疼痛治療はWHOの推奨するやり方で行うのが通常で、その中心はオピオイド、すなわちモルヒネなどの麻薬を中心とした治療です。
オピオイドは大体の場合効果的であるのですが無効な場合があります。特に神経障害性疼痛はオピオイドが効きづらく厄介です。
神経障害性疼痛とは、末梢神経や中枢神経が障害を受けて発生する痛みで、例えば脊椎へ癌が転移して背髄を障害したり膵臓癌などが内臓神経へ直接入り込んだりして起こる痛みです。
現状では抗けいれん剤や抗うつ剤など神経の伝達を抑えるような薬で対応するのですが、あまり効果的とは言えません。
カンナビノイドは多発性硬化症の疼痛に効果があることが分かっており、神経障害性疼痛に効果があるのではないかと期待しています。
がん患者が人間らしく生活する為には痛みのコントロールは不可欠で、痛みのため抑うつ的になり身体の痛みが心の痛みにつながることもあります。
カンナビノイドはがん疼痛治療に役立つことが期待できる薬剤であり早期の臨床応用を望みます。
[臨床試験]
米国で第Ⅱ/Ⅲ相試験を行うということですが、臨床試験(いわゆる治験)のシステムについて解説しておこうと思います。
臨床試験は主に第Ⅰ~Ⅲ相の3つの相に分かれています。
第Ⅰ相は毒性や適正な投与量を調べる試験です。
第Ⅱ相は安全性と共に効果について調べます。
第Ⅲ相は現状の治療と比較して効果的なのかということを調べます。
第Ⅲ相で効果が確認できれば新たな標準治療として認められることになります。サティベックスは第Ⅱ/Ⅲ相試験ということなので、この試験によって米国でがん疼痛治療薬としての承認を受ける事を目的としているのでしょう。
[大麻取締法は時代遅れ]
大麻取締法の第四条では、「大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。大麻から製造された医薬品の施用を受けること。」を禁止しています。
当時大麻が医薬品として有用であることがわかっていなかった状況で制定された条文と思われます。
しかし、現在大麻の薬効が注目され、欧米を中心に医薬品としての応用が進んできており、この条文は時代遅れのものとなってきています。
この法律により日本での臨床試験を行うことは現状では出来ませんが、日本の企業である大塚製薬がライセンスを獲得したことから、我が国での臨床試験や発売が可能となる事を期待しています。
臨床試験のやりやすい米国でデータを出せば、日本で臨床試験を進める大きな根拠となるでしょう。
私は、大麻取締法は時代にそぐわないものであり、企業の政治力と患者に役立つという大義名分があればクリアーできると思います。
むしろ、この法律を理由に日本での使用が出来ないとなると、患者の権利の侵害であり倫理的に問題です。
多発性硬化症やがん以外の病気にもカンナビノイドが効果のある可能性があり、日本で研究を行いやすくなる事を心から望みます。
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某有名医大フロッガー医師による「ダメ。ゼッタイ。」検証です。一方的な大麻擁護ではなく、医師として公平で科学的な視点から注意が喚起されてもいます。それは大麻を擁護する者にとっても留意すべき大切な姿勢ではないでしょうか。
引用元:http://www.dapc.or.jp/data/taima/3-3.htm
生殖器官に対して;
生殖能力に障害が生じ、遺伝子の異常や突然変異をもたらします。男性ではテストステロン(性ホルモン)を44%も低下させます。また、女性では生殖細胞に異常を生じます。大麻の有害成分は胎盤関門(母胎血液と胎児血液の間に胎盤膜によって形成されている半透過関門)をも通過して胎児にも影響を及ぼしますので胎児の大麻中毒や流産、死産の原因にもなります。
1.生殖能力に障害を生じるか。男性でテストステロンを低下させるか。
生殖機能というと、広い範囲の言葉となるため、男性ホルモン、女性ホルモン、精巣、卵巣と言い換えたい。男性ホルモンを減少させるかについてもここで検証を行う。
男性ホルモンについて。
動物実験においては大麻、THCが男性ホルモンを減少させるとする報告がある(1)(2)。しかしヒトにおいては、初期の研究で大麻の曝露はヒトの男性の血漿中LH、テストステロン濃度の一時的な減少を生じるとする報告があるものの(3)、その後の研究で経口のTHCあるいは大麻喫煙のどちらもLHとテストステロンの血漿中濃度への影響はないとする報告が続き(4)(5)(6)、ヒトにおいては大麻の男性ホルモンへの影響は不明瞭である。
もしあったとしても、生殖機能に影響を出すレベルではない。
以上より男性ホルモンを低下させるという文章の削除を要求する。
女性ホルモンについて。
動物実験において、LH、FSHとプロラクチンの下垂体分泌を変えるとする報告がある(7)(8)。ヒトにおいては、月経周期の黄体期の間にLHとプロラクチンが抑制され、それによって性周期が短くなるという報告がある(9)(10)。しかし、慢性的な大麻使用者でLH、FSHとプロラクチンの変化が無かったとする報告もある(6)。
精巣卵巣機能について。
動物実験においては、精巣や卵巣の重量が減少したとする報告がある。しかし、ヒトにおいてそのような報告は無い。
総合して、大麻が生殖能力を障害するという疫学的研究報告は見つけることが出来なかった。
もしそのような報告があるのなら提示を要求する。
もし無いのであれば、生殖能力に障害が生じるという文章の削除を要求する。
2.遺伝子の異常や突然変異をもたらすか。
大麻が遺伝子への変異原性を持つかについては、今まで幾つかの実験室レベルでの報告があり、大麻の煙成分を濃縮したものを細胞に加え(エイムス試験法)変異原性を認めたとするものがある(11)(12)。
しかし純粋なTHCには変異原性が無いという報告がある(13)(14)。
このことは大麻の煙による発癌の危険性を示唆するが、前項「気管支・肺に対して」で検証したとおり、大麻による発癌は確認されておらず、実際のリスクとはなっていない。
以上から煙成分を濃縮したものでエイムス試験法を行ったときに変異原性が確認されている、という記載に変更する事を推奨する。
3.女性で生殖細胞に異常を生じるか。
WHOレポートでは大麻使用で親が子供に伝えるような染色体や遺伝子の異常をもたらすという証拠ほとんどないとしている(15)。この項目の削除を要求する。
4.胎児の大麻中毒、流産、死産の原因となるか。
WHOレポートでは、妊婦の薬物使用の疫学的研究はサンプリングが不確実なため評価するのが難しいとしている。
その中で出生時体重の減少は関連がありそうである(16)。
これは、煙草と同じメカニズム、低酸素血症によるものではないかと考察されている。流産・死産についてはエビデンスのある報告を見つけることが出来なかった。論文の提示、もしくはこの項目の削除を要求する。
追記:医師としての意見。
ただし、妊娠中の大麻使用が問題ないとは言えない。これについては不明な点が多く、妊娠中の大麻使用は控えるべきである。医師として、そして子供を持つ親として、この点は強調しておきたい。
(1) Symons AM, Teale JD, Marks V. Effects of Δ-9-tetrahydrocannabinol on the hypothalamic-pituitary-gonadal system in the maturing male rat. Journal of Endocrinology, 1976, 68: 43.
(2) Puder M et al. The effect of Δ-9-tetrahydrocannabinol on luteinizing hormone release in castrated and hypothalamic differentiated male rats. Experimental Brain Research, 1985, 59: 213-216.
(3) Schaefer DF, Gunn CG, Dubowski KM. Normal plasma testosterone concentrations after marihuana smoking. New England Journal of Medicine, 1975, 292: 867-868.
(4) Markianos M, Stefanis C. Effects of acute cannabis use and short-term deprivation on plasma prolactin and dopamine-B-hydroxylase in long-term users. Drug & Alcohol Dependence, 1982, 9:251-255.
(5) Dax EM et al. The effects of Δ-9-tetrahydrocannabinol on hormone release and immune function. Journal of Steroid Biochemistry, 1989, 34: 263-270.
(6) Block RI, Farinpour R & Schlechte JA. Effects of chronic marijuana use on testosterone, luteinizing hormone, follicle stimulating hormone, prolactin and cortisol in men and women. Drug and Alcohol Dependence, 1991, 28: 121-128.
(7) Steger RW et al. The effect of Δ-9-tetrahydrocannabinol on the positive and negative feedback control of luteinizing hormone release. Life Sciences, 1980, 27: 1911-1916.
(8) Steger RW et al. Interactions of cocaine and -9-tetra cannabinol with the hypothalamo-hypophyseal axis of the female rat. Fertility & Sterility, 1981, 35: 567-572.
(9) Mendelson JH, Mello NK, Ellingboe J. Acute effects of marihuana smoking on prolactin levels in human females. Journal of Pharmacology & Experimental Therapeutics, 1985, 232: 220-222.
(10) Mendelson JH et al. Marihuana smoking suppresses luteinizing hormone in women. Journal of Pharmacology & Experimental Therapeutics, 1986, 237: 862-866.
(11) Busch FW, Seid DA, Wei ET. Mutagenic effects of marihuana smoke condensates. Cancer Letters, 1979, 6: 319-324.
(12) Sparacino CM, Hyldburg PA, Hughes TJ. Chemical and biological analysis of marijuana smoke condensate. NIDAResearch Monographs, 1990, 9, 121-140.
(13) Zimmerman AM, Stich H, San R. Nonmutagenic action of cannabinoids in vitro. Pharmacology, 1978, . 16: 333-343.
(14) Berryman SH et al. Evaluation of the co-mutagenicity of ethanol and Δ-9-tetrahydrocannabinol with Trenimon. Mutation Research, 1992, 278: 47-60.
(15) Division of Mental Health and Prevention of Substance Abuse, World Health Organization: Programme on substance abuse Cannabis: a health perspective and research agenda. 1997.
(16) Day NL, Cottreau CM, Richardson GA. The epidemiology of alcohol, marijuana, and cocaine use among women of childbearing age and pregnant women. Clinical Obstetrics and Gynaecology, 1992, 36(2): 232-245-
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気管支・肺に対して;
乱用者は再三にわたり、濾過していない大麻の煙をすいこみ、出来るかぎり我慢して息を止めておきますので(こうすることで大麻成分をなるべく多く肺から吸収しようとする)肺などの呼吸器官に障害をもたらします。大麻のタールはタバコのそれよりも50%も多く含まれていますので副鼻腔炎、咽頭炎、気管支炎、肺気腫、などの原因となります。また、大麻の煙には非常に多くの発癌性物質が含まれていますので肺癌なども引き起こします。
1.呼吸器に対する影響
大麻の呼吸器に対する影響では、大麻に特有な呼吸器傷害というものは無く、喫煙つまり煙を吸い込むことによる害である。
このことは、WHOの報告にも書かれており、大麻と煙草ではニコチンとカンナビノイド以外の呼吸器刺激物質と発癌物質はほぼ同じ成分である(1)。
したがって、この毒性を持って「ダメゼッタイ」を主張するのであれば、煙草を取り締まる必要が出てくる。
2.副鼻腔炎、咽頭炎、気管支炎、肺気腫、などの原因となるか。
副鼻腔炎、咽頭炎、気管支炎の原因とはなりうるようである。しかし肺気腫については意見の分かれる部分であり結論は出ていない。
大麻使用により換気機能や末梢気道の障害が引き起こされるという報告がある一方(2)、大麻使用は慢性閉塞性肺疾患や肺気腫の発症と相関しないとする報告もある(3)(4)。
大麻が肺気腫の原因となるとは断定できないことから、この部分に関して変更を要求する。
3.大麻が肺癌の原因となりうるか。
大麻が肺癌の原因となりうるかということについては、大麻が煙草よりもタールを多く含むことから、そのように考えられてきた。また、症例報告レベルではあるが、若年者呼吸器癌患者が大麻喫煙者であったという報告がある(5)。
しかし、アルコールや煙草などの交絡因子が除外できずエビデンスレベルは低い。
最近では2006年にUCLAの研究グループから発表された疫学調査で、大麻の大量長期間使用でも肺癌のリスクが増加は認められないと報告された。
さらに肺だけでなく頭頚部癌や食道癌のリスクも増加させないという結果であった(6)。
以上より、大麻が肺癌の原因となりうるかについては、現在のところ否定的と言える。この項目の削除を要求する。(追記:大麻が煙草よりも多くタールを含むにもかかわらず、発癌のリスクを上昇させないことの考察として、大麻の成分に抗癌物質が含まれていることが示唆される。試験管内の実験のレベルではあるが、カンナビノイドが抗癌作用を持つとする報告もあり、今後の研究が期待される。)
(1) Division of Mental Health and Prevention of Substance Abuse, World Health Organization: Programme on substance abuse Cannabis: a health perspective and research agenda. 1997.
(2) Bloom JW et al.: Respiratory effects of non-tobacco cigarettes. British Medical Journal, 1987, 295: 516-518.
(3) Gil E et al.: Acute and chronic effects of marijuana smoking on pulmonary alveolar permeability. Life Science, 1995, 56(23-24): 2193-2199.
(4) Tashkin DP et al.: Longitudinal changes in respiratory symptoms and lung function in non-smokers, tobacco smokers and heavy, habitual smokers of marijuana with and without tobacco. In: Marijuana: An International Research Report. Proceedings of Melbourne Symposium on Cannabis 2-4 September, 1987. National Campaign Against
Drug Abuse. Monograph Series Number 7, eds. Chesher G, Consroe P, Musty R. Australian Government Publishing Service, Canberra, 1988, pp 25-30.
(5) Taylor RM.: Marijuana as a potential respiratory tract carcinogen: a retrospective analysis of a community hospital population. Southern Medical Journal, 1988, 81, 1213-1216.
(6) Mia Hashibe et al.: Marijuana Use and Lung Cancer: Results of a Case-Control Study Marijuana Use and the Risk of Lung and Upper Aerodigestive Tract Cancers: Results of a Population-Based Case-Control Study. Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention Vol. 15, 1829-1834, 2006.
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日本の公的大麻情報である「ダメ。ゼッタイ。」ホームページの記述がいかにデタラメか、厚労省自身が示した根拠文書、「Cannabis : a health perspective and research agenda(世界保健機関1997年発行)」との比較も交え、フロッガー医師の検証です。
尚、このシリーズは、他の質問や要望と併せ、厚労省とダメセンターに提出予定の原稿でもあります。
読者の皆さん、お気付きの点、ご意見などありましたらお知らせ下さい。
厚労省の担当公務員及びダメセンターに天下った糸井専務理事、予習しておいて下さい。
「ダメ。ゼッタイ。」ホームページからの引用。
心臓・血管に対して;
心不全、不整脈、胸痛、狭心症、白血球の減少に伴う免疫性の低下、などがあります。
1.心不全、不整脈、胸痛、狭心症が起こるか。
狭心症患者において胸痛が起こりやすくなる(1)、心筋梗塞のトリガーとなりうる(2)、という報告があり虚血性心疾患などの既往があるものに関しては注意が必要であると思われる。
しかしWHOレポートで若年、健康成人で深刻な心血管系への影響の報告は少なく、ありそうも無いとしている(3)。
心血管系の疾患があるものに関しては注意が必要である、という記述に変更すること。
2.血球減少に伴う免疫性の低下が起こるか。
(本筋とは異なりますが、白血球減少を心血管系に入れるのはどうかと思います。レベルが知れますね。)
大麻喫煙による白血球減少について述べた論文は見つけることが出来なかった。
根拠となる論文の提示を要求する。
大麻が免疫を低下させる、と言われ始めたきっかけは、大麻喫煙者の白血球に免疫賦活剤を加えたときに通常より活性化が抑えられたとする報告である(4)。
しかしこれは幾つかの追試がなされ再現性は無かった(5)(6)。
白血球の活性化能の低下と白血球減少を勘違いしているのではないか。さらにこれは否定されているので二重に間違えていることとなる。
WHOのレポートでは、実験室レベルでは大麻が免疫を変化させることはわかっているもののその影響は比較的小さく、健康への影響があるかどうかははっきりしないとしている(3)。
また、ジャマイカ、コスタリカ、ギリシャで行われた3つの大規模な疫学研究でも、大麻使用者と対照群の間に感染性疾患の罹患率に差は認められていない(7)。
HIV患者は免疫不全となり重症感染症を引き起こしやすくなるが、HIV患者においても大麻が発症を早めたり症状を悪化させたりしないとする報告があり(8)、大麻による免疫性の低下は否定的と考える。
この記述の削除を要求する。
(1) Aronow WS, Cassidy J: Effect of marihuana and placebo-marihuana smoking on angina pectoris. N Engl J Med 1974;291:65-67.
(2) Mittleman MA, et al.: Triggering myocardial infarction by marijuana. Circulation 2001;103: 2805-2809.
(3) Division of Mental Health and Prevention of Substance Abuse, World Health Organization: Programme on substance abuse Cannabis: a health perspective and research agenda. 1997.
(4) Nahas G.G. et al.: Inhibition of Cellular Mediated Immunity in Marijuana Smokers. Science 183: 419-20, 1974.
(5) Lau R.J. et al.: Phytohemagglutinin-Induced Lymphocyte Transformation in Humans Receiving Delta-9-Tetrahydrocannabinol, Science 192: 805-07, 1976.
(6) White, S.C. et al.: Mitogen-Induced Blastogenetic Responses to Lymphocytes from Marijuana Smokers. Science 188: 71-72, 1975.
(7) Wallace, J.M. et al.: Peripheral Blood Lymphocyte Subpopulations and Mitogen Responsiveness in Tobacco and Marijuana Smokers. Journal of Psychoactive Drugs 20:9-14, 1988.
(8) Carter, W.E. (ed), Cannabis in Costa Rica: A Study of Chronic Marijuana Use, Philadelphia: Institute for Study of Human Issues (1980); Rubin, V. and Comitas, L., Ganja in Jamaica, The Hague: Mouton (1975); Stefanis, C. et al, Hashish: Studies of Long Term Use, New York: Raven Press (1977).
(9) Coates, R.A. et al.: Cofactors of Progression to Acquired Immunodeficiency Syndrome in a Cohort of Male Sexual Contacts of Men with Immunodeficiency Virus Disease. American Journal of Epidemiology 132: 717-22, 1990.
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「ダメ。ゼッタイ。」ホームページの「大麻の身体的影響(詳細)」というページに記載されている、大麻の脳に対する影響について、医師のフロッガーさんに検証して頂きました。
この文章は、(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターに、「ダメ。ゼッタイ。」ホームページの大麻に関する記述を改めるよう申し入れるため素案です。ぜひご意見などTHC談話室にお寄せ下さい。メールでのご連絡も歓迎です。
乱用防止センターの糸井専務理事は、来年度、ホームページの内容を、予算を付けて全面的に見直し、10月にはリニューアルの予定だと明言しましたが、来年の10月まで現状の誤った情報を放置して良いことにはなりません。そこで、THCは、フロッガーさんのご協力を得ながら、また、貴重な情報を提供して下さっている関係サイトの力なども借りながら、具体的な内容についての要望を、暫時、厚労省とダメセンターに提出し、回答を求める予定です。
下記はその第1弾です。
* * *
■大麻の身体的影響(詳細)
脳に対して;心拍数が50%も増加し、これが原因となって脳細胞の細胞膜を傷つけるため、さまざまな脳障害、意識障害、幻覚・妄想、記憶力の低下などを引き起こします。また、顕著な知的障害がみられます。
(1)大麻で心拍数が50%増加するかについて。
大麻を使用することで、心拍数は20-100%増加すると報告されている(参考文献1-5)。
これは、吸引後急性の反応として起こってくるもので2-3時間持続する。
この文章は正しいが、「心血管系について」の項目と重複する為削除を要求する。
(2)心拍数の増加が脳神経の細胞膜を傷つけるかについて。
大麻使用時の心拍数の増加が原因となって脳細胞の障害が起こったとする論文は見つけることが出来なかった。
これについては、根拠となる論文の提示、もしくはこの文章の削除を要求する。
(そもそも大麻以外であっても、心拍数の増加が原因となって脳細胞の障害が起こるということは、医学的に一般的では無い。もしそのような報告があるのなら提示して欲しい。)
(3)脳神経の細胞膜を傷つけるかについて。
1980年代の研究で、2匹のリス猿にTHCを投与した後に解剖し、脳皮層の海馬部位に傷害が見られた、というものがありこのようなことが主張され始めた(6)。
ただ同じ結果を得るためには人間の精神作用必要量の200倍以上もの多量なTHCの投与が必要だった。実際、100倍ではいかなる損傷も見つかっていない(7)。
また、CTスキャンを用いた研究でも、器質的な変化は立証されていない(8,9)。
これらの結果からは、大麻が脳の器質的損傷を起こすことは結論付けることは出来ない。
以上より、この文章の削除を要求する。
(4)さまざまな脳障害、意識障害、幻覚・妄想、記憶力の低下などを引き起こします、について。
「脳障害」というのが、次に続く「意識障害、幻覚・妄想、記憶力の低下など」と意味が重複しているので訂正、削除を要求する。
また、幻覚・妄想というのは大麻の精神的影響の項目と重複する為削除を要求する。
(5)意識障害・記憶力低下・顕著な知的障害を起こすかについて。
急性の影響(すなわち大麻の効果が出現している間)においては、認知障害・記憶障害があることは知られている。(これについては根拠となる論文の記載が必要である。センターの方が自分で探してください。)
しかし、それが後遺症として長期間残ってしまうことに関しては、コンセンサスが得られていない。
連邦政府が資金を拠出して行ったジャマイカ、ギリシャ、コスタリカの人口調査では、長期喫煙者と非喫煙者の認知機能に目立った違いは見られなかった(10)。
しかし、厳密な検査方法と電気生理学的な方法を用いて微妙で選択的な認知障害を認めたとする報告もある(11)。
1999年に全米疫学学会誌に掲載された1300人を対象とした研究では「15年以上にわたってカナビスをヘビーに使った人とライトに使った人、全く使わなかった人の間で有意な認知機能の低下はなかった」と報告されている(12)。
以上から、大麻による知能低下は概ね一過性のものであり、もし残存したとしても顕著なものではないと考えられる。
顕著な知的障害については、削除を要求する。意識障害・記憶障害については主に急性の影響であることを追記することを推奨する。
1. Hollister LE: Health aspects of cannabis. Pharmacol Rev 1986;38:1-20.
2. Hollister LE: Cannabis―1988. Acta Psychiatr Scand Suppl 1988;345:108-118.
3. Beaconsfield P: Some cardiovascular effects of cannabis.AmHeart J 1974;87:143-146.
4. Beaconsfield P, Ginsburg J, Rainsbury R: Marihuana smoking: cardiovascular
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5. Reese T. Jones: Cardiovascular System Effects of Marijuana. J Clin Pharmacol, 2002;42:58S-63S
6. Heath, B.C. et al; Cannabis Sativa: Effects on Brain Function and Ultrastructure in Rhesus Monkeys. Biological Psychiatry 15:657 (1980).
7. Scallet, A.C; Neurotoxicology of Cannabis and THC: A Review of Chronic Exposure Studies in Animals. Pharmacology Biochemistry and Behavior 40:671-82 (1991).
8. Rimbaugh CL et al: Cerabral CT findings in drug abuse: Clinical and experimental observations. Journal Computer Assisted Tomography, 4:330-34 (1980).
9. Hannerz J., Hindmarsh T.: Neurological and neuroradiological examination of chronic cannabis smokers Annals of Neurology, 13: 207-210 (1983).
10. E. Russo et al. 2002. Chronic cannabis use in the Compassionate Investigational New Drug Program: an examination of benefits and adverse effects of legal clinical cannabis. Journal of Cannabis Therapeutics 2: 3-57. See Specifically: Previous Chronic Cannabis Use Studies.
11. Fletcher JM, Page BJ, Francis DJ.Cognitive correlates of long-term cannabis use in Costa Rican men. Archives of General Psychiatry, 1996, 53: 1051-1057.
12. C. Lyketsos et al. 1999. Cannabis use and cognitive decline in persons under 65 years of age. American Journal of Epidemiology 149: 794-800.
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某医大研究医フロッガー氏による「ダメ。ゼッタイ。」大麻情報検証の第1回です。
フロッガーさんには、「ダメ。ゼッタイ。」大麻情報を、医学的・科学的な視点から検証して頂きます。
ご意見や感想、メッセージなど、談話室にお寄せ下さい。
薬物政策研究者氏の社会学的な考察と併せ、大麻問題を考えるうえでの車の両輪のような連載記事になるかと思います。
*(07/12/23追記)
本項はPDFファイル(312KB)にしてあります。「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ大麻情報の全体を医学的に検証しています。厚労省と(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター(ダメセン)にもこの検証を添えた要望書を配達証明で郵送しましたが、厚労省は「回答する法的義務はない」、ダメセンは「何も答えない」という回答でした。
「ダメ。ゼッタイ。」ホームページの大麻情報を医学的に検証する
医学的、科学的見地から「ダメ。ゼッタイ。」に記載されている身体・精神への悪影響についての検証。
[はじめに]
我が国では大麻の使用は犯罪行為であり、大麻取締法によって厳しく罰せられる。嗜好品の摂取は基本的には個人の自由であるはずで、その自由を侵害し罰則を与えるにはそれなりの根拠が必要である。
それに対する日本政府の考えは、「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ内に記載されている。
乱用薬物、いわゆるドラッグが、「乱用者自身の精神や身体上の問題にとどまらず、家庭内暴力などによる家庭の崩壊、さらには、殺人、放火等悲惨な事件の原因にもなり、社会全体への問題と発展する。」ためである。
そして、大麻は乱用薬物である、としている。その各論部分として大麻の項目が設けられている。
今回我々は、大麻の項目について検証するが、検証すべきレベルが実は二重構造になっていることを確認しておきたい。
まず単純に、その記載が科学的に正しいのかどうか。大麻の有害性について主に記載されているので、いいかえれば、大麻の有害性はどの程度であるのかということである。これは、純粋に医学的見地に基づいた検証となる。
そして、これは非常に大事なことだと思うが、我々は大麻の無害性を訴えたいわけではなく、大麻に有害性があったとしてもそれが取り締まる正当な理由となるようなものなのかということを検証しなくてはならない。つまり、害が身体的影響にとどまらず社会全体への問題と発展するのか、ということである。これは医学的検証に加え、社会的な要素を考える必要がある。
[全体的に眺めて]
このホームページには根本的な問題がある。
それは、記述された内容の根拠となる論文が記載されていないことである。
これでは、閲覧者がその内容について真偽を確かめることが出来ない。これについては、改めさせる必要がある。
「ダメ。ゼッタイ。」に記述されている(一般によく言われる)大麻の害については、大きく2つに分けた方が理解しやすい。
ひとつは、「身体への害」である。呼吸器系、心血管系、免疫系、内分泌系への害などが挙げられている。もうひとつは「精神への害」である。大麻精神病、無動機症候群、統合失調症・うつ病といった精神疾患との関連、行動の変化などである。
「身体への害」については、純粋に医学的な検証となる。身体への害は、多く見積もっても社会問題となりうるようなものではないからだ。そして「精神への害」については、医学的な検証に加え、社会的見地から考察を加えなければならないだろう。何故なら、「大麻による精神への害が犯罪などに結びつくために社会問題となること」これこそが、大麻規制の大義名分であるからである。
このようなことを踏まえ、各項目について検証していきたいと思う。
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